シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

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これはすのうどん

 

 

 

「………………」

 

 

 

予定よりも早く教練が終わったので、大幅に時間が空いてしまった。

 

 

共同生活を送る大広間で一人正座して、さっきの感情の手がかりを探る。

 

 

三好さんは身体を動かしたいと一人ロードワークに出て、教導は必要な生活雑貨を揃えてくると言って外出中。

 

 

 

「……どうしたっていうの?私」

 

 

 

今の私の精神は麻のように乱れている。教導に提示された課題は全てこなし、評価も悪くなかったはずなのに。

 

 

原因の尻尾すら掴めず悶々とした思考を肥やすだけ。何事にも集中できない。

 

 

 

 

 

 

____こういう時は、気分転換が必要か。

 

 

 

「…せっかく丸亀城にいるんだし、実物をじっくり拝見してみようかしら」

 

 

 

現存する城郭の中でも、特に価値のある丸亀城。西暦の時代に内部を改修されこそしたけど、その外観は変わらない。

 

 

____初代の勇者が過ごしたという歴史がその価値を上げたとも言えるが。

 

 

 

「……やっぱり構造は大社様式なのね。大昔からの伝統を、守り続けてきたんだ」

 

 

 

その場で内装を見渡せば、パパが代々受け継いできた建築様式の片鱗が見える。見間違えるはずがない。

 

 

ふと、数年前にパパがとある城の改修の仕事を引き受けたことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

____私のパパが受け継いだものは、歴史を記すものであり、今の私の家ともなった。

 

 

パパはこんなところでも私を見守ってくれているんだ。ぶっきらぼうだけど、誠実であたたかい。そんな背中を思い浮かべる。

 

 

 

「…こんなに連絡を取れないことがつらいと思ったことはないわ…」

 

 

 

勇者に選ばれた時点で、一般人との交流は極端に限定されている。それが、肉親であったとしても。大赦からは通達があったとは思うけど、自分で報告はできていない。

 

 

____ありがとう、って、伝えられてない。

 

 

 

「……もう少し見て回ってみましょう」

 

 

 

私の心を巣食っていたモヤモヤは、パパの面影に溶け込んで見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

____銀のやつ、あんな顔しちゃって。

 

 

何であんなに私と楠の仲にこだわるのかわからないけど、____悪いことしたと思ってしまう。

 

 

 

「はぁ…。ダメだ、全然集中できない」

 

 

 

軽く運動して気持ちを切り替えるつもりが、ペースを維持できずに体力を消耗するだけだった。

 

 

夕焼けの丸亀城を眺めて、またメランコリックな気分になる。

 

 

 

「…帰ろ…。帰って安眠用のサプリ選んどこ…」

 

 

 

____そもそも何で私は申し訳なく思ってるの?銀が何を考えてようが私にはどうでもいいことじゃない。

 

 

私は勇者。勇者三好夏凜。それ以上でも以下でもない。

 

 

 

 

 

 

____三ノ輪銀の亡き戦友の代替品でも、PTSDのカウンセラーでもない。使命を受けた勇者だ。

 

 

 

「…次はきっぱり言わないと。馴れ合うつm」

 

〈何をきっぱり言うって?〉

 

「もおぉぉ!?」

 

 

 

突然エフェクトの入った声が聞こえて奇声を上げてしまった。

 

 

振り返れば愛媛ミカンのダンボールを抱えて____義手のギミックで浮かせて運ぶ銀の姿が。

 

 

 

〈夏凜も今帰り?〉

 

「…まあ、そんなとこ」

 

〈鍛え方が違うなぁ。園子の三倍は馬力あったもん〉

 

 

 

ぎっしり雑貨品の詰まったダンボールを片手で抱えながら言うセリフか、それは。

 

 

あと、先代と比べるのもやめてほしい。私は三好夏凜。再度言う。私は三好夏凜だから。

 

 

 

「…持つわよそれ。一応チャレンジドなんだし」

 

〈そういう気遣いができるところが夏凜のいいところだよね。ほんとは生身よりパワーが出るのにさ〉

 

 

 

身障者というにはあまりに活動的だとは思うけど。事情を知らない人から見れば目耳声と腕を失った可哀想な女の子だし。

 

 

銀から荷物を奪い取って、隣を歩く。

 

 

 

「…ほんと褒めてばっかよね、あんた」

 

〈最初に言ったっしょ、褒めて伸ばすタイプだって。人のいいとこ見つけるって、人を好きになる一歩目だと思うよ〉

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

____ダメだ。この人は心の底から私を思ってるらしい。そんな人を私は裏切れない。

 

 

これだけ私のこと気にかけてくれる人って____今までいなかった。

 

 

 

〈ん?どうしたの夏凜?〉

 

「……何でもないわよ。楠のとこでも行って仲良くしなさいって言ってきなさいよ」

 

〈それは夏凜もだよ。芽吹のいいとこ見つけて、そこを好きになろうよ〉

 

「わかってるわ。…私も、頑張るから」

 

 

 

____初めて人を、信じてみようと思った。

 

 

 

 

 

 

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パパが手掛けた内装と歴史ある外観の城郭を心行くまで拝見した後、大広間へと戻ってきた。まだ教導や三好さんは帰ってきてなかったようだ。

 

 

 

「今度また丸亀城のモデル作ろうかしら」

 

 

 

実物を見て、部品一つひとつに込められた思いに触れて、衝動に似た創作欲がせり上がってきた。

 

 

休暇はまだないと思うので、インスピレーションをまとめようと荷物を漁る。

 

 

 

「…ん。誰かの荷物が混じってるわ」

 

 

 

かばんをまとめておいた場所に一つだけ私のじゃない物が。

 

 

 

「…名札がついてた。三ノ輪…教導のか」

 

 

 

いつ紛れ込んだんだろう。教導の置き場に戻しておこう。

 

 

それを持ち上げた時、口が空いていたのか一冊の書類を落としてしまった。

 

 

 

「教導…ずぼらなんですから…。…“勇者御記”?」

 

 

 

書類はなぜか仰々しい和装で、表題には勇者御記と書かれていた。勇者に関する資料か何かかしら。

 

 

無意識の内に表紙を開いて目を通した。

 

 

 

 

 

 

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かわいい勇者の後輩が二人もできた!三好夏凜と、楠芽吹。

 

 

二人ともクールだけど照れ屋さんで、似た者同士だから仲が悪いのかも。二人の仲を取り持ってあげないとね。

 

 

夏凜は意外にノリのいいところもあって、実はすごく優しい子だと思う。芽吹はちょっと気難しい性格だけど、決して悪い子じゃない。

 

 

優秀な二人と友達になれて、ほんとうれしい!もっと仲良くなりたいな。

 

 

 

 

 

 

バーテックスとの決戦が始まっても、今度は二人を絶対守り抜いてみせる。

 

 

須美と園子の二の舞にはさせない。

 

 

 

 

 

 

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そのページの字を追っただけで、引っ込んだはずの感情が炙り出されるようだった。

 

 

これは嘘偽りを書く必要のない教導の手記であり、

 

 

 

 

 

 

____先立った戦友のようにはさせないと決意したんだ。代替品としてではなく、友達として。

 

 

 

「…いい人すぎでしょ、教導…」

 

 

 

心の底では別の思惑を持っていると思ってたけど、教導はそういう人間ではないらしい。表も裏も存在しない、____まるでパパのように真っ直ぐな人なんだ。

 

 

 

 

 

 

____そう理解して、やっと私の気持ちに気付いた。

 

 

 

「…心を許したいんだ、あの人に」

 

 

 

私が心を許した人間はパパだけ。勇者になるための訓練を始める前も、本当の意味で心を開いた友達はいない。

 

 

____孤独の中で戦い続けるのに疲れたのかもしれない。パパと同じくらい偉大で崇高な人に、自分の本心をぶつけてみたいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

そう思わせる何かが、あの人にはあるんだ。

 

 

 

「……私も、弱ったものね」

 

 

 

そっと御記を閉じて、かばんの中にしまった。勝手に覗いて悪いことをしたと思う。

 

 

けど、おかげで気持ちの整理がついた。

 

 

 

「教導の…銀の言葉、真摯に受け止めないと」

 

 

 

 

 

 

____神樹様、この出会いに感謝します。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

〈夏凜ってさ、お兄さんいるんだね〉

 

「え?知ってるの?」

 

 

 

歩いてる途中で、銀はそんなことを聞いてきた。

 

 

どこで知ったか知らないけど、____できれば触れられたくない話題だ。

 

 

 

〈さっきハルさんに偶然出くわしてさ、“うちのかわいい妹をよろしく”ってさ〉

 

「なぁっ!?」

 

〈ほんとに妹のこと好きなんだなーって。前々からけっこう話してたもんなー〉

 

 

 

あのバカ兄貴は!人の思いも知らないで____!

 

 

 

「こっ恥ずかしいことして、あのバカはっ!」

 

〈こらこら、お兄さまの悪口はいけないぞ〉

 

「…で?どこで知り合ったの?」

 

〈……あたしの身体のあちこちが使い物にならなくなった時〉

 

 

 

____頭に登ってた血が、急転直下する。

 

 

 

〈…ハルさんがいてくれなかったら、たぶんあたしここにはいなかったなぁ〉

 

「………………」

 

〈そんな人の頼み事だからね。夏凜が嫌がってもあたしはついてくよ〉

 

 

 

兄貴の意図が掴めない。あと銀に何をしてあげたのかも。

 

 

 

 

 

 

私はきっぱりと断ったはずだ。兄貴の手助けは受けない。私の独力で勇者になってみせるって。

 

裏で何か糸を引いてたのかもしれないけど、____考えないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

で、勇者になった途端に____銀を教導として送り込んできた、とでもいうの?

 

 

そこまで思考が回って、どうしようもない憤りが頭を埋め尽くす。勇者になってもしょせん私は出来損ないとでもいいたいわけ?だから自分の知人を送り込んできたわけ?

 

 

 

〈かりーん?顔怖くなってるぞー?〉

 

「……ごめん」

 

 

 

____銀のきょとんとした顔を見たら、邪推に邪推を重ねていた自分が恥ずかしくなってきた。

 

 

少なくても銀はこれっぽっちも陰謀なんて企ててない。ただ私のことをひたむきに思ってくれてるだけ。そんな人にマイナスの感情をぶつけるなんてどうかしてる。

 

 

話題を変えて、頭をリセットしよう。

 

 

 

「…うちのバカ兄がなんか変なことしなかった?」

 

〈え?身体が不自由な間、リハビリに付き合ってくれたりお世話してくれたり話し相手になってくれただけだよ〉

 

「例えば?」

 

〈お風呂入れてもらったり、ご飯食べさせてもらったり〉

 

「…殺す。あとで必ず殺す」

 

 

 

銀だって年頃の女の子よ!?男がそんなことして許されるとでも思ってんの!?

 

 

そりゃヘアスタイルも飾りっ気ないし、胸もこっちが気の毒になるほどぺったんこだけど____。てか本人は全然気にしてる様子もないし!

 

 

 

〈そんなに目くじら立てることでも。それともアレ?お兄ちゃんを取らないでっtへぶぅっ!?〉

 

「…あんた、兄貴に似てるわね。その余計なこと言うところとか」

 

 

 

抑えきれずに箱の中の歯みがき粉を投げつけてしまった。大袈裟にのけぞるけど、あれはからかい半分だから。気にしたら負けよ。

 

 

 

〈…ありがとね、夏凜。お節介焼きなところはハルさんに似てるよ〉

 

「そりゃどうも。…部屋ついたわね」

 

〈んじゃ芽吹も誘って食堂に行こっか〉

 

 

 

両手が塞がった私の代わりに、銀が戸を開けてくれた。仰々しく“どうぞどうぞ”なんて言って。基本的にふざけたい人なんでしょうね。

 

 

 

「…おかえりなさい、二人とも」

 

〈ん、ただいま。芽吹〉

 

 

 

____ん?

 

 

 

 

 

 

この角の取れた落ち着いた声は、楠の?

 

 

いやいや、ありえない。銀にならまだしも、私に声かける時は基本イヤミしか言わない奴だし。

 

 

 

〈芽吹、これからご飯行こうよ。昨日行けなかった食堂で〉

 

「ご一緒させていただきます、教導」

 

〈…気持ちの整理はついたみたいだね、感心感心〉

 

「これからは心を入れ換えて教練に臨みます」

 

 

 

何があったかは知らないけど、あいつも憑き物が取れたらしい。こんなに緩んだ表情の楠を見たのも初めてだ。

 

 

 

「三好さんも、…お互いに気に食わないところもあるけど、寄り添える努力をしましょ」

 

「…わかってるわよ」

 

 

 

こんな先制攻撃を食らうのも予想外。拒絶具合は私より酷いと思ってたのに。

 

 

それが何となく悔しくて、今度はこっちから楠の手を取って引く。

 

 

 

〈ビュオオオオウ!メモ!メモ取らなきゃ!〉

 

「外野うるさい。銀のうどんだけ具を抜き取るわよ?」

 

〈ごめんなさい、すのうどんさんは勘弁してください〉

 

 

 

的確にちゃかしてくる銀は放っておいて、食堂に向かった。

 

 

____乃木園子のモノマネってことは、つまり彼女はそういう趣味だったわけか。銀といい乃木園子といい、変人ばかりじゃない。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

〈今日も一日お疲れ様ー。二人の実力にたまげたよー〉

 

 

 

銀がそんなねぎらいの言葉をかけてくれたのは、城に併設された大浴場。湯船に浸かりながらいつもの笑顔で。

 

 

夕食のあと、私も楠も銀に連れられてやってきた。昨日は個々人で訓練施設のシャワールームを使ったから存在に気付かなかった。

 

 

 

「…なぜお風呂まで一緒に…」

 

〈それはだね芽吹くん。そういう伝統があるからだよ〉

 

「てか、義手をお湯につけて大丈夫なの?」

 

〈熱には強いよ。今回のオーバーホールだって、しばらくやってなかったしついでにと思って〉

 

 

 

____義手の指をワキワキするのやめろ!絶対おさわりしてくる気でしょ!

 

 

 

「……でも銀は他の入浴施設じゃ出入り禁止ものよね」

 

「まさか本物のフランケンシュタインの怪物を見るとは思ってなかったわ」

 

〈あ、それだ!サイボーグって言ってた割には生身が多かったし、フランケンって言った方がしっくりくるね!〉

 

 

 

____楠、さすがにそれは酷い例えよ?

 

 

銀の生身をさっき見たけど、身体中メスを入れて縫合した後が走っていた。タトゥーを見るより生々しくてちょっと寒気を覚えたけど、やっぱり本人は全然気にしてない。

 

 

 

「冗談でも納得しないでください。最後に彼は創造主への復讐を果たせず、自ら命を絶ってしまうから…」

 

〈そういう物語だったんだ。けど大丈夫。あたしは大赦を恨んでなんかいないし、夏凜と芽吹がいる限り死なないから〉

 

「面と向かってそんなこと言うのやめなさいよ…!恥ずかしいじゃない…!」

 

「………銀…」

 

 

 

なんでそんな恥ずかしいこと、照れもせず言えるのよ!その心の仕組みまで改造してるの!?

 

 

____ん?楠の奴、何か変だ。あいつも照れると思ってたのに。

 

 

 

「……じゃあ大丈夫ですね。私と三好さんはいなくならないから」

 

〈へへ、うれしいこと言ってくれるじゃないの。芽吹、愛してる!〉

 

「たった二日で愛してるなんて言わないでください。安っぽくなります」

 

 

 

銀は案の定楠に抱きついた。対する楠も____何だかまんざらでもない様子。

 

 

あいつ、優しくされるとしおらしくなるの?最初の親睦会もそうだったし。

 

 

 

〈へへへ。でもほんとだからなー。…お?〉

 

「きゃっ!?な、なにするんですか銀!」

 

〈う~ん、でかい。これはすのうどん〉

 

 

 

だからスノウドンって何よ!?素うどんのことじゃなかったの!?

 

 

 

 

 

 

____やばい予感がするから先に上がろう。

 

 

 

「わ、私は先に上がるわね」

 

〈逃がさんよ!ビバーク!〉

 

「こ、こら!くっつくなぁ!」

 

 

 

即座にターゲットを変更して飛び付いてきた。警戒はしてたつもりだったけど、難なく突破されてしまった。

 

 

 

〈あたしのこの手が真っ赤n〉

 

「言わせないわよ!!てか義手むっちゃ熱っ!」

 

〈ほうほう、これは…残念ながらおでんワールド。山とは言えないねぇ〉

 

「オデンワールドってなんなのよ!」

 

 

 

何をされたかは察しなさい。めでたく二人仲良く謎の称号をもらって、何とか聖なる探求者の魔の手から逃れた。

 

 

____ちょっと甘やかしたらこれだし、普段は突き放すくらいでいいのかも。

 

 

 

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