虚を消滅させる能力を持つ人間。その性質上、死神とは敵対し200年前に山本元柳斎重國などの死神によって滅んだ。
ユーハバッハ
滅却師の祖であり、彼の血は全ての滅却師に流れている。過去に山本元柳斎重國に敗北したが、復活。護廷十三隊へと宣戦を布告する。
星十字騎士団
20人以上の滅却師の精鋭が所属する最強部隊。全員が差異はあれど護廷十三隊の隊長格と同等の実力を有している。
前に置かれる木製の台座の上には、1人の男が横たえられている。その服装は彼が最も長く着続けていた一番隊の装束。だが彼がこれを着るのも、最後である。
その広場には2000を超える死神が集まっている。
ある者は泣き崩れ、ある者は嗚咽を押し殺し、ある者は拳を血が出るほどに握りしめている。
今行われているのは葬儀だ。護廷十三隊 一番隊副隊長 雀部長次郎忠息の葬儀に、護廷十三隊の集まれる全ての死神が集まっていた。
式を執り行うのは彼の直属の上司であり護廷十三隊のトップである総隊長、山本元柳斎重國である。
列をなす死神達の最前列に立つのは隊長と副隊長、その中で六番隊の朽木白哉と阿散井恋次は語り合っていた。
「雀部長次郎忠息は、高潔なる精神を持った…隊長となるべき死神であった」
葬儀は粛々と進められている。棺桶は無い、あるのは傷一つない姿で寝かせられた遺体だけ。
「総隊長がある限り、生涯をその右腕として捧げると誓った男」
チラリと、朽木白哉は二つ隣にいる四番隊の副隊長を横目に見る。阿散井恋次も釣られてその方を見ると、驚く。手からはどれ程握り締めたのかわからない程に、血が出ている事に。
悲痛な叫びが聞こえてきそうな程に暗い顔だが、その手で押し殺しているのだろう。だが本人を見たところ、どうやら血が出ている事に気付いていなかったようだ。隣の虎徹勇音三席に諭されて気づいている。
「その男の唯一の友であった萩風カワウソ、彼もまた副隊長を貫く死神だ。同じ志を持つ彼等は並々ならぬ強固な絆で結ばれていたと聞いている」
今回の遺体の修繕を行ったのも、萩風カワウソである。遺体の修繕を行うのは四番隊の仕事なので不自然な所は無い。だが、無二の友を失った萩風の心中を察した総隊長はあえて萩風にこの仕事を任せなかった。
しかし、彼はこれを独断で勝手に行なった。遺体の修繕には何ら問題は無く、むしろ葬儀までの時間に余裕ができた程だ。総隊長も事態が事態なので不問としたが、首が飛んでいてもおかしくはなかった。
だが、やらずにはいられなかったのだろう。最後の見送りの為に、自身の磨いた回道の餞別を渡したかったのだろう。
「総隊長に至っては、護廷十三隊の設立以前からの信頼に足る側近であった」
総隊長との関係は萩風よりも更に深い。雲泥の差だ、それは絶対的な唯一が彼にあったからだ。総隊長の命令であれば、萩風に剣を向ける程の覚悟を持つ男だったからだ。
護廷十三隊の隊長といえど、人格者ばかりではない。いかに強力な卍解を取得していようが、副隊長に甘んじる臆病者と揶揄された事も少なくなかった。
だが幾たびと隊長格に空席がでようとも、隊長の代行すら拒んだ。全てはどのような時であろうと、総隊長の為に迅速に対応する為だ。
その男が初めて敵との戦いで卍解を使い、死んだ。
「彼等の痛嘆、我等若輩が推し量るに余りある」
総隊長も表情は暗い。誰よりも胸に秘める想いが熱いのはわかる、だがこれは嵐の前の静けさのようで……山本重國は、総隊長としての行動を機械的に遂行していた。
☆☆☆☆☆
「ウルキオラが、負けたのか……!?」
そう驚く一護の前には2人の破面が居る。1人はペッシェ・ガティーシェ、もう1人はネル・トゥ。どちらも黒崎達が過去に虚圏に井上織姫の奪還時に手を貸してくれた破面だ。なぜここに居るのか?
それは正体不明の破面が現れた所から話は始まる。
昼食の買い物の為に外へ出ていた黒崎は普段通りの生活を送っていたのだが、突如として謎の白装束の破面が現れたのだ。そしてそのまま黒崎へと襲いかかる、黒崎も死神の力で対抗した。
なぜ襲いかかってきたか黒崎にはわからないが、この破面は滅却師の能力を使ってきていた。石田雨竜と同じ、滅却師の能力だ。
だが黒崎もそこらの死神とは別格の存在、度重なる挑発を受けながらもその破面を返り討ちにする。
その後に2人は現れた。タイミングがタイミングなだけに嫌な予感はしていた。そして予想は正しく、どうやらただ事ではなさそうだった。
緊急事態故に直ぐにでも話をしたかった黒崎だが、ただの人には見えない存在とは言え黒崎が虚空に向かって話していては近所であらぬ噂も立つ。
もっとも彼の場合は然程気にしないのだろうが、偶然にも茶渡泰虎と井上織姫が黒崎の家に来ていたので彼等を交えて話を聞いていた。
「突然やってきた集団に、破面の軍を率いたウルキオラ様とハリベル様が立ち向かった。しかし、破面の軍は一方的な蹂躙を受けて壊滅。ハリベル様とウルキオラ様は磔にされ、虚圏に晒されている」
それを聞いて3人は絶句する。
特に衝撃的なのは、ウルキオラの敗北だろう。黒崎と井上はその力を肌身に感じている、並の隊長格を凌駕した怪物。そのウルキオラが負けたとなれば、驚くのも無理はないだろう。
「奴等の目的は破面を手先に加える事だと考えられる。だが生き残りを何を目的に選別しているのかはわからない。そして我々にとって一番の問題は、ドンドチャッカが捕まった事だ……!」
ドンドチャッカもまた過去に手を貸してくれた破面だ。ペッシェ達が来たのは恩を着せる為ではないが、黒崎ならば手を貸してくれるだろうと踏んでだ。
「一護、助けに行くんだろ?」
「石田くんも呼びに行った方がいいかな?」
井上と茶渡は躊躇いなく助けに行く事を決意していた。それは隣にいる黒崎も同様だ。だが、黒崎は少しだけ迷った表情を見せると。
「石田は……置いて行こう」
と言う。これには2人も驚いているが、そのまま話を続ける。
「滅却師は虚を滅却する為に居る、言ってもどうせ断られるだろうしな」
これには嘘をついてないが、本音も言っていない。敵が滅却師かそれに類するものと想定されるならば、石田を無理矢理に連れて行くのは良くないと考える彼なりの優しさだ。
と言ってもそれでは置いていかれた石田に後でどやされてしまうので「ま、メールくらいはしとくか」と免罪符の準備をしようとしてると、窓から「面白い話をしてますね」と少し陽気な黒崎達に聞き覚えのある声が聞こえる。
「どうです?虚圏行きの切符、手配しましょうか?」
☆☆☆☆☆
大量の破面達が白い装束の集団、滅却師の集団に連れられていく。辺りには滅却師達の侵攻で死体が山の様に転がり、滅却師特有の滅却術によって燃えるはずがない虚圏の建造物や砂が青い炎に包まれている。
そして連れられた者達が行き着くのはここを取り仕切るリーダー達、
更にその真後ろには磔にされたウルキオラ・シファーとティア・ハリベルが瀕死の状態で晒されていた。殺されていないが、逆らえばどうなるかは想像に難くない。
この異様な雰囲気に、殆どの破面達は飲み込まれてしまっている。そして前の3人の中で眼鏡をかけた滅却師、キルゲ・オピーが槍を片手に並べられた破面達の前へとやってくる。
「ハイハーイ!静粛に!これより、破面・虚混合の大センバツ大会を開催いたします!順に入隊テストを行いますが どうかそのチャンスを無駄にしないでくださいね!」
そう言うと順に破面の覚悟の決まらぬ前に次々と刺し殺していく。戸惑いながら絶命していく破面、その躊躇の無さに部下の滅却師達からも「本当に破面を回収する気はあるのか?」と疑問に思う者も少なくない。
そんなキルゲを後ろから見るのは今回の
「陛下は何故、此奴らを連れていかなかったのだ?」
彼が指す陛下は滅却師の祖であり王、ユーハバッハだ。他の滅却師もユーハバッハを陛下と呼ぶが、その彼はそこそこ頭の切れるリルトットへと疑問を投げかけた。
ジェラルドはこの3人の中でも、星十字騎士団の中でも古参の滅却師だ。リルトットはこの3人の中では最も新米であり、名目上の隊長はキルゲだがこの中で最も上の実力者はジェラルドだ。
その疑問を無下に無視するわけにもいかないので、リルトットなりに考えるこの2人の破面を連れて行かない理由を告げる。
「簡単だろ。ここを支配していた奴等を晒して破面の心を折って、その逆境に耐えれるだけの手駒を見つけやすくする為じゃねぇか?」
現に、選別中に逆らおうという気骨のある者は居ない。目の前に自分達の種族の一番手と二番手が磔にされれば、歯向かうのがいかに無謀なのかわかるからだろう。
だが、ユーハバッハが望むのはその無謀に立ち向かう気骨ある愚者だ。扱いやすく、力もある。それが単体で勝手に動くのなら大した事は無いが、絶対的な君臨者が指揮するには上質な手駒だからだ。
「成る程、流石は陛下だ!」
と納得しているジェラルドだが、リルトットはユーハバッハの用心深さを知っている。まだ他にも用心はある。
やはり、思い付くのは磔にされている二体の破面だ。
万が一にも奪い返されても即殺できるように、ここに3人も星十字騎士団が居る。ここで3人は過剰とも言える、更に星十字騎士団でも間違いなく五本の指に入るジェラルドまで居る。
確かに、この破面。特にウルキオラ・シファーはユーハバッハなどの一部の滅却師でしか倒す事はできないが、手負いなら話は別である。
それこそ、キルゲとリルトットの2人で十分。むしろ過剰かもしれない。
だがジェラルド・ヴァルキリーの派遣は明らかに過剰、明らかに警戒が過ぎる。この滅却師の能力はそこらの星十字騎士団とはわけが違う、本当にリルトットと同じ滅却師なのか疑問に思うレベルだ。
「あー腹が減って来やがった、あいつ居れば楽につまめるんだけどなァ」
思考が少し鈍る。ここに居ない他の星十字騎士団の滅却師が居れば直ぐに頭へ糖分を補給できるのだろうが、既にここに来る前に貰った分の菓子は腹の底へ消えている。
仕方ないので持参した飴に噛り付き、乱雑に噛み砕く。
「はっはっは!豪快に食すではないか!」
隣で女性にあるまじき雄々しい食べ方にジェラルドが称賛しているが、それは無視してまた思考を元に戻す。
確かに、ジェラルド・ヴァルキリーは強力な滅却師だ。そこらの滅却師とは比べるのも馬鹿らしく感じるほどに。
だが、これが妥当だとしたらどうだ。
それならばユーハバッハはリルトット達のまだ見ぬ敵を想定しているという事になる。
星十字騎士団の滅却師は特に注意すべき敵が陛下より示されている。
5人の特記戦力、その者達が陛下の行く手を阻む未知数の力を持つ最大の障害。
その者たちが攻めてくるならジェラルドの配置も理解できる。だが虚圏に来るような特記戦力とは誰だろうか。
そんな思慮にふけっているリルトットだったが、突然の爆発とその衝撃で思考を中断する。
「あれは、ねぇな」
そう呟くリルトットの前…もっと詳しく言えば、キルゲの前に3人の破面が現れている。
「てめぇら、ハリベル様を返しやがれ!!」
「ついでに、ウルキオラ様もな!」
「私はハリベル様さえ助けられれば十分なのだけど」
額に仮面の名残であるツノの生えた破面、エミルー・アパッチ。
長い髪と袖で口元を隠す癖が特徴的な破面、シィアン・スンスン、
頭と首に仮面の名残のある背の高い破面、フランチェスカ・ミラ・ローズの3人の破面。
彼女らは磔にされているティア・ハリベルの従属官だ。そして臆せずに現れた3人は、周りの雑兵を片し始める。
「ひぃっ!?」
「隊長、こいつらヤバっ」
「助け」
滅却師も無抵抗ではない、だが3人との実力差が大きいだけだ。
彼女らは護廷十三隊で言うところの副隊長レベルの実力を有している、雑兵の滅却師では相手にならない。
それを見る三人の星十字騎士団。ある者はその実力が陛下に役立つかどうかを考え、ある者はどの程度の実力を持っているのか期待し、ある者は想定より遥かに劣る敵にまたも思慮にふけこみながら菓子を貪る。
「ちょうど暇を持て余していた所だ、我が相手しても良いか?」
そして動いたのは最も好戦的な滅却師であるジェラルドだった。ただの滅却師では相手にもならないこの3人の破面の実力を推し量れないならばと、自らが試しに向かったのだ。
「勝手にしろよ」
「殺してはいけませんよ」
「わかっておる!」
2人の了承を得ると軽く跳躍し、砂漠の粉塵を撒き散らしながら三人の破面の前へジェラルドは立つ。
キルゲは入れ替わるように後ろに下がり、リルトットは興味がないようで、また新しい菓子を食べている。
その様子を見たスンスンは不可解に思いながらも、ジェラルドと相対する。
「はっ、やっと出て来やがったか!!」
アパッチはやっと現れた敵の隊長格をぶちのめせる事に歓喜し。
「ハリベル様を返せ!マスクゴリラ!!」
ミラローズは自身の敬愛するハリベルを助け出すのに邪魔な障害に怒気を孕ませ。
「不味いわね、こいつ…」
1人冷静さの残った頭で相手の力量を測ってしまったスンスンは冷や汗を垂れ流しながらも、突撃する。
「我は星十字騎士団 ジェラルド・ヴァルキリー!貴様らが奇跡も起こせぬ程に圧倒してやろう!」
☆☆☆☆☆
「……行って、しまいましたか」
そう呟く卯ノ花の表情は、どこか暗い。だが同時に、仕方ないとも割り切っているような顔をしている。
ほんの数時間前にあった隊首会で滅却師という敵との戦争が確定した。復讐の炎に燃える総隊長を卯ノ花は久しぶりに見る、かつてあった滅却師の殲滅の戦い以来だろう。
「卯ノ花隊長、萩風副隊長は……」
隣では卯ノ花の左腕である虎徹が不安になっている。無理もない、彼女は知らないからだ。なぜ、このタイミングでいなくなったかを。
「彼は戻ってきますよ、私が彼の事で嘘をついた事がありましたか?」
一応、卯ノ花に萩風は直談判に来ていた。その内容はシンプルで簡単だった。
「一生のお願いです、俺に少しだけ時間をください」
それが彼が土下座で頼み込んできた言葉だ。卯ノ花は隊長としての立場で許可する事は簡単にできない。
だが、だからと言ってここで否定しても雀部副隊長の死体を治すような勝手をまたするのも目に見えていた。
「我々四番隊に命ぜられたのは待機、ならば怪我人がここに運び込まれる迄に戻るならば彼は命令を違反していません」
故に1時間、それが萩風に与えた虚圏への偵察時間であった。
累計順位が10位になりました。身に余る評価ですが、その期待に応えられるように頑張りたいと思います。