シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

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そばにいるよ

 

 

 

「……まさか、これほどとは」

 

 

 

わたしの目の前には、模造刀を床に突き立てて膝をつく芽吹ちゃん。わたしを見上げて驚きの言葉をあげる。

 

 

 

「模擬戦だからだよ。芽吹ちゃんが手加減してくれたから」

 

「いいえ。負けるつもりはなかったのよ。ただ友奈の戦いが私の想定を上回ったってこと」

 

 

 

わたしは強くならなきゃならない。みんなを、…芽吹ちゃんを護るために。

 

 

 

強くなるには、トレーニングしかない。

 

一番そのやり方を知ってると思った芽吹ちゃんに、特訓をお願いした。二つ返事でいいよって言ってくれた芽吹ちゃんには感謝しかない。

 

ただでさえ忙しい芽吹ちゃんに負担をかけることになるのはわかってるけど、…それ以外に方法が見つからなかった。

 

 

 

「…でも、どうしたの突然。特訓をつけてくれって」

 

「……いてもたってもいられなかったんだ。もう二度とこんな思いしたくないから」

 

「友奈が強くなればもう戸郷さんのようにはならない、ってこと?」

 

「うん。危ない任務は、全部わたしがやるよ」

 

 

 

芽吹ちゃんはわたしの目をじっと見つめた。生身の目も銀ちゃんの義眼も、ブレることなく何かを訴えかけてくる。

 

しばらくして芽吹ちゃんが立ち上がった。構えを解いてるから、今日はもう終わりかな。

 

 

 

「……風さんなら無理するなって言うと思うけど、私は言わない。…私と同じ気持ちでいてくれる人がいて、…嬉しくなったんだ」

 

「…わたしもだよ、芽吹ちゃん」

 

 

 

何ともさびしそうな、悲しそうな笑顔を見て、芽吹ちゃんを抱きしめずにはいられなかった。

 

 

 

「わたしはずっと芽吹ちゃんのそばにいるよ。壁の外でも、この世界じゃないところでも。絶対に芽吹ちゃんをみんなのところへ連れて帰るから」

 

「…死ぬつもりはないわよ。銀がくれたものを、無駄にするわけがない」

 

「…そうだね。この世界の全てを、取り返さないといけないんだもんね」

 

 

 

芽吹ちゃんがここにいることだって、銀ちゃんが色々とがんばってくれた結果の一つだ。それとわかっていて命を捨ててしまうのは、銀ちゃんへの裏切りになってしまう。

 

少しだけ安心した。自分の命すら目的のためにささげてしまいそうだったから、それを止めてくれる理由があって。

 

 

 

「…友奈は。…手伝ってくれる?」

 

「もちろんだよ。わたしの戦う理由は、それだもん」

 

「夏凜と戦うことになっても?」

 

「うん。もう迷わない。芽吹ちゃんのそばにいられるのはわたしだけだから」

 

「……銀と、戦うことになっても?」

 

 

 

少しだけ言うのをためらってから、芽吹ちゃんはそう告げた。

 

 

 

______考えなかったわけじゃない。解き放たれた銀ちゃんが、わたし達の敵になるって可能性を。

 

夏凜ちゃんはもう覚悟を決めてた。あの蛇と…銀ちゃんと戦って、取り戻すって。

 

芽吹ちゃんも同じはずだ。取り戻すことは考えてないかもしれないけど…もし人類の敵になるのなら、芽吹ちゃんは戦う。

 

 

 

わたしは__________________

 

 

 

 

 

 

「…うん。戦う。…それが勇者、だから」

 

 

 

戦うってことは、銀ちゃんにまた会える可能性があるってことだ。話すことができれば、なんとかなると思う。

 

 

 

勇者部五箇条のひとつ、“為せば大抵なんとかなる”、だ。

 

 

 

「友奈……。…ありがとう。最高の友達に、出会えた気がする」

 

「そういってくれるとうれしいな。わたしも芽吹ちゃんのこと______

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

徳島港の事件の後、国士の出現は激減した。

 

最近の出動のほとんどが、浪士の考えに便乗した一般人による犯行の鎮圧。警察や公安の人で十分対応できるレベルの事件もあり、わたし達の出番もかなり減ってる。

 

 

 

「相手も犠牲者が出て慎重になってる、ということね」

 

「そんな気概があいつらにあったんだ」

 

「人の心のわからない外道のくせに」

 

「偏見はやめて。相手が人間だということを見誤れば、そのしっぺ返しを喰らうのは私たちよ」

 

 

 

朝のミーティングで芽吹ちゃんが推測を立てれば、それを聞いて国士を卑下するメンバーがいる。国士に深い恨みをいだいて復讐を誓った、力のあるグループの人たちだ。

 

 

 

「あっちが臆病風に吹かれてるなら、今こそ私たちが攻め立てるべきだと思います」

 

「戸郷の仇、取らないと」

 

「三好夏凜を討ち取れば全部終わるんでしょ?こんな戦い」

 

「…今、国士と総力戦をしたとして、その被害は前回の比にならない。犠牲者だって出る。…お願いだから、早まったことはしないで」

 

 

 

いきり立つメンバーを芽吹ちゃんは静止した。珍しく疲れてそうなため息をついて。

 

犠牲者が出たことが芽吹ちゃんのトラウマになってる。夏凜ちゃんも慎重になってるかもしれないけど、芽吹ちゃんも大きな動きができない状態だ。

 

 

 

「そうですよ。まだ内側の問題が解決したわけじゃないですし」

 

「……それをどうにかしないと、…また足元をすくわれる…」

 

「やめようよ、二人とも。みんなの不安をあおるだけだよ」

 

「スパイ捜しは禁止したはずよ。下手に動かないで」

 

「でもそれじゃ、わたし達は何もできないじゃないですか」

 

「時期尚早って話よ。まだ行動を起こすには、確証が足りなすぎる」

 

 

 

スパイを疑うメンバーからも不満の声が出てきた。この話も聞かれてるってなると、気味が悪いような気もする。

 

これに関しても、わたし達にできることはない。芽吹ちゃんが調べることになってるから。

 

 

 

「……私たちが現場の兵隊だからって、少し情報を開示しなすぎじゃない?」

 

「知れば勝手に行動してしまう。そうなったら私でもフォローしきれない」

 

「…わたくし達は乃木教導の剣なのです。剣は独りでに動いたり、しゃべったりしませんわ」

 

「弥勒の言い方はアレかもしれないけど、実際そうよ。防人の一員である以上、芽吹の指示に従うしかない」

 

 

 

芽吹ちゃんの指示に素直に応じるメンバーも少なくなってしまった。部隊の心がバラバラになってる。

 

この空気をどうにかしたいとは思ってるけど、わたし一人の力じゃどうにもならない。みんな心に傷を負ってるから、なのかな…。

 

 

 

「…とにかく、今は準備期間だと思って。時期がくれば、…その時は決戦になる」

 

「誰一人欠けることなく戸郷に戦勝を伝えるのが、私たちの役目よ」

 

「風さんの言う通りですわ。最終的なわたくし達の目標は、勝利すること。誰一人欠かすことのできない存在であることをご理解くださいな」

 

 

 

こうして風先輩や弥勒先輩がフォローをしてくれなければ、みんなの行動を統一できない。ギリギリのところで分裂がとどまってるのが現状だ。

 

 

 

______こんなのは早く終わらせなきゃ。次で絶対に決着をつける。

 

 

 

「ミーティングはこれで終了よ。各自出動に備えて待機して。私は外で公務だけど、話があったら連絡をして」

 

「…了解」

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「……樹ちゃん?」

 

「あ、友奈さん」

 

 

 

樹ちゃんは待機時間でメンバーに話を聞いて回ってた。______もちろん、スパイに関する情報を探るために。

 

その後ろにはしずくちゃんがついて歩いてる。二人はメンバーの中でもスパイを疑ってる度合いが強い。

 

 

 

「丁度よかったです。友奈さんにも聞きたいことがあったから」

 

「わたしに?」

 

「はい。最近芽吹さんと距離が近いって、みんな言ってましたよ」

 

「そうかなぁ」

 

「結構な頻度で芽吹さんの部屋にお邪魔してるって」

 

「特訓に付き合ってもらってるだけだよ」

 

 

 

聞き方こそ優しいけど、その裏ではわたしを探ってる視線を感じる。

 

樹ちゃんは芽吹ちゃんがスパイなんじゃないかと思ってるらしい。風先輩に釘を刺されたけど、それでもやめないのは確証があるから、なのかな。

 

 

 

疑いを晴らしてあげないと。芽吹ちゃんはひたむきにがんばってるって、ちゃんと伝えないと。

 

 

 

「……友奈さん。特訓はいいんですけど、あまり芽吹さんのことを信用しちゃダメですよ」

 

「どうして?」

 

「……しずくちゃんが避難所で、夏凜さんと芽吹さんが仲良さげに話してるのを見たって」

 

「……ほんとうに?」

 

「…これはトップシークレットで。…表裏のない結城になら話してもいいって思ったから…」

 

「うん、わかったよ。ありがとうしずくちゃん」

 

 

 

これが事実なら、疑われてもしょうがない。

 

でも、わたしにはそれが芽吹ちゃんが裏切り者って証拠とは思えない。四国の人々を助けたいって思う二人の思いは同じだと思ってるし、だからあの時協力できたんだし。お互いを尊敬してるのは敵になっても変わらないはず。

 

二人が本当の意味で手を取り合えるチャンスはまだ残ってるって、わたしならそう考える。

 

 

 

「友奈さんは何かわかりませんか?避難所で夏凜さんと話してたし」

 

「うーん。夏凜ちゃんは芽吹ちゃんを許すつもりはないとしか」

 

「夏凜さんが?」

 

「うん。逆もそうだけど、お互いにいい関係を持つ状況じゃないんじゃないかな」

 

「それはそうですけど…」

 

「……じゃあ、あの時のあれは…?」

 

「……ほんとうは二人とも、あの頃に戻りたいんだよ。銀ちゃんと一緒にいた時に。そういう空気だったから、昔を思い出したんじゃないかな」

 

 

 

芽吹ちゃんの作品には、それがあらわれていた。楽しかったあの頃を忘れないように、形に残したんだ。

 

夏凜ちゃんだって、そうじゃなきゃ銀ちゃんを助けるなんて言わない。どんなに今が苦しくても、大切な時間を取り戻したいんだ。

 

 

 

「……友奈さんは優しすぎです。少しは疑った方がいいです」

 

「大丈夫だよ。何があってもわたしがみんなを守るから。そのために特訓してるんだし。もし誰かがスパイだったとしても、わたしがなんとかする」

 

「…弥勒みたいなこと言ってる。…他人を疑う前に、自分が為すべきを為せって…」

 

「為せば大抵なんとかなる。わたしもそう思ってるよ」

 

 

 

二人は黙り込んでしまった。何か考え込んでるようで、視線をぐるぐるしてる。

 

 

 

「とにかく、芽吹さんがスパイって可能性を忘れないでください。何かわかったら、友奈さんに報告します」

 

「うん。…でも、わたしがスパイかもって思わないの?」

 

「……罠にかけられた敵を命がけで救出するスパイはいない…」

 

「わたしも友奈さんをスパイと断定できる証拠は存在しないと考えてます。…それに、友奈さんには味方であってほしいから」

 

「…そっか。何かわかったらわたしからも伝えるね」

 

 

 

わたしは無条件で信用されてるのかな。わたしが無条件で信用してるから。

 

スパイ捜しにはあまり気が乗らないけど、このまま樹ちゃんとしずくちゃんを孤立させるのはよくない。わたしが橋渡しをしたほうがいいかな。

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

今日も夜中に芽吹ちゃんと特訓をするとこになってる。公務から帰ってきて休む間もないけど、芽吹ちゃんは嫌な顔一つせずに付き合ってくれる。

 

せめて荷物持ちくらいやろうと芽吹ちゃんの部屋まで迎えに行くと、先客がいた。丁度芽吹ちゃんの部屋から出てきた。

 

 

 

「あら、友奈さん。今夜も特訓ですの?」

 

「はい、弥勒先輩。もっともっと強くなって、戦いを終わらせますよ」

 

「わたくしの取り分を残しておいてくださいませね」

 

「わ、わかってますよー。…でも弥勒先輩、どうしてこんな時間に芽吹ちゃんの部屋に?」

 

「ちょっと確認したいことがございまして」

 

 

 

何を聞いたかはわからなかったけど、弥勒先輩の様子を見る限り納得のいく返事が聞けたようだった。

 

 

 

「では、わたくしはこれで。根詰めすぎてお身体を壊さないように、お気を付けてくださいな」

 

「はい。おやすみなさい、弥勒先輩」

 

 

 

ひらひら手を振って、弥勒先輩は自室に戻っていった。

 

 

 

弥勒先輩は何も変わってない。船の事件で少し距離が縮まった気がするけど、芽吹ちゃんのもとで防人をつとめる姿勢は少しもブレてない。

 

弥勒先輩がスパイ、というのはありえないだろう。そもそもワナにハメられた本人だし。一番信頼できる人かもしれない。

 

 

 

「あら、友奈。来てたのね」

 

「芽吹ちゃん。…ありがとうね、特訓に付き合ってくれて」

 

 

 

会話を聞いてたのか、芽吹ちゃんがドアを開けて顔を出した。

 

 

 

「お礼なんていいわ。友奈が一緒に戦ってくれるって決めてくれて、うれしかったんだ」

 

「そうだったんだ。てっきり義務感でやってくれてるんだと」

 

「…友奈だからよ。こんなに私が頑張れるのは」

 

 

 

芽吹ちゃんはわたしへの信頼の言葉を隠さなくなった。乃木芽吹と防人の一人じゃなくて、一人の友達として接してくれるようになった。

 

 

 

______わたしもうれしかったけど、「乃木芽吹」の姿がかすんでいくようで不安にもなった。わたしのせいで大赦を導く勇者が、そうじゃなくなったら……

 

 

 

「じゃあ、今日もやりましょうか」

 

「うん。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

翌日の夜明け前、国士が出没したとの情報を受けて、わたし達は現場に急行した。

 

わたしと芽吹ちゃんは特訓を終えて、まだ寝てなかった時間だった。人数もそれほど必要ないということで、わたしと芽吹ちゃんと朝練を予定していたメンバーが召集された。

 

 

 

「こんな時間に動いてくるなんてぇ…」

 

「あーあ、終わってから仮眠する予定だったのに…」

 

「夜襲はあちらの専売特許ですわね。まあ、もうわたくし達には無意味だということを教育して差し上げましょうか」

 

「こんな時間の召集に応じてくれてありがとう。手早く片付けて、通常の任務に戻るわよ」

 

「任せて芽吹ちゃん。特訓の成果、確認したかったんだ」

 

 

 

みんな眠そうな顔をしてるけど、さっさと終わらせようって気持ちが伝わってくる。

 

そんな会話をしてる間に、現場の前までついた。県境の大きな道路にはテロ警戒のための関所があって、それを密かに占拠したテロリストの中に国士がいたそうだ。

 

わたし達のミッションは、関所の奪還と国士の排除。今までなら奪還“まで”の命令だったけど、今回は国士を排除しろと明確に通達された。

 

 

 

つまり、大赦は国士と…浪士と事を構えることを決めたということだ。慎重になった国士とは裏腹に、わたし達は容赦なく仇討ちにいく。

 

 

 

「うん。友奈には重要なポジションをお願いするわ」

 

「今回はどんな作戦で?」

 

「まだ公安も到着してない状況を利用するわ。両側から密かに追い込んで、押しつぶす」

 

「国士もテロリストも一網打尽ってこと?」

 

「ええ。友奈一人で裏に回ってもらって、私たちは正面から奴らの注意を引く」

 

「…乃木教導の存在があちらに知れ渡れば、国士が撤退してしまうのでは?」

 

「それはそうね。だから、友奈が退路をふさぐことが最重要ってこと」

 

「責任重大だね。結城友奈、がんばります!」

 

 

 

わたしがしくじれば、国士の排除という任務が果たせなくなってしまう。

 

でも、不思議と不安はない。確実に成功するって確信みたいなのがある。

 

モバイルで関所の地図を確認してから、わたしは一人で裏手に回ることになった。幸い出口が全部見通せる場所があったから、そこで待ち伏せだ。

 

 

 

「今回の戦いで、前回得られなかったものを手に入れる」

 

「得られなかったもの?」

 

「勝利、よ。負けに近い引き分けを、ここで取り返す。…戸郷さんが安心して眠れるように、力を示すのよ」

 

「…了解!国士を討ち取って、相手に勝ち目がないことをわからせてやる!」

 

「ええ。弥勒の敵になったこと、後悔させて差し上げますわ」

 

 

 

わたし達のやる気は最高潮になって、自信満々で敵地に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

〈0番より9番どうぞ〉

 

「はい、9番です!」

 

 

 

待機地点で様子を見てると、芽吹ちゃんから通信が入った。

 

 

 

〈予定通り国士と思われる人物二名がそちら側に退避するのを確認したわ。一般のテロリストは確保してあるから、国士を追撃して〉

 

「待ってました!了解!」

 

 

 

作戦は芽吹ちゃんの予定通りに進んでる。あとはわたしの番だ。

 

しばらくすると、通用口と思われる場所から二人の国士が出てきた。船の時と同じで、二人一組で行動してる。

 

まずは一声かけよう。戦わずに降参してくれれば一番いい。

 

 

 

「ストーップお嬢さんたち!ここは通行止めだよ!」

 

「!!防人っ…いや、勇者!?」

 

「後詰めにそんなっ…!」

 

 

 

わたしが駆けつけて足止めすると、国士さん達は驚いた声をあげて立ち止まった。

 

 

 

「おとなしくわたしについてきてくれればなにもしないよ」

 

 

 

「…私たちの所在がバレてた時点でおかしいと思ったが…」

 

「…二人も勇者を使って追い込んでくるとはね…」

 

「浪士側にも間者がいる事実を認めざるを得ないか…」

 

 

 

国士二人の声のトーンが急に下がった。私を放って、冷静に二人で話しあってる。

 

 

 

「…さて、どうしようか」

 

「…どの道私たちに戻る場所はないのだ。開き直って戦うしかないだろう。お前はどうする?」

 

「…バカな人。私を囮にして逃げることもできたのに」

 

「……最後くらい、三好閣下の意向に沿っておこう。仲間を見捨てて逃げるなど、勇者にあるまじきことだろう」

 

「仲間から逃げてきたのに?…ホント、どうしようもない人ね」

 

「でも、お前はそんな私についてきたんだろう?」

 

「最後の時まで、私はあなたの側にいるわ。そう決めたんだから」

 

 

 

冷静にお互いの意志を確認して、冷静に戦いを仕掛けてきた。一瞬で気持ちの波を押さえつけたのが、すごく気味が悪かった。

 

男の子っぽい話し方の子は拳銃みたいなのを手にして、ためらいなく撃ってきた。芽吹ちゃんなら反応できる攻撃だけど、わたしはまだまだ訓練不足。避けられない。

 

 

 

「…こっちの話を聞いてはくれないんだね…」

 

「……拳で撃ち落とされた…?」

 

「…対勇者バリア用の弾のはずだけど、こうされたら利き目はない、か」

 

「……手加減できないから、覚悟を決めてね」

 

 

 

相手が動きを止めたのを確認してから、わたしは一歩で男の子っぽい国士に詰め寄る。伸び切った腕を掴んで、力を込めずに背負い投げで地面に叩きつけた。

 

芽吹ちゃんから教わった対人格闘。わたしの力を使わずに相手を倒す技。これなら最悪の事態は回避できる。

 

 

 

「ぐぅっ…!」

 

「もう一つ!」

 

 

 

投げっぱなしにはしてない。わたしはまだ国士の腕を掴んでる。

 

逆方向へまた背負い投げ。今度は逆の手でえりを掴んで、もう一人の国士に投げつける。人が飛んでくるとは思ってなかったから反応できてない。

 

 

 

「うあっ!!」

 

「…ぐっ、何て怪力だっ」

 

「安心して、殴ったりしないよ」

 

 

 

二人重なって横になってるところに駆け寄って、立ち上がれないように上からボディプレスみたいに押さえつけた。力を込めてふんばれば、下から動かされることもない。

 

すぐに芽吹ちゃん達がここにくると思うから、このまま待ってれば確保が完了する。そこから先は芽吹ちゃんの仕事だ。

 

 

 

ほとんど待つ時間もなく、足音が近づいてくる。たぶん、防人のみんなだ。

 

 

 

「…もう確保されていたようね」

 

「あっ、芽吹ちゃん!国士二人の確保、完了しました!」

 

「さすがですわ友奈さん!特訓のご成果、見事に証明なさいましたわね」

 

「芽吹が手塩にかけて育てた甲斐があったね。私たちはお役御免かな?」

 

「そういうことじゃないわ。友奈が強くなろうとした結果よ。それに、皆も強くなっていたのは私もこの目で見たわ」

 

「それでも、勇者の力ってすごいよ。前線に立ってくれると安心感が違う」

 

「えへへ。ならもっとがんばらないとね」

 

 

 

国士に拘束具をはめながら、みんなが冗談も交えてわたしと芽吹ちゃんをほめる。完全な勝利を手にして、チームの雰囲気がぐっと明るくなった気がする。

 

わたしがほしかったのはこれだ。わたしががんばれば、みんなが明るくなる。もっとがんばれば、もっと多くの人が前向きになれる。

 

 

 

「……これが、防人か」

 

「多くの人に支えられているのね、乃木芽吹は」

 

「…ええ。私は一人じゃない。ひとりよがりなあなた達のリーダーとは違うのよ」

 

「……そこまでわかっているのだな」

 

「…私たちがこんな所にいる理由も知ってそうね」

 

「無駄話してる暇はないわ。話したいなら後にして」

 

 

 

______国士さん達は、なぜかこっちに友好的な気がした。

 

芽吹ちゃんはその気持ちを察したようだ。敵対するような口調を控えて、ちゃんと話を聞くって意志を伝えた。

 

芽吹ちゃんも、変わったのかな。わたしが変えちゃったのかな______

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

「明朝の任務の詳細は以上。国士2名を拘束できたのは、大きな戦果よ」

 

「あの友奈が、ねぇ…。どういう風の吹き回しよ?人間相手に勇者の力を使うなんて」

 

 

 

朝のミーティングでさっきの戦闘のことが、待機していたメンバーにも伝わった。

 

わたしがやった、ということにギモンを投げかけたのは風先輩だ。からかい半分なのか、本心で聞いてるのかはちょっとわからない。

 

 

 

「どうもこうもないですよ。芽吹ちゃんのために、全力で任務を果たしただけです」

 

「…友奈は吹っ切れたみたいね。どんなきっかけがあったかは知らないけど」

 

「…悩んでるのはわたし達だけじゃないはずです。一番苦しい思いをしてるのは、たぶん芽吹ちゃんです」

 

「……うん、実に友奈らしい理由ね」

 

 

 

風先輩は両手を上げて苦笑いした。ある意味予想通りの答えが聞けて、安心したみたいだ。

 

 

 

「友奈さんがこうして勇者としての自覚に気づいたのです。わたくし達も見倣って精進あるのみですわ」

 

「本気で取り組めば、絶対うまくいく。戸郷ちゃんの仇だってとれる」

 

「…友奈先輩のおかげで、そう思えました」

 

 

 

制圧に向かったメンバーも、吹っ切れたみたいだ。自信をもって任務に当たれると、気持ちが上向きになってる。

 

うれしくなった。防人を続けててよかったと、心の底から思った。みんなの元気をもっと高められるなら、わたしももっとがんばれる。

 

 

 

「……でもさ。…結局、勇者でしょ?」

 

「…?」

 

 

 

メンバーの一人が、誰に目がけたかわからない質問を口にした。

 

 

 

「結局この戦いを決めるのは勇者でしょ?」

 

「…何が言いたいのです?」

 

「私たち防人の必要性って、どこにあるのよ?そんなに簡単に国士を倒せるなら、私たちいらないじゃん!」

 

 

 

______冷や水を浴びせられた気分だ。

 

 

 

わたしが良かれと思ってやったことが、実は知らないところで人を傷つけていたなんて。

 

 

 

でも、もう迷わない。迷っちゃダメだ。それで悲しむ人がいるから。

 

 

 

「そうだよね!?芽吹!?だから友奈を戦えるように仕立てたんだよね!?私たちを戦わせなくてもいいように!戦力に数えてないから!!」

 

「……言いたいことは言えたかしら?」

 

「…答えてよ質問に!」

 

「…少なくても私も友奈もそんなことは考えてない。力のあるものがその責を果たすのは、当然の義務よ。あなた達もその責を果たさなければならない」

 

 

 

芽吹ちゃんは淡々と答えた。ヒートアップした言葉をかけられても、いつも通りに。

 

芽吹ちゃんが言い終われば、もう誰も二の句を続けられない。芽吹ちゃんは何も変わってなかったから。

 

 

 

「……友奈さん」

 

「樹ちゃん…?」

 

「ムリ、してますよね…?」

 

「ううん。むしろようやく心が決まったっていうか」

 

「……それはきっと違いますよ。だって…」

 

 

 

樹ちゃんは一枚のカードを差し出した。

 

 

 

「…その気持ちは衝動です。苦しい心境を誤魔化す“逃げ”、です」

 

「………………」

 

 

 

そのカードには、崖に向かって上を向いて歩いてる人が描かれていた。わたしにはカードの意味はわからないけど、“逃げ”と言われたら言い返すことはできなかった。

 

 

 

______それでも、わたしはやり通す。わたしにできることは、芽吹ちゃんを支えることだけなんだから。

 

 

 

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