シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

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もう会えないなんて、イヤだよ…

 

「次の作戦の説明をするわ」

 

 

 

夏凜ちゃんの会見の日の夕方には、芽吹ちゃんが防人隊のメンバーを講堂に集合させた。

 

みんなは目を見開いてその説明を待つ。浪士たちがあんな会見をしたから、こっちも何かしたいと気持ちがたかぶってるのかな。

 

______また国士たちと戦わないといけないと思うと、わたしの気持ちは沈んでいく一方だった。

 

 

 

「今回、私たち防人から仕掛ける作戦を敢行する」

 

「私たちから?」

 

「ええ、後手後手に回ってるから。私たちが専守防衛のノロマじゃないことを、あいつらにわからせる意味もあるわ」

 

「いよいよ弥勒の名を世に知らしめる時が来ましたわ!」

 

「…それくらいの気持ちでいてください。これは状況を一変させる作戦だから」

 

 

 

芽吹ちゃんが放つ言葉は、みんなの使命感や向上心を刺激する。ここにいるみんなが選ばれた特別な存在なのだと、納得させる力がある。

 

教導…このチームのリーダーとして、みんなを勝利に導いていく。勇者部で見せた、あの芽吹ちゃんのリーダーシップはここでも生きてる。

 

 

 

______だけど、なんでだろう。今の芽吹ちゃんからは、その時とは違った何かを感じる。

 

 

 

「目標は______拉致された防人メンバー及び巫女の奪還。浪士の占拠した高知城に突入して、制圧しながら目標を救出する」

 

「高知城?そこにいるって情報はどこで?」

 

「内通者。浪士に紛れ込んだスパイがリークしてくれたわ。大赦も平和ボケしてるかと思ったけど、強かなことをしていたわ」

 

「奪還…国土たちを…」

 

「とうとうその時が来たのね。だけど芽吹、勝算はあるの?」

 

「真正面から行っても国士がいては勝機はほとんどないでしょう。だから、相手の行動を利用します」

 

 

 

「利用?」

 

「国士が出張ってきている間を強襲する。その為には、こちらも戦力を分断して陽動をしなければならない」

 

「あっちが何かやってる間に、こっちも動くってこと?」

 

「そうです。…まあ、大規模なデモ活動の現場には必ず国士がいる。陽動自体は間違いなく成功するので、そこは問題ないです」

 

 

 

「…確証があるの…?」

 

「乃木教導と三好さんの間柄ですから。お互いに考えることは手に取るようにわかるということですわ」

 

「そういうことです。あの戦闘狂は私との戦いを楽しんでる。内乱状態をかきまわしてね」

 

「芽吹、それは邪推し過ぎでしょ。夏凜がそんな短絡的な考えで戦ってるなんて」

 

「100%ではないかもしれませんが、思ってもないことではないです。______そういうヤツなんです」

 

 

 

芽吹ちゃんは遠くを見つめる。ここにはいない夏凜ちゃんのことを思ってるのかな。…もう、仲直りできないって思ってるのかな。

 

みんなが考える夏凜ちゃんの人柄は、この混乱を楽しむ悪人ってイメージがついたみたいだった。やっぱりテロリストの親玉だったとか、勇者にふさわしくないってみんなが言い合う。

 

 

 

______そんなことないよ。夏凜ちゃんだって、銀ちゃんと同じ未来を見てたはずだよ。それと真逆な道を突き進むなんて、きっと何か事情があるんだよ。

 

 

 

「話を戻すわ。部隊は二つに______いえ、正式は三つね」

 

「え?他の作戦も展開するの?」

 

「…私は今回別行動を取ることになります」

 

「え?」

 

「奪還作戦を展開中に、私は大赦の首長として会見を開きます。浪士の会見に対するアンサーとして」

 

 

 

「そ、それでは乃木教導が指揮をとれないではありませんの?」

 

「はい。高知城突入隊の指揮は風さんに、デモ制圧隊は弥勒さんにお願いします」

 

「は、はい!」

 

「…会見を被せる理由は何?防人の指揮より重要なこと?」

 

「______これは国民へのメッセージですから。私たちが必死で連れ去られた仲間を取り返していると伝えれば、心象は固まります」

 

 

 

「…あんたも人のこと言えないくらいにプロパガンダしてるわね」

 

「この戦いの勝敗を決めるのは、最終的に国民一人ひとりの意思です。大義を示さないで討ち滅ぼしても、誰も納得しません」

 

「…なるほどね。芽吹の考えはよくわかったわ」

 

 

 

______芽吹ちゃんの言葉が、わたしと芽吹ちゃんの距離を伝えてきた。

 

すごく遠くに行ってしまった気がした。勇者部にいた銀ちゃんの弟子の楠芽吹ちゃんは、もう私の見えない場所に行ってしまった。

 

今わたしが見ているのは、大赦のトップの、乃木芽吹ちゃんなんだ。

 

 

 

「日時は土曜の17時。作戦の詳細はモバイルに送っておいたから各自確認して。質問があれば直接私まで」

 

「「「了解!」」」

 

 

 

号令を最後に、みんなが送られた作戦の内容をチェックしはじめた。みんな生き生きした顔だ。

 

仲間を取り返すなんて、ホントに勇者みたいだもんね。

 

 

 

______わたしがみんなとは違う表情をしてるのに気付いたのか、芽吹ちゃんはわたしのところまで来て声をかけてきた。

 

 

 

「友奈。…気が乗らないかしら」

 

「え?ううん、そんなことないよ!あっちにいっちゃった仲間に会えるなんて、嬉しいに決まってるよ!」

 

「…そう。…でも無理はしないでね。この…国士と戦う任務は友奈には適してないって私もわかってるから」

 

「大丈夫だよ芽吹ちゃん。私は大丈夫だから」

 

 

 

芽吹ちゃんは何かとわたしを気にかけてくれる。この前だって思いっきり命令違反しちゃったけど、芽吹ちゃんがうやむやにしてたし。…反省はしてます。

 

芽吹ちゃんに心配ばっかりかけちゃいけないね。わたしも世界を守る防人の…勇者の一人。しっかりがんばらないと。

 

 

 

「…友奈はデモ制圧隊に行ってもらうわ。弥勒さんが指揮官だと手が回らなくなりそうだから、友奈が主力になってくれると助かるわ」

 

「任せて芽吹ちゃん。今度はちゃんと戦うから」

 

「…何度も言うけど、無理しちゃダメよ」

 

「…うん」

 

 

 

心配症だなぁ、芽吹ちゃん。そういうところは風先輩や銀ちゃんよりおせっかいかも。

 

でも、どうしてだろう。芽吹ちゃんを遠くに感じるのに、こうしてわたしの心の一番近いところに来てくれるのは。

 

 

 

芽吹ちゃんは少しだけ微笑むと、会議では一言も話さなかった仮面をつけた神官さんと話し始めた。あの神官さんは、基本的に芽吹ちゃんとしか話さない。

 

監視役、って風先輩は推理してたけど。でも、芽吹ちゃんの様子からは信頼関係が出来てるように見える。

 

______わたしが考えてもわかんないや。

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「…あ、お姉ちゃん。友奈さん」

 

「樹、調子はどう?」

 

「今日は愛媛のみかんを持ってきたよー」

 

 

 

あの戦いで大ケガをした樹ちゃんは、もうゴールドタワーの医療施設で暮らせるくらいには回復したみたい。

 

わたしと風先輩の毎日の習慣。樹ちゃんのお見舞いに行くのが何かと楽しみになっていた。

 

 

 

「ありがとうございます友奈さん。だいぶ動けるようになりました!」

 

「内臓へのダメージは紙一重だったっていうのに、回復が早いわねぇ」

 

「勇者、になったからかな。精霊様々だよぉ」

 

 

 

樹ちゃんにも勇者システムが適応されたのはケガをした後。ホントなら内臓破裂で命を落としてもおかしくなかったけど、勇者システムを作動させると何事もなかったみたいによくなった。

 

ベッドに腰をかける樹ちゃんの頭の上には緑のもふもふ…木霊がちょこんと乗ってる。樹ちゃんが頭から下ろそうとしても気づいたらこの位置にいるらしい。

 

 

 

「でも、その様子じゃ次の作戦には間に合わないわね。リハビリもあるし」

 

「そっかぁ、残念。夏凜さんに聞きたいことがたくさんあるのになぁ…」

 

「…今度会ったらタダじゃおかないわよ。落とし前をつけてやる」

 

「お姉ちゃんったら、そんな顔しないで。…夏凜さんにだって、事情があるんだし」

 

「関係ない。樹にこんな大ケガさせたんだから」

 

「…銀さんを助けるって、夏凜さん言ってたんだ」

 

「…え?」

 

 

 

ふとギモンの声が出てしまった。風先輩じゃなくて、わたしの口から。

 

銀ちゃんの行方は、誰もわからない。丸亀勇者部の最後の戦いが終わってから、全く銀ちゃんの情報は回ってこない。

 

 

 

______銀ちゃんは、「待ってて」って言った。でも、できることならすぐに会いたい。

 

会って…謝りたい。銀ちゃんがどんな思いで戦ってたかも知らずに、勝手なことを言って苦しめてたから。

 

 

 

「夏凜さんは何か銀さんの情報を知ってのかも。だから大赦を出て銀さんを助けるために、浪士側に入ったんだと思う」

 

「そうかもしれないけど。あいつがやったことは大赦への…国民全てへの反逆よ。許されることじゃないのよ」

 

「…でも、勇者、なんだよ?神樹様は夏凜さんから力を取り上げなかったんだよ?」

 

「…もうわけわかんないわよ」

 

 

 

あれだけのケガをさせられたのに、樹ちゃんは夏凜ちゃんを恨んだりしてない。むしろ戦わずに、一緒に銀ちゃんを助けに行きたいって目が言ってる。

 

風さんは夏凜ちゃんを許すつもりはないみたいだ。夏凜ちゃんが裏切ったことより、樹ちゃんを傷つけたことに怒ってる。

 

仲良し姉妹の間に、少しミゾができてる。

 

 

 

______わたしは、どうなんだろう?銀ちゃんを助けたい?それとも銀ちゃんの世界を守りたい?

 

 

 

「…今度会ったらわたしが聞いてみるよ。銀ちゃんのこと」

 

「友奈まで。また命令違反する気?」

 

「相手から情報を聞き出すのも立派な任務です。芽吹ちゃんならオッケーって言ってくれるはずです」

 

「…厳しいんだか甘いんだかわかんないのよね、芽吹って。この前も友奈の命令違反をもみ消しちゃうしさ」

 

「…それは反省してます」

 

 

 

風先輩にクギを刺された。芽吹ちゃんがトップになったとはいえ、風先輩の隊員からの信頼は強くて実質現場のリーダーになってる。芽吹ちゃんが許しても風先輩はよく思わないだろう。

 

 

 

______芽吹ちゃんは、何か知ってるのかな?銀ちゃんのこと。

 

 

 

「樹ちゃんは芽吹ちゃんには聞いた?銀ちゃんのこと」

 

「いえ、お見舞いには来てくれたんですけど忙しそうで」

 

「芽吹はどう思ってるのかしらね。それはあたしも気になる」

 

「じゃあ、今から聞きに行ってみますね」

 

「うん、お願い。あたしだって銀がどうしてるか心配だし」

 

「友奈さん、お願いします」

 

 

 

尊敬してた銀ちゃんの行方を、芽吹ちゃんが気にしてないはずがない。何も情報を持ってないとしても、芽吹ちゃんがどう思ってるかを知りたい。

 

勇者部の絆を、絶対に取り戻したい。

 

 

 

 

 

 

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芽吹ちゃんは隊員たちの自主トレに付き合っていた。みんな次の作戦に向けて、少しでも力をつけようと息巻いてる。

 

 

 

「弥勒さん、腕を上げましたね。後は戦況を見て適切な選択をする判断力を養えば」

 

「うっ、精進致しますわ…」

 

「いつまでも鉄砲玉のままじゃ、上には昇れませんから」

 

 

 

弥勒先輩と芽吹ちゃんが実戦形式で打ち合っていた。国士を想定して、芽吹ちゃんは防人の装備じゃなくて刀と銃で相手していた。

 

弥勒先輩は戦闘力なら防人の中でもトップクラスだ。でも、芽吹ちゃんに銃剣をかすらせることすらできてない。攻め立てる弥勒先輩を軽くあしらうように受け流して、当てられるはずのタイミングでけん制程度にすましてる。

 

 

 

「…少し休憩しましょう。弥勒さんには実戦より座学が必要です」

 

「…承知しましたわ。芽吹さんも、本当に変わりましたわね」

 

「はい。…私の師の影を追ってるだけですけどね」

 

「三ノ輪銀様、ですか」

 

「…私がこうして勇者を続けているのも、銀が守ってくれた世界のために尽くそうと思ったから、なんです」

 

 

 

______芽吹ちゃんの口ぶりは、まるで銀ちゃんはもういない人みたいなものだった。

 

 

 

本当に、銀ちゃんはもういないの…?本当にもう会えない人なの…?

 

 

 

「乃木教導もお休みになってくださいまし。ずっとわたくし達の相手をしてお疲れでしょうし」

 

「…そうですね。私も、皆も、代えの効かない存在ですからね」

 

「茶菓子のお準備をいたしますわ。アルフレーッド!」

 

 

 

______ここに雀ちゃんがいたら、「せっかくいい雰囲気だったのに架空執事のせいで台無しだよ!」ってツッコんでたと思う。

 

国士に…夏凜ちゃんに連れ去られた隊員は巫女の亜耶ちゃんを入れて四人。仲が良かった隊員も、四人がいなくなって悲しんだり怒ったりしてた。

 

 

 

わたしも悲しいし、さびしい。みんないい子だったのに。これから仲良くなれると思ったのに。

 

やっぱり人と人とが戦うのはダメだ。悲しい思いをする人がこんなに増えちゃう。

 

 

 

「名字変えたから実質別人って理屈なの芽吹?」

 

「乃木家の人間として恥ずかしくない立ち居振る舞いをしないとって思って」

 

「それだけじゃないでしょ乃木さん。なんか、こう、丸くなったよね?」

 

「皆もあの人の下で勉強したらこうなると思うわ」

 

「すごいね銀サマ効果。国防仮面イコール三ノ輪銀って都市伝説も出てるくらいだし」

 

「もしかして、恋!?恋なの!?」

 

「結婚できるとしたら、私はあの人の思想と結婚するわ」

 

 

 

何でか一部の隊員が色めき立った。コイバナ?っていうのかな。そういうのは風先輩に聞かないとわかんないや。

 

 

 

その中には、勇者の座を芽吹ちゃんと争った子______芽吹ちゃんに散々叩きのめされた子たちも入ってた。

 

芽吹ちゃんがゴールドタワーに来た当初は毛嫌いしてたのに、今ではそういう話をできるくらいの仲になってる。

 

わたしは銀ちゃんと一緒にいた時しか知らないけど、その頃の芽吹ちゃんって相当荒れてたのかな?あのときの銀ちゃんみたいに。

 

 

 

「お待たせしましたわ皆さん。お茶会の準備が整いましてよ」

 

「弥勒先輩もサンキューです!雀ちゃん拉致られてガックリきてたけど、芽吹ちゃんのおかげで雰囲気良くなったよね!」

 

「最初はヤバいのが来た!って思ったけど、蓋を開けたら究極の美少女戦士だった」

 

「弥勒も芽吹ちゃんが来てからメキメキ強くなったし!国士なんか私たちでブッ飛ばす!」

 

「…ありがとうございます、弥勒さん。弥勒さんが仲を取り持ってくれたおかげで、こんなにいい関係を築くことができました」

 

「礼には及びませんわ。これが弥勒家に名を残す者の務めですので」

 

 

 

弥勒先輩も芽吹ちゃんの姿を見てちょっとだけ変わったと思う。目標を見つけたというか、気合いが入り直ったというか。

 

イヤでも人目につく任務だから弥勒先輩のやる気は下がる気配がないし、追いかける目標がすぐそこにいるのはモチベーションが上がると思う。

 

芽吹ちゃんと夏凜ちゃんもそうだったはず。

 

______競い合うって、ホントはそういうことなのに。

 

 

 

「結城さんもこちらへいらっしゃい。今日はフルーツサンドを用意致しましたわ」

 

「あ、はい!いただきまーす!」

 

「亜耶ちゃんがいない今、友奈ちゃんがこの隊のマスコットよねー」

 

「芽吹が守りたくなるのもわかるわー」

 

 

 

弥勒先輩に呼ばれてクリームがたっぷり入ったフルーツサンドをいただく。料理上手な弥勒先輩の一品は紅茶によく合う。

 

テーブルを囲んだメンバーもみんな笑顔があふれる。弥勒先輩のお茶会、わたしは好きだ。必ずみんな同じ気持ちになれるから。

 

芽吹ちゃんだって、満足そうにお茶を飲んでほほえんでる。

 

 

 

「そういうんじゃないけど…。友奈には勇者の力がある。些末事の処理は私に任せて、その力を存分に発揮してほしいのよ」

 

「言われてるぞー友奈ー」

 

「あははは…芽吹ちゃんに迷惑をかけないよう、がんばります!」

 

 

 

芽吹ちゃんの理想のリーダー像は、裏の仕事を全部片付けてメンバーには余計なことを考えなくていいようにすること、なのかな。

 

風先輩みたいに全部をみんなでやるってスタイルじゃなくて、芽吹ちゃん一人に余計な負担を集中させる。…芽吹ちゃんは、大丈夫なのかな。

 

 

 

悩んだら、相談。少しでもその負担を聞いてあげないと。

 

 

 

「でもさ、友奈が人を殴るなんて想像できないよね」

 

「そうそう。まだ防人の装備の方が戦えるんじゃない?直接殴るわけじゃないし」

 

「武道の心得はあるよー?」

 

「相手があの国防仮面軍団でも?」

 

「悪趣味ですよね、アレ。救いのヒーローをテロリストに仕立て上げるなんて、銀サマもプンプンじゃないっすかねー?」

 

「…どうだと思う?芽吹ちゃんは」

 

「どうって…。私に聞かれてもただの敵としか答えられないわ、友奈」

 

 

 

うまくはぐらかされたかな。

 

銀ちゃんの話題になると、何事もなかったかのように受け流す芽吹ちゃん。何回か銀ちゃんについて聞こうと思ってトライしてたけど、毎回上手く切り抜けられちゃってたし。

 

何か知ってるのかもしれないし、何も知らないから何も言えないのかもしれない。でも、今度は何とか聞き出さなきゃ。

 

 

 

「そうね、ただの悪趣味な敵よね。次は絶対ブッ飛ばす!」

 

「ついでに三好夏凜もね!」

 

「やめて。三好夏凜との接触は禁止。この命令だけは絶対守って」

 

「わかってるって。アレの相手は芽吹ちゃんじゃないとできないって」

 

「闇堕ち勇者を討つのは元の仲間じゃないとね。そういうストーリーをみんな望んでるから」

 

「そうね。決着は、私がつける」

 

「その露払いは、わたくし達にお任せあれ」

 

 

 

芽吹ちゃんがみんなを勇者として自立させようとしてるように、防人メンバーも芽吹ちゃんと夏凜ちゃんの決着に協力する気だ。リーダーとメンバーがお互いに気づかう、チームとして理想的な関係。

 

 

 

______応援したくなるはずなのに、わたしはやっぱり止めたくなる。

 

この戦いが終わってしまえば、芽吹ちゃんと夏凜ちゃんの関係は絶対に元に戻らなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀ちゃんがいたら、どうやって仲直りさせたんだろう。

 

 

 

 

 

 

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夕食の時間。

 

食堂でわたしはしずくちゃんとラーメンをいただいた。

 

 

 

「…乃木と三好の決着…か」

 

「…しずくちゃんはどう思う?やっぱり本人同士が納得のいくまで戦うしかないと思う?」

 

「…乃木の師匠なら、殴ってでも止めたと思う」

 

「銀ちゃん?…あ、しずくちゃんも神樹館小学校にいたんだっけ」

 

「うん…。…間違ったことをする友達がいたら、何がなんでも止めると思う…。三ノ輪は…正義の勇者だったから…」

 

「…そっか」

 

 

 

しずくちゃんには二人とも間違ってるように見えてるみたい。わたしと同じ意見を持ってる人がいてくれてよかった。

 

 

 

「でも…乃木のことは…応援したい。乃木も…立派な勇者」

 

「そう、だよね。わたし達を元気付けてくれたのは芽吹ちゃんだもんね」

 

「…乃木が来てくれなかったら…このチームは崩壊してた…。わたしが見つけた、…大切の仲間が…」

 

 

 

しずくちゃんは、このチームを誰よりも大切に思ってる。しずくちゃんにとって、みんなは家族みたいなものだから。

 

それを守ってくれた芽吹ちゃんに感謝するのは…当たり前なのかな。新参者の芽吹ちゃんにも、しずくちゃんは心をすぐに開いたから。

 

 

 

「…シズクもわかってくれた。乃木はわたし達を絶対勝たせてくれるって…」

 

「戦うことでしかわからないこと、って言ってたっけ。…わたしにはわかんないや」

 

「わたしも…。…シズクが乃木と戦って満足したことしか…」

 

 

 

______あの事件からしばらくしずくちゃんは戻ってこなかった。ずっとシズクちゃんが出てて、夏凜ちゃんへ借りを返すためにずっと一人でトレーニングしてた。

 

シズクちゃんの怒りを治めたのは、芽吹ちゃんだった。シズクちゃんと模擬戦をして、一方的に押し勝ったらしい。それも同じ防人の装備を使って。

 

感情的になって集団行動を乱すシズクちゃんを、芽吹ちゃんは力でだまらせた。

 

芽吹ちゃんに勝てないのなら、夏凜ちゃんには勝てない。でも、チームとしてなら夏凜ちゃんに勝つことができる。その言葉を聞いて、シズクちゃんは満足して引っ込んだんだって。

 

 

 

今改めて説明しても、何で満足したかわかんないけどね。

 

 

 

「…仲直りしてほしいんだ。芽吹ちゃんと夏凜ちゃんに。そんな立場にはいないのはわかってるけど…」

 

「…仲が良かった頃の二人って…どんな感じだったの…?」

 

「…一言で言えば、ライバルかな。二人でバーテックスを倒すためにお互いに競い合って。それが二人を強くして。二人の信頼を確かなものにして。…銀ちゃんから聞いた話だけどね」

 

「信頼、しあってたんだ…」

 

「うん…。ずっと競い合って強くなりたいって…」

 

「……その結果が、こんなことに…?」

 

 

 

競争がいきすぎて、戦争になってしまった。

 

 

 

______二人の中では、これも今までと同じ競争なのかな。それなら二人はまだ信じ合ってることになるけど…。そうであってほしいと思ってしまう。

 

でも、やっちゃいけないことの一線を越えてる。銀ちゃんがゲンコツするくらいに。

 

わたしがやらないとダメ、なのかな。

 

 

 

「…まだ強くならなきゃいけない理由がある、のかな…」

 

「……鉛色の霧。…乃木や三好には、まだ倒さないといけない敵がいるのかも…」

 

「……それって」

 

 

 

______わたしも見た。鉛色の霧を出して進む、鉛色の船を。樹海を腐らせた、鉛色の大蛇を。

 

 

 

大蛇につながれた、わたしの大親友を。

 

 

 

「…ううん、何でもない。芽吹ちゃんに聞かないと、霧のこともわかんないもんね」

 

「でも、禁則事項の一点張り…」

 

「何なんだろうね、あの霧」

 

 

 

やめよう。これ以上考えるのは。

 

 

 

だって______

 

 

 

 

 

 

夏凜ちゃんは銀ちゃんを助けるって言った。

 

芽吹ちゃんは銀ちゃんをもういない人って思ってる。

 

 

 

______芽吹ちゃんが銀ちゃんの命を奪おうとしてるなんて、ありえない。そのために強くなりたいなんて、思うわけがない。

 

そんなの、勇者じゃない。

 

 

 

 

 

 

悪い方向に考えが行くのを必死で戻そうと視線を上げる。ふと、テレビに目が行った。ニュース番組をやってる。

 

 

 

『国防仮面は今日も慈善活動を行なっていたようです。暴徒たちとの衝突でケガをした市民の救護をしていたとの投稿が多数寄せられています』

 

 

 

「あれ…国士の人かな?」

 

「たぶん…」

 

「…やっぱり、ほんとはいい人たちなんだよ」

 

「…でも、大赦の敵。…争いをたきつけながら市民を助けて…マッチポンプとも言える」

 

「…わたしの会った国士さんは、ちゃんと世の中のことを考えてる人だったよ」

 

「…相手が絶対悪じゃないのは、本当にやりづらい…」

 

 

 

銀ちゃんがいなくなってからも、国防仮面の活動は止まらなかった。まねする人がいたのかなと思ってたけど、正体は国士さんだったわけで。

 

銀ちゃんの考えをちゃんと引き継いでるのなら、なおさら国士さんは悪とは思えなくなっちゃう。

 

 

 

『続いて、エネルギー問題に立ち向かうベンチャー企業が成果を上げました。高知沖に眠る燃料資源の実用化に成功したようです』

 

『三好エネルギー社CEO、三好春信氏が取材に応じてくれました』

 

 

 

「三好…?浪士の勇者の関係者…?」

 

「えっ、夏凜ちゃんのお兄さんだよ!」

 

「そうなの…?」

 

「銀ちゃんのお世話をしてた人だよ!大赦を辞めて起業したんだ!」

 

 

 

大赦を辞めたって聞いた時はイヤな予感がしてたけど、浪士側に行ったわけじゃなかったんだ。

 

でも、夏凜ちゃんのお兄さんって知られたら、信用がなくなっちゃうかも…。

 

 

 

「…そのことについては…キャスターも追及しなかった。…アンタッチャブル」

 

「この戦いとはもう関係ないってことなのかな」

 

「でも…大赦にも浪士にもパイプのある人…。…重要人物には、変わりない」

 

「芽吹ちゃんは知ってるのかな?知ってたら何かすると思うけど…」

 

 

 

銀ちゃんから聞いた春信さんは、妹をかわいがる気前のいいアニキ。銀ちゃんも信頼をおくエリートさんだ。

 

夏凜ちゃんが大赦を裏切って、春信さんは何を思ったのかな。銀ちゃんがいなくなって、大赦に嫌気がさしたのかな。

 

 

 

『続いては、匠がその技を振るおうとしています。楠工務店が同業者を先導して復興事業に名乗り出ました』

 

 

 

「楠って…芽吹ちゃんのお父さんかな?」

 

「…乃木の?」

 

「うん。乃木家に養子に入る前は楠だったよ」

 

「…確かに。職人気質みたいなところは乃木にもあるし」

 

 

 

芽吹ちゃんの手先の器用さは、職人さんの血が流れてるから?ガンコなところもそれっぽい。

 

 

 

『ご子息の芽吹さんが勇者として大赦の防衛隊の指揮を取っていますし、父親としても世の中のために何かしたいと思ったということでした』

 

 

 

「やっぱり。すごいなぁ、芽吹ちゃんもお父さんも」

 

「…乃木家に娘を送ったから、その発言力が増した…とか?」

 

 

 

そうだとしたら、芽吹ちゃんの影響力はわたし達だけじゃなくて世の中にもあるってことになる。名ばかりの大赦の首長じゃなくて、実際に人を動かす力があるのかも。

 

 

 

「…いいお父さん、だね」

 

「?しずくちゃん?」

 

「…わたしも力を持ってたら、…二人が心中せずにすんだのかな…?」

 

 

 

______しずくちゃんの両親は、しずくちゃんを残して自殺してしまった。

 

それが原因で、外からの心ない言葉に耐えるために第二の人格______シズクちゃんが現れた。

 

 

 

芽吹ちゃんみたいに両親を不自由させない力を持っていたら、そんなことにはならなかったかもしれない。しずくちゃんはそんな“もしも”を考えたのかも。

 

 

 

「…でも、そうだったらシズクちゃんに会えなくなっちゃう。それはさびしいよ」

 

「うん…。わたしも…さびしい」

 

「しずくちゃんも、シズクちゃんも、わたしの大事な友達だよ」

 

「…そう言ってくれる人は、結城が初めて…」

 

 

 

しずくちゃんが、笑ってくれた。

 

初めて見たかもしれない。しずくちゃんの笑顔。

 

しずくちゃんが守りたいのは、この笑顔をくれる防人隊なんだ。たぶん、シズクちゃんも。

 

 

 

「…ラーメン、伸びちゃった…」

 

「…あ。ちょっと話しすぎたね」

 

「…食堂に残ってるのもわたし達だけだし、…食べて部屋に戻ろう…」

 

「そうだね」

 

 

 

伸びたラーメンを急いでかきこんで食器を戻す。

 

うどんばっかり食べてたわたしが、最近はラーメンを主食にしてる気がする。

 

 

 

しずくちゃんがいつでも笑っていられるように、わたしもしっかりがんばらないと。

 

 

 

 

 

 

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「…違う。こうじゃない。まだ死角を防げてない。…須美様、もう一度お願いします」

 

「芽吹ちゃん?」

 

 

 

メンバーが寝静まった夜中の修練場に、芽吹ちゃんはいた。一人で刀と銃を持ってホログラム相手に立ち回ってる。

 

______須美様、って言った?まあいいや。今は。

 

 

 

たぶん、ここにいると思ったからわたしも来た。

 

もちろん、______銀ちゃんのことを聞き出すため。

 

 

 

「…友奈。まだ寝てなかったの?」

 

「うん。…芽吹ちゃんに聞きたいことがあって」

 

「皆がいるところじゃ聞けないこと?」

 

「…うん。銀ちゃんのことだから…」

 

 

 

銀ちゃん、という言葉を聞いて芽吹ちゃんは構えを解いた。その後わたしの方に視線が向く。銀ちゃんがつけていた義眼が光ってわたしを見つめる。

 

 

 

「…あいつが言った通りよ。あの霧の向こうで、今もバーテックスと戦ってる」

 

「じゃあ、夏凜ちゃんはほんとに銀ちゃんを助けるために」

 

「でもそのために無用な戦いをする道を選んだ。それは銀が望むことじゃない」

 

 

 

わたしが言い切る前に、芽吹ちゃんは夏凜ちゃんの考えを否定した。

 

バーテックスとの最後の戦いの時もそうだった。夏凜ちゃんは何がなんでも銀ちゃんを助けるって言った。でも、それを芽吹ちゃんはエゴだと言った。

 

 

 

二人の考えは、あの時から枝分かれして対立するようになってしまった。銀ちゃんを助けるのか、銀ちゃんの願いを叶えるのか。

 

二人が戦う理由は。きっとそれだけなんだ。世界がどうなるとか未来がどうなるとかじゃなくて、銀ちゃんをどう想うか。

 

 

 

______二人とも銀ちゃんを心から想ってるのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。

 

 

 

「…芽吹ちゃんは、助けたくないの…?銀ちゃんのこと…」

 

「…銀がどういうことを思ってたか、友奈は知ってる?」

 

「…?」

 

「……自由になりたかったのよ。心が壊れそうになるくらいの憎しみと怒りから。大赦にも、お役目にも、世界にも縛られない、本当の自由を求めていた」

 

「自由…」

 

「友奈もわかってるはずよ。私や夏凜…そして友奈が、銀をがんじがらめに縛り付けてたって」

 

「………………」

 

 

 

銀ちゃんが戦った理由。銀ちゃんが全てを捧げた理由。

 

 

 

______全部、わたし達のため。

 

 

 

「…正義感の強い銀は、全てを放り出して呪縛から逃げるのを拒んだ。全てを終わらせてから、自由になることを望んだ」

 

「………………」

 

「…全部一人で解決していったわ。外の世界への道を作り、人々を前に進んでいけるようにした。…自らの魂を捧げて」

 

「………………」

 

「今もその目標へ向けて、戦ってる。…どうして邪魔できるの?どうしてまた縛り付けられるの?銀はまだ苦しい思いをしなきゃいけないの?」

 

 

 

わたし達が銀ちゃんを間接的に苦しめていたのはわかっていたつもりだった。

 

何も知らなかった頃に戻れるって希望がチラチラ見えて、現実にそれを何度も打ち砕かれて。銀ちゃんはそのたびに心を痛めて。

 

もう銀ちゃんは限界だったことを、芽吹ちゃんの言葉でようやく理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______銀ちゃんをもうこれ以上苦しめるな。

 

芽吹ちゃんが言いたいのはそういうことだ。

 

ボロボロの銀ちゃんが安心して休めるように、世界を安定させること。それが芽吹ちゃんの使命なんだ。

 

 

 

「…友奈は、どうなの?」

 

「え?」

 

「銀がいなくなって、どう思った?戻ってきてほしいと思った?」

 

「…わたしは…」

 

「…私に気を遣うことはないわ。素直な気持ちを聞かせて」

 

 

 

______芽吹ちゃんの目は、優しかった。

 

いつも自分にも他人にも厳しい芽吹ちゃんが、その時だけはまるで銀ちゃんみたいにほほえんでいた。

 

 

 

芽吹ちゃんに導かれるまま、わたしの中で絶対に変わらない思いを口にした。

 

 

 

「……銀ちゃんともう会えないなんて、イヤだよ…」

 

「…そう。…それが普通の反応よ」

 

「………………」

 

「それでいいのよ。私は普通でいられないだけだから。乃木芽吹として…銀の弟子として、私は偉大な勇者の意志を引き継いだのだから」

 

 

 

普通でいられない。

 

芽吹ちゃんが遠くに感じてしまう一番の理由。

 

人としての当たり前の感情を封じ込めて、銀ちゃんの思いを遂げるために尽くす。

 

 

 

______そこに、芽吹ちゃんの意志は存在しない。

 

 

 

「…あいつに同調したいのなら、止めはしないわ。その時は敵になるだけ」

 

「!!」

 

「私だけはあいつに同調しない。偉大な勇者に背を向けたあいつだけは、許すつもりはない」

 

 

 

夏凜ちゃんをここまで軽蔑する理由。

 

それは、銀ちゃんの苦しみを理解しようとしないから。

 

 

 

夏凜ちゃんも銀ちゃんの苦しみをわかってるはずなのに。芽吹ちゃんもほんとは銀ちゃんと一緒にいたいはずなのに。

 

一度すれ違ってしまったら、もう戻れないのかな______

 

 

 

 

 

 

「…聞きたいことは他にある?」

 

「……銀ちゃんの、…あの霧を吹く船はなに?」

 

「…友奈も見てたのね。…銀が外の世界のバーテックスを廃滅するための力よ。あの霧で世界を包みこんで、バーテックスを駆逐してる」

 

「………………」

 

「…この霧が晴れた時、神世紀300年の戦いの幕が降りる。銀が終わらせてくれる。だから、私たちは次のステージに上がる準備をしなくちゃいけない」

 

 

 

大赦のトップとして、国民を取り戻した世界へ帰さないといけない。銀ちゃんの願いを叶えるためには絶対に避けては通れない道。

 

 

 

決して楽な道じゃないのは、わたしでもわかる。銀ちゃんみたいに、芽吹ちゃんはイバラの道から逃げずに進んでいく。

 

 

 

______芽吹ちゃんは、銀ちゃんと同じ道を行こうとしてる。自分の全てを捧げることになるのをわかってて、覚悟を決めて一歩ずつ。

 

それは______芽吹ちゃんとも二度と会えなくなるかもしれない、ということだ。

 

 

 

「…夏凜ちゃんがどうやって銀ちゃんを助けようとしてるかって、芽吹ちゃんはわかる…?」

 

「………………。…あの蛇を倒す、って会見で言ってたわ」

 

「あれって…バーテックスのことじゃなかったの?」

 

「…ここから言うことは誰にも言い触らさないって約束できる?」

 

「…わかったよ。わたしと芽吹ちゃんの秘密」

 

 

 

意外にも渋ることなく教えてくれるみたいだ。トップシークレットなことだと思ったのに。

 

 

 

「…既にバーテックスの大半は霧に飲まれて消滅したのを外に出て確認してる。外敵からの脅威はもう存在しない」

 

「霧は危険じゃないの?」

 

「直接触れれば命に関わるけど、四国に上陸することはないわ。銀が制御してるし、神樹が大気を守ってるから」

 

「霧は完全に、銀ちゃんの力なんだね」

 

「そうじゃなかったら、今頃四国は霧に包まれて全滅してるわ」

 

 

 

わたし達防人の元のお役目がうやむやになったのも、外の世界が一変したからってことか。それで、大赦に武力で反抗する人たちを抑える部隊に変わった。

 

今の問題は四国の内側だけわかって少し安心した。芽吹ちゃんと夏凜ちゃんが仲直りできれば、全部解決できる。

 

 

 

______一番気になることは。

 

 

 

「______銀ちゃんがバーテックスを全部倒したら、銀ちゃんはどうなるの…?」

 

「…この世界にはいられなくなる。神樹も天神もいない、神の力が働かない世界じゃ…現人神となった銀は存在できない」

 

「…そんな…」

 

「……それが銀の望みよ。銀が銀の感情から解放されるには、それしかない」

 

 

 

銀ちゃんの感情______須美様と園子様を奪ったバーテックスへの恨み。銀ちゃんから自由を奪った大赦…大人たちへの怒り。大切な人を守らなきゃいけないことへの怖れ。

 

この世界に生きる誰よりもそれを感じてきた銀ちゃんだ。その負担はわたしなんかじゃわからないほど、心が壊れてしまうほどに大きいんだ。

 

 

 

誰よりも優しい銀ちゃんでも、それを耐え続けることはできないんだ。休まなきゃいけないんだ。誰もたどり着けない場所で。

 

 

 

「…須美様って、さっき言ってたけど…」

 

「…この義眼は、須美様と繋がってるのよ」

 

「…え?」

 

「どこかで生かされてる須美様が、私に助言をくれる。一緒に戦ってくれる」

 

「…ってことは、夏凜ちゃんの義手には園子様が…?」

 

「…察しがいいわね、その通りよ。銀を支えてくれた人間同士が、こうして銀のためを思って争ってる」

 

 

 

芽吹ちゃんは鼻で笑った。こういうのを“ヒニク”って言うのよって顔が言ってる。

 

______須美様は、どう思ってるんだろう?

 

 

 

「…ありがとう、芽吹ちゃん。いろいろ話してくれて」

 

「友奈も銀の大切な人だから。…できる限り真実を知ってほしい。…このお守りの願いは叶えられないかもしれないけど、…私にとってもあなたは大切な人よ」

 

 

 

芽吹ちゃんの手には、わたしが三人におくったシロツメクサのお守り。少し血で汚れてるけど、大切に持ってくれてて嬉しくなった。

 

 

 

「…芽吹ちゃん。…芽吹ちゃんは、いなくならないでね…?」

 

「…もちろんよ。不死身の勇者の後継者だから」

 

 

 

______芽吹ちゃんの無事を願うのに、わたしは芽吹ちゃんの行く手に立ちふさがらないといけない。夏凜ちゃんと仲直りさせるなら。

 

 

 

どうすればいいの、わたし______

 

 

 

もう、全然わからないよ______

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「…っ!…これじゃ、あいつに勝てない…」

 

「ちょっと根つめすぎだよぉ三好さぁん」

 

 

 

芽吹との一戦以降、私の鍛錬の度合いは一層厳しくなった。一緒に戦術を磨いてる国士たちにもいさめられるくらいには。

 

 

 

私はほとんど圧倒されていた。芽吹が手にしたあの刀______生大刀が私たちの実力を引き離してしまった。園子の助太刀がなかったら完敗してた。

 

初代勇者が振るったとされる妖刀。この刀に選ばれた人間こそが乃木家の当主…つまり大赦の最高権力者となる権威の象徴。最新の勇者システムに適合したならば、その神具としての力も比類なきものになっている。

 

 

 

私がその差を埋めるには、鍛錬しかない。大昔の神具も、勇者システムの強化計画も私にはない。

 

______焦り。今一番感じてるのは、芽吹との実力差を見せつけられて何者かに追い立てられる感覚。

 

 

 

このままじゃ、あいつの好敵手でいられない。

 

 

 

「…なんてことないわ。このチームのリーダーなんだから、模範を示さないと」

 

「勤勉すぎる模範なんていらないってぇ」

 

「…あんたが一番知ってるはずよね?雀。防人がどんなに強敵かって」

 

「…うん。風先輩が適格に指示してるし、チームとしての一体感は私たち以上かも」

 

 

 

ゴールドタワー強襲作戦で確保した防人三名は、国士として戦うことを志願した。

 

その一人…加賀城雀は臆病ながらも危険予知とその対策において並外れた能力を持ってる。自信さえ自覚できれば、部隊を動かせる人材になり得る。

 

 

 

「それでも雀は私の側についた。…あんたには期待してるわ」

 

「…無理です。私はただ身を守るので精一杯で」

 

「身を守るってことは、予め危険を摘むってことよ。あんたにはそれができる」

 

「私が守る、って言ってくれないのぉー!?」

 

 

 

______臆病というより、他力本願なのかしら。この子は私の力に惹かれてこっちに来たわけだし。

 

でも、私を越える存在が敵になった。もう後には退けないし、雀も焦ってるのかも。

 

 

 

この子たちを守れるのは、私だけ。乃木芽吹という最強の敵と渡り合えるのは、私だけ。

 

私の肩に乗った重荷は、気付けば大勢の仲間の命を預かることと同じになった。だから全身全霊で、一つの手落ちなく努力をしないといけない。

 

私がしくじれば、この子たちも道連れになる。

 

 

 

「守るためには強くならなきゃ。強くなるためには鍛錬あるのみよ」

 

「ああ、何言っても聞いてくれない。みんな三好さんのこと心配してるのに」

 

「少し気負いすぎですよ、閣下。乃木芽吹と戦ってから」

 

「いくら同じ師から学んだライバルとはいえ、意識しすぎです」

 

 

 

「…銀様から同じことを学んだのに、なんで乃木芽吹は大赦にいるんだろう?」

 

「大赦の老害の傀儡にされているのではないのか?」

 

「…!!違う!!あいつは…そんなヤツじゃない!」

 

 

 

声を荒らげてしまった。

 

どんな状態でも、どんな立場でも、あいつは私が認めた唯一の好敵手だ。その人がただの操り人形だなんて、認められるわけがない。

 

 

 

私の拒絶が伝わってしまったのか、国士たちは黙ってしまった。一応、乃木芽吹に関しては接触を禁じてるし、この話題は二度と上がらないだろう。

 

 

 

「…ごめん。ちょっと熱くなった」

 

「こちらこそ、出過ぎたことを申しました。陳謝します」

 

「少し休んだ方がいいって、三好さん」

 

「…そうね。焦る必要なんてないものね」

 

 

 

そう自分に言い聞かせて、力を抜いた。

 

 

 

______それと同時に、我慢の糸が切れた。

 

 

 

「!!閣下!!」

 

「ちょっと!大丈夫!?」

 

「…平気よ」

 

 

 

意識が揺らいで足元が覚束なくなって、めまいでも起こしたように倒れ込む。

 

 

 

______私の身体は、あの大蛇の毒に侵蝕されている。呑み込まれかけた、あの時から。

 

口の中には我慢した血ヘドがのさばってる。吐いてしまうと余計な心配をかけてしまうから、絶対見せてはいけない。

 

徐々に弱っていく感覚を嫌でも思い知らされる。霊科学者の話だと、勇者の力もどんどん弱まっているらしい。神樹が忌み嫌う、不浄が溜まっているとか。

 

 

 

〈…にぼっしー。どうしてそこまで一人で背負い込もうとするの?〉

 

(…これは私の戦いだからよ。他の誰かに指図される筋合いはない。たとえ、銀を支えた勇者…乃木園子だとしても)

 

〈…せめてメブーには言っておこうよ。にぼっしーまでいなくなったら…メブーはひとりぼっちになっちゃうよ〉

 

(そんなの関係ない。銀を助けるためならなんだって犠牲にできる。…芽吹でさえも)

 

 

 

私に語りかけてくる園子の声は、いつもいさめる言葉だ。銀に私のことを任されたって言うけど、…関係ない。

 

 

 

 

 

 

______私に残された時間は、わずかだ。

 

勇者の力が消える前に、銀を取り戻さないといけない。

 

焦りの煙が私の心をいぶしていくような感じがして、精神も蝕まれて痛む。

 

 

 

 

 

 

銀はこの焦燥に打ち勝ったんだ。私も絶対に、乗り越えてみせる。

 

 

 

 

 

 

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