シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

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やってやるわよ、私の永遠の好敵手

 

 

 

「…なにやってるんですか、部長。それに三好さんも」

 

「……返す言葉もございません」

 

「し、仕方ないじゃない!風のやつがやっきになるから!」

 

「言い訳しない!」

 

「は、はいぃ!」

 

「…ちっ、何よ偉そうに」

 

 

 

風のやつと二人仲良く鼻に詰め物をしながら、楠の前で正座してる。この前は銀がそのポジションだったのに、今度は私だ。

 

 

ドッジボールでヒートアップした私と風は、子供たちそっちのけで投げ合っていた。むしろその様子を子供たちは楽しんでた節はあるけど。

 

 

んで、受け止めたつもりのボールが顔面に跳ね返ったり、バランス崩して顔面からずっこけたりして。

 

 

結果、二人とも女子にあるまじき鼻血を垂らしながらドッジボールを続ける始末。準備の時間にみんなが迎えに来るまで、周りが見えてなかった。

 

 

 

〈まあまあ芽吹。子供たちは満足してんだし、今回は〉

 

「問題はそこじゃないです。どうするんですかそのツラ。部長はパペット劇とはいえ表に出るんですよ?」

 

「…お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「ノープロブレム。あたしの女子力にかかればこんなもの」

 

「…反省、してるんですか?」

 

「申し訳ございません。猛省しております」

 

 

 

風の眼前で思い切りメンチを切る楠。お説教キャラが板についてきたわね。相変わらず上級生に対してもあの凄み方だけど。

 

 

____とか他人事に思ってたら、あいつが物凄い形相でこっちをにらみつけてきた。

 

 

 

「三好さんも配慮が足りないわね。子供たちの前で大人げなくガチの勝負して、恥ずかしくないの?」

 

「知らないわよ、恥も外聞も。通さなきゃいけない筋があるっていうんなら」

 

 

 

やけに鼻につく言い方をしてくれる。こいつのそういうところ、はっきり言って嫌いだ。

 

 

 

「呆れた…。そういうのは頭の中だけにしてくれる?」

 

「お叱りの言葉ありがとうございます、首席勇者様。肝の中に銘じておきます」

 

 

 

何をそんなにムキになってるのか。石頭なのは重々知ってるけど、現実を見ずに常識人ぶってるのが何か腹立つ。

 

 

 

〈はいはいそこまで。夏凜も屁理屈こねてないで素直に謝りなって。芽吹ももう少し夏凜の事情をくんであげて〉

 

「ですが教導。先方にもご迷惑をかけるようなこと、言語道断です」

 

〈芽吹。熱くなりすぎだよ。先生方は全然オーケーって言ってたし、風さんだって夏凜のこと気に入ってくれたみたいだし〉

 

「あたしと張り合ってくれる人なんて、知り合った当初の銀くらいだったしね。少し女子力に火が着いたってもんよ」

 

「……けど、あんな醜態をさらすなんて、………」

 

 

 

珍しく楠の言葉が末しぼみになった。最後の方は何て言ってるかわかんない。

 

 

 

「何よ。言いたいことがあるならはっきり言ってみなさいよ」

 

〈夏凜。芽吹が怒ってるのはそういうとこだよ。ちゃんと反省してるかどうか、態度で示さないと納得しないってことだよ〉

 

「反省してるわよ。周りが全然見えてなかったって」

 

「教導の言葉、ちゃんと受け止めてる?態度で示せって」

 

〈はいはいはいはい。…………二人とも、退場〉

 

 

 

いつも通りの声色の言葉だけど、____銀のその言葉には冷たさがあった。

 

 

たったその一言で、血の気が異常かと思うくらいに引いた。熱気を感じてたのに、途端に寒気が襲ってきた。

 

 

これ以上しゃべることもままならず、銀の言葉通りにその場から離れるしかなかった。

 

 

同じく席を外した楠も、ひどい顔をしていた。銀に拒絶されたのは、あいつにとっても耐えがたいものだったのか。

 

 

 

 

 

 

《なんか、ごめんな。みんな。…あの二人さ、なかなか上手くいってないんだよ》

 

『あんたも苦労してるわね。二人とも優秀な分、プライドが高いっていうか』

 

『でも、銀ちゃんはほんとに先生みたいだったよ!銀ちゃんなら二人を仲直りさせられるよ!』

 

『きっかけがあれば、きっとすぐにできますよ!』

 

《ありがとね、元気が出てきたよ。正直あたしも参ってたところなんだ》

 

 

 

____あの銀に、そこまで思わせるくらいに、私たちの関係は酷かったんだ。

 

 

そう思うと、なんてことをしていたのだろう。銀の気持ちも考えずに____

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

私も三好さんも、準備してる間は一言も口にしなかった。さっきの出来事が今も頭の中を反芻している。

 

 

教導が見せたあの、失望にも似た表情。あれを目の当たりにしただけで、思考も身体も凍りついてしまった。

 

 

あの時、教導の真意に気付けなかったのがとても悔しい。私の好敵手が晒した醜態を叱咤するばかりで、周りの人のことを全く見ていなかった。

 

 

____いさかいがある度に、教導はマイナスの感情を少しだけ漏らしてしまう。最初は怒り、次に悲しみ、そして今回は____

 

 

 

「……楠さん?机の向き逆ですよ?」

 

「…あ。ごめんなさい犬吠埼さん。ちょっと考え事を」

 

 

 

こんな初歩的なミスまで誘発するとは、余程精神状態が不安定なようだ。私の豪胆さを過大評価してたと思う。

 

 

犬吠埼さんが心配そうに私のことを見つめてくる。年下にまで気を遣われるなんて。

 

 

 

「…銀さんのこと、ですよね」

 

「否定するつもりもないけど…心配は無用よ。ここであなたに気を遣われてたら、三好さんに笑われてしまうから」

 

「夏凜さんと違って、…芽吹さんは強がり上手ですよね」

 

 

 

机の向きを正すと、一枚の絵札が置かれた。____タロット?

 

 

 

「エンプレスの逆位置。…あれだけ司令塔として頑張ってた芽吹さんだけど、今は感情的になりすぎて周りが見えてない…です」

 

「………………」

 

 

 

図星すぎてぐうの音も出なかった。正しく彼女の言うとおりだ。

 

 

 

「勇者部五箇条一つ。悩んだら相談、ですよ。芽吹さんが溜め込んだことを、口にすればきっと楽になるはずです」

 

「………………」

 

「…わわ!ごめんなさい出過ぎたこと言いました!でもしょんぼりしてる芽吹さんを見てたらどうしても元気付けたくて!」

 

 

 

なまいき言ってすみませんすみません!____と樹ちゃんは頭を下げ続けた。

 

 

____悩んだら相談。基本的なことだ。けど、私の中の話を誰かに打ち明けるのは____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____何をためらう必要があったのかしらね。

 

 

教導に心を許した時点で、一人で何でもできるなんて妄想は頭から否定してるじゃない。

 

 

ただ、今この話をできる人間がいなかっただけで、意地を張る意味なんてどこにもない。実に非合理だ。

 

 

 

「…ありがとう、樹ちゃん。けど、今は目の前の仕事に集中よ」

 

「は、はい!がんばります!」

 

 

 

____誰かに心配されるくらいなら、喜んで悩みをぶちまけよう。それが良い結果につながるというのなら。

 

 

感情的になって私たちは何度も失敗してるのだから、____他人の言葉を、少しは信用してみよう。

 

 

 

「占い、得意なのね。図星を言い当てられてびっくりしたわ」

 

「ほっ、当たっててよかった~…。これで全然的はずれだったら、…芽吹さんにどんな目で見られてたか…」

 

「…あなた、割と豪胆よね」

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

昔々、あるところに勇者がいました。人々に嫌がらせばかりする魔王を説得するために一人、旅に出ています。

 

 

ついに魔王の城にたどり着いた勇者。

 

 

 

「魔王!嫌がらせなんてやめてみんなで話し合おうよ!」

 

「村人のほうが最初に仲間外れにしたんじゃないか!」

 

 

 

劇は予定通りに進んでる。風と結城さんがパペットを操りながらセリフを掛け合い、犬吠埼さんが噛みながらもナレーションをして、銀はPCから音声やBGMを操作してる。

 

 

銀と風に許可をもらって、私は席を外させてもらった。教室の外で一人青空を見上げてる。

 

 

____とても、あの場所で一緒にいられる気分じゃない。私のせいで変な空気になってしまったから。

 

 

 

「…随分と辛気くさい顔してるわね」

 

「…何よ楠。さっきの続きでも話そうってわけ?」

 

「開口一番それか。…お互い難儀な性格よね」

 

 

 

手持ち無沙汰になった楠が、廊下を歩いてきた。いつものイヤミを口にしながら。

 

 

____今日はそれだけじゃなくて、缶コーヒーも投げ付けてきたけど。

 

 

 

「全く。何でコーヒーなんて差し入れに入ってるんだか。子供たちは飲めないじゃない」

 

「…どういう風の吹き回しよ」

 

「深い意味なんてない。死に在庫の処分と、…あなたに話しておきたいことがある」

 

 

 

____あいつから話してくるなんて、未だかつてなかった。他人との交流を極限まで削ぎ落としたいような奴が、しかも目の敵にしてるであろう相手に。

 

 

話しておきたいことって何?あいつの内面を詳しく知らない以上、想像もつかない。

 

 

 

「…場所、移さない?…教導には見られたくない」

 

「…わかったわよ」

 

 

 

その行動の意味も推測すら立たない。何から何まで予想外すぎて、首を縦に振るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼稚園の敷地を出て、神樹様を祀る小さな祠の前まで来た。

 

 

____一般的に言うと、祠の前というのは何か誓いを立てる場所だったり、真実を打ち明ける場所だ。けどこいつの口から出る言葉なんて、私には思いもよらない。

 

 

妙な緊張感からか、受け取ったコーヒーを全部飲み干してしまった。

 

 

 

「……単刀直入に言うわ。…もう、競り合うのは最後にしましょう」

 

「…え?」

 

 

 

その言葉の衝撃は、私の脳を直接叩いたようにクラクラさせた。理由なんてわからない。カランカランと落とした空き缶が転がっていく。

 

 

 

「……私たちの関係がこじれてるのは、直接対決を避けていたから。あいつには負けたくないと思っているのは、負けるのを怖れたり……」

 

 

 

言葉の途中で楠の目線は下がっていって、らしくもない憂いた表情を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

____楠のやつでも、そんな悲しそうな顔するんだ。

 

 

 

「……共に研鑽し合える好敵手を失いたくないから」

 

「…え?」

 

「何度も言わせないで。…勝っても負けても、もうその時点で同じ土俵には立てない。…そして、あなたが隣にいなければ、私が戦う理由なんてない」

 

 

 

理解が追い付かない。あいつは私も認める好敵手で、勝敗が決すれば私とあいつの接点はなくなって、

 

 

 

 

 

 

____楠は、それが嫌だと言った。

 

 

理解が追い付かない。____私もなぜか、そう思ってしまったから。

 

 

 

「……でも、終わりにしましょう。惨めすぎるわ、こんなの。絶対にわかり合えない人に依存して、それで心から尊敬する人を悩ませるなんて…」

 

「ちょっ…ちょっと待ってよっ!あんた何言って…!」

 

 

 

言葉に殴打されて、脳髄は理解を拒んだ。

 

 

 

 

 

 

たった一つ理解したことは、楠が私たちの関係を終わらせたいと望んだこと。銀を悩ませる災いの種を摘み取るために。

 

 

____その結果、失いたくないものを捨てることになっても。

 

 

 

 

 

 

けど、それで銀が納得するわけないじゃない____!

 

 

 

「今ここに、正式に決闘を申し込むわ。…その結果どうなっても、私は受け入れる」

 

「……認められない。私はそんなの、認めない」

 

「……?」

 

 

 

感情の氾濫の中から、言葉を絞り出した。足が震えて、声がかすれて、もはや強がりにしか見えないのは自分でもわかってる。

 

 

そうしてでも、私のところから離れていこうとする楠を止めたかった。依存してるのは楠だけじゃないし、

 

 

 

 

 

____私たちは三人で、勇者なんだ____!

 

 

 

「…決闘を拒否する、とでも言いたいの?」

 

「いいや。受けて立つ。…あんたを縛り付けるために」

 

「……引き分けて、また先延ばしにするつもり?それじゃいつまで経っても教導の懸念は晴れない」

 

「そんなつもりもない。あんたに勝って…思い知らせてやる…!」

 

 

 

敗北の悔しさと、雪辱に燃える熱さを!

 

 

 

 

 

一度私はあんたに負けた。ええ、勇者部員としてはあんたの方が優秀よ。

 

 

けど、だからこそ、私はあんたに勝ちたい!負けたくないんじゃなくて、勝ちたい!

 

 

そうすれば、あんたもわかるはず。再戦を待望するいじらしさと、私たちの腐れ縁はもう解離することはないって!

 

 

 

「…ええ。それでいいわ。私の、最初で最後の好敵手」

 

「やってやるわよ、私の永遠の好敵手」

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

イツマデ イツマデ

 

「え…?樹海化警報…?」

 

「このタイミングで…!?」

 

 

 

私たちのモバイルがけたたましく声をあげた。以津真天が飛び出してきて、私の目の前に樹海化警報の文字を持ち上げてきた。

 

 

全くの想定外だった。大赦の予測でもしばらくはバーテックスの接近はないとされていたし、____よりにもよって教導とはぐれたタイミングで____!

 

 

 

「…勝負はお預けよ。バーテックスを撃退する」

 

「わかってるわよ。けど、銀は幼稚園に…」

 

「……教導を戦わせてはいけないわ。私たち二人で、確実に仕留めるわよ」

 

「そうね。銀のやつがまた暴走したら……決闘どころじゃないし」

 

 

 

水を注されたけど、おかげで少し頭が冷えた気がする。三好さんとの決着は“その時”につけるから、今はバーテックスとの戦いに集中できる。

 

 

三好さんの精霊、雷獣も彼女の首に巻き付いて準備完了らしい。ためらいなく勇者システムを起動させて、花びらとなって散っていく世界に青と紫の花弁を添えた。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

〈……やっぱり来ちゃったかー。そんな予感したんだよね〉

 

「え!?携帯からすごい音鳴ってるよ!?」

 

〈………………え?友奈…動いてる…?〉

 

「ど、どうなってるのこれぇ~!?」

 

〈樹も…?なんで…?〉

 

「……あたしたちも、選ばれたっていうの…?…銀」

 

〈……あたし達だけじゃ、足りないっつうのかよ…!〉

 

 

 

 

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