〈またやられにいらっしゃって。懲りませんなぁ〉
____言われてみれば銀の実戦を見るのは初めてだ。圧倒的技量と能力を持ってるのはわかってるけど、バーテックス相手にどんな戦術を駆使するのかは未知数。
〈芽吹、夏凜、もしもの時のために用意しておいて。いや、しくじるつもりはないけどね〉
「了解よ銀。見せてもらおうじゃない」
「承知しました。敵は一体のみの様子ですが、私たちで警戒しておきます」
銀は平静を保ってる。冗談をかましたり的確な指示を出せるくらいには。
これで私たちがしくじるのは申し訳が立たない。異常がないか念入りに警戒しよう。
「……?夏凜、首のそれは?」
「え?ああ、新しく私の補助をしてくれる精霊が増えたのよ。名前は“蛟”」
勇者姿の夏凜の首にはいつも雷獣がファーみたくなってるのは知ってたけど、その下に水色の数珠みたいに巻き付いてる蛇がいた。
ミズチ____水神の一つだったかしら。肩に背負った戟の石突から水蒸気が噴き出してる。
「失った温感を補うのが変温動物の蛇っていうのもアレだけど」
〈蛇って熱を“視る”ことができるっていうけどね。どう?夏凜には見える?〉
「それができるのはあんたでしょうに。義眼にサーモグラフがついてんでしょ」
〈はは!ついでに服も透視できる!〉
「くたばれ!そんで須美様に謝れ!」
〈ぐはぁっ!〉
石突きで銀の横っ腹をどついた夏凜。オーバー気味にのたうち回るけど、私たちの見る目は冷ややかなまま。まあ、因果応報だし。
「…さあ、各自展開しましょうか。夏凜、両端を押さえるわよ」
「了解。お互い抜かりなく、ね」
〈うーん、そのスルースキルをもっと有効活用できたらなぁ〉
「不毛なツッコミはしませんので」
〈あー、はい。遊んでないで仕事してきます!〉
サムズアップした直後には、銀は宙を滑っていった。夏凜の機動力ですらあれを捉えるのは至難でしょうね。
私と夏凜は銀の両サイドに展開して敵の伏兵や奇襲を見張る。レーダーに反応が一つしかないとはいえ、不測の事態に備えておかないと。ステルス能力を持ってる奴もいるかもしれないし。
〈先手必勝だぁぁっ!〉
バーテックスの真正面から突撃する銀。斧二振りを自分の前に広げローターのように回転させて、盾のように構えた。
射撃物は弾かれるだろうし、斧に触れでもすれば簡単に切り取られてしまうだろう。非常に理に叶っている。
バーテックスはなす術もなく銀に取り付かれた。速攻というのも立派な戦術か。
〈よしっ!とどめだぁっ!〉
二振りの斧が義手のサイコキネシスと連動して、驚異的な回転数で金属音を響かせる。まるでサーキュラーソーのようにバーテックスにそれを突き立てると、豆腐を切るようにあっけなく刃が肉薄する。
あっという間にバーテックスを薪割りにして、丸ノコに巻き込まれた御魂も両断。光となって消えた。
〈見たか!銀様の勇者30!世界を守るのに一分もいらないんだぜぇ!〉
「…自信なくすわ…。こんなヤバい奴がすぐそこにいたなんて…」
「相手になってなかったわね…。何もさせてもらえなかったっていうか…」
〈ふははは!勇者三人分の力ってやつよぉ!〉
____私も夏凜も強くなったつもりでいたけど、次元の違いを見せつけられた。不安定な力とはいえ、私たちが知恵と力を出し尽くしてようやく倒せる相手を軽く蹂躙したんだもの。
そして、銀にも特におかしな様子はない。斧に座って着地しながら得意げに笑ってる。
〈あたしも修行して、自分を抑えられるように精神を鍛えたんだ。これで、二人を守れるね〉
「いつの間に?あんた、教練以外は遊んでばっかじゃないのよ」
「だから先生に缶詰めにされて課題をやらされるんですよ」
〈ぐおっ。…そう、それ。キミたちの辛辣なツッコミがあたしを強くした!!〉
「よし、なら遠慮なくバッサリ斬れるわね」
「ええ、それで銀が強くなるっていうならやらない手はないですね」
〈ああああ変なこと言わなきゃよかったぁぁぁぁ〉
銀はわざとらしく頭を抱えて解けていく樹海に向かって叫んだ。
冗談なのか事実なのかはわからないけど、実際に銀は自分を制御した。その点は安心していいだろう。
須美様、園子様。ありがとうございます。銀と一緒に戦える、それだけで一層距離が縮んだ気がします。
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バーテックス撃退後、神樹様はご親切に丸亀城の祠まで転送してくれた。この疲労の中電車に揺られれば間違いなく寝落ちするし、結構ありがたいことだ。
気がつけば三人で大浴場を占領しながら、何気なく話していた。
〈んで、何だっけ、どこまで話したっけ〉
「あれよ、連中に脳みそだけになるまで使われるのはいいのかって」
〈そう言われると物騒なことしてるよね。はぁ、どうしてこんなことになったんだか〉
「それが正常な反応よね。まあ、私も銀も芽吹も、もはや正常な人間じゃないけど」
「…反論する気も起きないわね」
まるで他人事みたいに言ってしまうのは、大人になったからなのか。それともある種の諦観か。
三人揃ってため息を漏らすと、銀が天井を仰ぎながら言葉を続けた。
〈それだから、大人たちは勇者を人間扱いしないのかもしれないね〉
「……下手に人間扱いすれば、制御できなくなると?」
〈…そうだね。神格化することで、人身御供になってるってことを誤魔化してるのかな〉
「人身御供って、妙な言い方するわね」
〈実際そうだと思うよ。満開の代価として身体の機能が失われていくのは、神樹様にそれが捧げられてるって意味だし〉
さらりと放った言葉だけど、絶対に聞き逃したらいけないやつだ。
夏凜の温感がなくなったのは、神樹様にそれを献上したから。銀の身体のあちこちが機能してないのは、全部力の代償を払ったから。
〈…二人とも、イヤだよね?あたしみたくなるのは〉
「…できれば遠慮したいわね、それでどうにかなるなら。今回失ったのが大したものじゃなかったけど、次満開した時に致命的な欠陥が出たら…」
「……ええ」
自分でもひどいと思うくらいの生返事だった。
私だけ何も失ってない。銀は世界を守るために何度も満開と散花を繰り返し、夏凜は私との仲を取り持つために身体を捧げた。
____じゃあ私は?二人にもらってばかりで、何も返せてないじゃない。
こんな言い方は変だけど、もし二人がピンチになったなら私は迷わず満開を使う自信がある。止められようがお構い無く。
〈だからさ。どうにかしようと思ってるんだよね〉
「どうにかって、どうにかなるものなの?」
〈…バーテックスが来なくなれば、あたし達は勇者の任から解放されるよね?〉
それはそうだ。戦うべき敵がいなければ。
「……そんな方法があったら、とっくの昔に誰かがやってます」
〈そうだね。誰も思い付かなかったんだよね〉
「はぁ」
〈でもね、さっきも言ったとおり、ここには天才乃木園子と傑物鷲尾須美と三ノ輪銀の脳みそがあるんだよ〉
三人寄らば文殊の知恵。三百年戦い続けた人類が及ばなかった難題に、勇者三人が解を見つけたというのか。
〈…倒すのさ、バーテックスを統率する親玉を〉
「…その顔でそんな大ぞれたこと言われても、説得力ないわよ」
「…つまり、天の神そのものを廃滅する、ということですか」
〈うん。あたし達で終わらせよう〉
冗談で言ってるわけではないらしい。神世紀300年の戦いの歴史に幕を引こうとしているのか。
____銀が苦しみながらも戦い続けてる理由がそこにある気がしてならない。
「そのための策を園子様と須美様が思い付いたってわけ?」
〈…まだ計画を練ってる段階だから、話せる部分も少ないけどね。まあ、勝算はあるよ〉
「………………」
〈芽吹?どうしたの?変な方向向いちゃって〉
「…いえ、何でもありません」
聞きたいことは山ほどある。天の神の所在や実力、その対抗策、そして私と夏凜にできること。
でも、聞けない。怖くて聞けない。
神そのものを超越するなら、“それ相応の代価”が必要だから。身体の機能どころの話じゃなくて、この人なら命すら捧げてしまいそうだから。
〈二人とも、絶対勝とうな〉
「もちろんよ。銀と芽吹、そして私がいればどんな戦いでも勝てる」
「……勝って、その後の世界を見届けてましょう」
____私はそう願った。強く、強く。
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〈いよっしゃぁぁぁっ!!これで自由だあぁぁぁ!!〉
「出所おめでとう。まさかあの後徹夜で終わらせるとは思ってなかったけど」
〈だって二人と遊びに行きたかったんだもん!今日逃したら次はいつになるかわかんないし!!〉
課題を提出して戻ってきた一言目が歓喜の叫びだった。
銀は寝ずに課題をやってたらしい。前日の就寝時間も、起床時間も、日課の夏凜と一緒の朝練から帰ってきても共同部屋の机にかじりついていた。
うわ言を垂れ流しながらペンを走らせる姿は正直可哀想にも思えてきたけど、手伝うのも野暮ってものよね。繋がってるはずの須美様や園子様が手出しした様子がないのも、私と同じ理由だと思うし。
「…確かにオフの日ですが、そんな予定入れてましたっけ?」
〈堅いこと言うなよぉ!二人が本当の親友になったのをあたしはまだ祝えてないから!ね!いいでしょ!?〉
「…しょうがないですね。そうと決まれば徹底的に楽しみましょう」
「あんた最近デレデレね。あの頃の狂犬はどこに行ったのかしら」
「隠してるつもりだったかもしれないけど夏凜も大概よ?相変わらず照れ隠しも下手だし」
〈はーい始まりました弟子二人のかわいい口喧嘩。ああ、尊い…〉
____園子様。銀の思考に入り込めるからって、変な知識を横流ししないでください。そのニタニタした顔を見てると腹が立ってきますので。
あと夏凜。せめて自分のところに返ってこない煽りをできないのかしら。
〈さーて、どこ行こっかなー。あっ、二人の行きたいところがいい!〉
「え?私たちの?」
「…そんなこと言われてもパッと出てこないわよ」
〈じゃあ考えて考えて!二人の日常をもっと知りたいんだ!〉
ここぞとばかりに迫ってくる銀。普段の教導から一気に精神年齢が下がって、____それこそ、これが本来の銀の姿なんじゃないかしら。
私の行きたいところ、か。
「芽吹、あんた何かない?私が立案するとジムとかドラッグストアになりそうだし」
〈うーんぬかりない完成型勇者。夏凜は自分の趣味を見つけた方がいいかも〉
「うるさいわね、トレーニングが趣味で何か文句ある?」
____夏凜の私生活って、私以上に謎かも。トレーニング以外何してるかわからない。
このままじゃ行き先が決まりそうにないので、さっと思い付いた案を言ってみることにしよう。
「じゃあ、行きたいところというか、やりたいことが」
〈おっ?芽吹、なになに?〉
「この畳の大広間、座椅子がないのはちょっと不便かなと思いまして」
〈あー、確かに。勉強してた時も背もたれがないのはつらかった〉
「なので、座椅子を作りたいです」
「〈…ん?〉」
銀と夏凜の頭上に?マークが見える。何に対しての疑問かはわからないけど。
説明が不足してたかもしれない。ちゃんと計画を説明しておこう。
「この和室の雰囲気に合った、木組みのものを考えてます。設計はもう頭に浮かんでますので、すぐに設計図をk」
〈待った待った!“作る”って!?〉
「何でそこに行き着くのよ!?普通にホームセンターで買えるものでしょ!?」
「それじゃただの買い物です。三人で作ったインテリアで私たちの部屋を彩る…素敵だと思いませんか?」
〈おおぅ…芽吹がこんなぐいぐい来るって初めて知った…。けど、いいねそれ!〉
____むしろ買うという発想がなかった。考えてみれば、日曜大工ができる中学生も珍しいか。
銀は生身の目を輝かせて食い付いてきた。勇者部での活動を見て思ったけど、銀はこういうものづくりが結構好きと見える。
「しょうがないわねぇ…あんたの趣味に付き合ってやるとしますか」
「そうね。夏凜にもできるような工夫、考えとくわ」
「人を不器用みたいに言うな」
「そうじゃないの?」
「人並みにはできるわよ」
〈えっ…マジで?〉
「何で銀までそっちに便乗するのよ!?」
____気付かれてないつもりだったの、夏凜?あなたが手の施しようのないくらいの不器用だって。
何か言いたそうにしてるけど、待っててもしょうがない。ひとまず場所を移そう。
「とりあえずホームセンターへ行ってみましょう」
〈オッケー芽吹!〉
「ちょっと!まだ話は終わってないわよ!」
「文句は完成してから受け付けるわ。時間はあるようでないから、浪費はできない」
「ぐぬぬ…」
__________________
「…大掛かりな機材は用意できないから、全部手作業で詰めていかないと」
「どっから持ってきたのよその工具一式…」
〈これ、芽吹の私物なんだって。ちゃんと手入れされてるのがもう職人っていうか〉
「父から徹底的に教え込まれましたので。大切にされてない道具で作られたものには魂は宿らないって」
座椅子三台分の木材と消耗品を買い揃えて丸亀城まで戻ってきた。台車を引きずって帰るのは骨が折れたけど、やっとこれで作業に取りかかれる。
城に居を移した時にも持ってきた工具がようやく日を見る。定期的に磨いたりしてたけど、実際に使わないと意味がない。
「設計図は起こしましたが、私が一台分の線を引きます。二人はそれと設計図を見比べながら同じように線を引いてください」
〈オッス!棟梁!〉
「いつも通りでいいです教導」
〈すみません!〉
「確信犯でしょあんた…。芽吹がツッコんでくるって」
〈お約束だから!〉
このボケ方は銀一人の考えたことじゃないって発想が頭をよぎった。だって、あまりにも作られたボケだから。
そこまで会話に造詣があるのは、深い洞察力がある人____園子様の影響がある気がしてならない。
〈でもさ、難しいところは芽吹がやっちゃった方がいいんじゃない?〉
「いえ、それでは意味がありません。一人ひとりが実際に手掛けなければ」
「技術の授業か!」
〈そうっすね!芽吹先生!〉
「何回言わせる気ですか。先生は銀の方です」
〈そうだね、三ノ輪銀教導だね!〉
____記念品なので、二人が作ったという方が気持ちがこもりますから。
まあ、夏凜の不器用さに関しては私がちゃんとフォローしてあげないと。
「そうですそうです、最後まで力を抜かずに。綺麗にできてます」
〈楽しいねこれ!コツを掴んだらいくらでもやっちゃうよ!〉
「あまりかけ過ぎると厚さが合わなくなってしまいますから、全体的に均一になったらオーケーです」
銀は予想通り飲み込みが早い。
鉋がけの手順を一回教えただけで完全にものにしてる。差し金の使い方もすぐにマスターしたし、切り出しに至っては私より正確に真っ直ぐだったし。義眼に測量機でもついてるのかしらね。
対する夏凜の方は____
「夏凜。刃を寝かせすぎよ。それじゃ上手く切れないし曲がる原因にもなる」
「だああぁぁぁ!戟なら一発で真っ二つなのにぃ!」
「電撃で焦げ目がつくからやめて」
未だ鋸で材木と格闘中。同じ刃物でも戟と鋸じゃ訳が違うらしい。
でも、少しずつだけど慣れてきてる。問題を解決してきてる。どんな時も努力を怠らないその姿勢こそ、私の好敵手よ。
〈ファイトファイト♪夏凜がんば♪〉
「その余裕そうな顔見てると腹立ってくるわね…!」
〈おおぅ怖い怖い〉
「鉋がけは終わったみたいですね。次にいきましょうか」
〈ん?芽吹は何やってるの?〉
「鉋の予備もないので、ヤスリをかけてます」
三人で平行作業できるほど道具の予備はないので、私自身は別の方法で作業を行っていた。
差し金はスケールと糸と重りで代用したり、表面加工はあえて紙ヤスリを使ったり。時間ばかり使ってしまうけど、二人と足並みを揃えるには丁度いい。
「木口をもう少し整えたかったところですが、時間は限られてるので釘を打ちましょう」
〈オーケーベイベー!〉
「手順は設計図の裏に書いた通りです。順番を間違えると面倒なことになるので注意してください」
〈わかったー!わかんなくなったら聞きにくるー!〉
____天才の教育者というのも大変なものだ。一聞いて十覚えるのだから、その先まで考えて満足させなきゃいけない。
私も夏凜も天才とは程遠い。ひたすらに研鑽することでようやく同じ土俵に立つことができるんだ。
「……夏凜」
「何よ」
「天才って、本当にいるのね」
「そうね。三人の天才の集合体がそこにいるわね」
「私たちはひたすら追いかけるしかない、か」
「ええ。あんたと一緒に、あいつを追いかける。そんな一時が何より楽しいじゃない」
____夏凜も楽しんでくれてるみたいだ。何だかほっとした。
三人だから楽しい。一人でいる時には考えもしなかったし、感じられなかったこと。
____勇者の任が終われば、こうして楽しい時間をずっと過ごせるのかしら____
〈うおぉっ!いい!これいい!〉
「完成したみたいですね。…ん?その座布団はどこから?」
銀はヤボ用と言ってしばらく戻ってこなかったけど、夏凜がようやく組み立てに入ったあたりで帰ってきた。
ほぼ完成させてから部屋を出ていったみたいだし、何をしていたのだろうか。座椅子の面に赤い座椅子が敷いてあった。
〈ふふ、超特急で作ってきた!〉
「え?」
〈実際試してみたら、やっぱあった方がいいね!よし、二人の分も作ってくる!〉
「え、ええ!?」
また慌ただしく立ち上がって部屋を出ていく銀。そういうそそっかしい人だとはわかっていても、反応がついていかない。
空いた時間で座布団を製作していたらしい。簡単なクッションみたいな作りだけど、この短時間で完成させてしまうのはもはや神業。天才三人分の能力は底が知れない。
「…通り雨みたいなやつよね、銀」
「ええ。まさにその通りね」
「さて、あいつが帰ってくる前に私も終わらせるか」
「あともう少しよ、ケガしないように気をつけて」
「余計なお世話よ」
「それは失礼したわ」
口角を上げてそんなこと言っても、照れ隠しにもならないわよ、夏凜。
夏凜の作業も大詰めだし、そろそろ後始末に取りかかるか。疲労がないわけじゃないから、効率良く行程を完了して休みたい。
片付けを終えて、それぞれ完成した座椅子に腰をかけて卓を囲んだ。普段と変わらない光景なのに、たった一つエッセンスを加えるだけで何か良くなった気になる。
「夏凜、銀、お疲れ様」
〈オッス!素敵なレクを提案してくれてありがとな芽吹!〉
「……ありがと、芽吹」
〈ビュオオオオウ!これは強烈なデレだぁっ!デレるか!?芽吹もそのまま!!〉
「教導、頭をシバくのに最適な角材がここにありますが」
〈やめて!ツッコミは期待してるけど!痛いのはやめて!〉
なら余計な事言わなきゃいいのに。まあ、夏凜も“余計な事”言ったせいでお互い恥ずかしい思いしてるんだけど。
ようやく完成を見た私たちの座椅子。三者三様の設計図通りとは言えない出来映えだけど、なんだかそれもいい気がしてきた。
赤い座椅子が敷かれてる銀の作品は、折角切り出しや鉋がけが完璧なのに部品の左右上下が間違ってる。途中で座布団の製作を思い付いたらしくて、急いでやったら間違ったとのこと。
「あんたも学習しないわねぇ…」
〈感動の探求に危険は付き物だから!〉
「まったく。天才なんだかバカなんだか…」
紙一重よ、それも境界線ギリギリを攻める。
はぁー、とため息をついて紫の座布団が敷かれた座椅子に寄りかかる夏凜。少し曲がってたりするけど、入念に手をかけた跡が残ってるのが製作者の性格を表してる。不器用で不格好かもしれないけど、私はこういうのは好きだ。
「作家じゃないんですから。火遊びもほどほどに」
〈うん、命がいくつあっても足りないね、これじゃ〉
「拾った命、大切にしてください」
____おふざけもほどほどに、という意味もあるけど、無茶しないでって意味もある。
折角くつろいでることだし、お茶を出そうと席を立つ。
私の座椅子には青の座布団を用意してくれた。余った素材で作ったらしいけど、満足のいく使い心地だ。銀の粋な計らいには感謝と嬉しさを感じてしまう。
座椅子の方も余った道具で本来の作り方をしてないので、満点とは言えない完成度。____この二つが合わさると、まるで私と銀の関係を表してるみたい。
「お茶、用意しますね」
〈うーん、おねがーい〉
「ぐうたら亭主め、母親になるとか言ってなかった?」
〈たまにはお姉ちゃんに甘えさせてよー。数ヶ月だけど芽吹はお姉ちゃんなんだしー〉
「リアル姉が言うセリフか」
一応、この中で一番早生まれらしい。かといって一番姉らしいわけでもないけど。一番気が回るのはやっぱり銀だし。
まあ、いつも姉をやってるのも疲れそうだから、何も言わないでおこう。
「…まあ、芽吹がやりたいって言うんなら私も飲んであげるけど」
〈うおぉ、完璧!完璧なツンデレ!芸術点あげちゃう!〉
「こんのぉぉぉぉ!さっき散々注意したでしょうがあぁぁぁ!」
〈うひゃあ♪逃げろー♪〉
「…あなたも大概よね、夏凜」
揃いも揃って学ばない人間の集まりよね、まったく。