前線小話   作:文系グダグダ

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「ほら、起きなよ。指揮官」

 

 聞き覚えある声の主に頬をペチペチと叩かれて指揮官は目覚める。

 

「……誰だ? グリズリーか?」

 

 妙に甲高い声に違和感を感じながらも、目を開けるとそこには熊のような耳をした茶髪の子供がいた。

 グリズリーがよくかけているサングラスもある。間違いなく指揮官の部下であるグリズリーだとわかった。

 

「……どうした」

 

 あまりにもかけ離れた容姿に指揮官は眠気も吹っ飛び真顔になる。先程まで指揮官に膝枕を提供していたWA2000を思わず見つめるが『間違いないわよ』と彼女からのお墨付きを頂いた。

 そのまま起き上がるとグリズリーの前で屈み、簡単なボディチェックを行った。

 とんとんと軽く手足や肩を叩き、人間の耳や頭の熊の耳、そして両手で頬を軽く挟んで、グリズリーの瞳孔をチェックする。

 グリズリーはそんな指揮官にされるがままの状態で時折きゃーと言って反応しながらも、いつネタをバラそうかとニコニコとしていた。

 

「どうして……?」

 

 特に異常はみられず、只々困惑するしかない指揮官に対して、にっこりとグリズリーは笑みを浮かべた。

 

「びっくりした? 指揮官ってそんな表情をするんだね。

 私達は中身のデータさえ移せばこんな姿にもなれるのよ?」

 

「IOPのメンテナンスというのは……」

 

「全然関係ないよ。こんなスキンがあるから指揮官を驚かせてみてはって、偶然来ていたクルーガーさんが言ってたの」

 

 指揮官が想像していたことは杞憂だったようで、子供サイズのグリズリーはヘリアントスの上司であるクルーガー氏によるものであった。

 しかし、昔の時代を生きた指揮官にとって、子供に銃器をもたせる構図は精神衛生上あまり良くはなかった。

 

「そうか……」

 

「あ、そうそう。

 指揮官、戦力不足の為に新規の人形を要請していたでしょ。一緒に連れてきたよ。

 ARの子とMGの子だってさ。クルーガーさんがよろしくって言ってたよ」

 

 そういうとグリズリーは司令室のドアに向かって『入ってきていいよー』と言った。

 

「指揮官!」

 

 今まで溜めていた物を一気に吐き出すように扉が勢い良く開き、桃色の髪にヘキサグラムの髪留めが印象的な少女が指揮官を捉える。

 目標を見据えたその赤い眼は煌々と輝き、強い意志を秘めていることがわかる。

 

 入社テストで銃火を交えた相手として、そして入社後の研修として指揮官が率いていた人形が……

 指揮官の目には、押さえ切れない喜びの色を湛えたネゲヴがそこに居た。

 

 ――やっと出会えた!

 

 眼前にいる指揮官と再会を果たしたその時、ネゲヴの内心では歓喜に震えていた。

 指揮官とのはじめの出会いは今でも鮮明に思い出せる。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 グリフィンの入社テストでは、筆記テストの他にペイント弾を用いた形式での実戦試験が存在する。

 人形達を率いて戦う分、指揮官本人にも襲撃が予測される為に生存能力を見る必要があった。シチュエーションとしては、指揮官のいる司令部が孤立し、救援が来るまでの間、敵に殺害、もしくは捕縛されないように逃げるだけのシンプルな物だ。目標としては、朝から始まるこの試験から日没まで指定されたエリアで生き残ること、もしくは設定された自軍勢力圏内まで逃げ切ることである。

 なお、評価の効率化と公正さを天秤にかけ、エリア内に受験者全員を2人1組で配置し、試験を行う。

 現在本部では、その実戦テストが始まったばかりであるが、例年とは違い人形等の無線が混戦しており、いつもの実戦試験とは違う様相を示していた。

 

「TMPとSPAS12がやられた! ああクソ!M37もだ!

 チームナンバーS117の一人は武器と盾を奪って逃走中!」

 

「もうひとりが見当たらない! 周囲を警戒しつつ、包囲する!」

 

『定期連絡、こちらは敵チームと接触した。交戦しつつ突破する、以上』

 

「こちらM4A1! チームナンバーS117の一人を見つけました! S117は二手に分かれています!

 ……逃げられた! SOPMOD! 頼んだわよ!」

 

『定期連絡、俺も敵チームに見つかった。わわっ、ほんとに容赦ないな。見た感じ精鋭部隊っぽいのに捕まったみたいだ、ツイてないなぁ……』

 

「了解です。挟撃の心配はなくなったわ! 包囲して押し潰せ!」

 

「こちらSOPMOD、S117に振り切られたよ! くそ~どうやって廃墟の中をあんなスピードで駆け回れるのさ!?」

 

『定期連絡、作戦の進捗状況は予定通り』

 

「こちらAR-15、やられました。服にナイフが! 深く刺さって……動けない!」

 

「なんてこった! 突破された! 損耗率は3割を超える、なんてやつだ……」

 

「M16だ。S117、やっと仕留めたぞ……っ!

 畳返しなんて変なことばかりしやがって……これは、衣類を着せたダミー!? クソッタレ! まんまと騙された!」

 

『相棒、目標地点についたよ。マーカーを炊いとくね』

 

『了解した』

 

 今回の実戦テストは分類番号S117の2人の受験者によって、人形達と2人の指揮官との無線通信が混信し阿鼻叫喚となっていた。

 

「ヘリアン君、今回は面白いやつがいるようだな。資料を見たところ、2人共かなり面白い経歴をしている、とても興味深い。

 同等の装備で人形達の包囲網を食い破る者に、16Lab秘蔵のAR小隊から見事に逃げおおせる者……どちらも単独でやり遂げてみせるとは」

 

 実戦テストを取り仕切る本部にて、様子をモニタリングしていたグリフィンの社長その人であるクルーガーが笑みを浮かべる。

 

「すみません。彼らの能力を見誤った私の責任です」

 

 今回のテストの監督官として役割を与えられたヘリアントスは頭を下げる。

 しかし、クルーガーはそれを手で制した。

 

「このようなことは想定されていなかった。君に責任はないよ。

 せっかくだ、ネゲヴとTAR-21の2人を彼らにぶつけてみないか? IOPの自信作だそうだ」

 

「それは、問題ありませんが……

 ネゲヴとTAR-21はそれで問題はないな」

 

 ネゲヴとタボールは強く頷く、特にネゲヴは他の人形から伝えられる被撃破報告を聞いており、指揮官は相当な強者だと判断し思わず笑みを浮かべていた。

 

「よし、ならネゲヴとタボールにS117の戦っている方と交戦してもらおう」

 

 上司であるクルーガー氏から許可を得たヘリアントスは、指揮官の元にネゲヴとタボールを送り出した。

 

『定期連絡、相棒。どうやらクルーガーのクソッタレがIOPの自信作を送り込むらしい。

 ネゲヴとTAR-21だそうだ。気をつけて』

 

『了解した』

 

 S117は通信を傍受しているらしく、グリフィンの代表であるクルーガー氏をクソッタレ扱いする指揮官の相棒に当の本人は剛毅な奴だと笑い、ヘリアントスは冷や汗をかきつつも、しばらく時間が経った。

 

『定期連絡、ネゲヴとタボールの撃破を確認。抵抗は軽微、このまま合流する』

 

 ペイント弾に塗れた、ネゲヴとTAR-21の様子はしっかりとドローンカメラに収められていた。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 指揮官は発煙筒から緑色の煙が狼煙のように立ち上るエリアにたどり着いた、どうやらグリフィンが設定した勢力圏内で間違いはないようだ。

 先客にはスタート時に別れた相棒が物資コンテナに座り込んで寛いでいた。愛銃らしいUMP40をコンテナの上に置いている辺り、相当リラックスしているらしい。

 この男は指揮官と同じ入社テストの受験者であり、実戦テストの相棒となった男である。

 指揮官の事をひと目見て古臭い奴とよび、指揮官も彼の振る舞いをみて胡散臭い奴と呟き、無事に馬が合った。

 

 しかし障害は突破するタイプの指揮官と障害は逃げ切るタイプの相棒では一緒に行動してもあまり持ち味は活かせない。強行突破しようにも相棒が足を引っ張り、逃走して逃げ切ろうにも指揮官が追いつかれるのだ。

 そこで、大胆にも2手に分かれて勢力圏内まで逃げるという手を使ったのだが……

 

「どうやら無事のようだな。AR小隊は手練と聞いたが」

 

「君こそ、あんだけ大暴れしておいて良く無事でいたね」

 

 2番手に着いた指揮官が彼にそう話しかけると、フリフリと手を降って答えた。

 そこで、指揮官と相棒はお互いの姿をみて、その変わり様に気付いた。

 

「しかし君、別れた時から荷物が増えていないか」

 

「あんたは随分と身軽になったな」

 

 タクティカルベストにずらりと並んだ投擲物に倒した人形から強奪したサブマシンガンであるTMPやアサルトライフルであるG3、その弾倉を調達した指揮官はまさに一般的には兵士に比べて重装備そのものである。

 対する相棒は何処かで作ったのであろう簡易ナイフを両脇腹に配置されてる専用のナイフホスルターに入れているだけで、UMP40の弾薬はほとんど使い尽くし、上着や帽子、タクティカルベストに至るまでもなくなっていた。

 

「まあ、生きて到着すればノーカンってことで

 過程はどうであれ、僕たちは前人未到の事をやってのけた。それでいいんじゃない?」

 

「違いない」

 

 人が到着することを想定してないのかポイントには通信機器の類しかない。ルールと名目上は設けられても、実際に単独で敵勢力圏内からのこのこと自軍の勢力圏内に戻った者は今まで居ないらしい。仕方なく、UMP40をどかして相棒の横に座り込んだ。

 

「あー、つかれたぁ~! でもこれで確実にエリートには認定されるな」

 

「ああ、協力感謝する。諸事情により力を示す必要があったので、とても有り難い」

 

「俺も実力を示したかったからお互い様だよ。これで安全かつ確実に前線に貢献できる、労働環境真っ白なエリートのための部署に配属間違いなし!」

 

 相棒はグッとガッツポーズをとって、指揮官にUMP40を握っていた手でハイタッチを求めた。

 指揮官もそれに応じるのは吝かではなく、利き腕とは逆の手でパツンと手のひらをぶつけ合ったのだった。




他の指揮官が生えてきたので初投稿です。便乗していくスタイル。
カメオ出演的な奴ですが今回は前線日記の指揮官をお借りしました。前線日記に感化されてできた作品なので
許可及び、監修に関してへか帝さんにこの場をもってお礼申し上げます

おかしい、俺はロリズリーとネゲヴを書いていた筈だ……
指揮官単独だと化物過ぎて草を禁じ得ないので今回限りの相方用意したけどヒャア!我慢できねぇ!とビショップに走りました。

IS二次の方でシャチネタ書いて以来だぁ……
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