シロツメクサを捧げる   作:Kamadouma

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あたしの味方はいないのかよぉ~!

 

 

 

 

「で、銀ちゃん。もうそろそろ二人のこと教えてよー。もったいぶらずにさ」

 

〈タダじゃ教えられないなぁー。そうだなー、頭文字Gであたしをぶっちぎれたら考えてあげなくもない〉

 

「好きだよねーゲーセン。イネスきたらずっとここだもん」

 

 

 

何故か水泳部さんたちと一緒に、少し遠くにある複合商店イネスに行くこととなった私たち。

 

 

教導は本舎の生徒と意外にパイプがあるらしい。この人たち以外にも、一緒に遊びにいく生徒は結構いると聞いた。

 

 

で、その中の施設の一つ、ゲームセンターに足を運んだ。

 

 

 

「よし、じゃあ本人に聞いちゃおう!」

 

「え?」

 

〈そういうの困ります。面会はあたしを通してからにしてください〉

 

「マネージャーか!…いや、勇者部のマネージャーか」

 

「…その、勇者部って?」

 

 

 

教導に聞いてもアバウトな返答しか期待できないから、外部の人間に聞いてみよう。

 

 

 

「銀ちゃんが転校してから始めた活動だね。前いた学校にあったんだって」

 

「お呼びとあらば即参上で、いろんな仕事を引き受けてくれるんだ」

 

「…一部大変なことになった所もあるけどね…」

 

〈…はは〉

 

 

 

表情を読まれないように真顔で笑うけど、それが返って教導のやらかしの壮絶さを物語る。

 

 

それと同時に、これ以上話を広げたらわかってるよね?という脅迫めいた圧力も感じる。

 

 

 

「銀ちゃんの精力的な活動のおかげで、勇者部はうちの学校でもその存在を知られることになったんだ」

 

「フットワークの軽さと銀ちゃんパワーでお悩み解決してたら、今じゃみんなから頼りにされる部になったんだよ」

 

「…銀ってやっぱり、超人よね…」

 

「それは同感。一年足らずで顔を合わせる機会もない生徒の信頼を勝ち取れるなんて…」

 

 

 

教導の武勇伝は私たちの常識を凌駕する。最強の対バーテックス戦力にして、組織内外から一目置かれるカリスマ。

 

 

これに知力まで合わさったら、大赦を乗っ取って世界征服でもしてたんじゃないかしら。そう思うくらいこの改造勇者は偉大に見えた。

 

 

 

〈じゃあその超人に挑戦してくれる勇者はいるかな?〉

 

「…やってやるわよ。今のところ銀に出し抜かれっぱなしだから、ここで完勝しておかないと」

 

 

 

____正直、三好さんの闘争心は私を上回ってると思う。直情的な部分を隠しきれてないのもあいまって、自分でもブレーキをかけきれてないようだ。

 

 

でも、私との決戦はなぜか避けられているような気もする。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

「芽吹ちゃん、ね。銀ちゃんに振り回されて大変でしょ」

 

「そんなことないわ。銀は振り回してるように見せかけて、気配りばっかりしてる」

 

 

 

教導と三好さんはゲームの筐体に取りついてしまったので、私と水泳部さんはレストスペースで話をする流れになった。

 

 

 

「詳しいお役目とかは私たちは聞けないけど、あんまり気負っちゃダメだよ」

 

「え?」

 

「なんでこんなに銀ちゃんが、お役目じゃないことに熱心か、考えたことある?」

 

 

 

____戦いが終わった後に帰る場所を作るため?

 

 

でもそれだけじゃ説得力が足りない。私たちのことをこんなに想ってくれる理由としては。

 

 

 

「…芽吹ちゃん、転校する前の銀ちゃんってどんなだったか、想像できる?」

 

「……?」

 

 

 

時期としては____私が勇者の候補として抜擢されたくらいか。つまりは。

 

 

 

 

 

 

彼女が戦友二人を失い、身体を破損させながらバーテックスを撃退した直後。

 

 

 

「…銀が当時のお役目から戻ってきた時に、戻るべき場所はなかった…ってことなの?」

 

「そう。他の友達はお役目の中で亡くなって、自分の身体はボロボロになって、…弟さんや家族にも会えなかったんだって」

 

「………………」

 

 

 

サイボーグになった娘が帰って来たら、両親は何を思うだろうか。私のパパなら____

 

 

 

 

 

 

____会わせないのは無難な策だろう。一つの家庭を崩壊させる理由としては十分すぎる。

 

 

その過酷な経験を私たちには遭わせまいと奔走してる、というの?

 

 

 

「……相当荒んでたんだって、銀ちゃん。今の義肢をつけてからは、大赦の人に暴力振るったり人を傷つけること平気で言ったりとかしてたって」

 

「………………」

 

 

 

グレる理由としても十分か。

 

 

勝利を勝ち取ったはずなのに、得られたのはあって然るべきの平和だけ。友達や家族、さらには己の自由すらも捧げたのに。

 

 

 

 

 

 

____でも、それで周囲に噛みつく教導の姿は想像できない。私の中の教導は、徳をおふざけで塗り固めたような、残念だけど尊敬できる人だから。

 

 

 

「銀ちゃんはたぶん、芽吹ちゃんやもう一人にそうなってほしくないって思ってるはず。だから、…ムチャはしないでね」

 

「私たちにできるのは、それを願うしかないからさ」

 

「…ええ」

 

 

 

おそらく彼女たちも教導に心からのお節介を受けたのだろう。重大なお役目を一人背負った教導に何か恩返しがしたいと思うのも道理。

 

 

彼女たちが選んだのは、銀が話してくれない真意を秘かに伝えることで少しでも助けになれば、ということか。

 

 

 

 

 

 

____そんなの、尚更意識しちゃうじゃない。

 

 

 

「湿っぽい話しちゃったね。さて、芽吹ちゃんの話を聞かせてもらおうか」

 

「私の?」

 

「うん。クールビューティーな芽吹ちゃんの」

 

「…人の数倍つまらない人生歩んでるわよ?」

 

 

 

断言できる自信はある。

 

 

勇者を目指す前から趣味は人とは合わなかったし、勇者を目指した時からはほぼ全ての余力を鍛練に費やしたから。

 

 

 

「例えば?」

 

「休日に何するかっていえば、トレーニングトレーニング&トレーニング」

 

「うわぁ。ガチ勢だぁ」

 

「趣味くらいあるよね?なんかさ」

 

「建造物巡りとかDIY…あと、モデル?」

 

 

 

少なくても女子向けの趣味ではない。それは理解してるけど、好きなものは好きだからしょうがない。

 

 

 

「え?モデルやってんの!?」

 

「芽吹ちゃん美人だし、しっかり者っぽいし」

 

「……あなた達が想像してるものとは違うわ。“模型”の方」

 

「もけい…もけーっとしてるの?」

 

「天然ボケはいいから。模型ってアレ?プラモとか」

 

「そうそれ」

 

 

 

まあ、そういう反応よね。女らしさが日に日に崩れ落ちてるのが自分でも体感してるから。

 

 

 

〈あたしもプラモデル、意外と好きだよ。弟と一緒に○ンダム作ったし、頭文字Gの愛車もきっちり作ったし〉

 

「ゲームまで極めてるじゃないのよ…!何なら銀に勝てるのよ…!」

 

「三好さん…惨敗したのね」

 

 

 

ゲームをしてた二人が帰って来た。言うまでもなく、三好さんは打ち負かされたようだった。

 

 

 

〈イネスマイスターに死角はない!何度でも挑戦受けて立つよ!〉

 

「じゃあショップ行って可愛く着飾りましょうねー」

 

〈そ、それだけはご勘弁を…〉

 

「それいいわね。“モデル”になってもらいましょうか」

 

〈何で芽吹まで便乗するんだよ~!〉

 

 

 

____仇を討つわけじゃないけど、私も教導にどこかでは勝ちたいと思ってるから。弱点を見つけて、看過するほど私は甘くない。

 

 

教導の義手をガッチリ掴んで、モールの方へ歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

「……何この圧倒的美少女」

 

「義眼さえ、そういうアクセサリーに見えてくるわ…」

 

〈や、やめろよ~そういうこと言うの…〉

 

 

 

その恥じらう姿も、まさしく美少女。少しおしゃれするだけで、銀は文字通り素朴ながらも麗しくなるのね。

 

 

 

 

 

 

何とか銀を試着室に押し込んで、試しにおしゃれをさせてみた。

 

 

私と水泳部さん二人で見繕った緩めのワンピースとカーディガン。あとは髪の結い方を少し変えただけ。それだけで不思議なくらいにおしとやかに見える。

 

 

義眼や発声機はモノクルやチョーカーと捉えれば何だかおしゃれにも思えるし、義手も袖で隠れてあまり目立たない。

 

 

 

「ヤバい、思った通りだ。銀ちゃんは金だった」パシャッ

 

「我々の念願叶ったり。ありがと芽吹ちゃん」パシャッ

 

〈こ、こら!撮るなよぉ!〉

 

「どういたしまして。でもいろいろ教えてくれたお礼としては不足じゃないかしら?」パシャッ

 

「いやいや。銀ちゃんを無理矢理にでも連れ込んだ功績は大きいよ」パシャッ

 

「あと芽吹ちゃん、センスいいよね。モデルじゃなくてコーディネーターだった?」パシャッ

 

「…本人を無視しつつ話しながら撮影しまくるとは、なかなかヒドイわね…。でも、楠がこんなにファッションに明るいとは思いもしなかったわ」パシャッ

 

〈あっ!夏凜まで!!あたしの味方はいないのかよぉ~!〉

 

 

 

どうどうどうと割り込んできたけど、誰もシャッターを切るのをやめない。三ノ輪銀は美少女だったという事実を、手のひらからこぼさないように。

 

 

そしてとうとう教導はすねてしまった。

 

 

 

〈もういいもん…。みんながあたしがこんな格好してるのを見て笑ってても、気にしないもん…〉

 

「それは違いますよ、教導。今のあなたを見て笑う人間なんていません。女の子してるじゃないですか」

 

「それにこれがあんたの望みなんでしょ?普通の学生として青春を謳歌するって。…銀がそうじゃないと私たちもどうすればいいかわからないじゃない」

 

〈それはそうだけど…。…てか、それとこれとは話が別!〉

 

 

 

三好さんの話の転換もなかなか上手だったけど、見破られてたか。やっぱり決して頭が悪いわけじゃないのね。

 

 

 

〈…そうやって言い訳をつけてくるだけ、あの二人よりはマシかぁ…〉

 

「…あの二人?」

 

 

 

そう聞き返した時、端末から耳障りなハザードが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

〈…マジで?このタイミングで?早すぎない?〉

 

「な、何なのよこの音は!?」

 

〈樹海化警報。バーテックスが壁を越えてきた時に神樹様の結界が四国を覆うって言ったけど、今まさにそれ。ご丁寧にこの音で教えてくれるんだ〉

 

「…あれ?何でみんな動きを止めてるの?」

 

〈神樹様の力を持つ人間…勇者以外は結界の外だよ。今見えてるのはあえて言うなら幻覚だね〉

 

 

 

教導はふぅーっと、一つ息をついて自分の頬を叩いた。そして辺りを見回す。

 

 

 

 

 

 

説明不足な面もあったけど、三好さんはそれなりに精神をかき乱されたようだ。大した教練を積む間もなく、いまここで実戦に投入されるのだから。

 

 

私とて平静なつもりではいるけど、緊張の糸は今にもはち切れんばかりに突っ張っている。

 

 

恐れ、困惑、期待____勇者に選ばれた時ですら得られなかった、心をざわつかせる感情の波を体感して可笑しな気分だ。

 

 

 

〈さあ勇者部、出動だよ!…ってあれ?おかしいなぁ〉

 

「何かトラブルですか?」

 

〈…精神状態不安定。勇者システム展開停止…。…マジか!〉

 

「えっ!?」

 

「本当ですかっ!?」

 

〈…マジっぽい。おっかしーな。別に何か悩み事とかあるわけでも____〉

 

 

 

突然の教導の戦力外通知。本人は私たちより余程余裕な様子だけど、システムは不安定な状態と判断したらしい。

 

 

 

〈…やっぱりこんな格好させられて辱しめられたからかなぁ〉

 

「…根に持つタイプなのね…」

 

「それは、その…。…すみませんでした」

 

 

 

事実だとすれば、大変申し訳ないことをした。割と本気で嫌がってたのを知らずに調子に乗って____。

 

 

ともあれ、今はそれどころではない。教導が戦えない以上、私と三好さんで何とかするしかない。

 

 

 

〈樹海化が始まるよ。二人とも準備準備!〉

 

「や、やってやるわよ!銀はそこで見てなさい!」

 

〈よろしく頼むね、夏凜。ビビる様子もなくて安心した。大丈夫、二人の力を発揮すればなんとかなるよ〉

 

「注意点とかはありますか?これはしてはいけないとか」

 

〈芽吹は本当クールだよね。…バーテックスが神樹様のところに着いたらゲームオーバー。あと樹海が破壊されると現実世界に大災害。…でも、焦らず確実に戦いを進めて〉

 

「「了解!」」

 

 

 

世界の崩壊。その言葉で、これは訓練ではなくて決戦だということを認識した。

 

 

教導は持てる力を出せば勝てると言ってくれた。____期待されてる、と思って間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

程なくして風景が花びらとなって散って、教導のシミュレーションで見た樹海が世界を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈あれがいけなかったのかな。壁の向こうに行ったのが…〉

 

 

 

 

 

 


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