シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

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銀ちゃんと同じ場所に行こうとしてる

 

 

 

「犯人は人質と共に客船内に立てこもってこちらに要求を突きつけてきてます。大赦を解体し政権を浪士に譲渡しろ、と」

 

「大胆なことをしますわね。船をジャックするとは」

 

 

 

奪還作戦の当日。わたし達は徳島港にいた。

 

今日も今日とて浪士と思われる暴動を鎮圧に向かった。でも、船のジャックの制圧は初めてだ。

 

奪還作戦に人数をあてたから、こっちに来た防人は六人。それでこの規模の大きい暴動を抑えるのはなかなか厳しそう。

 

現場のリーダーを任された弥勒先輩もなかなか難しい顔をしてる。

 

 

 

「警察や海保も包囲はしてますが、本格的な武装をしていて手が出せない状況です」

 

「国防仮面…国士の存在は確認できてますか?」

 

「いえ、犯人グループは全員成人です。まだ国士の姿は確認できてません」

 

 

 

先に現場に到着していた警察の人から状況を教えてもらう。芽吹ちゃんのはからいで公権力の関係者とは連携が取れるようになったから、スムーズに作戦を立てられる。

 

ほとんどロストテクノロジー?になってる火薬を使った銃を持ち出して、客船を占拠する犯人。わたし達には効かないけど、普通の警察官じゃ対応できない状態だ。

 

わたし達が警戒しないといけないのが、国士がいるかどうか。もしこの場にいるとなると、無茶な作戦はできなくなる。

 

 

 

「承知しましたわ。こちらで人質を救出しますので、引き続き警戒をお願いいたしますわ」

 

「お願いします。こうなっては防人の皆さんだけが頼みです」

 

「わたくし達にお任せあれ。乃木教導の剣である防人が、ズバッと解決いたしますわ」

 

 

 

芽吹ちゃんの剣、か。

 

その一言でみんなのやる気がさらに高まった気がした。みんな芽吹ちゃんの理想のために力になりたいんだ。

 

 

 

「人質の救出は少人数で行うべきですわね。結城さんと戸郷さん、お願いできますか?」

 

「承り!友奈ちゃん、やるよ!」

 

「はい!結城友奈、人質の救出に向かいます!」

 

 

 

戸郷先輩とわたしがひそかに船内に潜入して、人質を救出することになった。他のみんなは待機して、いつでも制圧に迎えるように準備してる。

 

戸郷先輩は芽吹ちゃんや風先輩も一目置く防人のまとめ役的な人。空回り気味な弥勒先輩を支える副リーダーって感じだね。

 

 

 

芽吹ちゃんの会見まであまり時間はない。それまでに人質を救出して、国士さん達をお出迎えしてあげないと。

 

 

 

「結城さん」

 

「はい、なんですか弥勒先輩」

 

「もし戦闘になった時…戦えますの?」

 

「…はい。人質の安全が確保できないなら、______わたしは戦います」

 

「友奈ちゃん。気張らなくていいよ。私がそうはさせないから」

 

「そうはいいましても戸郷さん。仮に国士に囲まれたとしたら、結城さんの力なしでは貴女も危険ですのよ?」

 

「…まあ。その時は友奈ちゃん、お願いね」

 

「任せてください!」

 

 

 

わたしの力があるのが前提で潜入を任されたってことだ。

 

芽吹ちゃんのものよりさらに進化した勇者システム。防人の装備やそれが原型になってる国士の装備じゃ性能が全然違う。芽吹ちゃんが言うには、戦いにすらならないくらい圧倒できるって。

 

 

 

______そんな力をぶつければ、国士のみんなは無事では済まない。一つ間違えれば、簡単に命を奪ってしまう。

 

それが怖い。明るく返事をしたけど、いざという時に拳を振るえる自信がない。

 

 

 

「船の見取り図はモバイルに送付いたしましたわ。なるべく犯人との接触は避けて、まずは人質の場所を探し当ててくださいな」

 

「はいよ!」

 

「結城友奈、いきます!」

 

 

 

 

 

 

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「……弥勒たちが動き出したわ」

 

「……ほんとに国士が、動くのかな…?」

 

「芽吹の言うことを信じるしかないわよ。まあ、居城をガラ空きにするわけでもないから戦闘は避けられないわ」

 

「この激戦を芽吹先輩ナシで、ですか」

 

「…それをやれるって、芽吹は期待してくれてるのよ」

 

 

 

「最後に確認よ。三好夏凜との接触は厳禁。遭遇したら全力で退避すること」

 

「「「了解!」」」

 

「相手がしつこく追ってくるならあたしに報告して。…勇者のあたしなら、いくらかマシに戦えると思うから」

 

「……怒られるのは、隊長だけってこと…?」

 

「…あたしが代表して怒られるから、何とか一矢報いるわよ!」

 

「樹ちゃんの仇、ってわけですね」

 

「……芽吹には悪いけど、あたしは黙ってられないのよ」

 

 

 

「各員、潜伏開始!合図があるまでじっと隠れてるのよ!」

 

「「「了解!」」」

 

 

 

 

 

 

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「……誰もいないですね」

 

「犯人グループも一人も見当たらないのもおかしいよ。いくら広い船とはいえ」

 

「まさか海から上がってきたなんて考えもしないんじゃないですか?」

 

 

 

船への潜入はあっさり成功した。海から船体を登って通用口から入り込んだ。港側ばかり見てた犯人には死角になってる。

 

防人の…勇者の身体能力があってこその作戦だ。これまでも相手の想像を越える作戦で、わたし達は素早く任務を達成してきたんだ。

 

 

 

でも、誰も見当たらないのは予想外。犯人グループの見回りがいるかなと思ってたから。

 

 

 

「さっさと人質を見つけて芽吹ちゃんの会見を始めさせてあげないと!一般人相手なら多少強引にでもいけるし!」

 

「そう、ですね」

 

「……友奈ちゃんは手を出さないでいいよ。友奈ちゃんが殴ったら、犯人死んじゃうもんね」

 

「え?…あ…はい」

 

「友奈ちゃんは人質の保護を優先して」

 

「わかりました」

 

 

 

国士ですら命を取りかねない威力の拳だ。普通の人ならどれだけ手加減しても命の保証はできない。

 

戸郷先輩は精一杯配慮してくれた。犯人の制圧は先輩がやるから、人質を保護するのをやってほしいって。

 

時間も迫ってるし、先輩の提案に乗るしかない。

 

 

 

「そうと決まれば犯人のいる場所に直行!」

 

 

 

人質が犯人とは別の場所にいる可能性を探すはずが、犯人を制圧してから探すことに。人質と犯人が一緒にいる可能性も高いけど、万が一別だった時人質が危ない。

 

その時は、わたしが全力でやらないと。

 

 

 

 

 

 

外からの監視で犯人がいると思われる船室の前に来た。展望デッキにつながる、見晴らしのいい部屋だ。

 

 

 

「防人7番より20番どうぞ」

 

〈20番ですわ。今どちらに〉

 

「展望デッキ前です。船内下部には人影が見られませんでした。恐らくここに人質も犯人もいるものと思われます」

 

〈了解ですわ。突入、しますのね〉

 

「はい。後詰め、お願いします。本隊が突入できそうなタイミングで連絡します」

 

〈承知しましたわ。あなたがしくじるとは思ってませんけれども、警戒を怠らずに〉

 

「ふふ、芽吹ちゃんが言いそうなセリフ」

 

〈おほほ、そうですわね。では、参りましょうか〉

 

「芽吹ちゃんが何をしゃべるか、結構楽しみだからね!」

 

 

 

弥勒先輩に本隊突入の依頼をして、通信を終える。

 

先輩もわたしも、深呼吸してから扉に向き直った。精霊の“牛鬼”もふよふよとわたしの周りを浮かんで準備万端だ。

 

 

 

「先輩。扉はわたしが抜きます」

 

「ゲートロックも友奈ちゃんの前じゃ意味ないって?」

 

「はい。…いきます!」

 

 

 

力を込めて分厚い鉄の扉をカカトで蹴る。ゲートバーも蝶つがいもお構いなしに、一撃で扉は吹き飛んだ。

 

すかさず先輩が煙幕弾を投げ込んで突入。防人のバイザー越しなら、煙で見えなくても人の存在が感知できる。

 

 

 

「私が犯人を抑える!友奈ちゃんは人質を探して!」

 

「アイアイサー!」

 

 

 

突然視界を奪われた犯人は、手にした武器を使うこともできず戸郷先輩の一撃を受けて鎮圧される。弾を撃たずにストックで殴り倒すのはせめてもの情けだと思う。

 

わたしも煙幕をかき分けて人質を探す。目で見えなくても気配みたいな感じで人がいるかどうかを感じ取れる。

 

窓際から離れたカドに縛られた人がいるのを見つけた。ケガとかはしてないみたいだ。

 

 

 

「大丈夫ですか!?防人が助けにきましたよ!!」

 

「防人!?本当に助けにきてくれたんだ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「安全を確認してから脱出しますから、ちょっと待っててくださいね!」

 

 

 

人数を確認してる間に、戸郷先輩は部屋の犯人を全部片付けた。きっちり拘束具もはめて制圧完了。増援を呼ぶ必要もなかったんじゃないかな。

 

 

 

「こっちは片付いたわ。犯人の人数は情報と合致してるけど、人質の方はみんないる?」

 

「…いえ、ここにいるのは三人だけみたいです」

 

「あと二人!別の部屋に閉じ込められてると思います!」

 

「情報ありがとうございます。友奈ちゃん、先に三人を連れて船を降りて」

 

「はい!先輩はどうするんですか?」

 

「犯人を引き渡すまでここで待機ね。人質の捜索は弥勒に任せるわ」

 

 

 

後は人質を探すだけだから、戦力は必要ない。救出した人を安全な場所に早く送り届けるのが任務だ。

 

三人も場所までは知らなかった。手当り次第に探すしかない。救助者を見送ってわたしも捜索を手伝わないと。

 

 

 

「…でも、芽吹ちゃんの勘も外れたってことなのかな」

 

「国士、いませんでしたね」

 

「どこかからこっちの情報が漏れてて高知城に全員いたとしたら、マズくない?」

 

「そう、ですね」

 

 

 

あまり考えたくない予想を先輩は口にした。減らした戦力で国士の総力と戦えるとは思えない。芽吹ちゃんがいないだけでもかなりキツいのに。

 

 

 

「本隊に報告しておきますか。…防人7番より20番」

 

〈20番ですわ。どうなさいましたの?〉

 

「報告です。展望デッキの制圧は完了しました。人質三名を救出。犯人全員を確保。国士は発見できず。本隊に、残された人質の捜索を要請します」

 

〈了解しましたわ。犯人は機動隊に引き渡しますので、警戒を続けてくださいな〉

 

「承知。救出者は結城が護送しますので、レスキューに取り次いでください」

 

〈承知いたしましたわ。…くれぐれも、警戒を怠らぬよう〉

 

「弥勒がそれ言うのはやっぱり似合わないね。…りょーかい」

 

 

 

本隊への報告も済んで、もうほとんど作戦は終了した。いつも通りの簡単な鎮圧作戦だった。

 

 

 

 

 

______この船に罠が仕掛けられてたのを知らなかったから、そんなことを思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

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「…え?国士がいない?」

 

〈ええ。突入部隊が制圧したのですけれど、武装した一般人しかいなかったと〉

 

「…そっちに国士がいるのを確認してから作戦開始なのに、これじゃ始められないじゃないのよ」

 

〈……乃木教導に報告した方が良いのでは?〉

 

 

 

〈その必要はないです〉

 

〈わっ!乃木教導!?〉

 

「芽吹、聞いてたの?」

 

〈ええ。…船内に国士は必ずいます。十二分に気をつけてください〉

 

〈罠をはってる、ということですの?〉

 

〈恐らく。どんな手で来るか、予想が付きません〉

 

 

 

「でもさ、立てこもり犯を見捨てるっておかしくない?」

 

〈所詮使い捨ての手駒としか思ってないということでしょう。犯人の要求が通るとは微塵も考えていないってことです〉

 

「じゃあ、国士の目的は?」

 

〈…私たち、です。防人と戦い、討ち取ること。国士が存在するのは大赦の最後の砦である防人を殲滅し、勝利宣言をするためです〉

 

 

 

〈…では、今この瞬間にもわたくし達は狙われていると?〉

 

「はい。そのためにこんな大きな船舶をジャックするなんて大掛かりな作戦を立てたようです」

 

〈…この船自体が罠ということですのね。わかりましたわ〉

 

〈弥勒さん。…指揮官としての成果、期待してますよ〉

 

〈ええ。搦め手など正面から蹂躙してやりますわ!〉

 

 

 

〈風さん、時間です。作戦を開始してください〉

 

「…あんたのこと疑うワケじゃないけどさ。なんか、腑に落ちないのよね」

 

〈…絶対上手くいきます。今回の作戦で、五分と五分に持ち込めます〉

 

「…わかった。四国を守る勇者様のためにも、一肌脱いでやろうじゃない」

 

 

 

 

 

 

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『四国の皆さん、お初にお目にかかります。大赦を代表して乃木家当主、乃木芽吹が現状に対して所信を表明いたします』

 

 

 

港に待機していたレスキューの人に救助者を引き継いでる途中で、ラジオやテレビから芽吹ちゃんの声が聞こえた。

 

始まったんだ。芽吹ちゃんの演説が。

 

 

 

『まず、大赦の離反者…浪士に起因するテロリズムについて。我々は断固としてこれを認めず、一切の譲歩や妥協なく根絶することを宣言します』

 

 

 

夏凜ちゃんのものとは違う、明らかに浪士を排除するという意志が伝わる。聞いてる人に応援をお願いするんじゃなくて、自分がやることを強く訴えかける言葉。

 

芽吹ちゃんの言葉はいつもそうだった。誰かを動かす言葉じゃなくて、自分の意志を示す言葉。その強さに惹かれた人だけが、芽吹ちゃんについていく。

 

 

 

『現在、私と志を共にする鎮圧部隊…防人が徳島港で起こったテロ事件に対処しています』

 

 

 

テレビの画面が切り替わって、犯人をしばり上げて待機してる戸郷先輩が映る。監視カメラがあるのはわかってたけど、いつつないだんだろう?

 

 

 

『既に制圧は完了し、人質の身柄も確保しました。我々はいかなる状況においても、確実に作戦を遂行します』

 

『どれだけテロリストが抵抗しようが、どれだけ浪士が力をつけようが、我々が敗北することはありません』

 

『なぜなら、我々は未来を現実にする力があるからです。外の世界を人類のもとに取り戻す用意があるからです』

 

『300年前、初代勇者乃木若葉様が描いた理想。それを実現するために、私はこの場に立っています』

 

 

 

芽吹ちゃんの声色は変わらないけど、理想を語る言葉には心を圧倒する力がある。警察官も、レスキューも、救助者も聞き入っていた。

 

 

 

『非道な暴力を振るう浪士に、我々は必ず裁きを下します。望まない思想を強要された仲間は、必ず取り戻します』

 

 

 

また画面が切り替わって、今度は高知城に突入した風先輩たちが映る。少人数で立ち向かう国士に対して、防人のみんなは集団で押し込んでいる。

 

作戦は上手くいってるみたいだ。こっちには国士がいなかったけど、高知城にいる戦力は本当に少ないらしい。

 

 

 

『今の戦闘は、囚われた仲間を救出するための作戦です。浪士たちの根城に強行し、危険を顧みず仲間を迎えに行く』

 

『我々は決して誰も見捨てません。我々に立ちはだかる者以外は必ず次のステージに導きます』

 

 

 

敵は非情なまでに叩いて、味方には最大の敬意をもって接する。聞いてるみんなの意志に問いかけた夏凜ちゃんとは逆の、脅迫的な選択を人々に突きつけた。

 

芽吹ちゃんはそういう人だ。銀ちゃんの優しさを継いだのが夏凜ちゃんなら、銀ちゃんの強さを受け取ったのが芽吹ちゃんだ。

 

 

 

『外の世界へ乗り出すのに不適切なものは、たとえ大赦の人間でも排除します。自由を生きるという人類種の意思に反し既得権益にすがることは、勇者三ノ輪銀の名において撃滅します』

 

『暴君、と言っていただいても構いません。これまで四国を護ってきた勇者たちの意志を、未来への願いを踏みにじる者は、実力を以って排除します』

 

 

 

______これまで大赦がやってきたことに、芽吹ちゃんも怒ってるのは同じだった。夏凜ちゃんと同じ。

 

だから、内側から治していく。暴君と言われようが、どんなに痛い荒療治だろうが、芽吹ちゃんはやり通す。

 

 

 

『私たちと同じ未来を見ることを願う人には、全てを打ち明けます。過去に大赦が欺瞞した真実を。生け贄に等しい処遇を受けた人たちのことを』

 

『それを皆さんに伝えること…これからも忘れないように語り継ぐことが、私にできる贖罪です。大赦の首長として、皆さんにできるせめてもの報いです』

 

『この騒乱を平定した時に、全て開示します。それまでは…私を信じて待っていてください』

 

 

 

画面の向こうの芽吹ちゃんは深々と頭を下げた。大赦を代表して、これまでの不祥事を謝罪したいってことなのかな。

 

その後には、たった一つの国民へのお願い。待っていて、と。

 

 

 

______銀ちゃんの影が、芽吹ちゃんに重なる。その意志の強さも、その魂の不安定さも。生き写しって言葉しか出てこない。

 

私はすごく不安になった。芽吹ちゃんが銀ちゃんの後を追ってる気がして。

 

銀ちゃんのことを割り切ってる芽吹ちゃんだけど、ホントはまだ銀ちゃんのことで頭がいっぱいなんだ。無意識の内に銀ちゃんを追って______

 

 

 

 

 

 

______銀ちゃんと同じ場所に行こうとしてる。

 

 

 

『これにて、会見を終了します。神樹様のご加護が、皆様にあらんことを』

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「…ふーん。いかにもアイツらしい会見ね」

 

「!!夏凜!!」

 

「来てやったわよ、風。私と戦いたいんでしょ?」

 

 

 

芽吹の会見を見て、別に焦ったわけじゃないけど。警護に当たってた国士がやられたのを聞いて、出向いてやった。

 

もちろん、風と戦ってやるため。売られたケンカは買わないとモヤモヤするし。

 

 

 

「…くっ!みんな散開して!私がここを抑えるから!」

 

「「「りょっ、了解!!」」」

 

 

 

私の姿を見たらなりふり構わず突っ込んでくると思ったけど、最低限の指揮はとって防人たちを分散させた。

 

目的は______あの子たちの奪還ってとこかしらね。どうでもいいけど。

 

 

 

「しかし、なめられたもんね。芽吹抜きで本拠地に乗り込んでくるなんて」

 

「その程度ってことでしょ。あんた達の脅威なんて」

 

「なんでもいいけど。目の前の敵は殲滅するだけ」

 

 

 

戟を手にすると、風も大剣を前に構えた。

 

表情を見れば、今にも怒りに任せて剣を振ろうとしてるのがわかる。でも、動き出さない。

 

時間稼ぎ、か。防人の連中があの子たちと接触するまでの。風はどんな状況にいても、“お姉ちゃん”なのね。

 

 

 

______じゃあ、どれだけ持つか試してやろうじゃない。

 

 

 

「でもいいの?あの子たちを指揮できる人、あんたしかいないんじゃない?」

 

「何を敵の心配してんのよ」

 

「烏合の衆じゃウチの部隊の相手になるかって」

 

「…!それはそっちも同じでしょ!」

 

「私が無策で一人出張ってくると思った?ここは私たちの本拠地なのよ?」

 

「…何をしようってのよ」

 

「話すと思う?」

 

「ここで聞き出すだけよ!」

 

 

 

挑発に乗ってきた。大剣を振りかぶって詰め寄ってくる。

 

そんな大振り、受け止めるまでもないけど。力の差を教えてやらないといけないから、敢えて柄で防御する。

 

 

 

「そんなもん?所詮実戦経験のない急造勇者ってわけ?」

 

「何を!」

 

「その程度で私の前に立つなって言ってんのよ!」

 

「うわっ!」

 

 

 

力で押し切ろうとする風を、それを上回る力で押し返す。パワーだけなら芽吹を超えてるけど、私が押し負けるほどじゃない。

 

弾き返された勢いを殺しきれずに尻もちをつく風。かばい立てした精霊は吹き飛ばされ、風は切っ先でなでられた肩を手で抑える。

 

 

 

______私にも、あの霧の力…邪神の力が巡ってるのかもしれないわね。それならバリアを貫ける理由になる。

 

これをさらに研究すれば、国士たちでも勇者に対抗しうる力を持たせてあげられるかも。

 

 

 

「あんたの覚悟はそんなもん?樹のケガの落とし前、付けに来たんでしょ?」

 

「…そうよ。芽吹の信頼を裏切って、友奈を惑わせて、銀の大切なものを傷つけた。…あたしは絶対にあんたを許さない…!」

 

 

 

言葉で怒りの導火線に着火したみたいだ。表情が一段と強ばる。

 

それよ。その表情が見たかった。憎しみで周りが見えなくなる。人の感情がむき出しになった行動をする。

 

それが“自由”よ。銀が求めた自由。

 

 

 

「御託はいいわ。さっさとかかってきなさいよ」

 

「余裕ぶって…!」

 

 

 

風の余裕がどんどんなくなってるのを見て、少し笑えてくる。

 

ヒール役になったつもりはないけど、そういうのを見て感情が昂ぶってる。悪役は芽吹の方が似合ってると思うけど。

 

 

 

「実際余裕だし。真の勇者は私だってこと、見せつけてやる!」

 

「違う!真の勇者は芽吹よ!!」

 

「…!」

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「ここね、情報通りなら」

 

「さっさといけよ。俺が敵を食い止めとっから」

 

「お願いシズク。…よし、行こう!」

 

 

 

 

 

 

「ハロー。元気にしてた?」

 

「うん、元気元気。…久しぶり」

 

「久しぶりだね。迎えにきたよ」

 

 

 

「……それはいらないかな」

 

「え?」

 

「これを見ても、まだ私を防人って言うの?」

 

「……その格好!国防仮面!?」

 

 

 

「私は国士になった。…大赦が防人をどういう扱いをしてるか、知ってる?」

 

「え?」

 

「使い捨ての雑兵だって。こんな無茶な作戦をさせること自体、おかしいと思わなかった?」

 

「……おかしくないよ」

 

 

 

「芽吹ちゃんは私たちを雑兵だなんて思ってない。志を共にする勇者だって言ってくれた」

 

「…そう。…でも、私を勇者と言ってくれる人は三好閣下だから」

 

「…気持ちは決まってるのね。なら私はもう何も言わない」

 

「…でも、これだけは言っておくわ。迎えに来てくれて、ありがとう」

 

「うん。…二度と会わないことを願うよ」

 

「そうだね。…一つだけ教えてあげる。亜耶ちゃんと雀ちゃんは、ここにはいないよ」

 

「わかった。教えてくれてありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイオイ!なんであっさり引き下がってんだよ!あいつを迎えにきたんだろ!?」

 

「……あの子の言うことも、わかるんだ。浪士たちの主張も、三好夏凜を信頼してることも」

 

「バカじゃねぇのか!?どう考えたって脅されるか洗脳されてるだけだろ!」

 

「そうなのかな。それは、私たちも同じじゃない?」

 

「…は?」

 

 

 

「芽吹ちゃんが絶対正義って、誰が保証してくれるの?私たちも芽吹ちゃんに思想を吹き込まれてるだけなのかもしれないよ?」

 

「んなこと聞いてんじゃねぇんだよ!なんで簡単に仲間のこと諦めてんだよ!」

 

「思想を強要するのが、仲間なのかな?私はそうは思わないし、私は納得した上で芽吹ちゃんについてくって決めたから」

 

「テメェも三好や天子の会見を見て頭おかしくなっちまったのか!?」

 

「…結局、何を信じるかは自分で決めなきゃいけないよ。…そこだけは天子の言ってたことに同意できる」

 

「…どいつもこいつも!!何をオトナぶってやがんだ!」

 

 

 

「4番より1番。目標の確保に失敗しました。目標は…国士になっていました」

 

〈………………了解よ〉

 

「別の情報も取得しました。加賀城と国土は高知城にはいません」

 

〈…わかった。撤収の準備をして〉

 

「……クソッ!」

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「作戦は失敗かしら?隊長さん」

 

「全部わかってて何よ!!あの子たちが寝返ったのをわかってて、こんな茶番を!!」

 

「勝手に仕掛けてきたのはそっちよ。それに、私と天子の言葉は、ちゃんと防人にも伝わってただけ。全部あんた達の思い通りにいくとは思わないことね」

 

 

 

防人の隊員から作戦失敗の報せを聞いた風は、逆ギレ気味に吠えた。負け犬の遠吠えってヤツね。

 

少し楽しくなってきて、さらに煽ってやる。いつ怒りに任せて襲いかかってくるか。指揮官なら、ここは退かないといけないけど。

 

 

 

「…それで?まだやる気?」

 

「……くっ!!…もうここには用はないわ。あんたにも」

 

「樹の仇討ちに来たんじゃないの?手も足も出なかったって情けなく撤退するわけ?」

 

「あたしの事情だけじゃないのよ。真の勇者を、勝利に導かないといけないから」

 

「あいつをそんなに持ち上げたいか。部隊の被害を顧みない、冷血な暴君を」

 

「志を投げ出した半端者より、ずっと信用できるわよ」

 

 

 

______気に入らない。

 

 

 

どうしてあいつが、人の気持ちがわからないサイコ野郎がここまで信用されてるのか。あいつも何かが変わったのか。

 

私は何も知らない。誰よりもあいつのことを知ってるつもりだったのに、乃木芽吹のことは何もわからない。

 

 

 

「…まあいいけど。ここからは私たちの反撃だから」

 

「は?」

 

「船に乗り込んだ連中、無事に帰って来られるかしらね?」

 

「バカにしないで。あの子たちだって芽吹が認めた勇者よ」

 

「まんまとおびき出されたとも知らずに。ハメられたのはそっちよ」

 

 

 

 

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