滅却師 石田雨竜
隊長になるのには、条件がある。
最低限の条件が、卍解の習得だ。更木剣八という例外はあるが、原則としてこれをクリアしなければ隊長にはなれない。
そして隊長になる方法なのだが、その方法は三つある。
一つ目は、総隊長を含む隊長3名以上の立会いの下に行われる「隊首試験」に合格すること。
二つ目は、隊長6名以上の推薦を受け、残る隊長7名のうち3名以上に承認されること。
三つ目は、隊員200名以上の立会いの下、現隊長を一騎打ちで倒すことだ。
そして新たに追加された四つ目がある。
四つ目は、総隊長が選ぶ死神、もしくは総隊長から決闘を申し込まれ敗北した場合、強制的に隊長となる。
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「…雀部さん、どうしても戦わないといけないのか?」
2人が居るのは無間、1分の間も無く閉ざされ無限にも広大な場を有する場所。本来ならば、簡単には使用許可の下りない場所だ。
だが、総隊長命令であればここの使用は認められている。
「愚問ですな、私は元柳斎殿の命を受けて貴方を…萩風副隊長を倒します」
そして、総隊長である山本元柳斎重國はここの使用の許可を出した。
「…俺に隊長は、荷が重い」
萩風の言葉に嘘や偽りが無いのは少ない時間でも茶を酌み交わした雀部にはわかる、だからだろう。彼に少しでもやる気を出させる為にこう言った。
「…では、こうしましょう。私を倒せたなら…隊長にならない様に私が進言いたしましょう」
この提案は総隊長からの命令ではない、雀部に命じられたのは萩風の実力の確認も兼ねてある。彼が隊長に推薦されるのは初めてでは無い、以前は日番谷に譲っているがその時も「まだ、荷が重いです……今しばらく、お待ち頂きたい」と断っている。
だが元柳斎の命令は萩風と戦って、彼の実力がどの程度のものなのかを把握するというもの。そして隊長の器ならば、負かして隊長にしろとの事だ。だが隊長の器で無ければ、申し込んだ決闘を決闘中に無かったことにする。
では逆の場合では、勝ってしまった場合はどうなのかと問われるかもしれないが。この勝負は最初から簡単に負けるような死神は選ばれない、故に道はある程度決まっている。
「わかった…やろうか」
萩風も覚悟が決まったのか、隠していた霊圧を露わにする。雀部はその霊圧の高さに驚く、並の隊長と同格だ。しかも、まだ斬魄刀を解放していないにもかかわらずだ。
「
「
2人は斬魄刀を解放し、直ぐに力をぶつけ合う。厳霊丸から雷の刃が向けられれば、直ぐに萩風はそれを受け流していく。
萩風が小さな炎の塊を飛ばすと、それを雀部は切り捨てそのまま萩風へと剣を振るう。
また萩風が鬼道を使うと、雀部も同レベルの鬼道で相殺する。
そしてまたお互いに剣をぶつけ合う。
そんな短くも、一進一退の攻防が続いた。
「…流石ですな、萩風殿」
心からの賞賛だ、雀部はこの短時間のやり取りでいかに萩風の実力が高みにいるかを確認していた。斬魄刀を今まで解放したのは藍染惣右介との戦闘の一度きり、敗北したと聞いていた彼の実力は他の副隊長とどの程度の差があるのかわからなかったが、既に隊長として最低限の力を持ち合わせているのを確認する。
これは敬愛する元柳斎によい報告ができると思った雀部であった。
「準備運動は、このくらいにしときますか?」
が、この言葉で直ぐに身体中がゾワリとしたのを感じ取る。先程までの攻防で雀部は手心を加えた瞬間なぞ片時も無かった、卯ノ花隊長の弟子とは伺っている。だがそれはあくまでも回道における弟子だと、そう考えていた。
だが、それは間違いだ。この男…萩風カワウソは、何かが蠢いている。
「じゃあ、一気に終わらせましょう。雀部さんの卍解、見せてくれないですか?」
雀部の実力は並の隊長格を凌駕している、特に群を抜いているのは間違いなく卍解だ。それを所望される、本来であれば雀部は卍解をするつもりはなかった。
これを使うのは総隊長である元柳斎の為に使うと決めているからだ、その卍解を覚えたのは2000年も昔の事だ。だが目の前500年程度の若造に挑むには、これしか無いのも理解していた。
「…卍解!!」
そして、雀部は霊圧を解放する。
「
上空に向けて斬魄刀から雷が走る、そして上部に1本、下部に11本の帯が伸びた楕円形の雷の塊が現れる。それは斬魄刀を構える雀部の動きに合わせて、その雷の破壊の力は動かされているようで、軽く振って地面が抉れるだけの雷撃が落とされている。
「この卍解を見せるのは、元柳斎殿に次いで2人目です」
この卍解を元柳斎に使った時は、彼の額に傷跡を残した。それ程の力だ、天候を操る斬魄刀だ。
「行きますよ…萩風!!」
そう叫ぶと、雷が萩風へ向けて叩きつけられる。放たれた雷撃は地面を大きく抉り消す、当たればダメージは避けられない。それ程研鑽された、斬魄刀の卍解だ。雀部の卍解は、他の副隊長とは比べ物にならない物だ。
「っ!?」
だが、萩風はその雷撃を避けていた。気がつけば雀部の背後に居る、直ぐにそこへ雷撃を落とすがもうそこには居ない。そして気づく、彼が超高速で動き回っている事にだ。
また、動きの軌跡が読めない事に。
「雷より瞬歩が速いのが、そんなに不思議でしたか?」
そんな事を呟いて来た。嘘だと信じたいが、信じられない。
不思議どころでは無い、あり得ない。だが雀部の取れる行動は他にもある。速さを上回るのは想定外だ、ではそれならば避ける事すら許さなければよいのだ。
雀部は斬魄刀を円を描く様に振り、そして振り落とす。それに呼応し、雷が雨の様に降り注いだ。無作為で無差別な破壊の嵐、雀部自身ですらどこに落ちるかもわからないほどのランダムな攻撃だ。
それは10秒程度の殲滅の光の嵐であるが、確かに降り注いだ。辺りに広がるのは抉れ去った地面の跡が目立つ。しかし、ある一箇所だけ地面へのダメージが無かった。その場所も間違いなく雷が降り注いだ場所だ、だがそこには…
「…バカな」
無傷で仁王立ちする、萩風が居た。
そして次の瞬間に
「ぐっ…お見事…」
萩風の攻撃が雀部の鳩尾へと叩き込まれた。剣の柄で腹を殴られたのだ、そして斬魄刀を手放した雀部は降参の合図をする。
「参りました…どうやって、避けきったのですか?」
「あの雨みたいな雷を避けてはいない。ちょっと早く空を切って真空の多重の層を作って逸らしただけで…まぁ、剣術だ」
それを聞いて目を見開く雀部、ただの剣術で卍解を防ぎきったのだと聞けば驚かざるを得ないだろう。
いや、不可能では無い。なぜなら彼は初代最強の剣の鬼の一番弟子なのだから。
「後ネタバラシすると、瞬歩が雷より速いわけがない。あんなのはちょっと始解使って偽って、集中力を削っただけだ」
「完敗…ですな」
彼の斬魄刀は幻惑の類を用いる妖刀、その力は体感して分かる。この男は、間違いなく隊長の器である。卍解も習得していると考えられるが、彼が斬魄刀を使用したのはたったの2度。
逆に…この男を破った、藍染惣右介とはどれほどの怪物なのだろうか?
「じゃあ、隊長の話は無しだ…俺になる覚悟ができたときに、誘ってくれ」
そう言うと萩風は足早に無間を出て行く、この男は隊長に興味が無いというわけではないのだろう。
「まったく…狡い死神だ」
雀部はそう呟く事しかできなかった。
☆☆☆☆☆
俺は何とか隊長を断る事に成功した。副隊長の卍解を相手に始解のみの解放で勝利を収めた。藍染隊長という怪物を相手にした俺からしたら、まずまずの結果だ。
今までは隊長との稽古は卯ノ花隊長という俺からしたらマグマ風呂であったが、他の隊長に比べたら温い湯に浸かっていた。藍染という隊長の、太陽のような絶対的な存在と出会ってしまった俺には…やはり次のステップに移らないといけない。
しかし、役職を同格にしたからと言って中身は空っぽでは意味がない。
だが、彼女は俺が隊長を断ったと知ると四番隊の隊舎へ押しかけて来た。
「萩風、なぜ断った!」
「
二番隊の隊長である砕蜂さんだ、美人なんだが胸部装甲に難がある人だ。俺はこの人を好きか嫌いかで聞かれた場合は、苦手と答えるだろう。え?答え方が間違ってる?細かい事は気にするな、ストレスでハゲるぞ。
まぁ、俺がこの人が苦手な理由だけど…なぜか隊長になれ!ってずっと言ってくるんだよね。具体的に言うと、6人の隊長が居なくなった時から言われてる。いやぁあの時は大変だったわ…抜けた所の部隊の各所を回ってカウンセラーとして仕事して来たから。
いやぁ、今思うに3,5,9,の副隊長とか席が一番高い人は落ち着いてたなぁ…藍染とかの黒幕の3人だし。逆に砕蜂さんのカウセリングは大変だった…途中で逆ギレするわ俺に隊長をやれやら色々罵倒されて、しかも少し泣き出すし…そん時は女の子とどう接したらいいかわかんなかったので、軽く背中をさすって落ちつかせたな。頭撫でたらセクハラでしょっぴかれる予感がしたからやらなかったけど。
あ、100年前くらいのやつだよ。副隊長になったばかりなのに、そもそも斬魄刀を解放しきってないし。今もできてないし。
この人は苦手だ、なぜなら俺の事が嫌いだから。俺の事を意気地なしだとかそんな風には思っているのだろう。てかそう言う風に色々と言われたし。美人から嫌われると、心に来るよね……
で、今回も3人居なくなってしまったからか…どうやら護廷十三隊の隊長の敷居を下げて俺を無理矢理に隊長にしようとしてると考えられる。
「卍解の習得は済んでいるのだろう!」
護廷十三隊も人員不足なのだろう、俺がこれだけ修行を続けても身に付かない卍解・改弐は一部の…一握りの天才しか扱えないのだろう。
それこそ、数千人に10人程度の…限られた存在にだけ。
「そうですよ…卍解しか、習得できてません」
だが、俺のモットーは初志貫徹である。なんか最近はやたらとしつこいし。ここで俺の気持ちをはっきりとさせておこう。
あ、途中で話逸らして有耶無耶にしてもいいな。
確か、ここら辺で……
☆☆☆☆☆
彼を知るのは、隊長になってからでは無い。もっと前…そう100年程前に6人の隊長が消え…特に自分の上司であり敬愛していた存在であった元二番隊隊長 四楓院夜一が姿を消してしまった時くらいだ。
その時の私は裏切り者だと激怒して感情を納得させようとしていた時期だろう。
当時の私は4席、だが卍解は習得していたので間も無くして隊長へと昇格した。
その時には既に彼は…萩風カワウソは副隊長であった。少しの間だが、同じ副隊長の時期もあった。でも、関わり合いはほとんど無い。
なぜならば…回道の腕だけでのし上がったというこの男を、私は嫌いだったからだ。私に兄は5人いた、全員戦死したのだがな。弱肉強食の世界であるこの世で、弱者の塊のような四番隊の副隊長が始解すらできていないという噂に腹が立っていたからだろう。
力が無くては守る物も守れない、力が全て。巨悪を倒すのも力なのだ。
死神とは戦う集団なのだ、そう思っていたからだろう。
この時もそうだ、二番隊の隊長が決まるまでは代理で二番隊を率いていた時に彼は…なぜか、私のところへやって来たのだ。雑談をしに来たと言っていたが、それはただの建前なのだと思う。
当時の私は酷く取り乱していた、それは自覚もしているがそれでも上手く表面上は取り繕えていたのだ。
執務も任務もこなしてたし、訓練も怠らなかった。何も不都合も無ければ、迷惑もかけていなかった。完璧な死神の規範となるような生活を心がけていたと思う。
しかし、彼はいとも容易く「大丈夫ですよ、無理しなくても。砕蜂さんなら、大丈夫です」と不覚にも、関わり合いのないこの男に…心の中を見透かされてしまったのだと感じてしまった。
そう言われた時は、この男に言い当てられたのに心の底から嫌悪を感じたので…全力で色々な事をぶちまけたと思う。
どこまでぶちまけたかは覚えてないが、それを全て受け止めた上で彼はまた…
「我々は護廷十三隊の仲間です、完璧な必要はありません。完璧な心でなくていい、ただそこを補う仲間を信じてあげてください……俺は、貴方を信じます」と言った。
その時の彼を見て、私は彼を回道だけの男だと揶揄してしまったのを恥じた。隊長になる器とは……人を見る器なのではないかと。
私自身の敬愛する上司であった夜一様は、簡単に何かを裏切る人では無い。何か事情があったのかもしれない、ただ単に一緒に消えた浦原喜助が居たのも気に食わなかったのもあるだろう。
この事は100年ごしに和解できたので良かった、そう…勘違いで済んだのだ。だが萩風が居なければ…そのまま、夜一様を手にかけていたかもしれない。夜一様と出会った時は、対話から始めてすぐに事態と事情を理解した。だから、萩風には感謝をしている所もある。
そしてこの非常時に、私は彼に隊長になるべきだと真っ先に総隊長や他の隊長達に進言した。彼以上の器は居ない、隊長になるなら彼だと。
現に藍染の魔の手から、身を挺して雛森副隊長を守ったと聞いた時は「やはり彼こそが…」と「やっと彼も隊長か」と非常時であるのだが少しだけ心が浮ついていたのかもしれない。
だが…悉く断っている。間違いなく、今の死神の中で隊長を務めるべき器は彼なのに、だ。
そして今日は遂に納得のいかなさに腹が立ってしまい、大前田も置いて押しかけてしまった。
そして…初めて、彼が隊長にならない理由を話し始めるところまでやってきていた。
「隊長に必要なのは…持論だけど、覚悟なんだと思うんですよ」
覚悟、それは一言で言うのは簡単だ。無論、隊長になるには隊を率いる…200人以上の部下の命を預かる事の覚悟は、隊長ならしているはずだ。
私にも覚悟はある。私の考える覚悟とは、護廷十三隊としての規律を重んじ…必ず任務を遂行する為にどんな事をしても成功させる事だ。これは隠密機動ならではの感性なのかもしれないが、そういう物なのだ。
「どんな失敗や困難があっても、皆を引っ張れる巨人でなければならないし、皆から寄りかかられるだけの巨樹にならなければならない」
隊長とはある意味孤独だ、それは理解している。それだけ頼られるだけの存在にならなければならない事もわかっている。だが、これは力を付ければいいのだ。そう、卍解という境地に達したならば自ずと手に入るもののはずだ。
「俺に必要なのは……絶対に安心させるような、そういう存在になるという覚悟が足りてないんです。俺だけでも勝つ、という覚悟が。それがあるか無いか…それが、隊長であって副隊長との差なんだと。それだけは、自分で見つけなければならない」
「つまり…覚悟が決まるまで、隊長にならないつもりか?それは違う、隊長とはなるべき者がなるはずだ。私は萩風を…」
これを聞いて、私はすぐに反論した。周りから認められた者は隊長になるのだ、確かに卍解を身につけただけで隊長になる事は出来ないが卍解という境地へと至る道のりでその覚悟が手に入るはずなのだ。
しかし、彼は……
「俺は卍解だけで満足して、隊長にはならない」
そう、言い放った。
「…狡いではないか、萩風」
私もそう呟く事しかできなかった、私は覚悟が中途半端な時に隊長となった。他にやるべき人も、やれる人もいないのだからとやった。
だが、彼は自身に厳し過ぎるようだ。他人に甘い癖に、自身を徹底的に虐めている。
あの時に私を励まし前を向かせて覚悟を作った男が、酷いことを言うものだ。
すると突然萩風は。
「砕蜂さんもそんな怖い顔しないでくださいよ、どうです。近くに新しい甘味処ができたらしいですし、ゆっくりお茶でもしませんか?」
「へっ?」
「あれ?甘いものは苦手でしたか?」
茶に誘って来た。待て、誘う?誰を?私を?軽く周りの霊圧を探るが、どうやら私しかこの部屋には居ないらしい。
つまり、彼は私と茶を飲みたいと言って来たという事だ。
「いや…その、問題無い。甘い物は、苦手じゃにゃ……苦手では無い」
「それは良かったです、じゃあ準備をしてくるのでちょっとだけ待っててくださいね」
予想外なことで、思わず上ずった声を出してしまったが…というか思いっきり噛んでしまった。
死神となってから…というか、産まれてからこんな事に誘われたのは初めてである。初めての体験で…何故だろうか、並みの任務を遂行することよりも緊張している気がする。
萩風カワウソは何を考えているのかわからない、だが自分を隊長として部下でも無いのに信用して来た男だ。
「…狡いぞ、萩風」
私は彼をどう思っているのか、よくわかっていない。だが今は嫌いではないし、夜一様と似ているが、違った何かを思っているのだと思う。
☆☆☆☆☆
砕蜂さんから隊長の話をそらすためにとりあえずお茶に誘って有耶無耶にしてたら、甘味処に大前田副隊長が現れてあらぬ噂をぶちまけやがった。店内で、大声で。しかもそのまま叫びながら出て行きやがった。
おい、デートじゃねぇよ!俺この人苦手なんだよ、中身が全く読めないから琴線とか読めないんだよ!この人怒ってるじゃん!少しフリーズして、俺の顔を見てから顔真っ赤にして大前田をぶっ飛ばしに行ったじゃん!
いや、なんか頬を染めた砕蜂隊長めちゃくちゃ可愛かったけど。
あーぁ、また関係ない事で嫌われたわ……別に、女の子に嫌われてるのには慣れてるけどな!!クソガァ!!
……グスン。心の中では泣いた。
完全に砕蜂回になったなぁ…
近々オリジナルの小説のサンプルを投稿するかもしれませんが、こっちも頑張るのでよろしくお願いします。