卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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ちゃんボクもわからないヨ……卍解を治すって、何をしたのかナ?

零番隊第三官 西方神将 二枚屋王悦


20話 たった1人の虚圏奪還部隊

勝負はあっさりとついた。

 

アパッチ達はそこらの破面に比べて十分に強い。現に2年前に起こった護廷十三隊との戦いでは大多数の副隊長を戦闘不能にした。

 

総隊長には敗れたが、それでも十分な実力者。それが全員、地面に寝そべり息をするだけの人形となっていた。

 

「少しやり過ぎたな!死んでは陛下に献上出来ぬではないか!」

 

ジェラルド・ヴァルキリー。この滅却師は傷一つどころか汗一つ無く、息すら穏やかであった。

 

三人はよく戦っていた、ジェラルドにダメージもしっかりと与えていた。だが1分もかからずに決着していた。

 

彼の能力の前に、為すすべもなく敗北した。それだけの事実で、その事実を覆すだけの力を彼女らは持っていなかったのだ。

 

「がっ…ぁ…」

 

だが無理矢理にエミルー・アパッチは立ち上がる。同様に、他の2人も立ち上がる。その目に諦めの色は薄いがある。それ程に一方的に叩きのめされたのだからむしろ立ち向かおうとする気概だけでも褒められるだろう。

 

そして、まだ完全に諦めていない。

 

目の前にハリベルがいる、それだけで動かしていた。

 

「これ以上動くと死ぬな、仕方ない。気絶をさせてやるべきか」

 

「それこそ命を落としますよ」

 

「何、手加減はする!」

 

そう言うとゆっくりとエミルー達の元へと歩を進める。もはや三人には抵抗する力どころか、このまま立ち続ける力すら残っていない。そしてジェラルドが三歩ほど近づいた時にはエミルーの軸がぶれた。

 

この中で1番限界を超えていたのは彼女だ、それに釣られて他の2人も糸が切れた人形のように意識を失う。

 

「ん?奴らはどこだ?」

 

だが、彼女らがそのまま地面に倒れる事はなかった。

 

「は…ぎ、ぜ……はりべ……たす…け……」

 

エミルーはそこに居た彼を見ると、今度こそ気絶する。だが先に気絶した2人よりも、その表情は柔らかく感じる。

 

先に気絶した2人も、地面にぶつかる前に丁寧に遠くの砂漠の上に置かれている。

 

「よく耐えてくれた、後は俺が何とかする」

 

三人を地面へ寝かせるとそのまま結界を張る。今回張られたのは外側からの衝撃に強い治癒の結界。それは暗に、この後に普段使う内側からは破れないような結界よりも戦闘での衝撃に耐えられる事を優先している事を示していた。

 

だからこそ、態々瞬歩で遠くに3人を運んだのだろう。

 

「誰が、あの3人を倒した?」

 

恐ろしく早い瞬歩、それにリルトットとキルゲは驚いているが、目の前に現れたというのにジェラルドはその事について反応はない。

 

「我だ!」

 

だが質問には堂々と宣言する。あまりの清々しい答えに嘘は見えないと判断したのか、萩風は「そうか」と呟き次の質問をする

 

「あの2人もお前か?」

 

「それは我ではない、陛下だ!」

 

あまりにペラペラと話すジェラルド。それは萩風からすればありがたい事だ、だがそれはこの男が自分に対して絶対の自信を持っているとも捉える事ができる。

 

この程度の事を話しても、何の問題もないと。

 

「じゃあ……

雀部長次郎忠息を殺したのは、お前達3人の誰かか?」

 

萩風の鋭い圧力が三人の滅却師へと向けられる。いや、先程から向けられてはいた。だが抑えていたのを抑えられなくなってるような、そんな殺意の波動を感じる。

 

「そりゃドリスコールだな、俺たちじゃねぇ」

 

特に隠す事でも無いので、あっさりとリルトットは答える。ここで変な疑いでも受け、自分への勝手な恨みを買いたくは無いからだろう。

 

ドリスコールは一度、自身の能力の向上の為と手土産の準備の為に派遣された星十字騎士団の滅却師だ。恐らく、その時に殺された中に居た人物なのだろうとリルトットは察しての言葉である。

 

「そうか。お前ら2人と周りの雑魚は見逃してやる、消えろ」

 

そしてもうリルトットとキルゲに興味が消えたのか、そのままジェラルドを睨み付ける。

 

「はっはっは!よもや、我と戦う気か!その意気や」

 

ジェラルドが悠々と言葉を垂れ流していたが、それはいつの間にか真横に移動していた萩風の攻撃で堰き止めらる。

 

「破道の八十八 飛龍撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)

 

極光がリルトットとキルゲの数m隣を吹き飛ばし、地面は大きく抉れている。この程度で倒される星十字騎士団ではないが、ジェラルドはその攻撃で彼方へと吹き飛ばされていた。

 

「見逃すって、言ったんだけどな」

 

それに反応し、兵士の滅却師が萩風を囲い矢を放つ。青白い力を持った矢は萩風を掠めるが、萩風の顔に焦りはない。

 

「送り出せ 『天狐』」

 

その襲い掛かってきた滅却師の矢を今度は全て弾く。当然、弾かれた滅却師はギョッと驚き僅かであるが硬直する。

 

そしてその隙を見逃さずに、瞬歩での高速移動をしながら白打で倒し回る。殺す気は無いようで、全員気絶させられたままリルトット達の方へと投げられる。

 

まるで「こいつらを連れて帰れ」とでも言うように。

 

「特記戦力じゃねぇよな、こいつ。誰だ?」

 

一撃でジェラルドが吹き飛ぶとは想定していなかったリルトットは、冷や汗が止まらない。不意打ち気味な攻撃ではあったが、それでもジェラルドやキルゲ、そしてリルトットも気づかぬ程の動きをするのは想定外である。

 

見逃してやるとは言われているのは本当の事だろう、理論だった根拠は無いが確信できる。

 

だが、ここで逃げて命は無いのはわかっている。ここで戦うか、陛下に殺されるか、二つに一つである。

 

「この死神、もしや……」

 

そこでキルゲは一つ心当たりがあるようで、それをウルキオラを見て思い出す。

 

『必ず貴様らを討ち滅ぼす!俺たちを倒した優越感に浸れるのは、今だけだ!』

 

負け犬の遠吠え、それはキルゲも聞いていた。最後の捨てセリフにしては、情けない小物のようにも感じる物だった。だが、残念な事にウルキオラ・シファーは特記戦力に最も近いと言われていた破面だ。

 

その破面が呼んだ友、あれはただの遠吠えではなかったのだろう。

 

「四番隊 副隊長 萩風カワウソ。情報は少ないですが、少なくとも回復術と剣術に関しては一級品だそうです」

 

キルゲは情報にあった萩風カワウソについて思い出す。戦闘能力は不明、至って普通の後方支援の死神。だが、剣術に関しては一級品どころか護廷十三隊で3本の指に入るレベルの使い手である。

 

そして当然だが、回道についても護廷十三隊においては二番手。この男を超える回道の使い手は3人しか存在しない。

 

「そっちの滅却師は俺を知ってるのか」

 

「特記戦力ではありませんが、成る程……強い」

 

特記戦力はユーハバッハが決めた未知数の者達の総称だ。ユーハバッハがそれに選ばないのには、理由があるはずだ。

 

だがこの死神が実力者なのはもはやキルゲにも、リルトットにもわかっている。

 

しかし、焦りはない。2人に緊張感や絶望感は無い。

 

「ですが…卍解も使えぬ副隊長程度の死神なぞ、我等の敵ではありません」

 

むしろあるのは、ここでこの死神を対処できて良かったという安堵感だ。萩風カワウソが態々敵陣のど真ん中で、星十字騎士団を相手に萩風の増援が来る可能性が低い中戦えるのだ。

 

むしろ、死にに来ていると言われた方が納得できる。

 

そして「ましてや……」と呟き、遥か彼方へ飛ばされた同胞の方向にキルゲは顔を向ける。

 

「奇跡のジェラルド・ヴァルキリーの敵ではね」

 

するとキルゲの真横へ高速で巨男が着地する。砂漠の砂を撒き散らしながら現れた滅却師は間違いなくジェラルド・ヴァルキリーだ。

 

だが背の丈が伸び、筋肉量も増えている。更にキズは体に一つもない。

 

「おい……別に殺す気はなかったが、手加減はしてないぞ?」

 

そして何より、霊圧の量が増えている。萩風の放った鬼道は必殺技ではないが、萩風の扱う九十番代を除く鬼道では最強の技だ。それが無傷で帰ってくるなぞ、普通ならばありえない。

 

「なるほどね、そいつの能力か。厄介だな」

 

そう言う萩風に焦りはないが、ここで敵の能力の真髄を見抜く時間は無い。

 

既に虚圏に来て15分、後の5人の回復の時間も考えると30分かかり、戻るのには5分だ。

 

萩風の中で、もはやこの滅却師と戦える時間は10分しかない。出し惜しみをしてる時間は無い。

 

「卍解 陽炎天狐 …っ!?」

 

だが、それは誤りであった。萩風は突如として力の抜けていく自身の斬魄刀に絶望感を覆い尽くす。

 

そして横目に、円形の物体を構えるリルトットがそれを懐に仕舞い込んでいるのを見る。まさかと思いながらも、萩風は斬魄刀に問いかける。

 

「天狐?……返事してくれよ。天狐!!」

 

声は聞こえない、どれだけ話しかけても返ってこない。

 

鬱陶しそうに、気品がある凛とした声音は聞こえない。

 

精神世界に入ってみても、そこには気怠げに口元に手を当てながら微笑む彼女はいない。

 

「ぐがっ!?」

 

そして萩風は忘れている、今は戦闘中である事を。その隙を見逃さずに、キルゲの矢が放たれ爆散する。

 

「残念でしたね、卍解を奪われてしまうとは」

 

キルゲは嫌卑しく、不気味な笑みを浮かべていた。

 

☆☆☆☆☆

 

自分達で作った機械を信じられない、そんな数値が次々と現れている。

 

前回、滅却師は黒陵門を攻めた。

 

黒陵門とはこの瀞霊廷の入り口である四箇所の一つであり、そこで1番隊の隊士116名と雀部副隊長が襲われ全員死亡した。

 

今回も門から侵入される。そう予想していた死神達であったが、敵は突如として内側に現れた。

 

「どういう事だ!現状を報告しろ!」

 

阿近の声が十二番隊の統合情報室に響くと、それに呼応し周りの隊士達が報告を始める。

 

心の何処かで聞き間違えであって欲しい、そう願う阿近三席であったが報告は悲惨なものであった。

 

「現在、16カ所で敵霊圧を確認!しかし、霊圧未確認地でも被害を確認!推定での敵数は18です!」

 

「射場副隊長の霊圧が消失!並びに、同隊の席官4名も消失!!」

 

「西地区…隊士345名の霊圧が消失!」

 

その後も報告が続けられるが、戦勝報告らしき吉報は一つとしてない。その後もあるのは如何に被害が甚大で、敵は強大かということだけだ。

 

「侵入から7分で、戦死者は1000名以上。まだ増え続けてるのか……!!」

 

阿近がそう呟くのも仕方ない、敵の滅却師は死神を圧倒している。たった10数人でここを落としてしまいかねない。

 

「(無茶苦茶だ、一方的過ぎる……。こんな奴らに、勝てる筈がねぇ……)」

 

絶望的な報告は、止まずに続いていた。

 

☆☆☆☆☆

 

手元にもう抜け殻の斬魄刀だけがある。

 

萩風の天狐が奪われた、それは間違いようの無い事実だった。

 

「さっさと終わらせるか、腹が減ってきた」

 

今の萩風は受けたダメージを回復するのも忘れている、それ程までに思考が止まってしまっていた。

 

無理もない、いつも居たはずの者が消えてしまったのだ。実感が湧かなくて、当然だ。

 

だが、その痛みは少しづつ萩風を現実に引き戻している。

 

「我がやろう、任せておけ!」

 

ジェラルドは滅却師特有の弓に矢を番えると、溢れんばかりの霊圧を込めて発射した。並みの死神どころか、まともに食らえばどんな死神でも殺せる滅却師の矢。

 

これで終わりだ、楽にしてやる。そんな意味と力が込められた、それが萩風に当たる直前。

 

「本当に……やっちまったな」

 

霊圧が跳ね上がり、それを素手で弾き返した。弾かれた矢は萩風の後方に飛んでいくと、光を放ちながら爆散する。間も無く、土煙と共に爆風もやって来ていた。

 

「っ!?」

 

3人の滅却師は、目の前の死神を信じられないような眼で見ていた。

 

リルトットの手には奪った『陽炎天狐』が確かにある。だが目の前の死神の霊圧の量も鋭さも、卍解を使っていないのにも関わらずに高い。

 

「卍解は奪った、間違いねぇ。どうす」

 

そう他の星十字騎士団の者へ策を伺おうとするリルトットだったが、その声が届く事はなかった。

 

「縛道の八十四 八方封殺陣(はっぽうふうさつじん)

 

突如としてリルトットの真横に移動していた萩風は、そのままリルトットを結界の中に閉じ込める。下界との情報をシャットアウトするこの技は萩風の得意技の一つでもある。

 

「ーー!、ー!!」

 

中からは何かを叫んでるようだが、同時に張った防音の効果でその声は届かない。逆に、外側からの声もリルトットには届かない。

 

そのリルトットを助けに動いたのはキルゲだった、滅却師は矢を使う種族だが剣を使う者も当然居る。そのキルゲが抜刀し、萩風に斬りかかる。

 

「油断しましたね、萩風カワウソ」

 

キルゲの刃が萩風の首を切り裂く。「殺りましたか」そう呟こうとするキルゲであったが異変に気づく。

 

血が出ていない、それどころか萩風自身に動きが全く無い。どういう事かと思考と現実との乖離により少しだけ硬直してしまったキルゲの真横に「お前も油断すんなよ」と呟かれる。

 

それが萩風の声なのはすぐに分かった、だが目の前に萩風はまだ居る。故に、キルゲに取れる行動は後退での敵の様子見であった。

 

だが、離れていく最中で見えた本体の萩風の掌にある赤い光を見ると愚策であったのを察する。

 

わざと、自分との距離を空けるために囁いて来たのだと。

 

「破道の三十一 赤火砲(しゃっかほう)

 

「がっばぁ!?」

 

この火の玉は学院で全員が身につける程度の難易度の鬼道である。それこそ、苦手な者でもこれだけは覚えている死神もいる程の。

 

だが萩風の放ったそれは桁違いだ、通常サイズよりも凝縮された炎の塊は炸裂し、キルゲを大きく吹き飛ばす。

 

「さっきのお返しだ眼鏡猿。お前はこの部下どもを連れて帰れ。巻き込まれて死にたいなら、いいけどな」

 

「ぐっ、貴様ぁ……!」

 

舐められている。いや、そうでは無い。萩風が行ったのは先程の不意打ち気味に放ったキルゲの矢のダメージを返して来ただけだ。

 

つまり、この死神はまだまだ底を見せていない程の実力を有しているにも関わらずに、3人に対してやられた事以上の事をしていない。

 

少なくとも、こちらから命を取るつもりで戦っているのにだ。

 

甘い、甘過ぎる。心技体の心が甘いのだ、この程度の弱い心に腹が立つほどに。なぜ手加減をする、なぜ必要以上の攻撃をしない。

 

こいつの心情が、読めない。

 

そんな奴に、キルゲは手も足も出ていない。

 

「(この死神……大鬼道長並みに鬼道も扱えるのですか!引き出しが多過ぎて、厄介ですね)」

 

キルゲもまだ本気では無いが、それでも目の前の死神に卍解すら使われずに負ける未来が見えてしまっている。

 

そんなキルゲと萩風の間を横切り、ジェラルドは立つ。

 

「我が貰うぞ、良いな?」

 

「……任せましたよ」

 

キルゲもそう言う事しかできない。リルトットを封じる結界を見るが、あれならば並の衝撃で壊れる事は無いと確認すると放置する事にする。

 

確かに解くのは簡単だ。今のリルトットには難しいが今の卍解を奪っていないキルゲなら容易に出来る。

 

だが、今解いても今度は解く気力すら起こらないようにボコボコにされてから結界に閉じ込められるのが目に見えている。

 

それはリルトットも同じなのか、今は結界の中で普通にお菓子を食べてリラックスしていた。

 

確かにリルトットとキルゲはこの萩風カワウソに歯が立たない、だが今はジェラルド・ヴァルキリーが居る。

 

「場所を変えるぞ。ここじゃ、お互いに戦い辛い」

 

「よかろう」

 

そしてジェラルドと死神の周りの地面が爆ぜ、キルゲの気づいた時にはどこかへ移動していた。

 

キルゲは「困った者ですね、陛下に報告が…」と呟きながら、元々の目的の一つである磔にされている破面を確認し、また止まる。

 

「いつの間に、やってたのですかね……」

 

そこにウルキオラもハリベルも居ない、キルゲは仕方なく気絶した滅却師を叩き起こし破面を探しに向かった。

 

「ーー!?」

 

なお、リルトット・ランパードは放置されるのであった。




2次創作を始めて3年程ですが、始めてこの様な物を頂きました。

ありがとうございます。


【挿絵表示】


イラストは天狐です。
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