卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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僕の中で一番の死神は山爺だったよ。きっと、山爺は喜んでるかな。もう山爺を超える死神は居たことに。

護廷十三隊八番隊隊長 京楽春水


10話 この日ほど、呪いたい日は無いと思う…①

中央四十六室

 

尸魂界全土から集められた四十人の賢者と六人の裁判官で構成される尸魂界におかれる最高の司法機関。死神の犯した罪咎は全てここで裁かれ、その裁定の執行に武力が必要と判断されれば、隠密機動(おんみつきどう)鬼道衆(きどうしゅう)・護廷十三隊等の各実行部隊に指令が下される。絶対的な決定権を持ち、その裁定にはたとえ隊長格といえど異を唱えることは許されない。

 

「…見張りはどこだ?」

 

だが、その場に来たというのに外の門を守る見張りは誰も居ない。

 

「見当たりませんね」

 

そして中に入る。といっても屋根のある建物に入るわけではない。門は外門と内門の二重となっているのだ、だがそこにも誰も居ない。

 

不審に思いながらも日番谷達は歩を進める。そして中の扉を開けようと試みるが、ここには鍵がかかっている。しかも内側からだ。

 

「十番隊隊長の日番谷冬獅郎だ、緊急故に門を開けて頂きたい」

 

内側から鍵がかかっているのならば、中に人がいるのは確かな事だ。日番谷は中の者へ問いかける、だがその扉を守るように網目を作るように刃が現れ扉を塞ぐ。

 

「…仕方ない、離れてろ」

 

そしてそれを見た日番谷は少し考えると自身の斬魄刀を引き抜く。

 

「ちょっと隊長!?」

 

松本が制止の声をかけるもそのまま日番谷隊長は扉を防御壁ごと破壊する。なお、萩風はどこ吹く風と知らん顔している。これがバレたらどうせ彼も罰せられるが。

 

そして斬魄刀を仕舞う日番谷だが、松本も直ぐに違和感に気づく。いや最初から違和感だらけなのだが、今度の違和感は明確過ぎる。

 

「警報がならない」

 

四十六室の扉が突破されたのだ、現世でもし銀行に侵入者が来たならば直ぐに非常時の対策の装置を使えば警察に連絡が行く。それをここでは警報という形で響き渡るはずだが、その音がなる気配はない。

 

「嫌な予感がするぜ…」

 

日番谷がそう呟くと先頭となって中へ入っていく。入って直ぐに異変に気付いたのは萩風だ、その次に日番谷、松本の順に気づく。

 

「馬鹿な…」

 

血の匂いだ、しかもそれはよりにもよって四十六室のメンバーの物であった。

 

直ぐに萩風は検死を始める、と言っても簡単な事しかできないが、死因や状況程度は予想はできる。そして、日番谷隊長達は萩風が居たことで素早く情報を手に入る事ができていた。

 

「死亡推定時刻は…わかりませんが、旅禍が来る前。死因は斬魄刀に切り捨てられた事による…魂魄の損傷です」

 

「そんな前からか!?」

 

その日に四十六室が全滅したのならば、黒幕は何を狙っているかは分からないが日番谷は気づく。朽木ルキアの処刑を早めるのを命令したのは、四十六室のメンバーが死んでからだ。

 

その日から黒幕は動いていた、旅禍の可能性も拭えないがこれは内側からの侵攻の方が納得のいく。何故なら、そうでなければここまで護廷十三隊の内情を理解していないだろうからだ。

 

そんな時である、日番谷は背後からの視線に気づく。

 

「まさか吉良…お前がやったのか!?」

 

そこに居たのは吉良イヅル、護廷十三隊三番隊の副隊長を務める男だ。

 

「萩風副隊長はここで調査を頼む、行くぞ松本!」

 

彼が何かしら関わってる可能性が高い、日番谷は松本を連れて直ぐに追いかけ四十六室を出て行った。

 

☆☆☆☆☆

 

日番谷隊長が怪しいかもしれないと思って付いて行ったら、四十六室の人達が死んでた。マジでヤバイよな?さっさと抜け出したいんだけど、今すぐに助けを呼びたいんだけど!

 

卯ノ花隊長助けてください!

 

そんな事を思いながらしっかりと任された仕事やるんだからなぁ…はい、斬魄刀で切り裂かれて死んでます。以上、助けを呼びに行こうかな。

 

もう嫌だよぉ〜、女の子の処刑を見たくなかったけどこんな死体の山見たくなかったよぉ〜…一応、抵抗した痕跡はあるな。マジでそんくらいよ、特にできることないって〜…

 

そんな事を思いながら振り向くとそこには一人の死神が居た。

 

「雛森副隊長、何でそこ…あー、日番谷隊長が好き過ぎてもストーカーは良くないぞ」

 

「ち、違います!!」

 

いつから居た?彼女は日番谷隊長の結界で守られていた筈だ、いや脱走したんだろうな。霊圧を消すのも訳ないか、彼女は鬼道の天才なんだから。

 

残念ながらまた彼女を追い返さないといけないみたいだわ、女の子に刀とか向けたくないんだけど!また日番谷隊長のネタで攻めてやろうか?少し顔赤いし、たぶん自暴自棄とかにならなければ無傷で終わりそうだ。

 

「止まってくれ、俺も君をあんな形で何度も倒したくない」

 

「やめてくださいよ!?私もそろそろ怒りますよ!?」

 

彼女だってわかってるだろ、俺は同じ副隊長でも俺の方が強いのを。斬魄刀の破壊力は彼女が圧倒的に上でも、俺の斬魄刀との相性は悪いからね。卍解を超えた力を使えない君じゃ、俺は倒せない!たぶん!

 

「じゃあ、僕なら倒せるんかな?」

 

ゾワっとした、背筋が舐められたみたいにヒヤリとした。消されていた霊圧が現れ、その感覚と嫌らしい声は忘れられない。俺は油断してない、一箇所しかない出入り口の、雛森さんの隣を通り抜けたのはあり得ない。何故なら、俺は見ていたからだ。

 

「市丸隊長…!?」

 

彼の斬魄刀の能力的に、最初からここに居たって事だ。最初から、四十六室に居たって事だろう。

 

彼の斬魄刀の能力は斬魄刀の刃の伸縮を自由にできる能力だと聞いてるし、そんな彼と間合いは然程意味をなさない。

 

冷や汗が流れる俺をよそに、市丸隊長は雛森さんへ声をかける。

 

「雛森副隊長は奥で待ち人がおるで、君も会いたい人や」

 

それを聞いた雛森さんは俺の横を通り抜けていく。なんで止めないのかって?そんな隙を見せた瞬間に市丸隊長に殺されかねないからだよ、明らかな敵意がその目にやどっちまってる。

 

てか雛森さんの会いたい人?俺の知る中だと藍染隊長くらいだが、彼女の両親とか親友…とかもあり得る。でも、一番可能性が高いのはやはり藍染隊長だろう。

 

日番谷隊長は外だし、違うよなぁ…

 

「市丸隊長…四十六室を騙っていたのは貴方ですか?」

 

日番谷隊長を離した時点で、彼は白だ。黒の予想もしてたから付いてきたけど真っ黒なのは藍染隊長と市丸隊長かよ、最悪過ぎる。俺じゃどうにもできない、卍解使ってもまだ見ぬ卍解・改弐で殺されるだろう。

 

日番谷隊長、卯ノ花隊長…助けてください!!

 

俺は戦う為に来てないから!雛森さんの敵っぽい人が俺より強かったら他力本願するところだっただけだから!

 

「いや、僕は何も。ただ…僕はここに来ただけや。萩風副隊長もそやろ?」

 

故に俺にできるのは雛森さんの霊圧を感じて無事を祈り、この人と戦闘しないようにしなければならない。

 

「…雛森さんを、どうするつもりですか」

 

「あーそやね…もう、終わったって言うたらどうする?」

 

え?…っ!?今、雛森さんの霊圧が消えた!?それと同時に、奥から見覚えのあるイケメンがやって来る。メガネとその隊長だけが羽織るそれは、間違いない。

 

「やぁ、久しぶりだね。萩風副隊長(はぎかぜふくたいちょう)

 

藍染隊長、だがそんな事を気にしてる暇が無い!直ぐに二人の横を通り抜けて奥へと走り抜ける、そして…

 

「君の腕なら助かってしまうね、バラバラにした方が良かったかな?」

 

血の池に沈む雛森さんを見つける、状況からして藍染隊長がやったのだろう。見たところ、斬魄刀も抜いてないし抵抗の跡がない。不意打ちで、やりやがった!まだ意識はギリギリ残っているのだが…

 

「良かった…シロちゃんが、悪い人じゃ…なく…」

 

そう言って、雛森さんは意識を手放した。

 

藍染は信用していたが、日番谷隊長も信用していた。どちらも信用していたから、藍染から真実を聞きたくて会いたかったわけか…ふざけてんな。

 

(おく)()せ 『天狐(てんこ)』!!」

 

俺はすぐに斬魄刀を解放する、現れたのは普通の刀の背に9本の小刀のようなものができる。これが俺の始解だ。

 

「それが、君の斬魄刀か。見るのは初めてだ」

 

俺の斬魄刀の能力は幻影を作り出す事。動かないならば人の幻影も作り出す事もできるが、主だった用途は景色を偽る事だ。

 

霊圧すら偽れる、だが景色が揺れ動くので幻影になってるのが相手にも分かってしまうという弱点もある。まぁ全体的に揺れてて最初から偽ってるのをバラすのだが、そこでいきなり動けというのも難しいだろう。

 

直ぐに俺が作り上げるのは偽りの陽炎、俺が刀を構えて固まっているのと倒れた雛森さんの幻影…俺は俺を偽れる、雛森さんも霊圧が消えかけているのでそのまま作れる。他人と全く同質の霊圧の偽装とかできませんよ。

 

正直、こんなのは子供騙しにしかならないだろう。しかし、圧倒的な初見殺しになるはずだ。そこに隙ができるはずだ。

 

それですぐに二人の真横を抜けて逃げ…っ!?

 

「ほぅ…雛森くんを抱えて避けたのか、流石は卯ノ花隊長の右腕だ。幻影(ダミー)もよくできてたよ、危うく見間違えそうだった」

 

俺の左肩から血がドバドバと流れ出て来る、こいつ今の一瞬で斬りつけて来やがった!てか俺もいつ抜刀したのかも、斬りかかって来たのかもわからなかった。超高速とかそんなレベルじゃねぇ、斬魄刀の能力か?

 

これが…隊長格の力か!?

 

「瞬歩は中々速いじゃないか、遅ければ楽に逝けただろうに」

 

結局、出口に辿り着けない。2人の隊長が行く手を阻む。

 

でも今は雛森さんの治療を優先だ、俺の肩も敵の能力も後回しにせざるをえない。

 

ヤバイ、隊長が2人とか…勝てる気が微塵もしないわ。

 

「藍染隊長…流石は隊長格だ。抜刀の瞬間すら見えなかったよ」

 

「君の方こそ、副隊長として十分過ぎる実力だ。だが、この程度ではあるまい」

 

「…あぁ、やっぱり始解じゃ隊長格2人を相手できないよな」

 

と言っても俺が打てる手はあれだけだ、それを使えば逃げる時間を稼げる…と信じたいけど、雛森さん抱えては厳しいかな…

 

でも、やるしか無いよなぁ…

 

覚悟を決めるか。

 

「残紅に跪け 卍解」

 

そして、俺の斬魄刀は真紅に染まっていく。


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