私たちは無意識の内に国防仮面の足取りを追っていた。別に調べるつもりはなかったけど、正直ヒマでヒマで。
銀の只のおふざけならその場でおしおきしてやればいいし、計画の一つなら知っておきたいし。どちらかも判断付かない状況がイヤだったのかもしれない。
「…今日は徳島の方に現れたか」
「休みがないわね。毎日どこかに現れてる」
「……こんだけ大活躍してボロを一つも出さないなんて、徹底してるわね」
「私たちの他にも確保を試みた人たちがいたみたいだけど、全て失敗に終わってる」
救いのヒーロー。
国防仮面から与えられる情報はそれだけ。そのミステリアスさは不気味を通り越して、神格化すらされはじめてる。
どこの情報共有サービスでもメディア業者でも、正体を暴くようなことや批判的な意見が見受けられない。
「…ああーっ!モヤモヤする!銀のやつは私たちの知らないところで何をしてるのよ!」
「……確かにこれは精神衛生上良くないわ。私たちにも話せないことって、一体何なの…?」
日に日に私も芽吹もストレスを溜め込んでるのがわかった。銀が只の出張に行ってるだけなら全然文句ないけど、目の前を飛んで逃げるハエみたいにチラチラ姿が見えるから。
「…ああっ!もうっ!」
「…静かにして夏凜。余計に気が散る」
「どうにもなんないわよこんなの!」
「しょうがないじゃない。私たちの権限じゃどうしようもない」
「でもこのままで良いわけないでしょ!?下手すりゃ勇者に変身するのに待ったがかかるレベルよ!」
こんなにイライラしたのもいつ以来か。何もかんも手に付かない。
____だったら、どうにかするしかない。
「それは私たちの精神が未熟だから。これも試練ってことでしょ?」
「それをどうにかする方法を考えるのも私たちへの課題よ!やってやろうじゃない三ノ輪教導!」
「夏凜、頭を冷やして」
____突然、芽吹が私の内腿をつまんでちねった。
「ひぃぃぃっ!」
「……私たちの浅はかな行動が計画を頓挫させてしまうかもしれないのよ?銀を信じて待つしかない」
「そうですか、そうですか。お利口さんよね相変わらず。私だって銀のことは信頼してるけど、だからって何も知らされないまま信じろって言われても納得できない」
「……じゃあ、直接聞いてみる?」
「…は?」
「銀に、直接」
____ある種の禁じ手を芽吹は提案した。銀に直接聞くという。
盲点じゃなかったけど、何かこれは負けた気がしてやりたくなかった。
「もうこれしか手段は残ってないと思うわよ?」
「……そうね。ある意味じゃ一番穏便な方法かもしれないし」
芽吹もそのつもりだったらしい。けど、今までやらなかったのはなぜだろうか。
まあいい。もう体裁なんて気にしてらんない。クレームの電話の一つでも入れてやろう。
「じゃ、電突よ」
〈はぁい♪マイハニー♪〉
「………………」
〈ん?あれ?夏凜?〉
「……そのふざけた声聞いたら無性に腹立ってきた」
何がマイハニーよ!こっちが悶々としてる時に!わざとじゃなくても殺意が沸くわ!
〈まあまあ、落ち着いて落ち着いて。にぼし食べて食べて〉
「あんたねぇ…!」
〈ごめんなさい二人の心中は察しておりますです〉
ようやく伝わったのか早口で謝りだした。このパターンも慣れてきたけど、さすがに今回はちょっと許せない。
「根掘り葉掘り聞かせてもらうわよ、国防仮面について」
〈あー。…はい、なんなりと〉
「まず、国防仮面は三ノ輪銀で間違いないわね?」
〈はい。鷲尾須美プロデュースの新感覚ゲリラ系ヒーロー国防仮面の中の人はあたしです〉
「須美様…」
横から聞いてた芽吹が何か喪失感のある顔をした。
銀が勇者としてアレだから、須美様に理想の勇者像を重ねていたのかしら。そして、実態は銀と同レベルの残念な人と知って打ち砕かれるまでが一連の流れ。
「…で?目的は?これも計画の一環なワケ?」
〈電話口じゃしゃべれない機密です〉
「は?」
〈傍受されたらマズイんです!百歩譲って国防仮面=三ノ輪銀ってのが露見するのはいいとしても、国防仮面がどうして現れるのかは知られちゃいけないんだよ! 〉
____やんごとなき事情があるのはわかった。銀がこうして必死で頼み込む時は、もう後がない時だからだ。
と言っても納得するつもりはない。そんな言い訳で落ち着けるほど私は人間できちゃいない。
「あっそ。それなら別に言わなくてもいいわ」
〈ほっ…よかった。納得して〉
「ないわよ。次国防仮面が現れる場所に行って、取っ捕まえてやる」
〈え!?〉
こんなビックリした銀は初めてだ。上手く出し抜いてやったわ。
「…電話で話せないならそうするしかないです。くれぐれも気を付けてくださいね、教導」
〈おおぅ…マジで…?〉
芽吹も乗ってきた。理屈さえ通っていれば芽吹は積極的に活動するって、最近わかってきた。
今銀がどんな顔してるか見てみたいわ。こんだけあいつの裏をかいてやったのも初めてだから、うろたえる様子を見て笑ってやりたい。
〈き、気を付けます、勇者様〉
「ええ、せいぜい善行に励んでるといいわ。その尻尾を掴まえて全部吐かせてやる」
「人の少ない道とか選んじゃダメですよ?襲ってくださいって言ってるものですからね?」
〈そ、それが誘導なのかそうじゃないのかわからないのが怖い…〉
縮こまった様子の銀。相当ビビってるらしい。
私は俄然やる気が沸いてきた。芽吹も早速情報を集め出してるし、本気で捕まえに行く気らしい。
「じゃあ、楽しみにしてなさいよ」
「必死で逃げる策を考えておくことですね」
〈うわぁ…悪の女幹部みたいだぁ…〉
「なによそれ。切るわよ」
〈はい。捕まってあんなことやこんなことされないように気をつけます〉
最後の一言が意味不明だったけど。これでモヤモヤを払拭する方法がわかった。
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「通信してたのはこの辺のはずだけど」
「まあ、いないわね」
銀のやつ、電話使ってた時だけステルスを解除してたらしい。芽吹がそれに気付いて位置情報のメモを取っていた。
早速そこへ自転車で出向いて、着いたのは徳島と香川の県境。すぐそこに愛媛も見えてくる山道。
まあ、もう移動してた訳で。けど、枝のない道だから進むか戻るかしか選択はない。
「香川に向かったか、徳島に戻ったか。何か情報ないかしら」
「…傾向から言って、折り返す動きはないわね。周回するような経路を取ってる」
「……あ、新しい発見情報。やっぱり香川の方に行ったか」
いくら神出鬼没とはいえ、出現場所はある程度パターン化してる。銀だって人だし、考え方に偏りがなきゃおかしい。
新しい現場は香川の方。____これ、丸亀の方じゃないの。
「…丸亀か。また挑発的なことをしてくれるわね」
「あの人のことだもの、きっと楽しんでるのよ。私たちとのゲームを」
「なるほどね、納得した。銀の性格ならそうね」
多分、待ち構えてる。けど、真正面から当たっても簡単に逃げられるのは百も承知。あいつの裏をかかないといけない。
どんな手を打つべきか考えつつ、私たちはペダルを漕ぎ出した。
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「はぁ、全く。芽吹のせいでまた無駄足じゃないのよ」
「どの口が言うのかしら。私はただ場所を確認しただけで、夏凜が現場に行きたいって言ったんじゃない」
「それがわかってて何で止めないのよ。参謀面して何の役にも立ってないって、自覚ある?」
「バカの手綱引くのも大変なのよ?私が意見したら反論してくるし熟考する時間も待てないから下策しか打てないのよ」
「…アレ、やばくない?夏凜ちゃんと芽吹ちゃんがケンカしちゃってるよ」
「うわっ、とうとう掴みかかっちゃったよ!?どうしようどうしよう!」
「噂じゃ二人とも無茶苦茶鍛えられてるらしいし、うちらじゃ手つけられないよぉ!」
「と、とりあえず先生呼ばなきゃ!」
____たぶん先生方もアンタッチャブルな案件よ、これは。
放課後の学校の校庭。部活動の生徒も多いここなら国防仮面の助けがいる人がいるかもしれないと思い、足を伸ばしたまではよかった。
けど、結局ギスギスしてた空気がとうとう引火して、私は芽吹の胸ぐらを掴んだ。対する芽吹ももう“その気”だ。
「いいご身分ね、ホント。その鼻っ柱へし折ってやる!」
「バカを治す方法ってないわよ。もしかしたら叩いたら治るかもしれないけど!」
「はわ、はわわわ…」
「ヤバいヤバい!どっちもヤバい!」
問答無用で罵倒と暴力をお互いに行使し合う。こうなればもう誰にも止められない。
そう、“同じ立場の人”じゃないと。
しばらく殺陣のように拳を交えていると、奴は現れた。
〈…ヤバいよ、あれはっ〉
「……あ、国防仮面!」
〈止めなきゃ…!〉
____来た。国防仮面。すごく切迫した顔して。
そりゃそうよ。間違いなくケンカの仲裁を周りから求められるし、そうすれば間違いなく自身を付け狙うハンターに捕まる。
それが芽吹の打ち出した策だ。
つまりこのケンカも誘き出すための狂言ってこと。国防仮面と私たちの立場を利用した、逃れようのない撒き餌。意地悪だとは思うけど、正直こうでもしないとあいつを捕らえられない。
〈…はーいお二人さん!暴力はダメですよー!〉
「あ?」
「何よいきなり」
〈うひょー怖い怖い…〉
軍服の変人が割り込んできた。____まだこっちがケンカの演技をしてるってのには気付いてないらしい。
芽吹とアイコンタクトをして、確保のタイミングを伺う。いつでもいける、そう目が言ってる。
〈どうしたのさ二人とも。ま、とりあえず場所変えようか〉
「……出番よ雷獣!蛟!」
「以津真天!目を塞いで!」
〈のわぁっ!〉
私たちの動きが警戒されるなら、私たちが動かなきゃいい。私たちには頼れるパートナーが三人もいるし。
まず雷獣が国防仮面にまとわりついて義手の自由を奪う。次いで蛟が襟から背中やお腹を這い回ってくすぐる。最後に以津真天が翼で顔を覆い隠せば、あのサイボーグでも身動きがとれない。
案の定のたうちまわって息も絶え絶えに。あとは拘束すれば完了。
〈ひゃぁぁぁやめてぇぇぇ〉
「…あー、何か発作起こしたみたいね」
「ひとまず安全な場所に移動させないと」
「そうね、丁度私たちの寮が近いし、連れてきましょ」
「ええ、夏凜。そっちの肩持って」
棒読みで最もらしい屁理屈を並べた。観衆がこれで収まるとは思えないけど、他に打つ手がない。
「マジか。とうとう国防仮面を捕まえた人間が現れたか。どんな手を使ったんだろ」
「それが勇者部の新入り二人なんてね。銀ちゃんも鼻が高いなぁ」
「てか、あの二人ガチ喧嘩してなかった?」
「…あれだよ。国防仮面を欺くための演技だったんだよ」
____あくまで見てるだけ、らしい。そっちの方がありがたいけど。私たちがアンタッチャブルなことしてるのはみんな知ってるから、きな臭い話になると何も追及してこなくなる。
何はともあれ、何とか銀を捕らえることができた。さて、吐かせてやろうじゃない。
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〈ひどいよ二人とも!あんな騙し方するなんて!回避しようがないじゃん!〉
「だから気を付けてと言ったんです。どこにどんな謀略が潜んでいるかわからないって」
「迂闊に私たちを挑発するから。あんたの出来心が敗因よ」
まず初めに国防仮面を簀巻きにして正座させた。これで私たちの気持ちと置かれた状況はわかってくれると思う。
少しやりすぎたとは思うけど、ここは心を鬼にして聞かなきゃいけないことを吐き出させないと。
「さて、敗北者にはそれらしいことしてやろうじゃない」
〈やめて!あたしに酷いことする気d〉
「まだ余裕があるようだし、手加減はいらないですね。さっさと話せば楽になりますよ?」
〈二人ってそんなSだったっけ!?〉
「いいからさっさと吐け」
〈ううっ、もはやボケさせてもくれない…〉
そりゃ、話が脱線して結局聞けなくなるし。芽吹は結構乗っかるけど、私はそうはいかないわよ。
〈…はい。白状します、国防仮面の秘密〉
「………………」
〈国防仮面っていうのは、神樹様に代わる救いのヒーローなんです〉
「…は?」
____聞く人に次第では、憤慨するようなことを言い出した。神樹様の代わりって、おこがましいにも程があるって。
「…“代わる”?どういう意味ですか?」
〈……もう300年だよ?神世紀が始まって。いくら神様っていったって、休みもせず人類に恵みを届けてたら力もなくなってくるよ〉
「……寿命、ってこと?」
〈うん、大体あってるよ。だから、人類は自分の足で立たなきゃいけない〉
なかなかショッキングな事実を突きつけてきたけど、今聞きたいのはそれじゃない。銀のどうにかする計画と国防仮面がどう繋がるのかって。
「…それと救いのヒーローが現れることが繋がらないのですが」
〈……そう、だよね〉
「…言いづらいことでもあんの?」
〈…まあ。勇者として絶対言っちゃいけないことだから〉
「………………」
〈…一回だけしか言わないから良く聞いて〉
〈神樹様が滅びることも前提なんだ。国防仮面っていう救いのヒーローがいないと、残された人類の心の支えがなくなっちゃうから〉
とんでもない爆弾発言に、私も芽吹もただただ驚愕するだけだった。
神樹様を守る、ではなく。滅んだ後どうするかを考える。この神世紀に生きる人間の誰が、そんな神をも畏れぬ異端な発想をするのか。
冗談でも言えない。言ってはいけない。そんなタブーを、銀は踏み越えようとしてる。
〈…それが、あたしが国防仮面になった理由。混乱は免れないけど、残された人類が少しでも前向きになれるように、あの人みたいに生きてみようと思えるように〉
「………………」
「……銀、あなたは……」
もうこれ以上何も言えない。聞けない。私たちが信じてきた常識を根底から覆すなんて、考えもしてなかったから。
銀についていくって覚悟は決めてたけど、まさか“勇者の任”まで否定する覚悟が必要だなんて。手に入れた何もかもが溶けて流れていくような気分だった。
鳴り止まない鼓動の連打に合わせるように、私たちの端末が声を上げた。
〈…なんか大事な話してるとバーテックスがやってくるよね。もしかして盗聴されてる?〉
「…銀、その」
〈今は目の前の任務に集中!勇者部、出撃だ!〉
「…ええ」
集中できる気がしないけど、やるしかない。ここでボロを出したら、銀の計画全てが水の泡だ。