シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

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過労死しそうね、あんた

 

 

 

「ようこそ讃州中へ!三好さん、楠さん!」

 

「お待ちしてました!」

 

 

 

例の幼稚園での出張の前日から、私たち三人は丸亀を離れて教導の古巣の讃州市へ乗り込んだ。

 

 

学校の門前で、会議で見た勇者部本部の三人____犬吠埼部長とその妹、結城さんが出迎えてくれた。

 

 

教導とはまた違う、ほんわかした雰囲気がその場にいるだけで伝わる。

 

 

 

〈あたしは!?通行止め食らった中、こんなにかわいい後輩を連れてきたあたしは歓迎してくれないの!?〉

 

「あーはいはい。お帰り銀」

 

〈思春期のどら娘を軽くあしらう母ちゃんみたいな反応だぁ…〉

 

 

 

道中、土砂崩れの影響で教導が案内してくれたルートが通れなかった。教導特有の悪運かと思ってたけど____。

 

 

 

 

 

 

教導の話に寄れば、樹海が損壊する程結界内に災害として顕現されるという。先の戦いで派手に木々を腐らせてしまったから、その影響を被ったということだろう。

 

 

 

「おひさしぶり銀ちゃん!あ、そっちの制服かわいいねっ、似合ってるよ!」

 

〈友奈がかわいいって言って誉め殺してくる…〉

 

「銀さん銀さん!お姉ちゃんったら銀さんに仕事押し付ける気で準備が全然」

 

〈樹が聞きたくなかった事実を突きつけてくる…〉

 

 

 

教導は今でも彼女たちの身近な仲間と思われてるらしい。再会を喜ぶより別れた時の延長上でグイグイ迫ってきてる。

 

 

演技というのはわかるけど、教導は悲しそうな顔をした。なぜそこまでネタに走るのかは少し理解できないけど。

 

 

 

「……銀が哀れに思えてくるわ」

 

「それだけ距離感が近いってことなのよ」

 

「銀に荷物持ちさせてる時点で二人もなかなかだと思うわよ」

 

「銀をフリーにするとどんなちょっかいかけてくるかわからないから」

 

 

 

実際電車の中で割とシャレにならないいたずらをしてきたので、反省しなさいという意味を込めて荷物を持たせた。

 

 

宿泊する分荷物も多いし、私と三好さんそして本人の分を合わせれば動きたくても動けない重さになる。

 

 

 

 

 

 

____サイコキネシスを駆使する教導には全く効果がなかったけど。

 

 

 

「立ち話もあれだし、部室に行きましょうよ風先輩」

 

「そうね。樹の言うとおり準備があまり進んでなくてね、さっそく六人で取りかかろうと思うわけ」

 

〈この前もそうだったじゃないっすか。もう、あたしだって結構忙しいんすからね〉

 

「それだけ頼りにしてるってことよ、あんたのこと」

 

「そんなことを言われると文句も言えなくなる銀さんなのでした」

 

〈よくご存知で樹さんや。姉のダメな部分を学んだのはこの口かぁ!?〉

 

「い、いひゃいでふ銀は~ん!」

 

 

 

妹さんのよく伸びる頬をビロンビロンしながら校舎へと入っていった一行。教導が珍しく反撃に出たのを見て、やり過ぎるとしっぺ返しを食らいそうねと思った。

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「芽吹ちゃん夏凜ちゃん、けっこうハードになるかもだけどよろしくね!」

 

「そっちとこっちのリーダーは別作業と。放置とはなかなかやってくれるじゃない」

 

 

 

教導と犬吠埼部長は台本と演出の打ち合せがあるということで、別室で作業中。教導が讃州にいた時期から出し物の構成は二人の仕事だったらしい。

 

 

そして残された結城さんと犬吠埼さん、三好さんと私は舞台道具の製作に駆り出された。実際に経験があるのは結城さんだけという話だが、なんとかこなすしかない。

 

 

 

「ごめんね。銀ちゃんって割となんでもできる子だから、難しい仕事は優先的に割り振られちゃうんだ」

 

「知ってるわ。…だからこそ、教導の足を引っ張らないようにしないと」

 

「…そうね。あいつが度肝を抜くほどの完成品、見せつけてやろうじゃない」

 

 

 

いつまでも教導に尻拭いさせてるようではダメだ。戦闘であれ仕事であれ、あの人のお世話にならないようにしないと。

 

 

三好さんもモチベーションは十分のようだ。教導の鼻をあかしてやろうと息巻いてる。____でも三好さんって、美術や図画工作が得意だったかしら?

 

 

勇者部の主力であろう結城さんは、実質この製作組の指揮を取らないといけないので少し緊張してるようだ。リーダー気質の犬吠埼部長や面倒見のいい教導がいないのは、彼女にとっても好ましくない状況らしい。

 

 

それ以上に上がっちゃってるのが犬吠埼さん。人見知りなのか先程から一言も発せず固まってる。会議の時はそうでもなかったのに。

 

 

 

「…さて、資料に目は通してきたけど、どこから始めればいい?結城さん」

 

「うーんとね、どこからだろう?」

 

「ちょっ、あんたがわかってないんかい!」

 

 

 

____リーダーシップ以前の問題として、結城さんは計画性がないのかもしれない。頭が弱いと言ってしまえばそれまでだが、教導とはまた違う意味でおバカと見える。

 

 

三好さんもたまらずツッコミを入れてしまった。板についてきたわね、その役回り。

 

 

 

「……わかったわ。まず状況を整理しましょう。報告書によれば、パペットの製作は途中、背景画は着手してない状態、音響は…教導の仕事ね。構成と台本もあっちの話次第と」

 

「演技の練習はどうなのよ。まさかそこまでやってないとか言わないでしょうね?」

 

「えっと、わたしと風先輩で大まかな部分は練習したよ。銀ちゃんとの打ち合わせで変更があれば、そこは練習かな」

 

「オーケー。結城さんはいつでも抜けて練習ができるように各製作の手伝いをお願い。残り三人でパペットと背景画を割り当てるわ」

 

 

 

残り時間もないから、誰かがあれこれ指図しないと上手く回らないだろう。

 

 

結城さんはその役割は得意でないと見えるし、____三好さんに指図されるのはどうもシャクなので私が指揮を取ることにした。

 

 

別に私も集団の指揮を取るのが苦手というわけでもない。勇者として必要な資質だと思ったから勉強したし、パパだって多くの人員を監督して数多く建立したんだ。

 

 

 

「おおっ、できる女っぽい!風先輩と銀ちゃんを黙らせた時といい、芽吹ちゃんってかっこいいよね!」

 

「そ、そうですよねっ!お姉ちゃんとは違ってクールでキリッとしてて…憧れちゃうなぁ~」

 

「……ありがと」

 

 

 

____こう、素直に誉められるのはどうも苦手だ。教導もそうだったけど、結城さんや犬吠埼さんの私を見る目は何か違う。

 

 

「何ガラにもなく照れてんのよ」と、しらけた視線で三好さんが訴えてきた。あなただって同じ事が起こればいつものツンデレかますじゃない。

 

 

 

「んんっ。役割を決めます。裁縫できるのは誰?」

 

「…わ、わたしはできないです…」

 

「風先輩がほぼほぼやっちゃうからねー。わたしは縫うだけなら、かな」

 

「…三好さんは?」

 

「やってやろうじゃない。やったことないけど」

 

 

 

家庭科は壊滅と。作業できそうなのは私と結城さんくらいか。

 

 

____じゃあ、背景画の方は?

 

 

 

「……背景画、描ける自信のある人は?」

 

「それなら、前やったことあるよ」

 

「…ごめんなさい、それも苦手そうです…」

 

「やってやれないことはないわよ」

 

 

 

三好さんのセリフからは嫌な予感しかしないので、彼女に任せるのは遠慮しよう。結城さんは一応の経験者で、犬吠埼さんはこっちも苦手と。

 

 

 

 

 

 

さて、いよいよ割り振れる人員がいないことに気づいた。途中で抜けなきゃいけない結城さんに責任者を任せるわけにはいかないし、残り二人はどうにも頼りにならない。

 

 

この手札で最善のソリューションは____

 

 

 

「…わかりました。まずは背景を全員で取りかかります」

 

「え?それだと間に合わないかも…」

 

「とりあえず下書きは私が早急に終わらせるわ。犬吠埼さんと三好さんはその後の色塗りをお願い。結城さんも下書きが終わるまで手伝って、その後私と一緒にパペットの製作に入る手順で」

 

 

 

簡単な作業を指定すれば、経験のない三好さんや犬吠埼さんでもこなせるだろう。能力が必要な作業は私がさっさと済ませて、残りの単純作業は任せてしまおう。

 

 

 

「過労死しそうね、あんた」

 

「しょうがないじゃない。この部がこんなに部長や教導に依存してたかって知らなかったんだし」

 

「あははは…ごめんね芽吹ちゃん。私はまだまだ半人前の勇者だよ…」

 

「銀さんはすぐにお姉ちゃんも認める勇者になったんですけどね…。わたしじゃ銀さんの後継者なんてなれないよぉ」

 

「…なるべく諦めない、だったっけ?前進をやめない限り、必ず目的地に着くわ」

 

 

 

部室に掲げてあった掛け軸に少し視線を合わせた。

 

 

 

 

 

 

“なるべく諦めない”、“なせば大抵なんとかなる”____私は好きな言葉だ。

 

 

 

「……さ、始めましょう。教員たちに閉め出される前に、やれることはやらないと」

 

「イエッサー!」

 

「が、がんばります!」

 

「言われなくてもやるわよ!」

 

 

 

____割と、私も楽しんでるのかもしれない。こういうの、初めてだし。

 

 

 

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