シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

1 / 38
三ノ輪銀の章
サイボーグギンちゃん


 

 

「彼女が、あなた達の教導を担う勇者…三ノ輪銀様です」

 

 

 

そう言って大赦の神官が丸亀城まで連れてきて引き合わせた人物は、想像を絶する者だった。時間を過ぎても現れない面会者にイライラしていた私も、隣で姿勢を正して立っていた楠芽吹も絶句するしかなかった。

 

 

 

〈よっす!遅れてゴメンな!三好さんに、楠さん!〉

 

「えっ…あ…え…?」

 

「三ノ輪…銀、さま…?」

 

 

 

視線を合わせて言葉を失う。左目があった場所には、無数のセンサーのようなものがハニカム状に並べられたモノクルみたいな機械____これを義眼と呼んでいいのだろうか。まるで瞳のように、意識が集中した部分が光って意志を伝えようとすらしている。

 

 

耳に入った声も、まるでエフェクトが入ったように機械的に響く。人の声帯から発せられた音じゃないように____口こそ動いているけど、実際に音声を出してるのは赤いチョーカーかららしい。でも、人懐っこさを隠せていない言葉だ。

 

 

謝りついでに上げた右手から、少し軋んだ音が鳴った。骨の音じゃなくて、金属の音。____そこには黒鉄色の義手があった。どんな仕組みかもわからないその機械は、まさに人の手のように表情豊かに動いた。

 

 

____その人が唯一現存する勇者…三ノ輪銀ということを理解するまで、しばらく時間がかかった。

 

 

 

「そ、そのお身体は…」

 

〈ん?ああ、サイボーグギンちゃんのこと?大丈夫だって、普通に生きてけるから〉

 

「……戦いで、失ったんですか」

 

〈まあね。逆に勝つためにこうなったって意味もあるよ〉

 

 

 

本人は至って平然としてるけど、こんなものを見せられた私はたまったもんじゃない。

 

 

 

____勇者になるということは、いずれ三ノ輪銀のようになるということだ。戦いの中で死の淵をさまよって、勝つために機械仕掛けの化け物へと改造されていく。

 

 

怖じ気づいたわけじゃないけど、思い描いていた勇者像はこの1分で崩れ去った気がした。

 

 

____私の存在意義を証明するためには、…人間をやめなければならないかもしれない。

 

 

 

〈それはさておき。改めまして、あたしは三ノ輪銀。三好さんと楠さんを一人前の勇者にするために赴任してきました!〉

 

「ご挨拶遅れました。楠芽吹と申します。現勇者様からご指導頂けるとは、感謝の極みです」

 

「…三好夏凜です。これからよろしくお願いします」

 

〈堅苦しいなぁ、二人とも。同い年なんだから他人行儀じゃなくてもいいよ〉

 

 

 

その飄々とした面の裏に潜む真意は、読めそうで読めない。好意的な意志表示の裏に、何か別の思惑がある…ような気がする。

 

 

対して楠はそれを疑わなかったみたいだ。私より慎重な性格なくせに。あいつだって裏のない人間なんていないってことを知ってるはずなのに。

 

 

____なんでイラついてるんだろう、私。

 

 

 

「…人間関係には口を出しませんが、あなた達二人は銀様から教えをたまわる身。礼節を忘れぬよう」

 

〈安芸先生までそんなこと言って。そういうのあたしは苦手なんだって〉

 

「あなたには教導として二人を監督し成長させるお役目があります。彼女らは友達ではなく、…いわば生徒なのです」

 

 

 

神官の言葉に渋々納得した様子の勇者様。扱い方を心得ているらしい。個人的な知り合いなのかしらね。

 

 

頭を黒鉄の手でかいてから、私たちに向き直った。義眼のセンサーの一つ一つがこちらを捉えているように見えて、少し戦慄する。一般人が見たら怯えるわよ、これ。

 

 

 

〈よし、二人とも!行くぞっ!〉

 

「早速教練ですか?」

 

〈いやいやいや。まだあたし何も考えてないから〉

 

「じゃあ、どこに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈へへ、今日はあたしのおごりだぜぇ。好きなの選んで〉

 

「…何で私たちはこんなところにいるのかしら」

 

「知らないわよ。三ノ輪教導に連れられて来たんでしょ」

 

 

 

勇者様に連れてこられたのは、街の複合商店。そこのスイーツ店で注文を聞いてきた。

 

 

 

〈イネスマイスターとしてはイネスへ連れてきたかったんだけどね。…まあ、遠慮はいらないよ。初顔合わせの親睦会なんだからな!〉

 

「親睦会?」

 

〈そうそう。先生の前じゃ一応の上司として振る舞わなきゃいけないけどさ、あたし達はお互いに背中を預ける仲間なんだから。仲良くしたいじゃん?〉

 

「…そういう、ものなの?」

 

 

 

私は正直、こういう空気に慣れていない。というより、初めてだ。

 

 

それもそうか。自分の有用性を証明するためにわき目も振らず努力を積んできたんだから。

 

 

 

____それに仲間というものがいたことなんて、あったかしら。

 

 

隣の楠も大体私と同じような顔をしていた。ポカンとして何が起こっているかわかってない顔。

 

 

 

〈うん、あたしはしょうゆジェラートで。三好さん…夏凜は?〉

 

「…同じの、お願いします」

 

〈オーケーオーケー。わかってるじゃんか~。芽吹は?〉

 

「私も同じで」

 

 

 

下の名前で呼ばれたのはいつ以来だろうか。親とはしばらく会ってないし__会いたくもないけど__兄に至っては大赦の中枢だ。

 

どうしてなかなかむずがゆい気持ちになった。

 

 

勇者様は何故だかさらに上機嫌になったようだ。嬉々として店員に注文を言いつける。

 

 

____というか、店員もあの義眼と義手を見ても無反応。勇者様はここの顔なじみなの?

 

 

 

「…席、とっておきましょうか」

 

「そうね…」

 

 

 

楠も勇者様の気迫に気圧されっぱなしか。威圧感とかじゃなくて、最初から距離が近いというか。そういうタイプの人間と関わったことがないわけじゃないけど____苦手かもしれない。

 

 

しばらく二人で無言で待ってると、器用に三つのカップをかかえてテーブルへとやってくる勇者様。それも義手の方で。どれだけ高性能なものなのか。

 

 

 

〈おまたせ!席確保してくれてありがとな!〉

 

「いえ、特に誉められるようなことは」

 

〈いやいや、芽吹の端末持ってた勇者はそれに気づかなかったんだよ、最初。夏凜の方が堂々と席とって居眠り始めたから良かったんだけどな〉

 

 

 

勇者様はカップを椅子の前に並べて____楠の頭をなでた。

 

 

その光景を見た私ももちろんだけど、された本人はとりあえずフリーズした。

 

 

 

「………………え?」

 

〈あ、イヤだった?ごめんいつものクセで〉

 

「え、い、イヤではないのですが…は、恥ずかしい…です」

 

 

 

立ち直る頃には耳の先から真っ赤になっていた。受け答えもしどろもどろ。今のを後で本人に見せつけてやりたいくらいに傑作な絵面だ。

 

 

 

〈そっか、それは良かった。…夏凜もありがと〉

 

「ちょっ!私はいいから!進言したのは楠ですからっ」

 

〈堅いこと言うなって。芽吹だけだったら不公平だろ?〉

 

 

 

もっともらしいことを言って私をロックオンした勇者様。笑顔に一切のくすみがないのが憎たらしい。

 

 

手を振って拒否のジェスチャーをしたのも虚しく、勇者様の生身の方の手で触れられる。その部分から血管をものすごい勢いで血が流れていく気がした。それはもう、摩擦熱のようにヒートアップしながら。

 

 

 

「っ~~!」

 

〈ふふふ、さては二人とも褒められなれてないなー?〉

 

「!!」

 

〈安心しなさい二人とも。銀様は褒めて伸ばすタイプだから!〉

 

「そ、それはいいけどっ…は、恥ずかしいマネはやめて!…ください」

 

〈すぐ慣れるって。大丈夫大丈夫〉

 

 

 

私たちを見て笑い飛ばした。いじり倒すのが目的なんじゃないのと邪推してしまうが、____半分くらいそうなのかもね。

 

 

 

〈…あ、みんな同じの選んだら食べさせ合いできないじゃん!〉

 

「なぁ!?そんなことまでしようとしてたの!?」

 

「教導!なんのつもりですか!」

 

〈えーだってそういうのお約束じゃんか!…あ、同じ味でも別にオッケーか〉

 

「何も良くありません!」

 

 

 

ぶーぶーと口をしぼめて文句を垂らす勇者様。全力で拒否した楠は肩を上下させてる。

 

 

“私たちの常識”では計り知れないことが、あっちの常識らしい。むしろ勇者様の方が“一般の常識”に近いのか。

 

 

だからって、そんな恥ずかしいマネできるかぁ!

 

 

 

〈ちぇっ。二人ともピュアなんだから〉

 

「教導は少しデリカシーに欠けています。…私はそんなこと、できなかったから…」

 

 

 

何か本音らしきものが聞こえたところで、勇者様はジェラートをスプーンですくって口に運んだ。不満顔が一瞬でにやけ始める。

 

 

 

〈二人も食べなよ。あたしはこれのために毎回生きて帰ろうって思うくらい好きなんだ〉

 

「そんな大げさな…」

 

 

 

小声でいただきますと言って私もそのご自慢の一品を味わう。

 

 

 

「……あ、これ好きだわ。塩味と甘味がいいバランス」

 

〈お、マジで?ようやくうまいって言ってくれる人に会えた!〉

 

 

 

ハマる人はハマる味だ。私がにぼしを止められないように、勇者様もある種の中毒なのだろう。

 

 

同じく味見をした楠は何とも微妙な顔をしたけど。

 

 

 

「…これを塩分と糖分摂取を調整してまで食べたいとは思いません」

 

〈え?調整?〉

 

「体調管理は栄養から。それはご存じですよね?」

 

〈………………あーはい。全く考えたこともありませんでした〉

 

 

 

たははと笑うその顔に、冷や汗が一筋垂れる。何か嫌なことでも思い出したのだろうか。

 

 

対して楠は怒り心頭の様子。…まあ、あいつの理想の勇者像も、多分ぶち壊されたと思うし。納得かもね。

 

 

 

「教導は勇者としての自覚はあるのですか?体調を崩してお役目を果たせませんでした、では済まされないのですよ?」

 

〈わーっ!須美みたいなこと言うなって!〉

 

 

 

耳をふさいで聞かないフリをする勇者様。

 

 

____義眼の方の耳も、小さなアンテナのようなものに置き換わってるのに気付いた。ここまで身体の自由を秤にかけてまで戦い続けたんだ。

 

 

それで行動の自由まで言及されたらさすがに可哀想だ。これでもたった一人でお役目を成し遂げた、歴代最強とも言われる勇者、らしいのだから。

 

 

 

「そこまでにしておきなさいよ、楠。三ノ輪銀の戦績、あんたも知ってるわよね?勇者としての資質は、たぶん私やあんたより上よ」

 

「だからといって私生活がちゃらんぽらんであっていいって理由にはならないわ。それで任務に支障が出たら」

 

「押し付けがましいわね。それでいて任務は完璧にこなした実績があるのよ。私たちが見習うべきはそこじゃないかしら」

 

〈あ、あの、お二人さん…?〉

 

 

 

私と楠のピリピリした空気に勇者様はオロオロしてる。険悪なムードには慣れてないらしい。

 

 

勇者に選定される前から、私たちの間柄はこうだ。まるでプログラムでも頭に入ってるみたいに過程と結果を結びつける楠と、結果さえ残せれば過程は特に気にしない私。そもそも相容れるわけがないのかもしれない。

 

 

____楠のそんな一面を知らなかった方が良かったのかもしれないし、もっと深く知らなきゃいけないのかもしれない。

 

 

 

〈す、ストーップ!ケンカはやめよう、な?〉

 

「…そうね。教導が親睦会って言ってるんだし、空気を悪くするのも可笑しいわね」

 

「……出過ぎたことを言いました。申し訳ありません」

 

〈あ、うん…。…ああ、こりゃ大変だぁ…〉

 

 

 

大人しくあっちも引き下がってくれたみたいだ。だけど勇者様は苦笑いを止められない。

 

 

背中を預けるって、ねぇ…。勇者様ならまだしも楠に背後を任せるって、ちょっと勘弁してほしいわ。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。