前線小話   作:文系グダグダ

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 日も沈みつつあり、空が茜色に染まりつつある中、指揮官は飛行場へと佇んでいた。

 眼の前に着陸を済ませたヘリコプターがメインローターの回転数を下げており、もうすぐ扉が開かれようとしていた。

 

「ただいま!指揮官!」

 

 人形輸送用のヘリから飛び出してきたのはUMP9であった。

 SOPMODを彷彿とさせる身のこなしに、既視感を覚えながらも指揮官は甘んじてUMP9の飛びつきを受け止める。

 両手を首に回すような前者のハグとは違い、UMP9は指揮官の腰に腕を回しながら、そのまま指揮官の胸に頬や耳の裏を擦り付けるようなハグであった。

 

「任務、ご苦労だった。

 ……夕食を用意してあるが、食べていくか?」

 

「え? いいの!? やったぁ! ありがとう、指揮官」

 

 やはり人形であっても、帰還時のテーブルでゆったりと温かい食事で食べることは良い影響をもたらすらしく、評判は悪くない。

 それは404小隊の人形であっても変わりは無い様で、ニコニコと上機嫌に喉を鳴らすUMP9は、何かを思いついたようで、顔を見上げて指揮官を見つめる。

 

「指揮官は、夕食は食べたの?」

 

「まだだ」

 

「じゃあ、一緒に食べよ?」

 

 指揮官としては、残りの業務を終えてから夕食を取る気ではいたものの、UMP9の提案に対して受けざるを得ないと感じていた。なにせUMP45の手紙の件である。AR小隊に構うのであれば、404小隊も同じ待遇を求める。あの手紙はそういう要求なのだ。

 

「ああ、私で良ければ……っ! G11か?」

 

 UMP9の喜ぶ声もつかの間、指揮官の背中に大きな衝撃が加えられ、誰かをおぶる形となる。ヘリから降りてきたばかりの416がG11を咎める声が聞こえることから、どうも犯人はG11だということがわかった。

 

「ただいま、おやすみ……」

 

 G11はまるでオナモミのように指揮官の背中にしがみつくと、そのまま寝始めた。

 

「申し訳ありません指揮官。すぐに引き剥がしますので」

 

「いや、構わない」

 

 すぐさま引き剥がそうとするHK416に対して、指揮官は制止させる。

 すぐに両腕でG11の足を掴んで、おんぶの体勢となった。

 

「ところで416、君は夕食の方はどうする?」

 

「もちろん、頂くとするわ。

 指揮官とお食事出来るなら、何処へでも」

 

 間髪入れずにそう答えると、HK416は逃さないと言わんばかりに右腕をがっちりと抱き止める。

 

「あら、指揮官。お疲れさまー

 ご飯は私の分もあるよね?」

 

 背中にはG11、右腕と前には416とUMP9に確保され、空いた左腕をいつの間にかニコニコと笑みを浮かべたUMP45が確保していた。

 

「もちろん」

 

「なら良いのよ」

 

 少し前の手紙とは裏腹に上機嫌なUMP45の様子に、指揮官は御眼鏡に適う対応だったと結論付ける。

 

「それじゃあ、はやくみんなで食堂にいこ!」

 

 一通りのスキンシップで満足したのか、全員でゆっくりと温かい食事につくことを楽しみにしているのかは指揮官にはわからなかったが、UMP9は指揮官から離れると基地の食堂の方へと指揮官達を先導し始めた。

 

 

 

   ■    ■    ■

 

 

 

「き、今日は私が副官なんだから! 指揮官の業務を完璧に遂行させて見せるわ!」

 

 ある日、副官を務めているはずのグリズリーがアップデートの為に製造元のIOPへメンテナンスに出張することとなった。そこで、代理として選ばれたのはWA2000であった。

 指揮官に拾われてから、副官業務をするのは初めてのWA2000に対して、グリズリーは簡単に引き継ぎを行うと、

『それじゃ、指揮官のことは頼んだよ』と言って基地から離れていった。

 

 ビシッと指揮官を指さしてそう宣言するWA2000に対して、当の本人は何処吹く風か『頼んだ』と一言告げると、早速書類業務に取り掛かった。

 

「WA2000、グリフィン管轄内での行動規則について、贈賄に関する条文は何処だった?」

 

「それなら、この本よ。523ページ、緑の付箋からよ」

 

 指揮官の質問に関してすばやく答え、必要な物を差し出す。

 覚えたものを忘れてしまう人間とは違い、記憶力に優れる人形の特性を活かした物だ。

 

「はい、作戦報告書。書き出さずに貯めていたM249とM1918を蹴り上げて作らせたわよ」

 

 部下の人形達の勤怠の様子や状況のチェックも指揮官の仕事。しかし、そこそこの所帯を持つと1体1体事細かに見れないこともある。

 そこで、副官に出来ることをお願いして貰うこともよくある話である。

 

「WA2000、今度の作戦について相談事があるのだが……」

 

 また、指揮官が指揮を執る際の作戦についての意見交換もできる限りなら、現場の人形と意見を擦り合わせるのが上策ではある。しかし、現実は5部隊、6部隊、あるいはそれ以上の部隊数の指揮も執らねばならない事もある。

 そこで、ある程度の雛形を作る際のたたき台として、副官との意見交換も重要であった。

 

「この配置でも確かに効果は望めるわ。でもこの配置にはRFじゃなくてMG部隊でもって火点の頭を抑えたいわね。榴弾で潰せないの?」

 

 盤上の敵軍を示す赤い凸状の形をした駒を指してWA2000が指摘する。その対面には2つの青い凸状の駒があった。WA2000のその気位の高い性格はこの場では上司である指揮官に対して忌憚のない意見をぶつけるにうってつけの人材であった。

 

「配置ではもう一箇所同じ陣地がある可能性が非常に高い、そこにはNTW-20で能力を削ってからFALとARX-160で確実に仕留めたい」

 

「なら、隠密行動に長けるウェルロッドにARを率いてもらって側面を着いてもらいましょ、これならリスクは抑えられるはず」

 

 WA2000は同じくもう一つの青い駒を迂回させるように動かして、先程の赤い駒の真横につけた。これで、盤上の赤い駒に対してすべて対処が可能となるはずである。

 

「なんとか形にはなったな。担当部隊に知らせて、さらに摺り合わせを行おう。

 どんな些細な意見でも良い、私に教えて欲しい。責任は私が取る」

 

「当然よ。だって貴方は私の指揮官なんだから。じゃあ私、知らせてくるわね」

 

「助かった、感謝する」

 

「これくらい当然よ、もっと頼りなさい」

 

 引き継ぎの際にグリズリーも指揮官も思っていた懸念としては、WA2000と指揮官の反りが合わない可能性があったのだが、結果としては杞憂に終わった。そして、時間はあっという間に過ぎていき……

 

「もう昼下がりか」

 

 本日の昼食は作戦について根を詰めていたこともあってか消費期限間近の缶詰で手早く済ませた指揮官は、業務が切りの良いところであると気付く。そして、時計を見ればもう昼下がりの頃合いになっていた。

 

「全く……アイデアを詰めたいのはわかるけどなにも配給の缶詰を食べることないじゃない!」

 

 紙束の作戦報告書をフロッピーディスク状の人形用の作戦報告書に変換していたWA2000は呆れた口調で言った。

 彼女はそのまま指揮官に捲し立てる。

 

「そもそも貴方は指揮官なんだから。そんな物食べる必要なんてないのよ?」

 

「限りある物資を腐らせるわけにもいかない。

 それに、いつクライアントが私を呼び出すのもわからんのでな。戦場で基地内食を食べるわけにも行かないだろう」

 

 なまじ、それで救われた身であるWA2000には指揮官のその反論にはぐうの音も出なかった。

 

「だったら、前半の仕事はこれでおしまい! とっとと寝る! まだ自律神経が整ってないんでしょ?」

 

 指揮官は執務机から立ち上がると、そのままソファへと向かう。その背後にはWA2000も続いていた。

 

「……はい! 枕もなしで寝るなんて、承知しないんだからね!」

 

 WA2000はソファの橋に座り、膝枕で寝るように促した。指揮官はそのままソファで横になり、彼女の世話になる。

 

「初めての副官業務はどうだ?」

 

「全然、問題ないわよ」

 

「……嫌なら、他の人形と交代させるが?」

 

 指揮官の言葉が段々と鈍くなり、眠り付きつつあるのがWA2000からもわかった。

 バイタルの状態からも、指揮官は眠りにつきつつあるとわかる。

 

「ここまできたら今日の終わりまで付き合うわよ、感謝しなさい」

 

「なら……よかっ、た」

 

 朧気ながらもそう言って、指揮官は完全に眠りについた。

 WA2000は呆れつつも、指揮官の頭を撫でる。

 

「……バカね、本当に嫌いだったら副官なんてそもそも受けないわよ」

 

 その後、偶々コーヒーを淹れに司令室へと入ってきたスプリングフィールドは、膝枕で指揮官を寝かせているWA2000をみて少しばかり驚愕するも、WA2000は顔を赤らめて人差し指を立てて唇に当て、静かにするようにとジェスチャーを送るのであった。

 

 




後半に続く
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