シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

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結城友奈の章
それでもわたしは戦いたくない


 

 

『四国の皆さん、はじめまして。当代勇者の三好夏凜です』

 

『いきなりこのような形で会見することになって、皆さんも驚いていると思います。私も決して正しい方法だと思っていません』

 

『ですが、皆さんに知ってもらわなければならないことがあります。どうか、お聞き入れください』

 

 

 

突然テレビの放送が切り替わって、行方をくらましたはずの夏凜ちゃんが声高らかに会見を始めた。

 

一緒に食堂にいた“防人”のみんなも、かつての勇者の会見に視線を集めた。

 

 

 

______ただ一人を除いて。

 

 

 

「芽吹…見ないの?」

 

「…裏切り者の戯言に耳を貸す必要はないです。忘れましたか?あの日のこと」

 

 

 

一切視線を乱さずにうどんをすするのは______

 

 

 

“あの事件”の後、半壊した防人隊を立て直すために“教導”として赴任した、もう一人の勇者“乃木芽吹”ちゃん。かけがえのない相棒が姿を表したのに、恨み言を吐いて眉をひそめた。

 

そのひどく苛ついた様子を見て、声をかけた風先輩も言葉を続けられなかったみたいだ。

 

 

 

「…樹ちゃんを大ケガさせたのは誰ですか?友奈にあんな心の傷を負わせたのは誰ですか?…紛れもない、あの裏切り者です」

 

「それは…」

 

 

 

芽吹ちゃんは淡々と言い放つ。夏凜ちゃんはもう敵でしかないと突き放すように。

 

右眼につけていた義眼が不意にわたし______結城友奈の方を向いた。

 

銀ちゃんがつけていたあの義眼。だけど、銀ちゃんみたいな優しさは感じない。

 

 

 

『…私を勇者として育てた勇者、私の大切な親友…三ノ輪銀は大赦に殺されました。…いえ、大赦の束縛から解放されるために人の身を捨て霧の広がる外の世界へ漕ぎ出しました』

 

 

 

夏凜ちゃんの後ろのモニターには、樹海でバーテックスと戦う銀ちゃんの映像が流れていた。どうやって撮ったかもわからないけど、今まで世の中に出回るはずのなかった光景が国民みんなの目に入った。

 

 

 

『外の世界には疫病ではなくて…見ていただいた通り人類を滅ぼす神の尖兵が蔓延っています。銀はいつ終わるともわからないそれらとの戦いに身を投じて、それでも笑顔でお別れを告げていきました』

 

『…私の右腕が見えますか?これは…銀が使用していたものです。勇者とは、身体中を大赦に改造され、誰にも称賛されないお役目を果たし、最後には用済みの烙印を捺されて放り出される機械仕掛けの化け物。…それが、勇者なんです』

 

 

 

『……私は認めません。銀も、私も、人間です。勇者である前に、人間です。人間であることを示さないで、人間を愛した神樹様に報いることができますか?』

 

『大赦は人の子を人間として扱うことを否定しました。私の親友も…先代勇者の園子様も須美様も…大赦に見殺しにされたんです』

 

 

 

『……私は決めました。人間のあるべき姿を取り戻します。真実をねじ曲げて人間の真理に背いた大赦を粛清し、神の尖兵を打ち払います。本当の意味での自由を勝ち取ります』

 

『無論、私一人でできることではありません。国民の皆さん一人ひとりが立ち上がらなければ、成し得ることではありません』

 

 

 

『私たちの手で、脅威を取り除きましょう。300年前に奪われた人間の当たり前を取り戻しましょう』

 

『かつての日本国のように、自由を保証してくれる王が私の背中を押してくれました』

 

『どうか、皆さんも“天子”の下へおいでください。…皆さんの、力を貸してください』

 

 

 

一礼をして夏凜ちゃんは壇上から身を引いた。その後、夏凜ちゃんが天子と呼んだ人が上がる。

 

ヴェールみたいな幕が被り物から下がっていて、その顔は見えない。背は小柄な夏凜ちゃんより低くて、子供みたいに見える。

 

すぅ、と大げさに肩で息を吸ってから天子は語り始めた。

 

 

 

『はじめまして、当代勇者三好夏凜よりご紹介預かりました、大和の末裔にございます』

 

『この国の行く末を憂い行動を起こした志士が、わたくしの元に集いました。人のあるべき姿を取り戻そうという、その思いに…わたくしも同調する所存でございます』

 

『信仰は必ず己の中にあります。大赦にも、神樹様にもありません。人間として、何が正しいかを自分で考えて決断してください』

 

『もちろん、これまで通り大赦の教義の通りにするのも答えの一つです。それも信仰の形ですから。我々と道を違うことになっても自分を貫き通してください。自分を曲げてしまうのは神樹様も望んでいません』

 

『少しでも大赦の教義に疑問を持ったのなら…わたくし共“浪士”の下へお越しください。勇者三好夏凜が必ず明日への道を切り拓きます』

 

 

 

テレビの向こうから拍手が聞こえる。テレビ局の収録現場にいた人たちが、二人の言葉に感動したのかもしれない。

 

 

 

「……手の込んだプロパガンダね。誰の入れ知恵かしら。テレビ局を占拠して電波ジャックするなんて」

 

「芽吹…あんた…」

 

「やってることはテロリストと何ら変わりないわ。だいたい、天皇家の血筋はとうの昔の途絶えたのよ。あれは皇帝を騙る賊臣に過ぎない」

 

「…乃木教導の言うとおりですわ。ああいった輩を粛清することこそ、弥勒家の______鏑矢のお役目なのですわ」

 

「そうよ弥勒さん。これは鏑矢の______勇者のお役目。あなた達は防人として招集されたけど、私と行動を共にする時点で勇者よ。…今度は失敗したりしない。私が共にいるのだから」

 

 

 

芽吹ちゃんの力強い言葉に、防人のみんなから歓声が上がった。

 

夏凜ちゃんに唯一対抗できる勇者が、勇者になれなかった人たちを勇者と呼んだんだ。大赦の最高戦力になった芽吹ちゃんが味方なら、負ける気がしなくなるのもわかる。

 

 

 

______でも私は、乗り気になれなかった。

 

 

 

「夏凜ちゃんと戦うことに、抵抗はないの…?」

 

「…別に。任務の障害になるのなら単なる敵よ」

 

「…本気なの…?芽吹ちゃん…」

 

「戦うことを望んだのはあいつよ。自分の信条を信じて私たちの前に立ちはだかるのだから、否定する権利はあなたにも私にもない。お望み通りに殴りあって、決着をつけるだけ」

 

「…怖いよ…。夏凜ちゃんも芽吹ちゃんも…。どうして友達同士で戦うのがイヤじゃないの…?」

 

「…結城。乃木はそういう立場にいるから…教導としてわたし達を引っ張っていかないといけないから」

 

「しずくちゃん…」

 

 

 

芽吹ちゃんが強情を張ってるだけなら、大きなわだかまりもないのに。

 

 

 

乃木家へ養子に入って、大赦の中で権力を持って、公人として振る舞う。今の芽吹ちゃんは、しがらみに囚われて自分の気持ちを吐き出せないってことなの…?

 

わたしの肩に手を置いて首を振るしずくちゃん。芽吹ちゃんはなぜかその様子をじっと見つめていた。

 

 

 

「じきに上から指令が出ると思うわ。各自任務に備えて待機」

 

「「「了解!」」」

 

 

 

この話は終わりって言うように芽吹ちゃんは号令を出した。うどんのつゆを一気に飲み干して食器を片付けた芽吹ちゃんは、何食わぬ顔で食堂を出ていった。

 

 

 

「…なんであんなに平気な顔してるのよ…芽吹は…」

 

「…風先輩も、おかしいと思いますか…?」

 

「そりゃ…そうでしょ。あんだけ打ち解けあってた芽吹と夏凜が…どうして立場を変えて争うことになっても平静でいられるのよ」

 

「そう、ですよね…。わからなくなっちゃいました…芽吹ちゃんのこと」

 

 

 

風先輩も違和感を感じてるみたいだった。

 

樹ちゃんに刃を向けてケガさせたのは間違いなく夏凜ちゃんだし、また敵対するってことになったら芽吹ちゃんは間違いなく怒ると思ったのに______

 

 

 

 

その出来事を思い出すと、今でもわたしは胸が痛くなる。

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「敵襲!!敵襲!!みんな起きろぉ!!」

 

 

 

大雨が降る夜中のゴールドタワーに、風先輩の叫び声が響く。あの日の戦いはそれが開始のゴングだった。

 

 

 

その日は銀ちゃんがいなくなってちょうど一ヶ月経った日。

 

わたし達防人隊は各地で現れた大赦の離反者“浪士”が起こすテロ事件の対応に追われていた。その日も一件事件を制圧してタワーで休んでたんだけど______

 

 

 

つかの間の平和は、突然打ち破られた。

 

 

 

「風先輩!敵襲ってどういうことですか!?」

 

「わかんないわよ!ただ何者かがタワーの警備を破って侵入したって情報が!!」

 

「何者かって何者なんですかぁ風先輩ぃ!まさかバーテックスがこんなとこまで!?イヤだイヤだ袋のネズミじゃ〜ん!!」

 

 

 

風先輩の号令にも負けず劣らず絶叫するのは加賀城雀ちゃん。袋のネズミっていう今の状況を正しく掴んでるみたいだし、まだ余裕があるみたい。

 

 

 

「うるせぇ雀!テメェなら窓から飛び降りても平気だろうが!」

 

「雀ってのは名前だけなのぉ!てか敵がどんなのかわかんないのに外に一人でなんて自殺と変わんないよぉ!」

 

「まずは敵勢力の把握ですわね。犬吠埼隊長、わたくし弥勒夕海子が偵察に参りますわ!」

 

 

 

慌てはじめた雀ちゃんを一喝したのは山伏シズクちゃん。最初からしずくちゃんじゃなくてシズクちゃんが出てくるってことは相当危機が迫ってるのかも。

 

逆に勇み足になってるのは弥勒夕海子先輩。あの夏凜ちゃんと芽吹ちゃんと勇者の座を争ったって話だけど、少し空回り気味。

 

 

 

「一番危険な任務って意味になるけど任せていい?」

 

「どんとこいですわ!ようやく弥勒の名に恥じぬ功績をあげられるというもの!」

 

「友奈、弥勒と一緒に行ってくれる!?ここは二人一組で行動するわよ!」

 

「りょっ、了解です風先輩!」

 

「よろしくお願いいたしますわ結城さん!」

 

 

 

風先輩は冷静に状況を判断して役割を決めた。敵がどこにいるのか、何が向かってきてるのかをわたしと弥勒先輩で調べてこいって。やっぱり風先輩は頼りになる。

 

弥勒先輩は気合い十分。早速防人の装備を起動して居住区を飛び出した。わたしもはぐれないように急いであとを追う。

 

 

 

「雀、樹、二人は亜耶の護衛に向かって!戦えない亜耶を一人にはできないわ!」

 

「ええーっ!!風先輩っ私を守ってくれないんですかぁ!?」

 

「あたしの側にいるより最後列の亜耶の所の方が安全だと思うけど?」

 

「謹んで承ります」

 

「あはは。雀さんは相変わらずだなぁ」

 

 

 

「各班はエレベーターと階段を封鎖して!あたしとシズクで下層を回って遊撃するわ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

「どうして外からロープで降りるんですか弥勒先輩?」

 

「階段やエレベーターみたいな狭いところで鉢合わせするのは良くないですわ。わたくし達の任務はあくまで偵察。相手に気付かれるのはなるべく避けるべきですわ」

 

 

 

タワーの外壁からロープを伝って下る弥勒先輩とわたし。かなり息巻いてたから正面から行くものと思ってたけど、意外に手堅い作戦を取ってる。

 

窓から中の様子をのぞいても動くものは見えない。確認しては別のところを探すの繰り返し。難しいかくれんぼになりそう。

 

 

 

「足音の一つでも立てればよいものを…。敵は忍者か何かですの?」

 

「この雨の中じゃさすがに聞こえないと思いますよ弥勒先輩」

 

「全く鬱陶しいですわ!もうこうなれば突入して後ろから追い回してやりますわ!」

 

「先輩先輩!さっきと言ってることが逆です!」

 

 

 

窓を蹴破って突入しようとする弥勒先輩を慌てて止める。ホントは成果を挙げたくてしょうがないのをなんとかこらえてたみたい。

 

止めないでくださいまし!と暴れる弥勒先輩をなんとか抑えてると、窓の内側に動くものが見えた。

 

暗闇に溶ける人影が一つ。非常灯に照らされた一瞬を見れてラッキー!

 

 

 

「見えました弥勒先輩!非常階段を昇る人影有りです!今のところ一人みたいです!」

 

「でかしましたわ結城さん!…隊長!こちら偵察班!六階非常階段に人影有り!数はイチ!」

 

『了解よ弥勒!引き続き偵察を続けて!一人じゃないかもしれないから!』

 

「了解ですわ!」

 

「…はい!続いて階段を昇ってる人がいます!三人います!」

 

『結構多いわね…!了解よ友奈。アタシとシズクが非常階段を抑えるから、二人は一番下から敵がいないか確認して!』

 

「了解です!」

 

 

 

風先輩があわただしく指示を出す。リーダーシップがあるから、ここでもリーダーを任せられる風先輩。勇者部部長の肩書はダテじゃない。

 

指示に従って地面まで降りてきた。外に人影は見当たらない。

 

 

 

「結城さん、よく見つけられましたわね。あの真っ暗の中」

 

「目の良さには自信がありますよ。ほら、エントランスに何かマントをつけた人が二人」

 

「…敵ですわ!後詰めが残っていますわ!」

 

 

 

弥勒先輩の絶叫であっちも気付いたみたいだ。外にいるわたし達の方を見てビックリして、その後詰め寄ってくる。

 

でも、ビックリしたのはあっちだけじゃなかった。

 

 

 

「えっ…あれって…国防仮面!?」

 

「国防仮面?…ほ、本当に国防仮面ですわ!」

 

 

 

国防仮面。

 

 

 

つい最近まで銀ちゃんが変装して世のために善行をしていた“救いのヒーロー”。

 

制帽に軍服、目元だけを隠すマスクに短めのマント。年もわたし達と同じくらいで、まさに国防仮面の特徴と一致してる。

 

 

 

銀ちゃん___正確には鷲尾さんだけど___が流行らせたかったって言ってたし、本当にマネする人まで出て来たんだ。

 

 

 

「何者だ!」

 

「それはこちらのセリフでしてよ。夜襲なんてとんだ匪賊のやり方ですわね」

 

「防人の連中か!どこから来た!」

 

「壁からちょちょいとね。国防仮面さんはなにしに来たの?」

 

「国防仮面ではない!我ら“国士”は皇国の臣民!権威を恣にする大赦を粛清し、臣民の主権を取り戻す者だ!」

 

 

 

こうこく?しんみん?よくわからないなぁ。

 

弥勒先輩ならわかるかな?

 

 

 

「えっと、どういうことだろ?」

 

「結城さん、要するに大赦の敵ということですわ」

 

「えっ…敵なの…?」

 

「…そんな捨てられた子犬みたいな目でこっちを見るなぁ!」

 

「この子やりづらいわ…」

 

 

 

国防仮面さんの一人がこめかみに指を当てて首を振った。やりづらいってどういうことだろ?

 

ある意味スキだらけの国防仮面さん。それを弥勒先輩は見逃さなかった。

 

ワイヤーでつながれた銃剣の切っ先が何枚にも分離して、やりづらいって言った一人に巻き付く。

 

 

 

「捕りましたわ!」

 

「なっ!奇襲とは卑怯な!」

 

「まだ話してる最中なのに…」

 

「大人しくお縄についてもらいましょうか国士さん」

 

「なめるなよ国賊!」

 

 

 

言葉遣いが難しい方の国防仮面が銃剣のワイヤーを掴むと、怪力のままに引きちぎった。とても人間業とは思えない。

 

もしかして、この人たちも“勇者の力”を持ってるのかな?浪士たちの仲間なのかな?

 

 

 

「えっ、なんですのそのバカ力は!」

 

「これが未来を見据える臣民の力だぁ!」

 

「!!弥勒先輩!!」

 

 

 

国防仮面さんはそのまま踏み出して一瞬ひるんだ弥勒先輩に拳を振りかぶる。

 

 

 

ほとんど反射的に身体が動いた。背負ってた防盾を構えて国防仮面さんに突っ込む。

 

拳と盾が大きな音を立ててぶつかった。

 

 

 

「ぬっ…!」

 

「うわっ!」

 

 

 

お互いに衝撃で後ずさりする。バランスを崩して尻もちつきそうなところを弥勒先輩が抱きとめてくれた。

 

 

 

「結城さん、大丈夫ですの!?」

 

「はい、ありがとうございます弥勒先輩!」

 

「よく訓練されているようね。乗り込んで正解かも」

 

「ここで叩けば大赦を守る盾はなくなるのだからな!」

 

「待って待って!もう少しお話を聞かせてよ!もしかしたら戦わないでもいいかもしれないしっ!」

 

「…何を言い出すかと思えば。防人が平和ボケしてどうするのよ」

 

 

 

クールな方がため息混じりに言った。

 

あっちの人たちは大赦が許せないって人の集まりかもしれないけど、この世界を守りたいって気持ちはわたし達と一緒のはず。

 

だから、戦う理由なんてどこにもない。

 

 

 

「…大赦は売国奴よ。神樹様の力が弱まった今、奴らはあろうことか生け贄を用意して天の神に赦しを乞う儀式を計画していた」

 

「えっ…生け贄…?」

 

「…私の親友がそうだった。そんな理不尽な理由で私たちの日常は破壊されたんだ」

 

 

 

衝撃のカミングアウトで、わたしは完全にフリーズしてしまった。

 

生け贄って______

 

 

 

 

 

 

______わたしの親友も、同じようなことになった。

 

 

 

「…次の生け贄になりたくないのなら、あなた達もさっさと大赦を抜けなさい。浪士たちはいつでも受け入れてくれるわ」

 

「ご忠告痛み入りますわ。でもそのようなあからさまな離間の計、見え見えでしてよ!」

 

「弥勒先輩!?」

 

 

 

わたしが背中にかけてた銃剣を弥勒先輩が引き抜いて、すぐに銃弾で反撃した。

 

クールな方はあまり戦うのが得意じゃないみたいだった。弾を避けきれずに肩を撃ち抜かれた。

 

 

 

「ぐっ…」

 

「少しは人の話を聞け表六玉がぁ!」

 

「この弥勒夕海子、信じるものはもう決まってますの。他人の話を鵜呑みにして信念を曲げることは致しませんわ」

 

「弥勒…!?…貴様、大赦の!」

 

 

 

大赦に名を連ねる名門という話は本当だったらしい。言葉遣いの難しい方は弥勒先輩にしか向いてない。大赦への恨みも本気みたいだ。

 

 

 

拳法みたいな技で弥勒先輩に向かっていく。対する弥勒先輩は、落ち着いて銃剣を槍みたいに使って距離を詰めさせない。

 

 

 

「だっ…大丈夫…?」

 

 

 

______それでもわたしは戦いたくない。

 

弥勒先輩が戦っていても、任務にそむくことになっても、こんなことは間違ってるから。銀ちゃんが守りたかった世界はこんなものじゃない。

 

 

 

肩を押さえてうずくまる国防仮面さんに寄り添って、容態を確認する。戦えるほど元気は残ってないみたいだ。

 

 

 

「…あなたみたいな純真な人がどうして防人なんかやってるのよ…。使い捨ての兵士にされるのに…」

 

「…わたしの親友が守ってくれた世界を、わたしは守りたいから」

 

「あなたの親友も、生け贄にされたのね…」

 

 

 

誰になんと言われても、わたしはこの人とは戦わない。無事な方の肩を担いでエレベーターの方に向かう。

 

 

 

「応急処置しないとね。道具は上かな」

 

「…捕虜にする気?」

 

「結城さん!頼みましたわ!」

 

「させるかぁ!」

 

「わたくしを抜けると思って?」

 

「くそぉ!どけ大赦の犬がぁ!」

 

 

 

言葉の難しい方がすごい速さで駆け寄ってくるけど、弥勒先輩の銃剣のワイヤーが脚にからまってつんのめる。すぐに弥勒先輩が詰め寄ってきて、また近距離での差し合いを演じる。

 

 

 

「捕まえるつもりなんてないよ」

 

「あなたはそういうつもりかもしれないけど、上はそう思ってないわ」

 

「大丈夫だよ。わたしがなんとかするから」

 

「なんとかって…。…ホント、あなたは何なの?」

 

 

 

そう言ってもクールな方は抵抗してこない。半分あきめたような声をあげて、それっきり下を向いたままだった。

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「ちっ、コイツら“オレ達”と同じような能力を持ってんぞ!」

 

「とうとうあっちも“勇者の力”を使いだしたっていうの…!」

 

「そうみてぇだなぁ隊長!大赦の離反者が相手だっていうんなら、不思議ってわけでもねぇか!」

 

「でも全然戦う気が感じられないっていうか…撒かれてるっていうか」

 

「エレベーターは押さえてるし、階段はここしかねぇのに、何やってんだ?少しちょっかい出してすぐに逃げるって」

 

「さぁね。相手に聞いてみないとわかんないわよシズク」

 

「あんまりいい予感はしねぇがな…」

 

 

 

『隊長ぉ!伝令!隊長ぉ!』

 

「どうしたの雀、騒がしくして」

 

『うえうえうえからゆゆゆゆ勇者ががが』

 

「は?“勇者”?」

 

『か、夏凜さんがっ!夏凜さんが!!』

 

「樹!?夏凜がどうしたのよ!?」

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「…私の一撃を防いだのはあんたが初めてよ」

 

「わっ…わわわ…」

 

 

 

紫電が防盾を穿つ。さっきまでの連中は盾ごと吹き飛ばされてたのに、この防人はなかなか根性があるようね。

 

 

 

「夏凜さんっ…どうしてっ…」

 

「久しぶりね、樹。…でも、立ち塞がるなら容赦はしないわ」

 

 

 

______三好夏凜は、大赦の離反者たちと志を共にする勇者となった。

 

そう、私は大赦を裏切ったんだ。

 

 

 

浪士たちが作り上げた擬似勇者システム“国士”の初運用。その任務は防人と巫女の確保。彼女たちには防人たちの陽動に当たってもらってる。

 

ゴールドタワーの上層。神樹の祠がある部屋の前には二人の大赦の尖兵…防人が守護にあたっていた。その一人は私も知った顔だ。

 

 

 

「どどどどうやってタワーの上に来たんですかぁ!?」

 

「勇者の力を舐めないでもらえるかしら。外から昇れない理由なんてないのよ」

 

「ど、どうしてわたし達に攻撃してくるんですか…!?」

 

「樹が知る必要はないわ。死にたくなかったらそこをどいて」

 

 

 

今にも腰が抜けて道を明け渡そうとする盾の防人。能力の割に卑屈な性格というか。こういうやつが長生きするっていうけど、少し気に入らない。

 

 

 

逆に樹は一歩も退く様子はない。決して気が強いわけでもないのに、使命のために自分を奮い立たせてる。

 

 

 

「と、止まってください夏凜さん!」

 

「私は本気よ。手加減なんて一切しないから」

 

 

 

盾を構えて扉を塞ぐ樹。なかなか覚悟を決めた顔をしてる。風のやつが見たら何て言うでしょうね。

 

でも、私には関係ない。風がこの後どんな顔をして私に向かってくるかなんて、私は気にしない。

 

 

 

戟の杭を盾の裏に引っ掛けて無理矢理樹から剥がした。

 

それなりの力で盾を支えてたみたいだけど、真の勇者の力と銀の義手の前ではベニヤ板を剥がすみたいなもんだし。

 

 

 

「あっ…!」

 

「風に言っておかないとね。樹がお利口さんじゃなくなったって」

 

 

 

戟を大きく振りかぶる。いくら防人の装備があっても、避けなければ間違いなく深手を負うのは樹だってわかってるはずだ。

 

それでも、立ち塞がる。両手を広げて仁王立ち。でも、まぶたを閉じて視線を切ってる。

 

 

 

______怖いんじゃない。それでもこの奥にいる巫女を守りたいってか。

 

 

 

「…その強情さは風譲りかしら」

 

「…っ!」

 

「…あんたもこっち側だったらよかったのに」

 

 

 

少しだけ本音をもらしてから、戟を振り下ろした。

 

 

 

______けど、振り抜くことはできなかった。

 

 

 

「うわわわ…!ヤバい威力ぅ…!」

 

「受け止めた…?いい反応するわね、あんた」

 

 

 

もう一人の防人が柄の部分を盾で受け止めた。ギリギリと音を鳴らして障壁と盾が潰れるけど、紙一重で抑え続ける。

 

 

 

「い、樹ちゃんっ、逃げて!」

 

「雀さん!?な、なんで!?」

 

「わ、私もすぐ逃げるからっ、亜耶ちゃん連れて逃げてぇ!」

 

「わわ、わかりました!」

 

 

 

この子の指示で樹は奥の部屋へ駆け出した。

 

頼りないと思ってたけど、______この子、見どころがあるわ。

 

だから、力には力で向き合わなきゃいけない。

 

 

 

「へぇ、カッコいいじゃない?先輩?」

 

「お、お褒めいただきありがとうございます勇者様…」

 

「だから、少し本気を見せてあげるわ!」

 

 

 

柄を押さえるのは上策と言ってもいい。刃に触れれば盾ごと真っ二つだから。

 

 

 

ただ、私の手の内を知らないから次の攻撃は対応できない。

 

戟についた三日月型の刃が飛んで、障壁を突き破った。勢いはそのまま、防人の肩の腱を切断する。直後に防御は崩れて槍先が胴に入る。

 

 

 

「ぎぃ…ぅ」

 

「剛毅なのは結構だけど、立ち向かう相手を間違えたわね」

 

「あ…ぅぁ…」

 

「…あんたには二つの選択肢がある。このままのたれ死ぬか、私たちと一緒に来るか」

 

 

 

倒れ込んだ防人は虚ろな目で私を見つめる。

 

私はそっと右手を差し伸べた。私を勇者にしてくれたその義手で。

 

 

 

「…しに…くな、ぃ…」

 

「…ええ。あんたは死なないわ。戦いの中で生き残るのよ」

 

 

 

防人は私の手を掴んだ。賢そうな判断をする、現実的なお利口さんだ。

 

そっと手を引っ張って抱き寄せる。意識は薄いけど、傷は見た目ほど酷くない。かなり手加減したから治療すれば回復する。

 

 

 

「…この子を搬送してあげて」

 

「……はい」

 

 

 

後ろから来た国士のメンバーが影から現れて、盾の防人を抱える。私と連携して戦うにはまだまだ修練が足りないから、後ろで控えてもらってた。

 

 

 

______私と肩を並べて戦えるヤツなんて、あいつしかいない。

 

 

 

「この子も…私たちの、新しい仲間よ」

 

「は、はい!閣下!」

 

「閣下はやめて」

 

 

 

国士からはそんな仰々しい尊称をつけられる。銀が教導って呼ばれるのを嫌がったの、今ならわかるわ。

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「…まさか三好夏凜様が…」

 

「亜耶ちゃん!行くよ!ここは危ないから逃げるよ!」

 

「…樹ちゃん。でも…本当に三好夏凜様なら…」

 

「知ってたの!?夏凜さんがここに来るって!?」

 

「……初めて神託を疑ってしまったの。あの三好夏凜様が、浪士たちに加担して神樹様に矛を向けるなんて…」

 

 

 

「…別に神樹様を裏切ったわけじゃないわ。神樹様から大赦を断ち切りたいだけ」

 

 

 

祠の前で佇む巫女と、隣で袖を引く樹。巫女は何か覚悟を決めた顔で私を見つめる。

 

 

 

「…本当に、三好夏凜様、なんですね」

 

「ええ。国士隊司令官の、三好夏凜よ」

 

「このような形でお会いするなんて…」

 

「あんたはまだ私を勇者って言う気?大赦に刃を向けた反逆者なのに」

 

「三好様がこの世界を守ったことは決して変わらない事実ですので。神樹様の力が失われないのなら、あなた様は勇者です」

 

 

 

この後に及んで巫女はまだ私を勇者として崇めるらしい。相当原理主義的で敬虔な信奉者のようだ。

 

一歩ずつ巫女へ詰め寄ると、間に樹が割り込んできた。

 

 

 

「…まだ邪魔する気?さっきの防人は一分持たなかったわよ」

 

「夏凜さん!考え直してください!夏凜さんは騙されているんです!」

 

「私が簡単に騙されるちょろいヤツって言いたいの?」

 

「えっ!?あ、いや、そういうことじゃ…」

 

「…私も覚悟決めてんのよ。何を捧げることになっても、銀を助けるって」

 

「えっ…銀さん…?」

 

 

 

銀の名前を出した途端に、樹の目から堅い意志は消え失せた。行方不明になって誰も一切の手がかりを持ってないから、樹も知りたいはずだ。

 

だけど、知る必要はない。知れば戦えなくなるから。

 

 

 

「…邪魔よ」

 

「うぁっ…!」

 

 

 

石突で樹のおなかを打つ。石突から水が噴き出す圧で紙切れのように吹き飛んで壁に叩きつけられた。

 

樹はうずくまって動けなくなった。防人の装備があっても紙一重の一撃だから、もう立ち上がることはできないはず。

 

 

 

「かり…ん…さん…!」

 

「もう言葉でどうにかなる状況は通り過ぎてるのよ。言葉で騙しすぎたのよ、大赦は」

 

「樹ちゃん…!」

 

 

 

巫女は祭壇から立ち上がって私を掴みかかってきた。槍先が樹の首にかかった武器にだ。

 

大人しそうな見た目からは想像もできないくらい強い意志を感じる。一歩も退くつもりはないと目が訴えてくる。

 

 

 

「…武器を納めてください」

 

「…それはそちら次第ね。私が武器を降ろすのに十分な条件を提示できるの?」

 

「あなた達の目的は、巫女であるわたしのはずです。わたしの身を差し出せば、三好様も国士の皆さんも退いていただけますか…?」

 

「…察しがいいわね。別に防人を暗殺しにきたわけじゃないし。神託ってそんなことまで教えてくれるわけ?」

 

「神樹様はすべてを見守ってくれています」

 

 

 

なるほど、浪士の連中がこの巫女______国土亜耶を欲しがるわけだ。

 

 

 

浪士たちの中にも巫女の力を持つ人間がいたけど、防人や勇者と戦うのに役立つほどのレベルじゃないからね。

 

あまり作戦を長引かせるのは良くないから、さっさと用事を済ませよう。ここには勇者の資質を持ったのが“あと二人”もいる。国士たちじゃ荷が重いわ。

 

 

 

「…その言葉、取り消せないわよ?」

 

「はい。神樹様の民を守るのが勇者なら、勇者を守るのが巫女ですから」

 

「…あい聞き入ったわ、______亜耶。丁重にお連れするわ」

 

「あや…ちゃん…?」

 

「…情けないわね、樹。戦う力を持たない巫女に守ってもらったこと、絶対忘れないこと」

 

 

 

私の後ろから来た国士に手を引かれてついていく亜耶。国防仮面さん?とか少し抜けたことをいいながら。

 

 

 

戟を担ぎ直した私を樹がじっとにらむ。

 

______何よ、その目は。戦いに必要なのは手打ちなく相手の全てを否定する意志。そんな戸惑いの目を向けられても私の意志は揺るがない。

 

 

 

「じゃ、風によろしく伝えておいて。私を殺したいでしょう、って」

 

「かりん、さん…まっ…て…!」

 

「待たない。止めたいなら追いかけてきなさいよ」

 

 

 

「追いかけてきてやったぞコラァ!!」

 

「…!!」

 

 

 

意図しないところから銃弾と怒号が飛んできた。とはいえ、反応できない程でもない。一振りで銃弾を撃ち落とす。

 

入口には、殺気立った防人が一人私に銃口を向けていた。亜耶を連れた国士は反射的に亜耶をかばうように前に立つ。

 

 

 

「シズク、さん…?」

 

「別働隊かしら?増援が早いわね。いい指揮官だわ」

 

「そりゃどーも。うちの隊員を随分可愛がってくれたみてぇだな!」

 

「ただ、一人で向かわせるのはナンセンスよね!」

 

 

 

口の悪い防人は言葉と同時に銃に付いた剣で突っ込んできた。骨のあるヤツもいるもんね。

 

ただ、相手が何なのか理解しないで突撃するのは蛮勇って言うのよ。

 

 

 

「だぁりゃぁあ!」

 

「ふん!」

 

 

 

石突を床に叩きつければ水蒸気と共に地面が大きく揺れる。タイルが割れて浮き上がる。

 

______銀の右手の力を、私は少しだけ使えるようになった。自分の近くにある物だけ、あのサイコキネシスを使える。

 

足を取られた防人だけど、浮いたタイルを構わず踏み抜いて私に迫ってきた。これで怯まないなんて、覚悟の決まったやつじゃない。

 

 

 

「もらっとけぇっ!!」

 

 

 

防人は最後に大きく跳んで上から銃弾を放つ。かなりの近距離だ、私だって反応できない。

 

弾丸は水蒸気に包まれた私の頭に到達した。そのまま貫通して床に穴を開ける。

 

 

 

「どうした勇者ァ!油断してんのかァ!?」

 

「油断ですって?誰が?」

 

「!?なにっ!?」

 

 

 

もちろん、弾丸で頭を撃ち抜かれたわけじゃない。そこにあった影は蜃気楼。銀の右手で水蒸気を操って相手の目を欺く、私の新たな能力。

 

完全に防人の背後をとった。戟の柄を相手の首にかけて、いつでも首をへし折れる状態だ。

 

 

 

「し、シズク先輩っ!」

 

「大人しく武器を置いてくれるかしら?亜耶の護送が終われば解放するわ」

 

「……ちっ」

 

 

 

少しでも抵抗すればやられるのを察知したのか、銃剣を手から放した。

 

この程度で遅れを取るわけにはいかないわ。私は勝ち続けなきゃいけない。全てを取り戻すまで。

 

 

 

「さあ、行った行った。下の部隊も引き上げるわよ」

 

「はい、閣下!」

 

「閣下はやめろって言ったでしょ。バカにされてるみたいだわ」

 

 

 

______隊員も私や銀の戦果を聞いてるし、なんか持ち上げたくなるらしい。特に役職が決まってないからこんな敬称で呼ばれるわけで。

 

 

 

「国土をどうするつもりだ」

 

「別に。あんた達の実力の調査のついでに、有能な人材をヘッドハンティングしにきただけ」

 

「やってることは人攫いじゃねぇか」

 

「そうね。まあ、私たちの考え方をちゃんと理解してくれる人しかいらないけど」

 

「はっ。てめぇの目は節穴かよ。ここで一番敬虔な信奉者の国土が、反逆者の思想なんて理解するわけねぇ」

 

「…事実を知って葛藤することが、今の人間に一番必要なことよ」

 

 

 

口の悪い防人が減らず口を聞いてきた。この状況で詮索してくる辺り、なかなか見どころがあるけど。

 

 

 

______このコとは敵として戦いたい。

 

 

 

「し、シズク先輩を放してあげてください。わたしは逃げませんから」

 

「…あんたも亜耶に守られたってこと、ちゃんと受け止めなさいよ。何も守れなかった名ばかりの防人だって」

 

「言ってくれるじゃねぇか。オレを見逃したこと、高くつくぞ?」

 

「ええ、何度でも向かってきなさい。戦う相手が腰抜けじゃつまらないから」

 

 

 

殺意のこもった視線が私に刺さる。いいじゃない、そうでなくちゃ。

 

撤収する国士の後ろを警戒しながら祭壇のフロアから出る。睨み合いと無音の緊張感で歩く以外のことが許されない状況だ。

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

脱出には塔の屋上から航空機で迎えに来ることになってる。この悪天候の中でも使いこなす浪士って、本当に航空機を忌避した大赦の出奔者なのかしら?

 

脱出口に向かう途中、亜耶が小声でつぶやいた。

 

 

 

「シズクさん、樹ちゃん、雀さん、ごめんなさい。わたしにはこうするしかありませんでした…」

 

「…いいえ。あんたはよくやったわ。二人も守れたじゃない」

 

「え?」

 

 

 

このコは本当にできたコだ。自分が拉致されてるっていうのに、口を開けば誰かを慮る言葉ばかり。

 

______ 巫女の力以上に、私はその部分に魅力を感じた。

 

 

 

「何も戦うことだけが力じゃないわ。人の心を動かす言葉、それは勇者の力なんかよりも価値のあるものだわ」

 

「どういう、ことですか?」

 

「あんたの言葉に私も動かされたってこと。本当ならあの二人、死んでてもおかしくなかったってこと」

 

「………………。三好様は、一体何を考えていらっしゃるのですか…?」

 

「…これからの人間の未来よ」

 

 

 

私が見据える先には、______必ず“あいつ”がいる。

 

 

 

 

 

 

そう思った瞬間。国士を迎えに改修中の屋上に待機していたヘリコプターの操縦席が何かに撃ち抜かれた。

 

 

 

「!伏せて!敵よ!」

 

「ふぇ!?敵!?」

 

 

 

パイロットは霊的戦闘力を持たないただの浪士、つまり一般人だ。あの攻撃をもらって無事なわけがないだろう。

 

夜陰と大雨に紛れてヘリで屋上に来たんだ、防人たちにバレてるとは思えない。そして、この狙いなんて一切効かない状況であの正確な一撃。

 

そんなことできるのは、私の知る限り一人だ。

 

 

 

「…須美様が騒ぎ立ててると思ったら…あなただったのね。夏凜」

 

「芽吹…あんたか。ここにいるなんて聞いてないけど?」

 

「えっ…芽吹…さま?」

 

 

 

______妖しく義眼を光らす大赦の勇者、“乃木芽吹”。

 

 

 

大赦にとっては、あいつこそ完成型の勇者らしい。上層部はあいつを祀り上げ、跡取りを失った乃木家へ養子に迎えられた。

 

今やあいつが大赦の首長。私が大赦を離れてから割と時間は経つけど、全権掌握してるのは殆ど確定だ。

 

つまり、浪士たちにとっては唾棄すべき国家の癌。私にとっては______

 

 

 

「______亜耶を連れて下がってなさい。あいつは私がやる」

 

「御意!」

 

「反大赦勢力のリーダーか。急いで来た意味はあったわ」

 

「まあなんでもいいけど。あんたとまた全力で戦える。こんな僥倖他にないわ!」

 

「私も全く同意見だわ。テロリストの下っ端との戦いなんて、何の面白みもないから!」

 

 

 

______私にとっては、今も昔も変わらない。“たった一人の好敵手”だ。

 

 

 

二人とも喜々として踏み出した。もう言葉はいらない。あの時と同じだ。

 

ただ、芽吹も前に来たのは予想外だった。あの時よりさらに銃身が短くなった銃を片手で持って撃ちながら前進してくる。

 

 

 

「奇襲のつもり!?」

 

 

 

弾丸を弾く防御はもう手馴れたものだ。戟を前でぶん回して障壁を作る。

 

弾丸が戟に触れた途端、爆発と突風が弾け飛ぶ。威力は羽衣のバーテックスの爆撃を超えるレベルだ。構わず突っ込めば私だって無事では済まない。

 

 

 

「このっ!」

 

 

 

爆発の反動を駆使して射線から外れるように跳ぶ。被害は最小限で済んだけど、出鼻をくじかれた。

 

よく見ればあいつの周りに二体の精霊が飛び交っている。喋るインコと、青い火の玉が衛星みたいに回ってる。

 

 

 

「高火力でゴリ押しって、私のお株を奪わないでくれる!?」

 

「自覚はあったのね。まあ私が手に入れた力はそれだけじゃないけど?」

 

 

 

なおも前進をやめない芽吹。もう戟での攻撃が届く距離だ。

 

銃を脇に抱えて、利き手で腰に差した刀を引き抜いた。あいつの苦手な接近戦をあれで補ってるってことか!

 

 

 

「はっ!近接で私に敵うとでも!?」

 

「受けてみなさい、真なる勇者の剣を!」

 

 

 

もちろん受けて立つ。石突が雲を作り切っ先が紫電を走らせる。この二つが組み合わされば、戟が信じられないスピードで加速する。

 

このスピードはほとんど不意打ちに近い。あいつの反応速度や、…須美様の加護があっても反応が間に合うはずがない。

 

 

 

戟から返ってきた手応えは、まるで鉄筋を叩いたような反動だった。

 

 

 

「ぐっ…紙一重ね…!」

 

「受け止めた…!?あの細身の刀で…!?」

 

「これが乃木若葉様の…“生大刀”の力…!私は須美様と若葉様の覚悟を負っているのよ!」

 

 

 

あいつはそのまま刀を翻して斬り上げた。槍先だけが宙を舞いガランと音を立てて床に落ちる。

 

武器を叩き折られた______!?

 

 

 

「…あんたも鍛錬をサボってたわけじゃないのね。安心したわ!」

 

「私は勇者よ。前線から離れても、誰よりも強くなければならない。道を示さなければならないのよ!」

 

「それは私も同じよ!!」

 

 

 

折られた柄で、石突をあいつに向けて叩きつける。高圧の水流が吹き出して勢いをさらに増して。

 

とはいえ、さっきの一撃に反応してきたんだ。これも反応される。棍棒と化した戟の石突を斬り落として、左手の銃でさらに追撃してきた。

 

 

 

「そんな単調な攻撃、もう見切ってる!」

 

「そう?私一人の攻めはそうかもしれないけど、ここには園子と銀がいる!!」

 

 

 

弾丸は突然急停止した。私に届く前に勢いをなくして床に落ちる。

 

銀の右手が展開して、紫の光を放った。______園子が、守ってくれた。

 

 

 

それだけじゃない。折れた戟の切っ先が浮かび上がり、月型の刃があいつの脚に肉薄する。

 

 

 

「ぐぅっ…!」

 

「前にこんなことあったわね。銀と一緒に座礁船に乗り込んだ時に」

 

「くっ…なんのっ!」

 

 

 

精霊がその一撃を防いだけど、衝撃は伝わる。あいつは膝を着きながらも銃口を向けて牽制を挟んだ。

 

牽制が来るのはわかってたから先に横に跳んで避けておいた。次はこっちが先手を取る番だ。

 

 

 

______って!?

 

 

 

「危ないっ!伏せて!!」

 

「えっ?」

 

「私が守りますっ!」

 

 

 

射線上には亜耶と、付き添いの国士。屋上には遮蔽物がないから、銃撃は防ぎようがない。

 

必死の思いで叫んだ。どうか無事であってくれと。

 

国士は亜耶をかばうように背中を見せて、炸裂する弾を数発受けた。

 

 

 

「うっ…くっ……」

 

「しっ、しっかりしてくださいっ…!」

 

「人質を守るくらいの良心はあるのね」

 

「…!あんたっ、関係ない人を巻き込んどいて何よそれは!」

 

「知ったことじゃないわ。テロリストが一人死のうが一億死のうが」

 

 

 

私が見せた一瞬の隙を逃さず、あいつは刀を構え直して飛びかかってくる。対する私は槍先と石突の折られたただの棒しか持ってない。

 

自分の身を守る手段がない。あいつの剣撃を受ければこの棒も一刀両断されるし、銀の右手も反応が間に合わない。

 

 

 

まずった…!と心の中で悪態をついた時。

 

 

 

「とぉりゃぁぁぁ!!」

 

「は…!?うわっ!!」

 

「え…友奈?」

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

夏凜ちゃんに刀を振り下ろす芽吹ちゃんを見て、身体が勝手に動いた。盾を構えて芽吹ちゃんに突っ込む。

 

芽吹ちゃんは一瞬驚いた声を出したけど、すぐに受け身を取って左手の銃を私に向けた。

 

 

 

「…友奈か。次々と増援を送る手腕、風さんは何とかやってるみたいね」

 

「ううん。風先輩の指示じゃないよ。この子から夏凜ちゃんの話を聞いて上がってきたんだ…」

 

「…申し訳ありません、閣下。敵に助けられた挙げ句情報を吐いてしまうなど…」

 

 

 

手すりに寄りかかって夏凜ちゃんに謝ったクールな国士さん。応急処置はしてあるけどまだ十分には動けないし、とりあえず一緒に上まで来た。

 

国士さんの姿を見て夏凜ちゃんは先の折られた武器を降ろした。

 

 

 

「いえ、無事で何よりよ。もう要件は済んだし、引き上げるわよ」

 

「!待ちなさい夏凜!勝負はまだ終わってない!」

 

「…退いてやるって言ってんのよ。…部隊を預かる将じゃないあんたには、わからない判断だろうけど」

 

 

 

興味を失った顔をして、夏凜ちゃんはクールな国士さんと亜耶ちゃんとケガをした国士さんを抱えてタワーから飛び降りた。銀ちゃんみたいにサイコキネシスを使って。

 

取り残されたわたしと芽吹ちゃん。芽吹ちゃんも少しケガをしてるみたいで、夏凜ちゃんの後を追うことはなかった。

 

 

 

「…まさか友奈に邪魔をされるなんて」

 

「ダメだよ、芽吹ちゃん。…友達同士で戦うなんて…」

 

 

 

わたしが急いで屋上に昇ってきた理由もそれだ。芽吹ちゃんと夏凜ちゃんが命の取り合いをするなんて間違ってる。二人は銀ちゃんが全てをかけて守ってくれた大切な人なんだ。

 

命令に背くことになっても、芽吹ちゃんに嫌われても、こんなこと許しちゃいけない。

 

 

 

「もう友達でも何でもないわ。銀の志を投げ出した裏切り者なんて」

 

「銀ちゃんが見たら悲しむよ…。銀ちゃんはこんな心が伝わらない戦いなんて望まないよ…」

 

「…だけど、あいつは望んだ。…それが全てよ」

 

 

 

芽吹ちゃんは大雨の夜空を見上げて、夏凜ちゃんの存在を拒絶した。

 

芽吹ちゃんの意志は簡単には曲がらない。信頼していた相棒に裏切られて、心を閉ざしちゃったのかな。

 

 

 

でもそれじゃ、芽吹ちゃんはまた一人ぼっちになっちゃう。銀ちゃんも夏凜ちゃんもいなかったら、誰が芽吹ちゃんに寄り添ってあげられるの?

 

 

 

______どんなに嫌われても、わたしは二人を仲直りさせたい。銀ちゃんの笑顔を取り戻してくれた二人を、また笑えるようにしたい。

 

銀ちゃんに何もしてあげられなかったわたしの、せめてもの恩返しをしたいから。

 

 

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