そして、それでも全力を出していない奴が、鬼神を超える存在になれるとは思いもしたくなかった。
現虚圏統治者 元第4十刃 ウルキオラ・シファー
「残紅に跪け
俺は彼女を背負いながら、斬魄刀を解放する。
俺自身の装束が紅色に変わる変化が現れている、次に俺の斬魄刀は柄も刀身も真紅に染まる。紅玉のような赤い鉱石でできたような、斬魄刀だ。
なお斬魄刀そのものは普通の刀の形となる。あと炎熱といっても、今必要なのは破壊力ではない。見せるのはまやかしだ。今から俺が使うのは、逃げる為に使う技だ。
「
そして、俺の周りは森の中にある街道の雰囲気を醸す別空間へと姿を変える。そしてそこを円のように、提灯が並んでいる。
「殺してでも、押し通る」
「あまり強い言葉を遣うなよ、弱く見えるぞ」
余裕を見せる藍染だが、その隣には
「っ!?」
もう一人の俺が切りかかっていた。ギリギリで避けられたが藍染は驚いている、そりゃそうだ…100人も俺が現れたら驚く。
「卍解を使えば10倍強くなるって話だが…単純に考えたら、俺は100倍に強いわけだ」
九十九提灯は天狐の進化能力、術の範囲もそうだが俺は俺自身の分身を、虚像であるが作れるようになる。だが実像を伴う虚像だ、全てが俺であり
そこに8人の俺が一斉に、上下左右前後から襲いかかる。全てを避ける事は、不可能だ。
「…ぐ、まさか…この私が…」
そして、藍染に全員が襲いかかる。避けきれなかったのか、何箇所か切りつける事もできた。これでしばらくは自由には動けないはずだ。
もちろん、市丸にも10人配置して警戒している。本人に動く気配はないが、それでも警戒を解くつもりはない。
そして、その間に俺は2人の間を抜けて逃げさせてもらう!
あくまでも俺は倒すつもりも、必要も無い。このまま逃げて、逃げて……
……待て、俺の攻撃程度で隊長格を倒せる?俺の卍解程度で、ダメージを負わせることが可能なのか?
「っ!?」
そこで俺は注意を最大限に高める、どこから攻撃が来るか…わからないからだ。この程度で、隊長が倒せるはずがない。
「…実に、興味深い技だ」
倒したと思わされた藍染は、そこには居なかった。
「ぐばっ…!?」
そして、俺の渾身の卍解はあっさりと打ち砕かれた。
「いつの間に…そこへ…」
気づいたら、藍染は襲いかかった俺の分身、そして市丸に対応していた分身を全員切り殺していた。全員、一撃で屠られている。
「驚く必要は無い、副隊長に甘んじていた君との差なんてわかっていた事だろう?」
俺の卍解には明確な弱点が実はある、それはどの虚像を攻撃しても本体である俺へダメージが反映される事だ。そして一撃食らった虚像は消え、提灯も消える。また、倒れた虚像は提灯に再点火…もう一度卍解してリロードされるまで復活しない。
このままではヤバいが、俺は出来る手を打つ。分身を集めて藍染を囲うのだ。
「
「
6つの光の杭が打ち込まれる、そしてそこへ雷の咆哮が襲いかかる。当たった、奴の動きはなかった。六〇番台の鬼道、当たったならば無傷ではないはずだ。
「ぐっ…また、どこに隠れてた!?」
しかし、そこに奴は居らず鬼道を使った俺をまた全て切り捨てていく。
数の利を得るのがこの卍解の最大の特徴、なので数の利を簡単にひっくり返せる程度の力しか持たない。しかし俺が押されてるのが、なぜなのかわからない。
この能力は実体を持つ瞬間を切り替えられる、攻撃時に実体を持っているがそれ以外は基本的に虚像だ。
なのに切り捨てられていく、藍染の位置を把握してるのに把握できていないからだろう。
藍染を貫いたと思ったら、そこには居ない。隣で実像である虚像の俺を刺している。
そして彼はまた、隣に居た。実体の俺の隣だ。嫌な予感がした、そんな俺にできたのは回避ではなく雛森さんを虚像へ投げ飛ばしてこの攻撃の範囲外へ離すことだけだった。
そして周りにいた分身へ襲いかかるように指示をするが…
「破道の九十
黒い箱が俺を覆い尽くしていく。
「がっ…」
重力の奔流に包まれ、引き裂かれた俺の体から血がまた抜かれていく。当然だが、本体である俺は虚像になれない。だから来るとわかっていても攻撃を避けられなければくらう。更に嫌なことに、棺には俺を含めて実像の俺が7人もいた。7倍の威力の攻撃を受けてしまった。
いや、そんな事を言ってる場合じゃない…今はダメージ量を考えるな。でも…あ、死ぬかも。
九〇番台、詠唱破棄。卍解も使わずに卍解を破る、これが隊長たる所以…今の俺じゃ足元にも及ばない。気づけば、卍解は解除されていた。
「はぁ…はぁ…ぐ、が…」
もはや命すらヤバい状況だ、隊長格とはここまでの怪物とは想像してもできていなかった。卍解を使えば何とかなるかもしれない?逃げれられる時間を稼げる?甘過ぎる考えだった、俺自身は気づかぬ間に自惚れていたのだ。
どこかで満足していたのだろう、だから敗れた。
奴は俺に副隊長に甘んじていたと言っていた、俺には副隊長という席すら重たかったのか…?まだ、副隊長の器に足りないのか?
というか、藍染隊長の能力がまったく読めない。自分との差があり過ぎて、測定できない。
俺には一応だが、まだ手札はあると言えばある。だがここには雛森さんがいる。巻き込むリスクが高過ぎる。
「素晴らしい力だったよ、萩風副隊長。だが怪我人の治療をしながら、彼女を庇いながら戦うのには相手が悪かった」
藍染が斬魄刀を俺に向ける、避ける余裕は無い。
「瀕死の彼女をそこまで回復させるとは、一対一では……少し、面倒だったかな」
そんな絶体絶命の時だった、背後から軽く身震いするほどの研ぎ澄まされた霊圧と怒号が聞こえたのは。
「藍染、市丸!!」
そこに居たのは今一番来てくれる可能性が高く、頼もしい隊長。
「日番谷隊長…」
日番谷冬獅郎、松本さんは居ないが彼が来てくれたなら俺と雛森さんが逃げる時間を稼げる。
「遅れてすまない…萩風副隊長、雛森は助かるか?」
ボロボロの俺に声をかけてくれるが、俺の心配もして欲しいです。
「…藍染に負けたら、意味ないですよ」
「すまない…任せるぞ」
すぐに日番谷隊長は俺と雛森さんを守るように2人へ立ち塞がる。俺も本当なら助太刀したいが、やっぱり重症の雛森さんを治すのには時間がかかりそうだ。
え?回道得意なんだろって?すぐに治せと?内臓の再組成って結構難しいんだかんな!
そして、俺の体もヤバいんだよ!!でも、雛森さんの方が命的にはやばい!
☆☆☆☆☆
既に、日番谷冬獅郎は斬魄刀を引き抜いていた。
「藍染、市丸…いつからだ、いつから雛森を…俺達を騙してた!」
冷気が雛森と萩風の近くを除く辺りを支配する、その斬魄刀の名は氷輪丸。氷雪系最強の天候すら操る斬魄刀である。
「別に誰も騙してないさ、ただ誰も本当の僕を理解できていないだけでね」
にも関わらず、藍染と市丸には緊張感をカケラも感じられない。それは更に日番谷の頭へ血を上らせてしまう、隊長としての…護廷十三隊としての誇りを傷つけられたのもあるが、日番谷はどうしても納得のいかないことがある。
「雛森はお前を、お前に憧れて五番隊に入ったんだぞ!その気持ちを踏みにじったお前は…!!」
雛森桃は藍染惣右介に命を救われ、憧れて護廷十三隊の五番隊に入隊した。萩風と共に誕生日の贈り物を選んだり、副隊長を目指したのも彼に少しでも近付く為だからだ。
「日番谷君、後学のために一つだけ教えておこう。
憧れは…
理解から最も遠い感情だよ」
だが、その一言で直ぐに理解する。日番谷の怒りが頂点に達した瞬間であった、直ぐに霊圧を解放し持てる力の全てをさらけ出す。いや、正確には全開ではない。なぜなら萩風達を巻き込むわけにはいないからだ、現段階で出しても良いと考えた全力だ。
「
だが、それは叶わなかった。
「済まないね、そろそろ時間切れだ」
卍解を使おうとした日番谷隊長は血を吹き出しながら倒れる。いつの間にか目の前に居た藍染は、背後にいた。
「日番谷隊長っ!!!」
直ぐに萩風が治療に向かおうとするがそれはできない、何故ならばもう藍染の標的は彼ではなくなってしまったからだ。
「さてと…今度こそ君かな。あの卍解は僕でなければ善戦できただろうね。でもまさか君が私の企みを見抜くとは思いもしなかった、偽装した死体にでも気づいたのかな?」
萩風にはその一連の流れが見えなかった、瞬間移動をしたように移動した藍染によって日番谷がやられた事しか理解できていなかった。
「偶々だ」
故に、今は何処から来るかわからない攻撃に備える他無い。雛森の回復も何とか死にはしないレベルにまで回復させたが、治療が終わってるわけでは無い。もう一度か二度、刺されたら死ぬレベルなのだ。
「嘘は良くない、偶々ここに来る死神なんて1人として居ないんだからね」
萩風は片手で斬魄刀を、片手で雛森を抱えるがどちらに分があるかは明らかである。
藍染がゆっくりと萩風の方へと歩を進める、萩風がもはや打てる手は一つしかない。最後の抵抗だが、これしか無いのだ。
「藍染、いつ俺が卍解を見せきった?」
「ほぅ…」
瞬間、萩風の霊圧が爆発的に上昇する。それに藍染は少しだけ驚き、その後ろにいる市丸は目を見開いている。
「もう四十六室の奴らは皆殺しにしたんだろ?俺が倒れたらどうせ二人も殺される。あんたの位置を把握できないなら、ここら一帯を吹き飛ばせばいい」
先程は逃げる為の戦いだったが、最早逃げる事なぞ不可能だ。
ならばと…彼は斬魄刀を片手で構え、全ての霊圧を収束させていく。今までの力が散布する能力なら、これは収束し一つとなる能力だ。
そしてもう一度、陽炎天狐を発動させる。
「卍解…!?」
だが発動できない、藍染はそれに関わらず距離を更に縮める。萩風はなぜ卍解ができなかったかを最初は理解できなかった。
「ちょっと、麻痺してたかな…この傷じゃ、厳しいか…」
だが瞬時に理解する、自分が卍解に堪えられないだけの傷を負っていた事に。傷の深さが、見た目より酷いことに。いつもは極限状態で行われる修行を基本にしてはならない、今の傷は修行の時より重く深く、卍解に堪えきれない。
そう斬魄刀に判断されたのだろう。
「お待ちなさい」
だがその静寂の雰囲気を破って2人の死神が現れる。それを予期していたのか藍染に驚きは無い、しかし萩風は振り向かずに霊圧を感じ取って目を見開いている。
「これはこれは、卯ノ花隊長。そろそろだとは思っていたよ。優秀な部下をお持ちでしたね。振り向いた瞬間に殺すつもりだったのですが」
「卯ノ花隊長、虎徹三席もか…?」
萩風は斬魄刀を構えながらも隣へ降り立つ彼女らを今度は目で確認する。
「萩風さん、直ぐに治療します!」
すると虎徹は真っ先に萩風と雛森の元へ向かう、止血すらしていなかった萩風の死神の装束は真っ赤である。それはかなり危ない状況である、赤い血は酸素が含まれた物だ。このまま垂れ流していたら死んでいた、それ程までに危ない状態であった。
しかし、雛森副隊長も重傷ではあるが命に別状は無い。この状態ですら回復させた萩風に感服しながらも虎徹は萩風の治療を続ける。
そしてまた、新たな戦いが始まっていた。
☆☆☆☆☆
卍解しようとしたらできなかった、いや忘れてたわ。俺の左肩とか…てか全身を思いっきり切り裂かれて体から血が噴射してたの。いや、雛森さんの方が重傷だったし、仕方なくない?アドレナリンがドバドバで気づかなかったんだけど、天狐ちゃんが意図的に阻止したのだろう。
今やってたら死んでたと思うわ…でも、一安心できるかな?卯ノ花隊長は鬼強い。あ、でも他の隊長は神強い人ばっかだろうし…あ、ダメだ。おれの頭が回らん、血を流し過ぎたな。
「藍染隊長…いえ、もう隊長ではありませんね。罪人、藍染惣右介」
「流石だよ、卯ノ花隊長。偽装した僕の死体に、僅かな違和感を感じるとは…よくここがわかったね」
「あれ程精巧な死体の人形を準備したあなたが隠れるなら、ここが最適なのはわかります。最近の四十六室の動向に不自然な点も多かったのですから、自明の理です」
なんか話し合ってる、よくわからんが藍染隊長が黒幕って見抜いてきたらしい。流石は卯ノ花隊長だ、他に援軍がいないのは心細いけど…
「惜しいなぁ…二つ間違えている。僕は隠れていない、そして…これは、人形なんかじゃない」
っ!?急に藍染隊長が二人に…いや、正確には藍染隊長が藍染の人形を持っている。でも、いつの間に取り出したのだろうか?二人を見てみると、どうやら二人にも見えなかったらしい。
「
そして人形は光の塵となって砕け散ると、藍染の手には斬魄刀が握られていた。
「僕の鏡花水月が有する能力は完全催眠、術中に嵌めた相手の五感全てを操り、全てを偽る能力だ」
…あれ、俺の能力の完全上位互換じゃね?藍染隊長の始解は見た事があるし、実践して見せ…あ、仕込まれたのか。副隊長全滅じゃん、てか隊長も恐らく全滅してるじゃん。てか日番谷隊長が本気出す前に倒してるじゃん、不意打ちとかえげつな…ん?
あれ、こいつ勝てんの?