シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

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勇者部丸亀支部、出動!

 

 

「……何それ」

 

 

教導の謎の号令に、三好さんが至極当然のツッコミをいれた。

 

 

翌日の午後は、課外活動ということで学校のプールに来ていた。

 

 

水は抜いたままで、ヘドロになりかけの汚物が所々に点在してる。そして私たちの手にはデッキブラシとホース。

 

 

____これから何をするかは言うまでもない。

 

 

 

〈一応ね、あたし達は丸亀中の特別学級の生徒なわけで〉

 

「…イヤな響きね、銀でもないのに障害持ちみたいじゃない」

 

〈まあそれはおいといて。二人にはあたしと一緒に“勇者部”の活動をしてもらいます〉

 

 

 

部活動ってこと?学校の生徒としての。

 

 

まあそれは構わないけど。大赦も一般生徒として健全に教育を受けてるって実績が欲しいのでしょうから。

 

 

____けど、“勇者部”って?バーテックスの侵攻を阻止して撃滅するのがお役目じゃないの?

 

 

 

「教導、勇者部というのは何でしょう」

 

〈よくぞ聞いてくれました芽吹。勇者部とはっ!!〉

 

 

 

教導が芝居がかった声色でうれしそうに説明を始めた。私も三好さんも怪訝な顔を止められない。

 

 

 

〈勇者部とはっ、世のため人のために善をおこなう部なのである!〉

 

「…有り体にいえば、ボランティア部?」

 

〈似てるけどちょっと違う!依頼者本人から依頼を受け取って、できる限り遂行するんだ!〉

 

「いわゆる何でも屋というやつですか」

 

〈あ、お金は取らないよ。困ってる人に手を差し伸べるのが目的だからね〉

 

 

 

____概要は理解できたけど、教導の意図がわからない。

 

 

そういう時間があるならバーテックス討伐の鍛練に費やすべきだし、学生としての健全な実績を証明するにしても少し的はずれな気がする。

 

 

 

〈んで、今日の依頼者は用務員さんと水泳部から!ほんとなら用務員さんがプールの掃除をするはずだったんだけど、腰を痛めちゃったらしくて〉

 

「それで代わりに私たちに依頼をもってきたと」

 

〈そんな感じ。水泳部のみんなも後で合流するけど、ささっと済まして残った時間で一緒に遊ぼうと思ってさ〉

 

 

 

途中から教導はうれしそうな顔をして親指を立てた。意図はやっぱり掴めないけど、仕事というなら早いに越したことはない。

 

 

____三好さんは不服そうな顔してるけど。

 

 

 

「それじゃ体のいい雑用じゃない。私たちにはバーテックスを殲滅するって大事な役目が」

 

〈勇者である前に学生だよ。こういう機会でしか他の生徒と関われないから、大事にしようよ〉

 

「その必要はあるの?大赦の機嫌を取りたいなら勝手にやりなさいよ」

 

「三好さん、ストップ」

 

 

 

勇者になってなお下働きというのが気に食わないのか、教導に噛みつく三好さん。これじゃ教導の真意を計れない。

 

 

声を強く制止して、教導にその本心を問う。

 

 

 

「この活動の目的を教えてください」

 

〈あれだよ。勇者としてのお役目だけじゃなくて、その後の学校生活を楽しく過ごせるようにと思って〉

 

「…お役目の他、ですか」

 

〈うん。二人ともまともな青春送ってないはずだから、せめてオフの時だけでも楽しい時間を過ごせればいいなと思わない?〉

 

 

 

____教導も歯に衣着せぬ物言いをする。私たちのこの二年は確かに鍛練に明け暮れて、一般に言うところの青春など感じることはなかった。

 

 

そんなもの必要ない、と言ってしまえばその通りだけど。

 

 

 

 

 

 

____だけど、その後はどうだ?

 

 

一般に言うところから外れていびつに育った私たちが、一般社会に溶け込んでいけるだろうか?

 

 

 

〈ほんとに嫌なら無理強いはしないよ。あたしが勝手に決めちゃったことだし〉

 

「…いえ。私は教導の意向に従います。これが必要なカリキュラムというのは理解しましたので」

 

「…そんな悲しそうな顔しないでよ。私が悪いみたいじゃない」

 

「その言葉は是と捉えていいのかしら?」

 

「…仕方ないじゃない。そんなもっともらしい理屈を並べられたら。それが連中の言いなりだとしても」

 

 

 

三好さん、教導に不満があると言うより、大赦に媚びを売ることに納得いかないらしい。理由は知らないけど、表向きくらいは良い顔しておいた方が利口だと思う。

 

 

 

〈…ん?ちょっと待って。二人の話がわかんない〉

 

「…え?」

 

「何がわからないのですか?」

 

〈大赦の機嫌だとか、言いなりだとかって。細かい学校生活はあたしと先生に一任されてるから、別に誰かが口出ししてくるとかないよ?〉

 

 

 

きょとんとした顔で首をかしげる教導。私たちが共通して思っていたのは杞憂だったらしい。____いえ、教導が悪意に気づいてないだけかもしれない。

 

 

でも、やっぱり本心から私たちのその後のことまで考えてたわけか。

 

 

____この人の純真さには、かなわない。

 

 

 

「……無駄口叩いてないで始めましょうか」

 

「ああもうわかったわよ。銀様はさぞかし殊勝な勇者で」

 

〈え?ちょっと?二人が話してたこと教えてよー〉

 

「教導は知らなくていいことです」

 

 

 

まぶしいくらい純真な人だけど、それゆえに危うい。バーテックスを撃滅できる勇者かもしれないけど、人の悪意に食われてしまいそうだ。

 

 

 

____私が銀にできることは、その輝きを曇らせないことか。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

「お?銀ちゃん、ほんとに掃除にきてくれたんだ!」

 

「それに神樹様に選ばれた二人を連れて!」

 

「……何やってるのかしらね…」

 

 

 

聞こえてますよ、水泳部の人たち。それはしっかりと。

 

 

 

 

 

 

何をやっているのか、それは私が知りたい。

 

 

 

〈ふっははは!夏凜ってば転んでもないのにずぶ濡れじゃん!〉

 

「誰のせいだと思ってんのよ!終わった途端にぶっかけてくるなんて!」

 

「……やるとは思ってましたが、実際やられると屈辱ね…」

 

 

 

私も三好さんも、全身くまなくずぶ濡れ。

 

 

掃除自体は三人協力して効率良く終えたのだけど、終わって一息ついたところに教導がホースの水を全開で。

 

 

 

〈だってさー、何にも起きないんだもん!ブラシでチャンバラしたり、ずっこけてヘドロに突っ込んだりとか、そういうイベント!二人とも仕事出来すぎて面白みもなんにもないから!〉

 

「だったらいいわよ!相手になるわよ!仕事も終わったし!」

 

「教導がお望みというなら、やってやりますよ。リンチ状態になっても責任取りませんからね!」

 

 

 

もう何か考えるのがバカバカしくなってきた。教導の思考は深読みしても何も得られないし。陰謀とは無縁だし。

 

 

なら感情のままにフラストレーションを発散する!言い訳つけて逃げるのももううんざり!

 

 

 

ヘドロがまだ残ってるブラシを構えて銀に迫る。三好さんも考えは同じようだ。

 

 

 

〈…にっ〉

 

「ぶっふっ!」

 

「三好さん!?」

 

 

 

銀のウォーターガンは寸分の狂いもなく一番槍の三好さんの顔面を撃ち抜いた。射撃する武器を使わない教導だけど、その所作は手慣れたように見える。

 

 

だけど三好さんを狙ってくれて好都合。近接武器は三好さんの方が得意って判断だろうけど、私も苦手ってわけじゃない!

 

 

 

「ヘドロまみれになりなさい!」

 

〈うおっ!?危ねっ〉

 

 

 

ブラシは教導の肩を捉えたはずだった。あっちの反応は間に合ってなかったし、イレギュラーが発生したわけでもない。

 

 

けど、黒鉄の義手はブラシの柄を掴んで抑えた。あたかも義手自身が意志をもってるかのような動きで、主人の身を守るように。

 

 

 

〈汚物は消毒だぁー!〉

 

「あぶぇっ!」

 

 

 

勢いのある水流が私のみぞおちあたりに叩き込まれた。

 

 

それなりに威力のあるウォーターガンだから、ケガしないにせよ大ダメージ。自分でも大袈裟と思うくらいにのけぞった。

 

 

 

〈はっはっはー!銀様をタコ殴りにしようなんて300年早いわぁ!〉

 

「…ううっ、鼻に水入った…」

 

「ぅぶっ…まさか水だけで撃退されるなんて…」

 

〈ごめんごめん。二人がムキになってくれたのがうれしくってさっ〉

 

 

 

教導は手を縦にして謝りながら私たちの肩を叩く。

 

 

 

 

 

 

____甘いんですよね、教導!三好さんよりも!

 

 

 

「取った!」

 

〈うぇっ!?〉

 

「あんただけびしょ濡れじゃないなんて不公平よね?存分に濡れなさい!」

 

 

 

教導が勝ちと思い込んで隙を出したところを強襲。三好さんも同じ事を考えてたみたいだ。

 

 

さっと背後に回り込んで羽交い締めにして、そのまま後ろに倒れ込んだ。脚を絡めてやればもう銀は動けないはず。

 

 

怪しい笑みを浮かべて三好さんはウォーターガンを銀から奪い取って、容赦なく全開で放出。

 

 

 

「私からももらっておいてください!」

 

〈ぬへぇ!?ちょっ、め、芽吹っ、タンマっ!ひ、ひひぇええへへへ!〉

 

 

 

ただ銀を三好さんの的にするのもアレだから、私は空いた手で首筋をくすぐる。

 

 

なかなか意味不明な悲鳴をあげて笑い泣きするあたり、効果は大きいようだ。

 

 

 

「ふふ、借りは返したわよ、銀!」

 

「これがお望みなんでしょう?」

 

〈あ…ふぅ…。…穢されちゃった……〉

 

 

 

____なんですかその反応は。

 

 

負けを認めるでも勝利を祝うでもなく、なぜ大根くさい芝居で恥ずかしがるんですか。

 

 

 

「……あー。すごい現場目撃しちゃった」

 

「銀ちゃんの後輩二人は、先輩にぶっかけやあいぶしちゃうけだものさんなんだ…」

 

「ぬえぇ!?ちょっ、ちが、違うわよっ!」

 

「そ、そんな不埒な関係ではっ!」

 

 

 

____ギャラリーがいたのを完全に失念していた。それに気づいた途端、体温が跳ね上がるのがわかった。

 

 

あっちは完全に誤解してる。けだものって、それはあんまりでしょ!

 

 

教導があんな演技をしたのも、この悪ふざけのためか。水泳部の人たちが悪乗りするのを見越して、わざと抵抗しなかったとでも言うの?

 

 

 

〈うへへぇ…両手に花なんだぜぇ、銀様〉

 

「あ、銀ちゃん起きた。お疲れ様ー」

 

〈ちぃーす!ご依頼のプール掃除、すでに完了しましたー!〉

 

「銀ちゃんありがとねー。それじゃ後輩ちゃんたちと一緒にイネス行こっか」

 

 

 

銀は何事もなかったかのように立ち上がって水泳部員たちに手を振った。

 

 

罠にはめてやったぜという不敵な笑みが、この時は異様に憎たらしかった。出し抜いたつもりが飛んだしっぺ返しを食らったのだから。

 

 

 

「…に、しても」

 

「こんな美少女三人が濡れ透けなんて…グッジョブ銀ちゃん!」

 

「!!」

 

 

 

言われてみれば、学校指定のシャツの下から下着が透けてる。

 

 

ふと三好さんに視線を合わせると、身を抱いてなぜか怒りの視線で返される。いや、恥ずかしいのは私もだから。

 

 

 

〈いやいや、あたしは二人と比べたら鉄屑のスクラップレベルだし…〉

 

「はい出ました銀ちゃん特有のあたしはかわいくない。銀ちゃんがかわいくないって言ったら私は錆レベルよ?」

 

「それとも女の子扱いされるのが恥ずかしいのかな?」

 

〈だぁーっ!もうやめ!この話は受け付けません!〉

 

 

 

教導が本気の拒否を見せた。

 

 

これまで割と余裕を見せていた教導にして、打つ手なしと言ってるような話の切り方。____これは意外な弱点なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

銀は自分がかわいくないと思っているらしい。控えめに見ても、鉄屑なんかじゃなくてシルバーチャームに例えられるくらいに美しくて愛らしいんだけど。

 

 

 

〈はいはい行きますよ。話は後で聞きます〉

 

「…二人はどう思う?銀ちゃん、かわいくない?」

 

「そりゃ…かわいいわよ。半分女捨てた私なんかとは比べられないくらい」

 

〈夏凜!?〉

 

「どんな人が私たちの指導者なのかと思ってたら、完全無欠の美少女だった」

 

〈芽吹!?〉

 

「…以上、後輩ちゃんからの感想でした。銀ちゃん、もう愛されてるねー」

 

 

 

声にならないうめき声をあげて銀は顔を隠してもん絶してる。褒められなれてないのは教導もじゃないですか。

 

 

無抵抗になった教導は水泳部さん二人に連れられていった。よし、やり返せたわ。

 

 

 

 

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