シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

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戦う理由が、見つけられた

 

戸郷先輩の葬儀は内密に行われた。参列者は家族と防人隊員と大赦関係者だけ。

 

 

 

戸郷先輩のご両親に、いつまでも誠心誠意陳謝する芽吹ちゃん。

 

自分の娘より年下の女の子にここまで頭を下げられたら、怒りをどこにぶつけていいかわからなくなる。ご両親はただ涙を流しながら芽吹ちゃんの謝罪の言葉を聞くしかなかった。

 

 

 

戸郷先輩と仲がよかったメンバーも、先輩の棺桶の前で泣きながらしゃべりかけてる。

 

ちょっと思い込みが激しいけど、頼りになる先輩。防人の任務に誰よりも誇りを持ってた先輩。芽吹ちゃんの理想を絶対実現させようねと、みんなに言い広めてた先輩。

 

 

 

「……結城さん?」

 

「…へ?…弥勒先輩、どうしたんですか?」

 

「……ひどいお顔をされてますわよ。気分が優れないのでしたら、退出してお休みになられた方が」

 

「………はい」

 

 

 

そんなに気分が悪そうに見えたのかな。

 

______もう、涙は出し切ったはずなのに。

 

 

 

あの夜からずっと、考えてた。

 

わたしが戸郷先輩と離れなければ、一人で助けにいかなければ、戸郷先輩は助かったんじゃないかって。

 

国士二人を無力化した後でも、弥勒先輩たちの救出は間に合ったんじゃないかって。

 

 

 

______でも、それはできない。どうやってもわたしは雀ちゃんやクールな国士さんを殴れない。その時点で、雀ちゃん達を撒くことはできない。できたとしても、救出は間に合わない。

 

わたしは選んでしまったんだ。戸郷先輩か、弥勒先輩たちかを。後からそこに選択肢があったことに気づいたから、後悔は知ってて選んだ時よりはるかに大きい。

 

 

 

______全部、わたしの弱さが原因だ。

 

わたしが強かったら、国士さん達をケガさせずに無力化することも、ドアの封を素早く開けることもできたはず。

 

わたしの心の弱さが敵に付け入るスキをあげてしまった。わたしの力がもっと強かったら、国士さん達をどうにかするのに時間がかかっても救出が間に合ったはずだ。

 

 

 

「…わたしは……どうしたらよかったんですか…?」

 

「……友奈さんは為すべきを為しましたわ。戸郷さんの指示を受けて、わたくし達の救出に向かった。…助けられたわたくしが言うのも何ですけれど、友奈さんは立派に任務を果たしましたわ」

 

 

 

弥勒先輩は優しくそう言って、足がおぼつかないわたしをそっと抱きしめた。

 

 

 

「…わたしは…助けることができたはずなんですっ…!戸郷先輩をっ…!!」

 

「戸郷さんはあなたに、わたくし達の救出に向かえと告げましたのでしょう?」

 

「…でもっ!…わたしが国士と戦えてたらっ……!戸郷先輩を一人にしなかったらっ…!」

 

「……後からたらればを考えるのは詮無きこと。それとも…あなたは戸郷さんの実力を侮っていたということですの?戸郷さん一人の実力では、あの場面をどうにもできないと」

 

「…!!」

 

 

 

弥勒先輩が言い放った言葉に、わたしの思考は凍りついた。

 

 

 

「あまりにそれを追及するのは、戸郷さんへの侮辱につながりますわ。いくら友奈さんとはいえ…それは許されることではないのです」

 

 

 

誰よりも誇りを重んずる弥勒先輩だからこそ、命に代えてでも仲間を守った勇者をバカにするのを許さない。

 

わたしがずっと考えてたことは、わたしを信じて送り出した戸郷先輩への侮辱であり、わたしの単なる高慢だ。

 

どんなに後悔して悲しくなっても、現在を、前を見なくちゃいけない。戦友を想うとは、同じものを感じて持った志を絶対に曲げないこと。

 

 

 

「……わたしは……」

 

 

 

現実を受け止めなきゃいけないのはわかってる。でも______

 

 

 

この気持ちを封じ込めてしまったら、わたしは二度と人と心を通わせることができなくなる。わたしがずっと信じてきた“勇者”という存在を根本から否定することになる。

 

どんなに苦しくても、仲間のために最善を尽くす人。自分の後悔を割り切って開き直るのは______

 

 

 

戸郷先輩と死別するという運命を、受け入れてしまうことに他ならない。神様の決めた運命を覆すための勇者なのに、その使命を果たせてない。

 

 

 

「……決して友奈さん一人の責任ではありませんわ。わたくしのせいでもあり、乃木教導のせいでもあり、防人全員の責任ですわ」

 

「………………」

 

「犬吠埼さんが言うように、悩んだら相談。皆で分かち合うことでしか、戸郷さんの意志に報いることはできないのです」

 

 

 

______死を美談にしないで。

 

 

 

死んだら終わりだって、雀ちゃんが言ってた。どうやっても仲間外れになっちゃうって言ってた。時間とともに遠くの人になっちゃうって言ってた。

 

わたしはイヤだ。戸郷先輩を仲間外れにしたくない。遠くの人と思いたくない。

 

 

 

「……友奈さん。外でお休みしましょうか」

 

「……はい」

 

 

 

弥勒先輩に抱えられたまま、式場を出る。

 

 

 

______弥勒先輩はわたしをはげまそうとしてくれた。楽になれる考え方を教えてくれた。周りをよく見てる、優しい人だ。

 

そんな先輩の心づかいを無下にしてしまった。でも、わたしはどうしても納得できない。

 

苦しい。割り切れない自分がイヤだし、納得しようとする自分がイヤだ。心の中がぐちゃぐちゃだ。

 

わたしだけなのかな。板ばさみになってるのは______

 

 

 

 

 

 

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葬儀が終わってゴールドタワーに戻ってきても、誰一人話す人はいなかった。襲撃事件の時より重い空気が講堂を包む。

 

公務を終えた芽吹ちゃんと神官先生が戻ってきても、誰も出迎えることはなかった。

 

 

 

「……今回の責任は、全て私にある。皆は思いつめないでくれると助かるわ」

 

 

「……ごめんなさい。私が浅はかだった」

 

 

 

芽吹ちゃんはそう切り出して頭を下げた。

 

芽吹ちゃん一人のせいじゃないのに、一人で責任を取ろうとしてる。この隊を守るために。

 

怖いくらいに、自分がない。公人としてあるべき姿を、そのまま貼りつけたみたいに。

 

 

 

 

「…私の首を差し出して済む話ならよかったけど、…でも、そうじゃない。私たちには、戸郷さんが目指していた世界を実現させる義務がある」

 

 

 

芽吹ちゃんと一緒に描いていた未来。そのために戸郷先輩は______

 

 

 

弥勒先輩たちを、…わたしを守ってくれたんだ。

 

 

 

「…今日は各自で気持ちの整理をして。明日からは…通常の任務に戻る」

 

 

「私に言いたいことがあるのなら、直接私のところまで来て。どんな罵詈雑言でも、私は受け止める」

 

 

 

そう言い残して、芽吹ちゃんは壇から降りる。

 

その後すぐに動いた人がいた。

 

 

 

______風先輩だ。

 

 

 

「芽吹」

 

「…風さん」

 

「…ごめん。あの時は…あたしもどうかしてた。芽吹だって、この隊のことを考えてたってのに…感情のまま当たって……」

 

「…謝ることじゃありませんよ。風さんが思ったことは、皆が思ってたことです。言ってくれて、私の方が救われました」

 

「……芽吹。あんたも強がらなくていいのよ。素直に自分の感情を言っても」

 

「ありがとうございます、風さん。…でも、私はこの隊の…大赦の長ですから」

 

 

 

長だから、自分の気持ちをないがしろにしてもいい______それは違うよ。

 

芽吹ちゃんの本音を聞きたい。大赦のトップじゃなくて、一人の女の子として。芽吹ちゃんだってジレンマを感じてもいい状況だから、本当の気持ちを聞かせてほしい。

 

 

 

風先輩も芽吹ちゃんを気遣って、本心を聞き出そうとしてる。

 

あの夜のあまりに人間味のない芽吹ちゃんに激怒した風先輩だったけど、冷静になってくれた。チームを崩壊させないように頑張ってる芽吹ちゃんを支えられるのは、同じリーダーシップのある風先輩だと思う。

 

 

 

「風さんこそ、思い詰めないでくださいね。自分が正しいと思ったことは積極的に発言してください。私が間違えていることもありますから」

 

「…わかった。…ホント、あんたはすごいわね」

 

「…いいえ。犠牲を一人でも出してしまった時点で、私のリーダーの素質は不十分だったということです」

 

 

 

風先輩に一礼して、芽吹ちゃんは講堂を出ていった。風先輩の心配そうな表情とは裏腹に、芽吹ちゃんはずっと“教導”の顔のままだった。

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「______しずくが言ってた“スパイ”って、本当にいるのかな…?」

 

 

 

誰も動かない講堂で、誰かがそんな言葉を放った。

 

考えたくもないことだけど、この重い沈黙を動かすにはこの話題しかない。隊員たちもその話にそれぞれ反応する。

 

 

 

「……芽吹にも言っておいたけど、芽吹からは勝手に犯人捜しをするなって」

 

「スパイに勘付かれるから?」

 

「たぶん。芽吹が調査するから下手に動くなってことでしょ。あたしもそれが一番だと思ってる」

 

 

 

風先輩が芽吹ちゃんからの指示を伝えた。みんなでみんなを疑ってたら、スパイの手がかりを見つけられなくなるのかも。

 

風先輩もスパイ捜しには乗り気じゃないらしい。芽吹ちゃんに任せるのが一番だって。わたしもそんなことしたくないし。

 

 

 

「…でも、芽吹さんだって容疑者だよ?」

 

「樹ちゃん…?」

 

「国士と接点のある人は全員スパイの可能性がある。もし芽吹さんがスパイだったら、全部もみ消されちゃうよ」

 

 

 

タワーでの生活に復帰した樹ちゃんが、戻って早々辛口な発言をした。

 

 

 

「ナンセンスよ、それは。芽吹が浪士のスパイ?大赦の首長が?」

 

「でも、一番国士と…夏凜さんと接触してるのは芽吹さんだよ。感情論抜きで事実を確認しないと、取り返しのつかないことになる」

 

「…どうしたの樹。スパイ捜しにそんなに躍起になって」

 

「……わたしもみんなの役に立ちたいんだ。何もできなかったから」

 

 

 

樹ちゃんは何かを選ぶことすらできなかった。ただ一人で、病室で待つことしかできなかった。戸郷先輩が亡くなったと聞いて、どれだけ悔しい思いをしたんだろう。

 

二度と同じ過ちを起こさないように、できることは全部やる。樹ちゃんは覚悟を決めたのかな。

 

 

 

「…気持ちはわかるけど、やるべきことはそれじゃないわ。一人で下手に動いても事態は好転しないから」

 

「………お姉ちゃんこそ。お姉ちゃんなら、もっと積極的に動くと思ってたのに」

 

「………………」

 

 

 

イヤな沈黙が姉妹の間に走る。

 

 

 

______風先輩、確かに何か変わった気がする。芽吹ちゃんに謝った時といい、樹ちゃんを諭す時といい。

 

何かが変わることにナーバスになってる、のかな。

 

何でもいいから動きたい樹ちゃんとは、真逆の方向を向いてる気がする。仲良し姉妹の間にできたミゾが、何か少しずつ大きくなってる気がする。

 

 

 

「…とにかく。芽吹がスパイ捜しを禁止したんだから、あたし達は次の任務に向けて準備をすること。……少しは芽吹の心労をわかってあげて」

 

 

 

これ以上話を広げるのは良くないと思ったのか、風先輩はこの談義を終わらせようとした。風先輩がそうしたなら、みんなも従わざるをえない。

 

 

 

「でもさ、この中にスパイがいるかもしれないって思うと気持ち悪くない?」

 

「問題はそこですよ。そんな状況じゃ、何もできないじゃないですか」

 

「でも、何かするとしても芽吹ちゃんの迷惑になるかもだし…」

 

「……私は芽吹先輩を信じます。必ず情報が漏れた原因を探り当てて対応してくれると」

 

「…信じて、いいのかな…。…乃木も、人間。…全知全能じゃない」

 

 

 

重い空気は晴れない。

 

芽吹ちゃんを信用するメンバーと、芽吹ちゃんに疑いの目を向けるメンバーに分かれ始めた。心のミゾは、風先輩と樹ちゃんの間だけじゃなくなってきた。

 

どうしよう。このままじゃ、防人隊がバラバラになっちゃう。

 

 

 

「…味方を疑い始めたら、それこそ相手の思うツボですわ。スパイの情報だってブラフの可能性もありますのに」

 

「弥勒……」

 

「わたくし達が考えなければならないのは戸郷さんの仇を討つこと。打倒国士ですわ」

 

「……そうだよ。悪いのは全部あいつらなんだから」

 

「小細工を正面から押しつぶせるくらい強くなれば、スパイなんてどうでもよくなるって話よ」

 

「余計なことを考えている暇があるのなら、鍛錬に時間を費やすべきですわ」

 

「身体を動かして、嫌な考えを拭い去りましょうか!」

 

 

 

______こういう時、弥勒先輩はブレない。目指すべきものを共有して、先陣を切ってくれる。その存在が、みんなを励ましてくれる。

 

芽吹ちゃんが熱心に指揮官に推す理由がわかった気がする。

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

身体を動かしてれば気が紛れると思ったけど、そう簡単にはいかなかった。

 

わたしはずっと、芽吹ちゃんのことを考えてた。自分の気持ちの整理がついてないのに、ふとした時に芽吹ちゃんのことを考えてる。今考えるべきはそれじゃないはずなのに、無意識の内に思考か芽吹ちゃんに向かっちゃう。

 

 

 

自分でもわからない。他人のことを優先して考えちゃうのは不治の病って風先輩に言われたけど、それにしたって異常だ。

 

戸郷先輩のこと、隊員のみんなのこと、そして自分のこと。課題は山ほどあるのに、どうして芽吹ちゃんばっかり______

 

 

 

「…友奈?」

 

「…うぇ?」

 

「もう皆部屋に戻ったわよ?」

 

「あっ…ごめんね芽吹ちゃん。戸じまりしなきゃだよね」

 

 

 

ロッカールームでぼーっと考えてたら、芽吹ちゃんが突然視界に入ってきた。

 

 

 

「……少し思い詰めすぎだと思うわ。…でも、気楽にいこうって言ってもそうはいかないか」

 

「うん…。…ごめんね、気を遣わせて」

 

「ううん、私も友奈のことが気になってただけから」

 

 

 

弥勒先輩に熱心に指導してる芽吹ちゃんだけど、______なぜかわたしにも特別気を配ってくれてる気がする。

 

どうしてだろう?わたしなんか国士と戦えない、ただいるだけの勇者なのに。風先輩や樹ちゃんの方が役に立つのに。

 

 

 

「……少し、話さない?」

 

「…え?」

 

 

 

芽吹ちゃんから絶対聞けなそうな言葉に、間の抜けた返事しかできなかった。

 

 

 

「…友奈に聞いてもらいたいの。私のことをね」

 

「う、うん。いいよ。わたしにできるのはそれくらいだしっ」

 

「もちろん、友奈のことも話してもらうわ。友奈だって苦悩してるでしょ」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「私が気づいてないとでも思う?友奈がしゃべる回数が日に日に少なくなってるって」

 

 

 

______芽吹ちゃんには、見抜かれてた。

 

 

 

みんな自分のことで精いっぱいなのに、わたしの悩みを聞いてもらうなんてできない。それで空気がさらに悪くなるのはイヤだから。

 

芽吹ちゃんは交換条件を出して、後ぐされがないように聞こうとしてきた。引っかけられた気もしたけど、遠慮しないで話してほしいって芽吹ちゃんの気持ちが感じとれた。

 

 

 

「ここで話すのもなんだし…私の部屋に来て」

 

「う、うん。わかったよ」

 

 

 

______わたしも芽吹ちゃんの悩みを聞きたかったから、断ることができなかった。

 

わたし一人で解決できれば、芽吹ちゃんに気を遣わせることもなかったのに。ただでさえ考えることが多い芽吹ちゃんを悩ませることにならなかったのに。

 

自分がイヤになる。芽吹ちゃんの好意に甘えてしまった自分が嫌いだ。芽吹ちゃんの力になれない自分が嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちゃごちゃした部屋でごめん」

 

「ううん。そんなことないよ。芽吹ちゃんの一面が見れてうれしいな」

 

 

 

整頓されつつも統一感のない、芽吹ちゃんの中を映し出したような部屋だった。

 

教導になる勉強をした時に使ったと思われる色んな本が棚にみっちり詰まってたり、トレーニング用具が部屋の一角を占領してたり。あと、色んな種類の模型が飾られてる。芽吹ちゃんの趣味、なのかな。

 

デスクの上には芽吹ちゃんに渡したシロツメクサのお守りと、銀ちゃんが使ってたのと同じ和装の日記帳。芽吹ちゃんが使ってたんだ。

 

 

 

差し出されたホットココアを一口飲んでから、ひとまず世間話でもしよう。本題を話すのは、もう少し勇気を出してから。

 

あまり味がしなかったのは、緊張してたからかな。

 

 

 

「プラモデル、いっぱい作ったんだね」

 

「ええ、趣味だから」

 

「わたしはあまり詳しくないからよくわからないんだけど…丁寧にできてるのはわかるかな」

 

 

 

ひときわ目立つのはお城…丸亀城かな?素材に合わせて色合いが違うし、自分で塗ったのかな?

 

お城にひけを取らないくらいに存在感があるのが、鉛色の軍艦。細かいパーツがびっしりで、芽吹ちゃんの器用さと集中力が見て取れる。

 

ピッカピカの車の模型…これ、銀ちゃんがゲーセンのレースゲームで使ってたやつだ。真っ赤なボディも銀ちゃんっぽい。

 

キャラクターのモデルがテーブルを囲うジオラマ?的なのは作りかけなのかな?三つあるイスの一つが空席。残り二人は談笑してるみたいに明るい表情だ。

 

 

 

______どことなく、このキャラクターは銀ちゃんと夏凜ちゃんに似てる気がする。義眼や義手はないけど、髪のセットとか表情から見える仕草とか。間違いなく二人をモチーフにしてると思う。

 

 

 

「…まあ、私の行き場のない感情の捌け口ね。…そう考えると見られるのは恥ずかしいかも」

 

「そう、なんだ」

 

 

 

______銀ちゃんのことをもういない人と思ってても、無意識の内に銀ちゃんを求めてる。夏凜ちゃんが敵になっても、またあの頃に戻ることを願ってる。

 

芽吹ちゃんは、______さびしいのかな。銀ちゃんに先立たれて、夏凜ちゃんと大ゲンカして。誰も芽吹ちゃんに寄り添える人がいない。

 

 

 

「友奈はどう?どうやってフラストレーションを解消してるの?」

 

「わたし?」

 

「ええ。友奈がそういう負の感情を人にぶつけることがないから、どうしてるのか気になる」

 

「みんなと一緒に楽しい時間を過ごせれば忘れちゃうよ」

 

「…じゃあ、今は?」

 

 

 

今はどうやって自分の感情と向き合ってるか。

 

みんなとワイワイ過ごす時間は今は望めない。重い空気がずっと張りつめてて、誰も笑おうとしない。

 

わたしの感情が悪い方から抜け出せないのはそのせいかもしれない。

 

 

 

「……意地悪な聞き方だったわね、ごめん」

 

「ううん。…芽吹ちゃんの思ってる通りだよ」

 

「……悩んだら相談。素直な気持ちをはき出すことで、心が楽になると思うわ」

 

「そう、だね」

 

 

 

芽吹ちゃんの表情はひたすら優しい。銀ちゃんや夏凜ちゃんと接する時のつっけんどんな芽吹ちゃんとはまるで別人。

 

 

 

______話して、いいのかな。こんな自分勝手なこと。芽吹ちゃんをイヤな気持ちにさせるだけかもしれないのに。

 

 

 

「……じゃあ、私のことから聞いてもらおうかしら」

 

「芽吹ちゃんから?」

 

「ええ。…友奈から見て、私はこの部隊のリーダーに相応しい行動を取れてる?」

 

 

 

珍しく自信なさげに聞いてきた。

 

これが芽吹ちゃんの本心なんだ。いつも自信を見せることでみんなの心配を取り除いてきた芽吹ちゃん。でも本当は自信なんて確証できなかったんだ。

 

そんな不安をわたしに話してくれたってことは。

 

わたしがやらなきゃいけないことは。

 

 

 

「それは、もちろん。芽吹ちゃんが色々動いてくれたから、みんな立ち直れたんだよ」

 

「…友奈はそう言ってくれるわよね。…でも、私はそう思えない。私がいなくても風さんが同じことをやってたと思うし」

 

「大事なのはそこじゃないよ。芽吹ちゃんがやったから、今のわたし達がいる。芽吹ちゃんの代わりなんて、誰にもできないよ」

 

 

 

何があっても、芽吹ちゃんは仲間だ。世界でたった一人しかいない、乃木芽吹ちゃんというわたしの友達。

 

そんな人が不安げに自分の気持ちを言葉にしたんだ。わたしがはげまさなきゃ。

 

 

 

「…でも、私はこの結果に満足してない。私がもっと上手く立ち回れていたら、…戸郷さんが犠牲になることはなかった」

 

「それは…」

 

「……怖いんだ。これから国士との…夏凜との戦いが激しくなるにつれて…また私の仲間が犠牲になることが…」

 

 

 

 

 

 

いつでも勇敢で、いつでも冷静な芽吹ちゃんが、怖れの言葉を口にした。

 

ぎゅっと自分の身を抱いて震えを抑えようとする。その姿はあまりにも弱々しくて______

 

 

 

護ってあげられずにはいられなかった。抱きしめることしかできなかった。

 

 

 

「……友、奈…?」

 

「…わたしが守るよ。みんなを、芽吹ちゃんを、絶対。…わたしは勇者なんだから」

 

 

 

______悩んでいたことが、この一瞬だけは頭から消えていた。

 

芽吹ちゃんを守りたい。芽吹ちゃんを支えてあげられるのはわたしだけ。芽吹ちゃんがどこかに行かないように手をつないでなきゃ。

 

 

 

わたしの中に芽生えた気持ちが、ぐるぐるしていた感情を押し込めた。

 

わたしが戦う理由が、見つけられた。

 

 

 

「わたし、決めたよ。わたしがこんな間違った戦いを終わらせる。芽吹ちゃんも、他のみんなも、悲しまなくていいように」

 

「……それは、国士と戦うってこと?」

 

「芽吹ちゃんを悲しませるのなら。もうわたしは迷わない」

 

「………………」

 

 

 

わたしの腕の中で、芽吹ちゃんの震えが止まった。芽吹ちゃんに、わたしの思いが伝わった。

 

夏凜ちゃんの言ったとおり中途半端な気持ちだったから、誰にも言葉が伝わらなかった。自分を信じることができたから、芽吹ちゃんの気持ちに寄り添うことができた。

 

 

 

「……こんなつもりじゃなかったのに…」

 

「へ?」

 

「…友奈の悩みを聞くための建前だったのに、…本当に相談相手をさせてしまったわ…」

 

「ううん。芽吹ちゃんが打ち明けてくれたから、わたしもほんとうの願いに気付けたんだよ」

 

「…え?」

 

「護りたいんだ。犠牲なんていらない世界を、みんなが仲間を疑う必要がない世界を、芽吹ちゃんと夏凜ちゃんが戦わなくてもいい世界を、人と人とが恨み合うことがない世界を」

 

 

 

「だから、全部間違ってるよ。おかしいってみんなわかってるはずなのに、誰も手をあげないなんて」

 

「………………」

 

「わたししか気付いてないなら、わたしがやるよ。どんな手段を使ってでもわたしが止める」

 

「……それが、正しい人の感情よ。神世紀に生きる人の、当たり前の感情」

 

 

 

芽吹ちゃんは憧れるみたいな言い方で、自分にはわからないみたいな言い方で答えた。

 

 

 

「友奈が言う通り、今を生きる人が皆狂い始めてる。戦火が広がる度に憎悪の波が大きくなってる」

 

「芽吹ちゃんも、気付いてるんだね」

 

「…ええ。私が、そうしてしまったんだから」

 

 

 

______芽吹ちゃんの演説に共感した人はたくさんいた。テロリズムでこれまでの生活を失った人や、大赦を深く信奉してきた人たちがこぞって浪士に立ち向かうという声明を出した。真の勇者が現れたとまつり上げた。

 

逆に、大赦に近い権力者やこれまで大赦に弾圧されていた人たちは芽吹ちゃんを批難した。横暴の極みだと、乃木家の権威を借りた独裁者だと。

 

もう面と向かって中立だって言う人はいないと思う。大赦か浪士か。芽吹ちゃんの演説は、国民みんなの意見を完全に二つに割ってしまった。

 

 

 

「…わかってるなら、もうやめようよ。芽吹ちゃんは周りがおかしくなってるって、気付いてるんだから」

 

「私は…。…私も、友奈と同じ考えでいたかった」

 

「…え?」

 

「でも…できなかった。狂わずにはいられなかった。私は…乃木芽吹だから」

 

 

 

乃木芽吹だから。

 

それが、芽吹ちゃんをわたしから遠ざける最大の理由。

 

あらゆる責任を背負ってしまったから、自分の気持ちはねじまがってしまった。間違いだとわかっていても、自分では止められなくなった。

 

 

 

______銀ちゃんと同じだ。

 

 

 

「…私が友奈と同じ場所に立つには…。全て終わらせるしかないのよ…」

 

「芽吹ちゃん…」

 

 

 

______助けたい。

 

 

 

______今度は絶対。

 

 

 

______銀ちゃんと同じことにはさせない。

 

 

 

芽吹ちゃんを強く、強く抱きしめた。もう絶対離さないように。

 

 

 

「わたしは絶対芽吹ちゃんの味方だよ。芽吹ちゃんが苦しむ世界なんて、わたしが変える」

 

「…全部、私のため?」

 

「…うん。芽吹ちゃんが、銀ちゃんの後を追わないように」

 

 

 

______だから、どこにもいかないで______

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「何故だ!何故あいつが犠牲にならねばならなかったのだ!」

 

「ごめん、なさい…」

 

「やめなさい。…雀には何の責任もないわ」

 

「三好閣下っ…!ですがっ…!」

 

 

 

船と運命を共にした国士の遺体が運ばれてきた。アイツがやったってことは伏せてあるけど。

 

いつも彼女と組んでいた古風な子は、雀を責め立てた。パートナーをを失って、平静を欠いてる。

 

他のメンバーも、驚きを隠せてない。まさか自分のチームから犠牲者が出るとは思ってもいなかったんだろう。

 

 

 

______聞いた話だと、雀を裏切りに激怒した防人から逃がすために戦いが苦手な彼女が囮になったという。

 

防御特化の国士と特殊工作特化の国士では、汎用性の高い防人を二人がかりでも倒しきれない。どちらかが囮にならなければ、どちらも生きて帰れる保証はなかった。

 

彼女は何を思ったのか。どうして自分の命を負け前提の勝負にベットしたのか。どうして雀を逃がそうとしたのか。

 

 

 

______ひとつだけ私が言えることがあるとすれば。

 

 

 

「…人事をミスした私の責任よ。防人と十分に戦える人間を派遣できていれば、せめてもう一人増員できていれば」

 

「…我々は身を守ることで精一杯でした。城の防衛班が誰一人欠けていたら、この中にも犠牲が出ていたかもしれません」

 

「防人は強いです。勇者が四人もいるのもそうだけど、防人一人ひとりに高い意識と練度を感じました」

 

「危なくなったら退けって閣下の命令がなかったら、今頃…」

 

 

 

隊員は私をかばうように言葉を並べた。

 

安全が最優先だと、任務の達成より自分の命を大切にしろと意識を徹底した結果、一人ひとりの戦力が防人に及ばなくなってしまった。

 

それも私の責任だ。あいつみたく、一人ひとりを信じて死地に送り出す勇気がなかっただけ。彼女にそのツケを払わせてしまっただけ。

 

 

 

「…乃木芽吹が、防人を強くしてると思う。私たちがいた時より、ずっと強くなってる」

 

「…何が言いたい?」

 

「私たち、…勝てるのかな…?」

 

 

 

私が恐れていたことが、起きてしまった。

 

その一言で、場の空気が一番下まで冷え込んだ。

 

勝ちが見えない、恐怖。それを皆が感じ取ってしまったんだ。

 

 

 

「な、何を泣き言を言っている!」

 

「でも、実際に負けたじゃんか!あれだけ入念に準備して、防人の部隊を全滅させるどころかこっちに犠牲が出た!!成果もたった一人だけ!」

 

「それはっ…!」

 

「もう私たちの優位を信じられないよ!!相手があんなに強くなってるって知らなかったから!!」

 

 

 

「やめろっ!!」

 

 

 

我慢しきれなくて、隊員の声をさえぎってしまった。

 

私の仲間たちがこんな言い合いするのは耐えられなかった。

 

チームがバラバラになってこれからの作戦が立ち行かなくなることよりも、このギスギスした空気が苦しく感じる。

 

 

 

「…私たちは勝つ。絶対に」

 

「…閣下…」

 

「確かにあいつは…防人は強い。でも、大赦が強くなったわけじゃない。大赦を打倒する手段は、防人と戦うことだけじゃない」

 

 

 

______暗に防人に対抗できる力がない、と言われたらそれまでだ。

 

だけど、歩みを止めるわけにはいかない。ビビって立ち止まってたら、私の望む未来にはたどり着かない。

 

苦しい言い訳だけど、ウソはつけなかった。この子たちの前では、誠実でなきゃ。

 

 

 

「…それに、まだ私がいる。私が戦う限り、あいつの好きにはさせない」

 

 

 

この子たちを守れるのは私だけ。私が前に出てなかったから、犠牲が出てしまった。

 

 

 

______次で最後にしよう。次で決着をつける。全てを賭けた総力戦で、私はあいつを凌駕する。

 

そうすることでしか、この淀んだ空気は払拭できない。

 

 

 

「……私は三好さんについてくよ。それで勝つことでしか、あの子に報いることができないから」

 

「雀……」

 

「…私は元より閣下に付き従う所存です。…加賀城が覚悟を決めたのなら、もう何も言うまい」

 

 

 

私の意志は伝わったのか。渦中の二人以外は私を目を無言で見つめてる。

 

 

 

______なら、私はやる。全身全霊をもって、防人と______乃木芽吹と対峙する。

 

 

 

〈…にぼっしー。一人で背負い込むのはやっぱりだめだよ〉

 

(……言えるわけないでしょ。私“たち”の本音なんて)

 

〈でも…。あの子たちを守りたいっていう気持ちも、ウソじゃないんでしょ…?〉

 

(…だから、私一人でやるって言ってんのよ。園子にも、芽吹にも関係ない。私のエゴよ)

 

〈……聞き分けのないにぼっしー〉

 

(そんな分別がつく人間なら、…テロリストのリーダーなんてやってないわよ)

 

 

 

 

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