シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

27 / 38
誰を恨めばいい、のかしら

 

 

 

〈ちょーっと待ったぁー!!〉

 

「へ?銀ちゃん!?戦ってたんじゃ!?」

 

〈どうしたのさ友奈!こんなところまで来て!〉

 

「…銀ちゃんのことが心配で……」

 

 

 

〈…うん、そうだよね。そこで危険な戦いをしてるってのに、心配しない方がおかしいよね〉

 

「そうだよ!今銀ちゃんがここにいるってことは、二人が!わたしも行く!」

 

 

 

〈待って待って。ちょっと確認させて。まず、勇者システムに友奈の反応があるってことは、防人の装備の他に勇者システムを持ってるってことだよね?〉

 

「え?あ、そういえば風先輩からもらったこれに勇者システムが入ってるんだっけ」

 

〈お忘れでしたか…。とりあえずここで止まってもらってよかった〉

 

 

 

「それならわたしも!」

 

〈ダメ。友奈は待ってて〉

 

「なんで!!」

 

〈…事情があるんだ。あたしと夏凜と芽吹だけでやらなきゃいけない理由が〉

 

「…銀ちゃん、また隠し事……」

 

〈…ごめん。今は待っててとしか言えない〉

 

 

 

「……心配だよ、銀ちゃんのこと…。戦いだけじゃなくて、いろんな隠し事して…」

 

〈………………〉

 

「…夏凜ちゃんや芽吹ちゃんにも言えないことも隠してるよね…?銀ちゃん、つらそうな顔してるよ…?」

 

〈……やめてよ〉

 

「悩んだら相談、だよ…?わたしや二人に言えなくても、風先輩に」

 

〈大丈夫だから。あたしは、大丈夫だから…〉

 

「……見てるだけでわたしも辛いよ…。銀ちゃんのそんな顔……」

 

〈……ごめん。ほんとに、ごめん、友奈〉

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「うあっ!」

 

「芽吹!大丈夫!?」

 

「…ええ、まだいけるわ。けどこの手数、銀のしごきを思い出すわね」

 

 

 

レオの火球、アクエリアスの水球、タウルスの音波、ライブラの風圧。実に巧みに使い分けてくる。夏凜と二人でフォローし合っても近づくことさえできずにダメージを蓄積していくだけ。

 

 

完全なジリ貧状態。銀が合流するのが先か、私たちが力尽きるのが先か。

 

 

それでも私たちは全力で相手の注意を引くことしかできない。____満開を使えば話は変わってくるかもしれないけど。

 

 

 

「…でも、正直打つ手無しよ。こっちの攻撃がまるで通ってない」

 

「無理やり封印するにも、まず近づけないし。…結局、銀頼みか」

 

「満開使えば?」

 

「はっ。そんなの絶対イヤよ。勇者免職な上に銀の召し使いにされる」

 

「それは死んでも御免ね!」

 

 

 

こうして減らず口を叩いてる間にもバーテックスの攻撃が迫ってきた。察知した瞬間に二人とも散開して、誘導する火球を振り払う。

 

 

____銀が満開の使用を強く禁じているのはわかったけど、____正直、それしか打つ手がない。

 

 

夏凜に負担を背負わせるくらいなら、私が____

 

 

 

「ちっ!何かやんないとこのまま押し切られるわよ!」

 

「わかってる!わかってるけど…!」

 

 

 

____力を解き放とうとする度に、銀のいろんな表情が脳裏をよぎる。嬉しそうに笑う顔、心を鬼にして怒る顔、悲しみがにじみ出した顔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____ダメだ。寸前でためらってしまう。銀が背負った想いを知ってしまったから、なおさら銀の気持ちに寄り添おうとしてしまう。

 

 

 

「芽吹っ!危ないっ!!」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反応が鈍った瞬間に、飛来した巨大な水球が私を包みこんだ。

 

 

 

「…がっ…うっ……」

 

 

 

抜け出そうと手で漕いでも手応えは全くないし、風圧で吹き飛ばそうにもまるで真ん中に重力があるようにすぐに水が集まってくる。

 

 

まずい。息ができない。溺れてしまう。

 

 

____ここで放たないと、最悪の結果になってしまう。

 

 

 

「私の相棒に、何してくれてんのよぉっっ!!!」

 

 

 

水にかき消されてよく聞き取れなかったけど、夏凜が叫んだと同時に水球が側方へ消し飛んだ。

 

 

水球に触れた石突きから凄まじい量の水が放出されたらしい。激流を征するは清流、逆もしかりというわけか。

 

 

 

「芽吹!生きてる!?」

 

「げほっ、げぅ…はぁ、残念ながら無傷よ。口の中が謎のソーダ味だけど」

 

「…前も似たような口叩いてたわね」

 

「…そうね。けど、今回は言っておくわ。ありがとう、夏凜」

 

「ふん。生きてんならこの状況なんとかしてやりましょうよ」

 

 

 

悠長に言い合ってる場合じゃない。相手の次の手を見て動かないと。

 

 

視線を上げた私と、振り返った夏凜は想像を絶するものを目の当たりにした。

 

 

 

「ちょっ!なんて大きさ!」

 

「ちっ、絶対に避けられない攻撃を準備させたか!」

 

 

 

レオの火球が何千と集まって、あたかも太陽を思わせる球体を形成していた。こんなものが起爆すれば、いくら距離を取ろうが巻き込まれてしまう。

 

 

幸い、他の能力を使う余力はないようだ。ここを防ぎきれば、あるいは。

 

 

 

「どうすんのよあんなの!」

 

「どうにかするのよ!夏凜!力を合わせて!」

 

「どうにかって!どうやって!」

 

「爆発の圧力は私の風圧で!熱は夏凜の水流で!防壁を作るのよ!」

 

「わ、わかったわよ!!」

 

 

 

一か八かだ。というより、これ以外のしのぐ手段なんて存在しない。遮蔽物に隠れたところでそれごと吹き飛ばされる。

 

 

背中合わせになって、石突きと銃口を天に向ける。放たれた空砲と水流がお互いに絡みあって嵐を呼ぶ。

 

 

 

「夏凜!!温存はいらない!!全力で放って!!」

 

「任せろぉぉぉっっ!!」

 

 

 

落ちてきた太陽と沸き立つ大嵐が接触する。

 

 

爆発の衝撃、放出された熱、水蒸気へと変わる水流、対流を起こす風、その混沌を伝う雷。私たちも何が起こっているのかはわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つわかったのは、私たちが意識を取り戻したということだ。

 

 

 

「……っあ、ぅ…」

 

「…ぐ…くっ…」

 

「……生きて、る…?夏凜…?」

 

「…おかげ、様で、ね…」

 

 

 

二人仲良く嵐の目の真ん中で倒れ込んでいた。打撲、裂傷、骨折、火傷、その他もろもろ付きで。

 

 

生き残っただけでも上出来か。精霊のバリアで軽減して辛うじて繋いだ。けど、もはや立ち上がれない。

 

 

 

「やつ…は…?」

 

「………………」

 

 

 

あの混沌の中でバーテックスも無事では済まないだろうと思ってたけど、相手は早くも傷を再生させてる。

 

 

 

 

 

 

____それを見た瞬間に、敗北を悟った。

 

 

 

「……ごめん、なさい…銀。あんまり、役に立て…なかった……」

 

「な、に…言ってんの、よ…。……いや、…その通り、か……」

 

 

 

バーテックスは私たちにとどめを刺すのか、神樹様に向かうのか。

 

 

私たちには、どうすることもできない。

 

 

袖に隠してた、友奈からもらったシロツメクサの押し花を見つめる。ただ銀と彼女の無事を祈って。

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

〈…!夏凜!芽吹!〉

 

「銀ちゃん!やっぱりわたしも!二人がっ!」

 

〈お願いだからそこで待っててよ友奈!!あたしがやんなきゃいけないんだ!〉

 

「そしたら銀ちゃんが!銀ちゃんが!」

 

〈だけどっ!〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈あたしが二人と離れたから!友奈が待ってくれないから!!〉

 

「!!!」

 

〈…あっ……〉

 

 

 

 

 

 

 

「……そ、…そう、だよ……ね……」

 

〈……ご…ごめん…〉

 

「……わたし、も…」

 

〈……くそっ!〉

 

「あっ…銀ちゃん…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈初めからそうすればよかった。友奈から勇者システムを没収すればよかったんだよ〉

 

「銀ちゃん…?」

 

〈これで文句ないよね?須美?園子?〉

 

「何、言ってるの…?」

 

〈…あとはあたしの好きにやらせてもらうから〉

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

再生を済ませたバーテックスがとうとう私たちの所へ動き始めた。当然、私たちの回復は間に合っていない。

 

 

 

「……こんな、ところで…終わり、とはね……」

 

「……ええ。……誰を恨めばいい、のかしら、ね…?」

 

「……わかん、ない」

 

「…そう…。それで、いい…わ」

 

 

 

脳内を忙しく走馬灯が走るけど、不思議と暗い気持ちにはならなかった。三人で過ごした、あっという間の、人生で初めて色の付いた思い出が流れるだけ。

 

 

強いて言えば、この後銀がどうなるのかが心配、ということだけ。怒りに我を忘れて暴威となるのか、悲しみで塞ぎ込んでしまうのか。

 

 

____どちらにせよ、もう手遅れか。

 

 

 

「…約束、守れなかった、わね……」

 

「満開は…使わなかった、わ」

 

「…銀を置いていなくならない、って…」

 

「……それは閻魔様のところ、で懺悔しましょ…」

 

 

 

____ごめんなさい、銀。私が力不足だったばかりに、あなたにまた同じ悲しみを____

 

 

 

〈閻魔様をお呼びかな?〉

 

「…え…?」

 

「…銀…来てくれたんですね……」

 

〈遅くなってごめんな。けど、まだ地獄行きの切符は渡してやれないなぁ〉

 

 

 

赤い勇者が、私たちのすぐ上に漂っていた。幻覚だろうか、なぜか神々しく見える。

 

 

 

〈もう二度と犠牲を出させないって決めたんだ。二人に死なれちゃ困る〉

 

「……え…?」

 

「な…何をやってる、んですかっ…銀…!」

 

 

 

銀は自分の義手を生身の手で掴んで____無理矢理引きちぎった。

 

 

接合部から血が飛散して、夏凜に赤い模様を描いた。手に持ってた押し花のお守りも赤く穢される。ガシャっと音を鳴らして落ちた義手に紫電が走る。

 

 

 

〈…地獄に行くのはお前らだ、つけあがったイカレども〉

 

 

 

次に義眼を掴んで、思い切り引き抜いた。血飛沫が私の頬に斑点を描く。友奈の祈りを踏みにじるように、赤い染みがお守りを穢す。

 

 

投げ捨てられた義眼が私のそばで赤く点滅した。まるで、何かを警告するように。

 

 

 

〈その前に一つ、教育してやるよ。人間様の魂ってやつを〉

 

 

 

 

 

 

〈ペイバックだ、_ _ _ 〉

 

 

 

聞き取れなかった言葉を最後に、鈍い鉛色の障気が樹海を覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

鉛色の霧のせいで何が起こっているのかわからない。戦闘してる音がするから、銀がバーテックスと戦っているんだろうけど____

 

 

不気味に響く音の中で、私たちの身体が急激に治癒してしくのがわかった。上体を起こして相棒の容態を確認する。

 

 

 

「夏凜、動ける?」

 

「ええ、なんとか。でも、こんなに再生が早いわけないし」

 

「……銀の血の影響、かしら」

 

 

 

いつの間にか血糊は消えていた。それと全身の傷と痛みも。

 

 

これが銀の血の影響じゃなければ説明がつかない。

 

 

____だけど、押し花だけはドス黒く変色していく。

 

 

 

「…でもなんなのよこの霧は。いきなり現れて」

 

「……私たちのところだけ妙に薄いわ。この霧も銀がコントロールしてるっていうの…?」

 

「…あいつ、義手も義眼も投げ捨てたのよ?戦えるわけが…」

 

「……!!!」

 

 

 

地面に転げていた義眼を見て、重大な事実を思い出した。

 

 

 

 

 

 

このパーツたちは、どこかで生かされている須美様や園子様と繋がっていた。今、銀はそれをつけていない。

 

 

 

____銀の本性を押し留めていたものが、なくなってしまったんだ。つまり今戦っているのは。

 

 

 

「夏凜!!銀が!!銀が暴走してる!!」

 

「えっ…!?」

 

「ここに須美様と園子様がいるのよ!!銀は今一人きり!!ストッパーが全部外れてる!!」

 

「や、ヤバいって!!なんとかしないと!!」

 

 

 

回復したての身体に無茶させて、鉛色の世界へと飛び込んだ。放り投げられた義眼を手に。夏凜は義手を抱えて。

 

 

入ったと同時に、むせ返るほどの濃度のガスが呼吸器を襲う。まともに息を吸えばやられる。

 

 

 

「ぐっ…!」

 

「夏凜…!しゃべったらダメ…!」

 

 

 

何のガスかはわからないけど、有害なものだっていうのは確定的だ。カプリコーンバーテックスの毒霧すら凌駕する有毒性を示してる。

 

 

勇者システムが浄化しているけど、全然追い付かない。口元を塞いでひたすら音源の方へ足を進める。

 

 

ふと、レーダーを覗くと友奈の反応と銀の反応が同じ場所にある。何がどうなってるかわからないし、知る術もない。この目で確認するまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二つの反応に接近するほど、銀の声らしき音が聞こえてくる。

 

 

 

〈あははははっ!いいザマ!意気揚々と攻め込んでおいてこんな惨めな姿で終わるってさぁ!〉

 

 

 

響いた声からは、狂気しか感じられない。戯れに笑うあの優しい銀のものじゃない。

 

 

 

 

 

 

____霧の向こうにようやく見えた真実は、壁の外以上の地獄だった。

 

 

 

〈もう少し眺めててもよかったけど、お客さんが来ちゃったからね。人間が残した地獄でゆっくり悶えてね〉

 

 

 

巨大なバーテックスを喰らう、いくつもの巨大な鉛色の蛇の頭。噛まれた縁から溶け出して、そこからバラバラに分解されて、された端から飲み込まれて。

 

 

どんな罪を犯せばこんな惨いことをされるのか____

 

 

 

〈やあ、勇者諸君。ショーは楽しんでくれたかな?〉

 

「なっ…何よこれ…!?あんたの…真の力だって言うの…?」

 

 

 

霧の向こうから、シュルシュルと音がする。そして姿が見えてくる。

 

 

銀だ。____蛇の胴と失った腕が繋がった。赤い装衣にも鱗のように鉛色の紋が走って、まるで魔物のようだった。

 

 

 

〈まさか。こんなのお遊びだよ〉

 

「え…」

 

〈あたしの大切な人を傷付けたやつを晒し首にするなんて。ホントなら一瞬で毒殺だよ?〉

 

 

 

ポッカリ空いた眼孔から底知れない闇がこちらを覗いている。それに合わせて表情も狂気で満たされていた。

 

 

明らかにいつもの銀じゃない。暴走、って感じには見えないけど、とてつもなく危険だというのがひしひしと伝わる。

 

 

 

〈さあ、二人とも。一緒に見届けてよ。この世界が終わるのを〉

 

「……え?」

 

〈二人が一緒ならもう何もいらない。須美も園子も必死で止めてたけど、もうあたしは我慢できない〉

 

「ま…待ってください、銀…!」

 

 

 

 

 

 

〈大切な人をあたしの前から消し去った天の神も、大切な人をいいだけ利用した大赦も、大切な人を守ろうともしない人間も、大切な人を供物に生き長らえる神樹も。あたしが全部終わらせてやる〉

 

 

 

銀が言葉を終えたと同時に、大蛇はバーテックスを全て飲み干した。その後に霧となって消えて、失った右腕に収束していく。

 

 

 

〈…二人に出会えて、ホントによかった〉

 

 

 

銀の霧の手が樹海の大地に放出されて、樹海は腐って崩壊していった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。