前線小話   作:文系グダグダ

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「ねえ、指揮官!」

 

 司令室で、戦闘報告書をまとめてている。指揮官に対して、ネゲヴはソファで退屈そうにしていたが、やがてしびれを切らし、渋々ソファから立ち上がると両手でデスクを叩いて不平といった表情を見せた。

 

「鉄血を殺しに行かないの?」

 

「部隊は作戦行動中だが?」

 

 指揮官はネゲヴにタブレットを見せる。彼女は指揮官の隣に移動し、タブレット端末の映像を覗き見る。

 端末にはドローン越しに鉄血部隊と戦闘を繰り広げている映像が映されていた。戦況はグリフィン側の優勢、特にアクシデントもなく順調であった。

 

「えー、指揮官も前線に参加すればいいのに……。

 私と指揮官がいれば、鉄血部隊なんて皆殺しに出来るわ」

 

「今回は巡回と鉄血部隊の間引きにしか過ぎない。必要ならば、誰かしらからの命令が来るだろう」

 

 タブレットと元の位置に戻すと、再び戦闘報告書をまとめる。

 途中、手元のマグカップに手を伸ばしてコーヒーを飲もうとするが、中身が無いことに気付いた。

 

「そっかぁ……まあ、あなたがいるからそれで満足だわ。あ、指揮官。喉が渇いた?」

 

「ああ、おかわりを」

 

 その様子に気付いたネゲヴは指揮官のマグカップを取り上げて隅にあるコーヒーメーカーに向かう。

 ちょうどその時であった。司令室の扉から『グリズリー到着しました! 開けてください』という声が上がる。ネゲヴが扉を開けてあげると、紙束の山を抱えた子供サイズのグリズリーが入ってきた。

 

「指揮官、持ってきたよ。どこに置けばいい?」

 

「ああ、私の隣の机に頼む。

 ネゲヴ。コーヒーを追加だ。自分の分とグリズリーの分も頼む」

 

 ネゲヴはそのまま新品のマグカップを2つ取り出して、コーヒーを淹れ始め。

 グリズリーはとてとてと歩いて、指揮官のデスクの隣の机に紙束を置いた。

 指揮官は自分のデスクを軽く動かしてスペースを確保、その後紙袋を取り出した。

 

「いい頃合いだ。休憩にしよう。

 グリズリー、君の口に合えばよいのだが……」

 

 紙袋を破くと中にはいくつかのドーナツが入っていた。指揮官は紙袋を広げてペーパーランチョンマットの代わりにする。

 

「わあ! ドーナツ!」

 

 グリズリーは副官用の椅子を動かして、そこに座る。

 

「担当地区の視察に行った時に見かけたのでな、好きなものを選ぶと良い」

 

 顔をほころばせるグリズリーの姿に自分の考えは間違いではなかった、と指揮官は内心で胸をなでおろす。

 先日、PXでドーナツを買いそびれてションボリとしていたグリズリーを見かけていた指揮官は視察の際に見かけたドーナツ店からいくつか買っていたのだ。

 

「え!? ほんとに? いいね!」

 

 グリズリーは素早く手を伸ばして、ドーナツを一つ確保した。プレーンなグレーズドドーナツに上部がチョコでコーティングされてカラフルシュガーがまぶされたものである。

 

「はい、コーヒーよ」

 

 ネゲヴは指揮官とグリズリーの前にマグカップを起き、自身はソファへと向かおうとする。それをみたグリズリーは彼女を呼んだ。

 

「ネゲヴ、貴女も一緒に食べましょう?」

 

「え? いいの?」

 

 グリズリーはそのまま副官の椅子から降りると、後ろ向きに跳んでそのまま指揮官の膝の上へと座った。指揮官はグリズリーが落ちないように慌てて両手で支える。

 

「新入りだからって遠慮しない。ほら、椅子に座って。私にコーヒーカップを差し出して。

 それでもいいでしょ? 指揮官」

 

「もちろんだ」

 

 ネゲヴは副官用の椅子に座ると、イチゴチョコでコーティングされたオールドファッションドーナツを確保する。

 

 休憩時間中はほとんどがグリズリーとネゲヴの問答であった。どうして、ここに来たのか? 指揮官とは何処で知り合ったのか? 研修中の指揮官はどうだったのか等である。

 指揮官は余ったドーナツを食べつつ、時折足をぶらぶらと振るグリズリーが膝の上から落ちないように支えていた。

 

「へぇ、指揮官も結構やるじゃん」

 

 一通りネゲヴから話を聞いたグリズリーは指揮官を見上げる。ドーナツもなくなり紙袋を片付けると、グリズリーを抱き上げて膝の上から下ろした。

 しかし先程まで饒舌に喋っていたグリズリーとは打って変わって、瞼を重そうにしている。

 

「……うぅ。おやつを食べたら眠くなってきたぞ。子供の体ってこんなにも辛いのか?」

 

 心なしか足取りもおぼつかなく、そばにいたネゲヴも心配そうに見ている。

 

「ソファで寝るか?」

 

 グリズリーはこれが眠気だと気づくと、指揮官の服の裾を引っ張る。

 

「じゃあひざまくら。いつもやってるんだから、私にもしてよ」

 

「了解した」

 

 普段から彼女に世話になっている故に、断る選択肢は指揮官にはなかった。

 そのまま、グリズリーの両脇に手を入れて持ち上げ、抱きかかえると、そのままソファの真ん中へと座った。

 

「ふぁあああ……もう、こういうところだよ。まあ、いいか。おやすみなさい……」

 

 指揮官の行動に驚きながらもソファに横たわり指揮官の膝を枕代わりにしてグリズリーは眠りこけた。

 グリズリーの寝顔を見て、こうしてみると子供と変わらないなと指揮官は内心で思った。

 

「ネゲヴ、タブレット端末を」

 

「わかりました」

 

 ネゲヴは指揮官のデスクからタブレットをとり、指揮官に渡す。引き続き戦地のドローンから映像が送られてくるが、特にアクシデントもない。

 

「少し相談があるのだが……」

 

 指揮官はタブレット端末を受け取ると、ネゲヴに相談事を持ちかける。

 相談ごとの内容はネゲヴにとってうってつけであり、彼女には断るという選択肢はなかった。

 それから、しばらくすると司令室の扉が開かれる。入ってきたのは3人の人形であった。そのどちらもが桃色の髪をしているが、それぞれの獲物は小口径型のアサルトライフルと対物ライフルであった。そう、AR-15とNTW-20の2人だ。

 

 彼女達の眼の前、ソファには指揮官がネゲヴと寄り添いながらタブレット端末を見、子供サイズのグリズリーが膝枕を堪能している様子だった。

 

「しきかぁ~ん。倉庫においてある家具なんだけど……指揮官~モテモテだねぇ、なにしてるの?」

 

 そして残りの一人はUMP45だ。

 

「兵棋演習だ」

 

 タブレット端末に現れる映像を見つつ、UMP45はこの基地の新入りであるネゲヴを見定める。とは言え、指揮官と面識がある人形だ。きっと指揮官目当てであると、UMP45は直感的に感じていた。

 

「そっかぁ……

 ねぇねぇ、ネゲヴは指揮官のこと、好きなの?」

 

「好きよ。指揮官がいない世界なんて、考えられない」

 

 真っ直ぐとUMP45の目を見据えて、躊躇なくはっきりとネゲヴは即答した。指揮官は気恥ずかしさからか人差し指で頬を軽く掻く。AR-15は驚愕し、赤面しながらもネゲヴを思わず見据える。NTW-20は何故か誇らしげに胸を張っていた。

 

「どういう所が良いの?」

 

「そうねー、私と同じ戦闘のスペシャリストだから!」

 

 UMP45は何故ネゲヴのような群を抜いて優秀な戦闘能力を有する個体がこじんまりとした規模の基地への異動を願い出たのかは何となく察してはいたが、ネゲヴは予想通りの答えを言ってくれた。

 今は、有能で相性がいい指揮官に仕えるという意味合いだろうが、それで油断してはいけない。

 AR-15は安堵の表情を浮かべて胸を撫で下ろしているが、NTW-20はネゲヴに同意するかのようにウンウンと頷いていた。

 

「へぇ、そうなんだ……ねえ、指揮官。私のナインなんかどう?

 可愛いし、気立ても良いし、指揮官のこと気に入ってるし。今なら私もオマケ(愛人枠)で付いてくるから、ね?」

 

「勘弁してくれ」

 

 畳み掛けて指揮官を茶化すが、指揮官の降参とも言えるその一言で、もう引きどきだと判断したUMP45は話を戻そうと決めた。

 

「ごめんごめん、ちょっとからかいが過ぎたわね。

 倉庫においてあるサービスワゴンとティーテーブルを貰いたいのだけど良いかな?」

 

「問題ない」

 

「それじゃあ、もらっていくわねー」

 

 UMP45はAR-15とNTW-20の間を抜けて、そのまま司令室から退室した。

 

「AR-15とNTW-20は何の用だ?」

 

 指揮官はそのままUMP45を見送ると2人に話しかける。

 

「私達はシューティングレンジとCQBハウスの使用許可を申請しに来ました」

 

「書類は私が持っている」

 

 NTW-20から書類を受け取る。

 

「了解した。受理しよう」

 

 指揮官は二つ返事で了承するが、話はそこで終わらなかった。

 

「指揮官、突然で申し訳ないが指揮官にも同行を願えないだろうか? 指導していただきたい」

 

「リハビリ時、16Labで見せた室内戦闘のデモンストレーションをもう一度見たいんです。

 あの時は拳銃一つでしたけど、アサルトライフルや大型のライフルでの心得もあると聞いて」

 

 NTW-20とAR-15は興味深い様子で詳細を話していた。どうやら偶然、グリフィンの射撃テストのデータか記録で指揮官の物を見つけたらしい。

 

「済まないが、今は無理だ」

 

 膝で寝ているグリズリーを見て、指揮官は応える。

 しかし、意外な者から意見が挙がった。

 

「なら、私が行くわ。

 何故なら私が指揮官の初めての人形なんだから!」

 

 ギョッとする2人に対して、指揮官が訂正を入れる。

 

「ネゲヴはこの基地では新入りだが、私がグリフィンの研修時に専属として付けられた人形の一人だ。

 今すぐというのなら、彼女を代理で行かせよう」

 

 2人は安堵の表情を浮かべる。その様子に人形は、人間のような肉の塊ではなく、プラスティックの塊であるが、その表情は人間と変わらないなぁと指揮官は思った。

 

「ああ、それなら心強い。それでお願いする」

 

「……わかりました。それなら仕方ありませんね」

 

 NTW-20はすんなりと納得したが、AR-15は納得がいかず、その胸中の中では指揮官を連れ出して独占できなかった悔しさで満たされていた。

 しかし、ごねるわけにも行かず。あまつさえ、自分達に配慮する形で代案を提案してくれた指揮官を無下にする事はAR-15自身が許さない為、結局はその代案に賛成した。

 

「人数の変更と弾薬に関しては私がなんとかする。3人は遠慮無く訓練に勤しむと良い」

 

 そんなAR-15の胸中を知らない指揮官はネゲヴとAR-15、NTW-20を司令室に送り出すのであった……

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑顔で司令室から出たUMP45は扉を閉めた。

 その途端、今までの表情から一転して、能面のような物に変わる。暫しの沈黙の後に絞り出すように声が漏れた。

 

「……絶対に手に入れてやる」

 

 ふつふつと内側から沸き起こる嫉妬と憎悪を胸に決意を改めると、強い足取りで彼女は宿舎へと戻っていくのであった。

 




やられてしまいました。まさかこんな(父性)感じるとは思わなかったので初投稿です。

グリズリー流行らせ!流行らせコラ!
ピンク3人は手持ちですごくお世話になっているので揃えたかった(小並感)

ずっと現代銃ばかりなのでWW2前後もやっていきたいなぁ……
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