シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

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勝ちたかった。勇者として絶対。

 

 

 

〈…これってさ。オミットしたはずの、“満開”、だよね…?〉

 

「………………」

 

〈…答えてよ、安芸先生。これはもう使わないって約束だったじゃんか。あたしが“こうなる”代わりに後続の勇者には何も背負わせないって言ったじゃんか〉

 

「………………」

 

〈……それが大赦の返答ってことね。あたしは信用できないって。…で、先生。先生自身はどう思ってるの?〉

 

 

 

 

 

 

「…私、ですか」

 

〈自分の受け持った生徒がさ、こうして蝕まれていくのを見てさ。あたしなんて八回だよ、八回。半身全部ダメにしたんだし〉

 

「…人並みの感性を持っているのであれば、耐え難い苦悩でしょう」

 

〈…他人事みたいに言っちゃって…。……あたしはとても耐えられない。大切な友達が、可愛い可愛い弟子たちが“散華”して…事実を知って壊れていくのなんて…〉

 

 

 

 

 

 

「…いけませんよ、銀様。次に“それ”を使えば、あなたは戻ってこられません。その時こそ、世界の終わりです」

 

〈……知ってる。あたしがチップにかけるのは世界だって話。二人を消耗品扱いするなら、“全て”を敵にしてもいい〉

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

〈もう、決めたんだ。気付いたんだ。あの時“死んだはず”のあたしがどうしてここにいるか。その天命を果たそうって〉

 

「…それが彼女たちに、更なる苦難を強いるとしても?」

 

〈……二人なら、乗り越えられる。あたしも、滅びゆく神樹様も、外の火の海も。その布石になれるっていうなら、あたしは笑って魂を売るよ〉

 

「銀様……」

 

〈前に言ったよね、安芸先生。私だけは最後まで銀様の味方だって〉

 

 

 

 

 

 

〈…だから、……あたしのわがまま、聞いてくれる…?〉

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

うっすらと意識が覚醒しはじめると、見慣れたハニカム状のセンサーが目に入った。

 

 

 

〈お目覚めかな?マイハニー〉

 

「……ツッコミ入れられるほど、まだ冴えてないんだけど」

 

〈…よかった。いつも通りの夏凜だ〉

 

 

 

銀ったら、こっちはまだ寝起きだっつうの。年中無休でツッコミやってると思ってんじゃないわよ。

 

 

横になっていた身体を起こして、見渡した。どうやらどこかの医療施設らしい。向かいのベッドで包帯巻いた楠が寝てる。

 

 

____なんでこんなところにいるんだっけ?えっーと

 

 

 

〈じゃあ一発ゲンコツね〉

 

「えっ!?ちょっと!?」

 

〈勇者パーンチっ!〉

 

 

 

突然ゲンコツを宣言して、止める間もなく拳の形をした鉄塊が私の頭を打つ。

 

 

 

「うっ…うおぉぉ……」

 

〈はい。懲罰はこれでおしまい。以後気を付けるように〉

 

「ご…ご……」

 

 

 

正直、楠のライフル弾レベルの衝撃がある。勇者じゃなかったら即気絶する威力。

 

 

痛みで急速に意識がはっきりと戻ってきた。____銀の言った懲罰の意味も理解した。

 

 

 

「……ごめん、銀。どうしてもあいつとけじめをつけなきゃいけなかったんだ」

 

〈殴らなきゃわかんないって言ってたもんね。…で、ケリはついたの?〉

 

「勝敗はね。あとはあいつがこの勝敗をどう思ったか」

 

 

 

____私は勝った。ずっと、追い越せなかった楠に。

 

 

認めたくなかったんだ。決着がつかないことが宿命だなんて。お互い力尽きてその事実を認めようとした時、神樹様が翼をくれた気がした。

 

 

____よく、覚えてないんだけどね。その後のこと。勝ったことしか覚えてない。

 

 

 

〈…夏凜の心のつっかえはもうないみたいだね〉

 

「…そうね。やれることはやった。これで結果が良くなくても、受け入れるしかないわよ」

 

〈そっか。…こればっかりは、芽吹次第だね〉

 

 

 

____あいつは果たして、何を思っただろうか?

 

 

あいつだって、負けた後のことなんて考えたことないはずだし。リベンジに闘志を燃やしてくれてるだろうか?それとも、高潔なプライドが修復できないくらいに折れてしまっただろうか?

 

 

けど、信じたい。本質は私と同じだって。不退転の心で挑み続ける人だって。____その人が隣にいなきゃ、私も前に進めない。

 

 

 

「……あいつが起きたら、一緒に社会奉仕にでも行ってくるわ」

 

〈え?懲罰はもう与えたよ?〉

 

「あんたからのはね。大赦もそれでお咎めなしって言うんだろうけど、私はそれで納得できないから」

 

 

 

勇者の力をお役目以外で使ったこと、目的も私的なこと、勇者同士での決闘。どれも重大な反逆行為だ。

 

 

それを承知で私も楠も力を解き放った。後で懲罰を受けるのを覚悟の上。

 

 

____銀の権力ならもみ消すことくらいわけないんだろうけど、それじゃ筋が通らない。自戒の意味でも、自分を罰しなきゃ。

 

 

 

〈…わかった。それじゃあたしも連帯責にn〉

 

「銀は来ないで。これは私と楠のけじめだから」

 

〈が、がーん…。あたしのけもの…〉

 

「遊びじゃないのよ。…でも、そう言ってくれて、嬉しかった」

 

 

 

銀にも触れてほしくない、神聖な領域だから。それに、それじゃ銀に頼ってばかりでカッコ悪い。

 

 

あんたが優しいのは良く良くわかってるから、____そこで待ってて。

 

 

 

〈わかったよ。もしその間にバーテックスが来たら、あたしが歓迎しておくよ〉

 

「……くれぐれも自分を見失うんじゃないわよ。銀も、楠も、私の大切な人なんだから。三人一緒じゃないとダメなんだから」

 

〈…夏凜からそんなセリフが聞けるなんてね。ハルさんが聞いたら風さん並みに号泣しそう〉

 

「兄貴に言ったら殺すから」

 

〈い、一緒じゃないとダメって言ったのに…〉

 

「あんたは殺しても死なないわよ。不死身だって自分で言ってたじゃない」

 

〈あれ?そうだっけー?〉

 

 

 

とぼけちゃって。あんたが同じようなこと最初に宣言してたじゃないのよ。

 

 

____その意味を、私はやっと理解したのよ。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

「…そういえば風たちは?学校?」

 

〈うん。終わったらお見舞にくるって言ってたけど。なんやかんやで二人の救護を手伝ってもらっちゃって、なんかお礼しないとなー〉

 

「そうね。…楠が目ぇ覚ますの間に合えばいいけど」

 

 

 

もう正午を回って、私はいろいろと検査を受けた。身体だけじゃなくて、勇者システム自体も。端末も不具合がないかどうかのチェックで、現在手元にない。

 

 

どこから持ってきたのか、銀は果物の詰められたカゴからリンゴを取り出してウサギの形に切った。弟さんにこうやって喜んでもらってたのかしらね。

 

 

 

〈はい、ウサギちゃんですよー〉

 

「手慣れたものね。ありがと、いただきます」

 

〈はい、あーん〉

 

「…え?」

 

 

 

フォークの先のウサギちゃんを私の眼前に差し出してきた。

 

 

その意味を理解するまで、数秒。そして羞恥心がメーターを振り切る。

 

 

 

〈この前できなかったじゃんか。せっかくだし、ね?〉

 

「ま、待って!そんな恥ずかしいことっ」

 

〈何を今更言いますかぁ~マイハニー。お互いに愛の告白をする仲だろ~?〉

 

「愛の告白じゃないしっ!!あれはそのっ」

 

〈言い訳してないで食えっ〉

 

「ふごっ」

 

 

 

言い訳に意識しすぎて、まるでお留守だった。すっとウサギちゃんが口の中に入り込んできた。

 

 

にししし、といたずらっ子みたいに笑う銀。先生っぽい大人な面もあれば、今みたいに子供みたいなことする時もあるし____忙しいやつよ、ホント。

 

 

果汁たっぷりのリンゴを頬張りながら、銀に顔を見られないようにそっぽを向いた。____いつかあんたにも同じ目にあってもらうんだから。

 

 

 

「…ま、いいか。こんな平穏なのも」

 

〈おお、なんだか余裕が見えるね。勝者の余裕ってやつ?〉

 

「ええ。泥沼の戦いだったけど、私が勝者よ」

 

 

 

実際、気分はこれ以上になくすっきりとしている。長年悩まされていたできものとおさらばしたような、そんな気持ち。

 

 

銀は少し間を置いてから、質問してきた。

 

 

 

〈……でも、良く勝てたね〉

 

「神樹様が私の根性を買ってくれたのよ。空に花が咲いて、力が形になって、大きな翼を持つ音速を超える船になって」

 

〈……使っちゃったんだね…“満開”…〉

 

「満開っていうのね、この機能。こんな隠し玉があるなら先に言いなさいよ」

 

 

 

銀も銀だ。勇者として戦うなら知ってなきゃいけないことを説明してくれないなんて。この満開があればバーテックスなんて敵じゃないでしょうに。

 

 

でも、銀の表情は次第に沈んでいった。

 

 

 

〈…できれば、使ってほしくなかったんだ。ゲージが溜まる前にあたしが片付ければ、夏凜も芽吹も満開を解き放たないで済むから…〉

 

「……まるで副作用でもあるって言い方ね」

 

〈……その通り、だよ。あたしの左目も、左耳も、左足も、声も、心臓も、生殖器も、味覚も、涙も。全部その副作用でダメになっちゃったんだ〉

 

 

 

 

 

 

________私が返せる言葉なんて、その時は存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

銀がサイボーグになったのは、満開のせい____?

 

 

 

 

 

 

〈……神様が無償で力を貸してくれるなんて、ありえないよ〉

 

 

〈穢れを知らない、神様に見初められた子だけが、その身を対価に力を得られる〉

 

 

〈花は咲き誇って、その後は散るだけ。“散華”の時は平等に訪れる〉

 

 

 

 

 

 

〈……それじゃいけないと思って、あたしはシステムをダウングレードさせた。他の勇者にも使わせないよう、大赦に満開のオミットを突き付けた〉

 

 

〈……けど大赦はあたしには秘密にして、夏凜と芽吹の勇者システムに満開を搭載した〉

 

 

〈……ホントに、ごめん。そんなことにならないよう手を打ってたはずなのに……〉

 

 

 

らしくもない沈んだ声と、謝罪。

 

 

何かあったのは私の方なのに、銀は被るべきでもない罪に苦悶してる。

 

 

____私のせい、だ。

 

 

 

 

〈あたしが焦ってけしかけたから……。芽吹との関係をなんとかしようって催促したから……〉

 

「…何一人で全部背負おうとしてんのよ。どう見たって私のせいでしょうが」

 

〈えっ……〉

 

「あいつとの仲をこじれさせたのも私。決着を切に望んだのも私。花開かせたのも私。銀は何も関係ないじゃない」

 

〈でも…〉

 

「…あんたもつらい過去を、もう二度と経験したくないでしょうけど……独りよがりの善意を押し付けられても、銀のこと心配するだけなのよ」

 

 

 

____銀の情けない顔を見てたら、自然と言葉が溢れてきた。両手が自然と銀の義手を握る。

 

 

あんたが私たちのことを大切に思うように、私たちも銀のことかけがえのない人って思ってんのよ。

 

 

銀に重荷を一人で背負わせたくない。肩の荷を預かるくらい、私たちにさせなさいよね。

 

 

 

「……それに、謝るのは私の方よ。銀にそんな心配ばかりかけて。……ごめん、なさい」

 

〈あ、謝ることじゃないよ。しょせんあたしの余計なお世話だから…〉

 

「…そう、よかった。…それなら私を信じて」

 

〈…え?〉

 

「もう独断はしないし、満開も使わない。銀が心配するようなことは、もうしないから」

 

 

 

____そんなことする理由も、もうなくなったから。

 

 

これからは、あんたと楠と、ずっと一緒だから。

 

 

 

〈……泣きたいのに泣けないって、つらいね〉

 

「そのシケた面だけでも、十分気持ちは伝わるわよ」

 

〈…芽吹に見られたら、余計な詮索されちゃうね。…よし、ありがと夏凜。勇者免許皆伝だよ〉

 

「銀…」

 

 

 

銀は教導期間の終了を告げるとともに、優しく肩を抱いてきた。機械音声が感極まって震えてるようにも聞こえる。

 

 

____今にも泣き出しそうな吐息は、なぜか温度がしなかった。

 

 

 

「……寒いの?銀」

 

〈え?……いや、暑いくらいだよ?〉

 

「………………」

 

〈…捧げられたのは、温感、なのかな…〉

 

 

 

____手とか足じゃなくて、ホッとした。日常生活に支障が出る障害だったらサイボーグ待ったなしだし。

 

 

____けど、人肌の温度を感じられないのは寂しい、かも。

 

 

 

「サイボーグになるほどのことでもないわね。逆に快適かもしれないし」

 

〈熱中症とか凍死とかやめてよー?〉

 

「怖いのはそれくらいでしょ?免許皆伝完成型の私が、そんな間抜けなことしないわ」

 

〈…合格なんて言わなきゃよかったかも〉

 

「もう遅いわよ銀。大丈夫、調子乗ってたら隣で寝てるあいつがしばいてくるから」

 

 

 

____あいつも、わかってくれるはずだ。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

「夏凜ちゃん!芽吹ちゃん!」

 

〈お、やっぱり友奈が一番乗りだ。あたしの予想通り〉

 

「…わざわざありがとう、…結城さん。ご覧の通り全然元気よ」

 

 

 

しばらくして、結城さんが切迫した表情で病室へ入ってきた。その後に風と樹が続く。二人もいい顔はしてない。

 

 

 

「よかった…!無事で…!」

 

「あの程度何ともないわよ。平気平k…ぃたたた」

 

「頭痛いの!?夏凜ちゃんしっかりして!」

 

〈あーごめん。それあたしのゲンコツのたんこぶだわ〉

 

 

 

頭を動かすとゲンコツの痛みが染みる。体罰なんて食らったことなかったけど、なかなか教訓になる痛みだ。

 

 

結城さんが「へっ…?」って顔をしてポカーンとして、その様子を見て風がブッと吹き出した。

 

 

 

「いい先生じゃんか、銀先生」

 

〈ちゃかさないで下さいよ風さん〉

 

「げ、ゲンコツって…痛そう…」

 

〈樹も悪さしたらゴチーン、だよ?〉

 

「樹がそんなことするわけないでしょ!?」

 

〈信じて送り出した真面目な教え子二人が、血みどろのケンカをしたんすよ?樹だって反抗期が来ますって〉

 

「そ、そんなぁ!樹ぃぃぃお姉ちゃんを嫌いにならないでぇぇぇ」

 

「…そういう悪ノリすぎるところ、ちょっと嫌いかなぁ」

 

 

 

____いい加減このノリにも慣れてきた。少しうるさい気もするけど、悪くはない、と思う。

 

 

場を和ませようとした三人だけど、結城さんは乗ってはくれなかった。私たちのことを真剣に心配してくれてるらしい。

 

 

 

〈友奈もそんな顔するなって。二人が無事じゃなかったら、あたしが平気でいられるわけないだろ?〉

 

「それは…そうだけど…」

 

〈ほら、芽吹も狸寝入りはそこまでにしてさ。友奈を安心させてよ〉

 

 

 

銀は楠のベッドに行って、こめかみのあたりを両手でグリグリした。

 

 

 

「ぎぃぇぇぇえっ!!」

 

「!!?」

 

 

 

普段のあいつからは想像もつかない理性の欠片もない悲鳴。樹が髪の毛を逆立てるように背筋を伸ばす。

 

 

心中お察しします。ゲンコツもすさまじい威力だったけど、それも一般人を病院送りにする技なんじゃないの?

 

 

 

「うわぁ…銀の体罰は加減を知らないわねぇ…」

 

「だっ、大丈夫芽吹ちゃん!?」

 

「め、目の覚める一撃でした…」

 

 

 

狸寝入りだったかどうかはわからないけど、楠も完全に意識を取り戻したようだ。息を切らせながら周りを見渡してる。

 

 

 

〈おはよう、あたしの愛娘〉

 

「…だから教導にはパパをあげられないって言ったじゃないですか」

 

「…パパ?」

 

「……あ」

 

 

 

樹がそのフレーズを聞き返すと、楠はフリーズした。

 

 

____あの真面目でお堅いイメージの楠から、まさかの“パパ”発言。そのインパクトたるや、銀以外の全員が固まってしまうくらいだ。

 

 

 

〈いやね、父子家庭っていうからあたしがママになってやろうって言ってるんだけどさ。恥ずかしがっちゃって〉

 

「いやいや銀、そこじゃなくて」

 

「ち、違うんです風さん!父を尊敬してはいますが決して教導とそういう関係があるわけではっ」

 

「??どういう意味かな?芽吹ちゃん」

 

「…結城さんは知らなくていいことよ。銀がからかったせいで、あいつもワケわかんなくなってるだけだから」

 

 

 

これじゃ話が進まないじゃない。この前の会議みたいに。

 

 

____それが勇者部、か。

 

 

 

「んんっ!この話はここまでです!終わりです!」

 

〈ええーせっかく芽吹の意外な面を知ってもらおうと思ったのにー〉

 

「それはあんまりです!私の独断にご立腹なのは重々承知してますが!」

 

〈うん、怒ってはいないよ?…ま、いっか。みんなポカンとしてるし〉

 

 

 

いたずらっ子みたいにほくそ笑む銀。体罰も加減を知らないけど、精神攻撃もえげつない。これが大赦の権力者っていうんだから、世も末だ。

 

 

 

「め、芽吹ちゃんも元気そうで何よりだね!」

 

「…ええ。でも狸寝入りという訳ではないけど、もう少し寝かせてほしかった」

 

〈起きてるんだか寝てたんだかはっきりしてよー。どこから説明すればいいかわかんないじゃん〉

 

「…一から説明させてください。それと…何なりと罰を」

 

〈ふふ、夏凜と同じこと言ってる。二人とも欲しがりさんだなぁー〉

 

 

 

意味深な言い方やめろ。ネタなんだかガチなんだかわからないじゃない。

 

 

でも、あいつと考えてることは一緒とわかって、なんだか嬉しくなった。

 

 

 

「…三好さんと?」

 

〈うん。二人一緒に社会奉仕の旅に行きたいって〉

 

「いやいや銀。さすがに現実的じゃないでしょ…」

 

〈女二人…旅の道中…何も起きないはずがなく……ビュオオオウ!〉

 

「さっきからそういうネタに走るのやめなさいよっ!」

 

 

 

自分で言ったことだけど、なんかすごく恥ずかしくなってきた。

 

 

もっと距離を詰めたい人と二人っきり。そんな風に茶化されたら、イヤでも意識しちゃうわよ!

 

 

 

「??銀ちゃん、どういうこと?」

 

〈ふふふ、そりゃあれだよ。仲直りに夏凜と芽吹がにゃんにゃんすr〉

 

「銀!!それ以上言わせない!」

 

〈ぶうぇっ!〉

 

 

 

顔を真っ赤にして、楠は銀のチョーカーを力いっぱい引っ張った。____因果応報よ、銀。

 

 

普通の人間にやっちゃいけない技だけど、銀なら別にいいか。不死身のサイボーグだし、こうでもしないと黙らないし。

 

 

 

「にゃんにゃん…?仲良く遊ぶんだね!」

 

「そ、そうよ結城さん!三好さんとにゃんにゃんって!」

 

「そ、そう!お互いににゃんにゃんって言ってさ!」

 

「うふふ、二人とも必死ねー」

 

「お姉ちゃん、あんまりちゃかしたら可哀想だよ…」

 

 

 

____風のやつ、後で覚えてなさいよ。

 

 

てか、なんで結城さんの純粋な心を守ろうと必死になってんだろうか。____まあ、銀みたくなってほしくはないけど。

 

 

 

「…おほん。皆さんも詳しい事情を知りたいと思うので、説明させてください」

 

「このポンコツサイボーグが伸びてる内にね」

 

「二人とも、割と銀の扱い雑よね」

 

「お姉ちゃんが言う?それ」

 

「あははは…。銀ちゃんと二人は仲良しってことだよね」

 

 

 

それは認める。自然と持ち上げる気にならないのよ。

 

 

事情をひとつずつ説明していった。どうして私たちがいがみ合っていたか、人となりをお互いに言い合って。

 

 

 

「私は楠のこと、ずっといけ好かない奴だと思ってた。平気で人を傷つけるし、一匹狼気取ってるし」

 

「私だって三好さんには背中を預けられないと思ってた。感情的だし、甘ったれだし」

 

 

 

「…でも、理由もなくそんなことしてるんじゃないって気付いた時、楠の生き様がすごくカッコ良く見えた」

 

「…銀が神樹様に選ばれた理由を察した時、三好さんの人格こそが勇者にふさわしいと思った」

 

 

 

「……だからこそ、勝ちたかった。その人と抜きつ抜かれつ、そんな関係になりたかったから」

 

「……だからこそ、負けたくなかった。隣を走る人と決着がついてしまえば、私の隣には誰もいなくなってしまうから」

 

 

 

 

 

 

「…勝ったのは、夏凜ちゃん…?」

 

「…ええ。全力で挑んで、死力を振り絞った三好さんに、私は敗北した」

 

「……銀のやつが説明してなかった満開って機能を、土壇場で呼び起こした。それがなきゃまたドローだった」

 

「隠してたのは教導の方だったのね…」

 

 

 

「…どうなのさ、夏凜。それに芽吹。決着がついてみて」

 

「私も実力で勝ったとは思ってない。楠も満開を使ったら、引き分けるに決まってるし」

 

「……でも一敗は一敗よ。そこは認める」

 

「ん?」

 

「……こんな気持ちは初めてなの。本気で三好さんに勝ちたいって」

 

 

 

「教導にコテンパンにされた時には勝てなくて然るべきだと思った」

 

「でも三好さんの前で膝をついたら、どうしようもなく自分が許せなくなった」

 

「どっちが上かはっきりわかって、同じ立場でいられなくなると思ってたけど、……結局、尚更三好さんに挑みたくなった」

 

 

 

「許されるのなら、…三好さん。……いえ、夏凜」

 

「同じ先生の下でお互いを高め合うことを許してほしい。これまで通り同じ立場で競う関係が、私のただひとつの望み」

 

 

 

「…私も同じよ、…芽吹」

 

「私はあんたに一度完全敗北した。勇者部の仕事の指揮をとったあんたと、与えられた仕事一つこなせなかった私。能力の違いをまざまざと見せつけられたわ」

 

「だから、勝ちたかった。勇者として絶対。そこで負けたら私には何も残らないから」

 

 

 

「一勝一敗。優劣なんてまだまだわからないわよ」

 

「…芽吹。これからも私と競い合ってほしい。それが今の私の生きる意味なのよ」

 

 

 

しゃべればしゃべるほど、お互いに同じことを思っていたことがわかってきた。

 

 

嫌ってる振りをしながらお互いに尊敬できるところを見つけていたり、その関係が心地よくて下手に改善しようとしたくなかったり。

 

 

本当は相手もわかり合いたいと知ることができれば、私たちを隔ててきた壁なんてもう必要ない。心をがんじがらめにしてきた鎖が外れて、ようやく壁を越えられる。打ち壊せる。

 

 

 

「…夏凜」

 

「…芽吹」

 

「…うん!ちゃんと仲直りできたね!最後は握手握手!」

 

「ちょっ、結城さん!?」

 

 

 

向かいのベッドで見据えてくる芽吹に視線を返し続けていたら、結城さんが私を担いで芽吹の隣の椅子まで運んだ。

 

 

そして、結城さんに促されるまま芽吹の包帯で巻かれた手を握った。

 

 

 

「これで二人はもう銀ちゃんだって割り込めないくらいの大親友だよ!」

 

「…大親友、か」

 

「…雨降って地固まるって言うけど、私たちの場合は全部流された後に残った岩盤じゃない?」

 

「もうそれ以上削れないし、割れもしない。いいじゃない、それで」

 

「そうね。夏凜以上に親しい人なんて、それこそ銀くらいだし」

 

 

 

銀や結城さんみたく、仲良しを前面に押し出せるわけもなく。これまでと変わらない、ドライで冷めた会話。

 

 

でもそれが私たちの正しい距離。お互いの思いが同じとわかればこそ、なおさらこの関係が心地いい。

 

 

 

「…ありがと、結城さn…友奈。こんなに世話焼いてくれて」

 

「銀ちゃんの大事な人なら、わたしの大事な人だよ!お安いご用ってこと!」

 

「…いつか、お礼させて」

 

 

 

____こんなにも支えられていたことに気付いた。銀のやつが私たちにお節介だった理由も、今ならわかる気がする。

 

 

 

 

 

 

____私も、そうなれるかな。

 

 

 

 

 

 

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