卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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作者が好きな隊長、実はローズと京楽だったりします。

ちなみに副隊長は吉良です。


30話 第二次侵攻開始

真っ黒な空間の中を、死神の力を使わないで……つまり素の身体能力だけで俺は襲い掛かる矢を避けたり弾いたりしてた。斬魄刀はこの修行に関係ないから使ってないのだが、自分がいかに斬魄刀や霊力に頼って戦っていたかを実感させられた。

 

断崖という局地的な空間で、浦原さんの作ったというよく分かんないが一定区画の空間の時間を3〜5倍早める使い捨ての装置で修行する事となった萩風カワウソであった……浦原さん、色々と俺の知らないところで手を回しすぎてません?

 

あと、俺ってもしかして強いんじゃね?とかいう自惚れて伸びてきた鼻っぱしをへし折ってくれていた。ちくしょー!

 

「だからぁ!何度も言ってるだろ、血管に霊子を通すんだって!それでうまい具合に加減して防御しろって!」

 

俺の指導者である女の子が何度目かわからない怒号を飛ばし、矢を放ちまくる。そして俺は避けまくる。

 

「何を言ってるのかはギリギリわかってるけど……滅茶苦茶難しいんだよ、これ本当に役立つんだよな……」

 

先に俺が死ぬんじゃないかなぁぁぁー!?

 

「あの浦原喜助が言ってんだから間違いねぇんじゃねぇか?滅却師の力ってのは扱いが難しいけどな!」

 

難しいどころじゃねぇよ?全く概念とかそのものが異なるえぐい事やらしてるのわかってるの?元隊長の浦原さんが言うなら間違いはないんだろうけど、いつ来るかもわかんない滅却師達と戦うのに本当に間に合うか微妙だからね?!

 

あと何か彼女、呆れもしてるがウキウキもしてる。俺をいじめて楽しんでるのか!?

 

「もうさっさとしてよ、何日ここでフツメンの修行拝まないといけないのー」

 

「……カワウソ、お前こんなに筋が悪かったのか」

 

「萩風さんだっけ、そろそろ帰りたいんだけど」

 

「基本は教えたから、後は感覚掴むまで時間かけるしかねぇか……めんどくせぇ」

 

ゲームとかいう機械で遊びながら文句を言う子供、俺がフツメンというので色々と文句を言う少女、俺の物覚えの悪さにドン引きする破面の友人と同僚、目の前で呆れる子供……。

 

先ず目の前の子供、リルトット・ランパードは俺に滅却師の力を教えてくれている。彼女と浦原さん曰く、可能性はあるらしい。そんな曖昧でいいの?かれこれ一週間ほどやってるが、滅却師の霊子の隷属化ってのがクソ難しいので停滞してる。

 

次にゲームをしてる子供、雪緒(ゆきお)・ハンス・フォラルルベルナ。この空間の環境を管理してるらしいが、能力とかはよくわからない。この子も浦原さん経由で来た子だ。

 

その次に破面、ウルキオラ・シファー。こいつからは破面の能力を教えて貰い、何とか身につけられた。では何でここにいるか?それは俺の修行が終わるまで機械が止められずに出れないからです……ごめんなさい。

 

あとこの中で唯一の死神である日番谷隊長、雛森さんを守る為にウルキオラから仮面について教わってた。ウルキオラと同じでここを出れない、本当にごめんなさい……。

 

それで最後に残った女の子、毒ヶ峯(どくがみね)リルカ。この子もこの空間の維持をしてるらしいが詳しい事はわからない。後顔はかわいいけど、普通の人間なので残念……性格的にももしかしたら俺のタイプの可能性があるけど、何か手を出したらヤバイという嫌な悪寒がするから絶対に手を出さないでおこうと思う。

 

とりあえず、こんな色々やって貰ってる身だけど、ひとことだけ言わせてくれ。

 

「俺はどうせ非才な才能しかない一般人だ、一発で色々とできる天才と同じにするな」

 

あ、でも仮面は一発でできた。顔の上半分を狐の頭蓋骨とお面が合体したみたいな仮面で、これはたぶん前に一護の仮面で全身仮面の力の姿になったのを見てたからかもしれない。自分なりにその場所に至ろうと修行してたのもあると思うけど、そう考えると初見で成功って事にはならないか。

 

……あ、日番谷隊長も一発でできたな。ちなみに、こっちは初見で一発でしたね!

 

てかその落差のせいだわ、こいつらガッカリしてるの!勝手に人に過剰な期待とか押し付けんなよ!超迷惑だから、それに応えられるだけの実力があるとか思ってんのか?!

 

超天才死神と一緒にすんなよ!

 

「お前が非才な死神なら、滅却師程度とうの昔に滅んでるぞ」

 

「いらない、そんな見え透いた世辞。俺の実力は俺が理解してる」

 

なんか無言で呆れた目をウルキオラ……だけでなく全員が向けてくるけど、知るか。俺はまだまだ未熟な死神で、隊長だって本当は分不相応なんだよ。そんなに呆れられる程に実力が無いのにガッカリされるとか、どうしろってんだ……!

 

☆☆☆☆☆

 

「……一角、やる気なんだね」

 

綾瀬川弓親は目の前で次なる決戦へ向けて仕上げを済ませる斑目一角を目にしたが、掛ける言葉はシンプルであった。だがそれには 覚悟が出来てるのだね?という硬い意志を再確認する為の問であった。

 

「射場さんが殺されてんだ、俺が生き恥を晒す気はねぇよ。射場さんの所へ行って怒られたくはねぇからな」

 

斑目一角は戦場で死ぬ事に恐れが無い、むしろ本望である。だがそれは今も昔もこれからも変わらない。弓親も知っている。

 

なら、何の覚悟が出来たのか。それがわかるのは綾瀬川弓親と、今は亡き射場鉄左衛門だけだろう。

 

いつの間にその覚悟が出来たのだろうか。隊長が敗北した時か、射場鉄左衛門を殺された時か、はたまた萩風の元で磨き上げられたからか。斑目一角の本気は、最も近くに居る弓親ですら把握しきれていない。

 

「(僕も僕で本気を出すべきかな……総隊長から個別に仕事も貰ってるし、あの人は何で隠してる実力を見破れるんだろうね)」

 

そんな時、他の隊士達が忙しなく動くのが目に付く。戦争中なのだから当たり前とも言えるが、ある程度の準備は皆済ませている筈だ。どうかしたのかと隊士達の1人を適当に「おい、どうしたんだ」と声をかけて捕まえる。

 

「あ、斑目3席と綾瀬川5席。草鹿副隊長をどこかで見ませんでしたか?」

 

「隊長と一緒じゃないのかな。僕は見てないよ、というかここ最近見てないね」

 

「はい、何故か見当たらず。副官章も何故か部屋に」

 

草鹿やちるは基本的に隊長の更木剣八と共に行動をしている。なので基本的に草鹿やちるを探す時は更木剣八を探せば良いとも言える。

 

「俺も見てねぇ、いつも隊長と一緒なんだ。隊長は眼帯置いてどっか行っちまうし……どこかで一緒に居るんじゃねぇか?」

 

しかし、更木剣八はここ数日の間は行方不明である。それを把握しているのは総隊長くらいだろうと一角は思っているが、副隊長の証である副官章も置いていかれているのは疑問だ。

 

何かあったのかもしれない、そう思った一角達はとりあえず隊長へ連絡を取る為に総隊長の元へと向かおうと考え始めた時だ。

 

「敵襲!!」

 

その声が響いた。周りの隊士達の体が強ばり、冷や汗を流す者もいる。護廷十三隊最強の戦闘部隊を自称する彼らでも、いかに敵が強大なのかをわかっているのだ。

 

「滅却師か!!どこから……っ!?」

 

隊士の1人が周りの緊張を解かすためか、敵の位置を聞こうと声をはりあげたが、それは目の前で起こった想定外の事実によって止まってしまう。

 

11番隊は護廷十三隊の中で荒くれ者の多い隊でもある。そんな彼らですら、こんな事に対応する事も想定できる心の準備が出来ているはずもなかった。

 

「嘘だろ、ここは11番隊の隊舎だぞ……!?」

 

目の前の景色は、見知らぬ白い建造物で塗りつぶされていった。

 

☆☆☆☆☆

「な、これは……!?」

 

沖牙の目の前に広がるのは瀞霊廷ではない。今までに見えていた瓦屋根の屋敷は全てが消え去り、代わりに白い立方体の建物が乱立していく。

 

卯ノ花が隣でその景色を一瞥すると、直ぐに背後へと目をやる。確かに、張った罠が全て無効化された事や隊士達が混乱している事など様々な問題が起きている。

 

だが、それよりも今は目の前の敵に集中しなければならないだろうと切り替えたのだ。

 

「来ましたか」

 

背後から現れたのは白髪長髪の男、白い制服を纏った彼が滅却師の1人であり、役の高い者であるのはその雰囲気でも感じ取れる。

 

そして、その目的が総隊長である卯ノ花を討ちに来た敵である事も分かる。

 

「今度は息の根を止める命令を承っています。見えざる皇帝(ヴァンデンライヒ) 皇帝補佐 星十字騎士団最高位(シュテルンリッター・グランドマスター) ユーグラム・ハッシュヴァルト」

 

己を倒す者として名乗り出たのは、卯ノ花も一度会ったことのある滅却師だ。

 

「護廷十三隊2代目総隊長を拝命しました、卯ノ花八千流です。なるほど……元から、ここは貴方がたの領域。地の利は無くなってしまいましたか、困りましたね」

 

現れたのは滅却師のNo.2。ユーハバッハと相対した時に、彼とは相対している。卯ノ花の力の程度は割れており、それを把握したユーハバッハが送り込んできたのだろう。

 

自分が出るまでもないと、卯ノ花に言っているのだ。

 

「この男は私が相手します、貴方は隊士を連れて他の戦線の補佐へ。総隊長としての指揮権を一時的に譲渡します、頼みましたよ」

 

「御意」

 

短く返事をした沖牙は、外へ飛び降りながら天挺空羅で1番隊の生き残った隊士達へと指示を飛ばしていく。それを軽く見下ろし確認した卯ノ花は、沖牙を追わせないようにハッシュヴァルトとの間に立つ。

 

しかしハッシュヴァルトは少しだけ怪訝そうに見える。沖牙を追わせないようにするのは、総隊長という立場の死神からすればおかしい事なのもあるだろう。沖牙が囮となり、彼女がここを離れる方が合理的である。

 

だが、それよりもハッシュヴァルトは気にしているのは。

 

「意外そうですね、私が味方を減らした事を」

 

既に実力の割れている彼女とタイマンで戦う事だ。卯ノ花が戦うならば、沖牙も来てもおかしくないのにだ。

 

しかし、ハッシュヴァルトは分かっていない。卯ノ花八千流という死神を、そんな死神が上に立っても本質は変わらない事を。

 

「私に勝てると思い上がっている愚か者が、図に乗るんじゃありませんよ」

 

戦っても良い状況下で、彼女が戦わない理由は無かった。

 

☆☆☆☆☆

 

鼻につく血の香りと燃える街の臭いがまとわり付き、弾ける炎と悲鳴が奏でる死の序曲が一層、鳳橋の気分を悪くさせる。

 

三番隊の隊長である彼の前に相対するのは黒い肌にサングラスをかけたジジイだ。名はペペ・ワキャブラーダ、隊士同士を操り殺し合いをさせ自害をさせている、星十字騎士団の滅却師だ。

 

「またこんなメロディーを、僕に聞かせる気なのか……滅却師」

 

憤怒に顔を歪ませ、鞭のように振り回し隊士達を気絶させていく鳳橋。しかし彼の前に顔馴染みのある隊士達は洗脳され、襲い掛かってくる。もはや周りには鳳橋しか洗脳を受けていない死神は居ない。

 

「卍解も使えないのに、強気な子じゃないか。もうそんな危ない事言っちゃ駄目だからネッ♡平和にミーの愛の下僕になっちゃおネッ♡」

 

ペペの能力はLove、心を操る能力である。彼の言う愛という名の平和に洗脳された死神は彼の手駒だ、鳳橋が気絶をさせようと試みてはいるが多少のダメージではそのまま襲い掛かってしまう。

 

しかし、彼も隊長だ。着実に数を減らし、ペペに対して質の伴わない数は無意味だと知らしめている。するとペペは何を思ったのか、全ての下僕を気絶した仲間を襲わせた後にその場で自害させ始めた。

 

「なっ……!?」

 

「ダーメ!ミーが愛を教えてるんだから、邪魔しちゃダメだヨッ♡」

 

鳳橋が直ぐに動いた、だがそれはペペの攻撃により遮られる。目の前でまた隊士達が殺されていく、歯を噛み締める鳳橋の表情が更に険しくなる。

 

「……ここまで不快にさせられたのは、久しぶりだよ」

 

霊圧を一気に高める鳳橋、その余波で周りの大地が鼓動する程であり、それだけ彼の内に燃え盛るものが吹き出でいるという事なのだろう。だがこれ程に霊圧を高めるのは、それなりの大技を仕掛ける為なのはペペにも明らかだ。しかし、鳳橋は鬼道に突出し秀でた死神ではない。

 

「あれれー?卍解はミー達に取られちゃうの知らないのかな♡」

 

卍解を使うのは想像に難くない。現に彼はその霊圧を斬魄刀へと注ぎ込み、真なる力を解放しようとしている。

 

「止めておいた方がいい。今の僕は……どんなメロディーでも奏でる覚悟がある」

 

そう言うと、彼は仮面を顔に被らせる。

 

同時に、周りから金沙羅の先端を持つ人形が何人も並んだ。そして彼の背後に指揮棒を持つ右手と空の左手が現れる。それらは全て金沙羅の鞭の部分で形作られ、鳳橋の手の動きに合わせて動き始める。

 

これを使うのが今迄出来なかったのは、この力が無差別の範囲攻撃だからだ。味方のいない状況下で、彼は初めて本気を出すことが出来る。

 

卍解(ばんかい) 金沙羅舞踏団(きんしゃらぶとうだん)

 

彼の持つ最高の技であり、当然手加減のない本気の力だ。にも関わらず、ペペに焦りはまるでない。本来なら、確かにピンチだ。仮面という虚の力を得た事で、卍解を強奪させないという事ができる数少ない死神である彼は他の滅却師からしたらまさしく天敵だ。

 

だが、ペペは違う。斬魄刀には心があり、その心すら彼は操れるのだ。卍解を操ることなぞ容易く、焦る必要は無い。

 

「ふふん、ミーにはユー達の心を従わせることがきるんだヨネッ♡そんな事されても、簡単に……!?」

 

はずだった。彼が狙いを定めようとすると視界が揺らぎ、どこにも金沙羅舞踏団も鳳橋も居なくなってしまう。緑で塗りつぶされたような世界で前後すら不確かになってしまったペペに、もはや為す術はなかった。

 

「序曲 幻覚の森(ワンダー・ガーデン)

 

鳳橋の持つ金沙羅舞踏団の能力は音で、その聞こえる範囲内の敵味方全てを惑わせる能力だ。しかしそれが本質ではない。ただ惑わすだけでなく、それは実体化する。炎で火傷を負わせることも、水で飲み込むことすら現実となって現れる能力だ。

 

幻影に惑わされた彼の視界は完全に潰されたが、聴覚だけはしっかりと健常だ。

 

「少し、短い劇になる。人の心を弄ぶのは誰にも許されない。ましてや心を豊かにする音楽を愛でる僕から……許されると思うな」

 

彼の敗因は、強いて言うなら慢心。どんな力が来ようと対応できるという自信を持っていたからこそ、そのような万能な能力であるが故に失敗してしまったのだ。

 

そして鳳橋の勝因は、敵を確実に殺すために最善を尽くしたことだろう。

 

「終局 恋の深淵(ラバーズ・フォール)

 

緑に染まっていた彼の世界が、真っ黒に塗りつぶされた。

 

☆☆☆☆☆

 

「……カワウソの修行は順調なのか?」

 

今しがた黒崎一護を送り出した和尚へ問いかける麒麟寺。萩風は遅れて来たが、既に滅却師達が攻め込んで来て3時間を経過している。ここから片道で降りるのには徒歩になってしまうが、それも普通の死神では7日はかかってしまう。

 

麒麟寺が聞いているのも修行の進度よりも、この敵の襲撃に間に合うかどうかを聞いているのだ。

 

「儂にもわからん。じゃが、筋が悪そうではあるな」

 

「悪いのか……?あいつ位の実力があれば」

 

「滅却師という死神とは全く異なる力じゃ、それを直ぐに身に付けた一護が天賦の才を有しておるだけじゃよ。比較して圧倒的に悪いだけというのもあるのじゃが、本当にそういったのを身に付けられる才には恵まれてなさそうじゃなぁ……」

 

和尚は「才能さえあれば……」という風に残念に思っている。確かに萩風には天性の才能は皆無であり、非凡な才能もあるとは言い切れない。

 

「じゃが一護と違い、経験値は圧倒的に持っとる。己の身体を知る事で言えば萩風以上の死神はそうは居らんのじゃろ?」

 

「4番隊の隊長に選ばれるんだ、そんくらいはできるだろうよ。だが……王悦から聞いて驚いたな。斬魄刀の再生に、新しい境地の発見と到達だ。あいつが霊王様の生まれ変わりって言われても、俺も半分は信じるぜ」

 

半分は、つまり信じられない。それは麒麟寺が本当の霊王の力を知らないというのもあるが、そんな事をただの死神に産まれたものがなれるとは思っていないからだ。

 

霊王は生まれ落ちてから、世界に祝福されたような存在だった。対して萩風は何も持たずに産まれ、何も知らずに生きてきた。努力でどうこうできるだけの差ではないのだ。

 

だが、努力と偶然で差が縮まっているのも事実である。

 

「それでも霊王様の欠片も持たない、ただの死神では……ユーハバッハと比肩できると儂には思えん」

 

対して和尚は少し、消極的だ。彼が上に来てから和尚が行った修行は時間の無駄であり、既に萩風は到達しているレベルであった。萩風は単に今迄の修行の時間と密度が濃いだけであり、それだけが彼の持つ物だったのだ。しかし、和尚と萩風が真っ向からぶつかり合えば、手傷を負うだろうが和尚は負けるとは欠片も考えていない。

 

伸び代がない、これ以上の力を得る可能性を感じられない。それが和尚の抱える不安である。

 

だが、和尚でも見えない何かを霊王が見たからこそ……彼らは上に呼ばれたのだ。不安は消えていないが、小さい。萩風は何かをしてくる、そう信じる事はできていた。

 

「じゃが、もし更なる伸び代があるのなら……勝負なぞ、あってないような物じゃろうな。儂らに見えない、先を」

 

死神という枠を超えた者になる可能性を秘めているのを。

 

☆☆☆☆

 

「はぁ、はぁ……」

 

肩で息をする鳳橋、今しがた放った卍解の負荷が反映されているのだろう。強力な卍解にはそれに伴うだけの力が使われるのだ、最初の1人相手に卍解で大技を仕掛けすぎたのかもしれない。

 

だが、まだ鳳橋は休めるわけがない。

 

「……まだだ、今は仮面が使える僕が」

 

仮面の使える死神で、万全なのは彼と平子だけだ。今の彼ならまだ卍解は使える。未だに涅隊長が薬作りに手間取っている間だけでも、鳳橋は動かなければならなかった。

 

「隊長さんか、確かに強そうだなぁ」

 

「っ!??」

 

しかし、それに終わりを告げるようにそれは現れていた。

 

咄嗟に距離をとる鳳橋、そこにはロングコートを来てフードを被る少年がつまらなさそうに佇んでいる。

 

「(いつの間に僕の背後に……それにこいつ、さっきの奴とまるで雰囲気が……)」

 

ポケットに手を入れるなど、何処から見ても隙だらけにしか見えない状況に違和感を感じる相手に、彼の勘は警告音を鳴らしていた。

 

突然現れ背後を取り、いつでも攻撃が出来たにも関わらずに飄々としている。まるでいつでも鳳橋を殺せると言うようにだ。

 

どのような武器を持ち、どのような技を使うかは想定できない。だが鳳橋の中で明確に決まっているのは1つだけだ。

 

「(こいつは、ここで倒しておいた方がいい!最悪、相打ちに)」

 

この少年の底知れない存在感に、彼は再度霊圧を高める。目の前で必殺技を放とうとしている鳳橋、対して目の前の少年は彼の前に歩んでいくとそのまま問いかける。

 

「1つだけ聞きたいんだけど、黒崎一護か萩風カワウソって死神を知ってる?後、リルトットっていう滅却師も」

 

だが、鳳橋がそんな問いかけに答えるはずもない。彼は射程内にとっくに入った少年に向けて、卍解をさらけ出す。

 

「答えるはずないだろう!卍解 金沙羅舞踏団 !!」

 

黒崎一護も萩風カワウソも、同じ仲間だ。今は上で修行中であるが、それ迄は必ず滅却師からこの場所を守りきるという覚悟が鳳橋だけでなく、全員にある。

 

金沙羅舞踏団の作り出す水が、炎が、電気の全てが音楽に込められていく。逃げ道も何も無い、耳を塞いでもいない。確実に仕留められる攻撃が放たれた。

 

「っ!?僕の卍解が通じて……!?」

 

はずだった。しかし、少年には何も起こっていない。水滴のひとつも見当たらず、服や皮膚の焦げの臭いも、電撃の弾ける音も、何も感じられないのだ。

 

「がはっ……!な、何を……!?」

 

次の瞬間に鳳橋の体が急速に重くなった。別に重力が強まったわけではない、しかし例えるなら重力に抗えるだけの力が出せないという感じだろうか。

 

それが酸欠によるものとは、直ぐには気づけなかった。

 

「知ってる?音って空気を伝わって、鼓膜が震えてそれを耳小骨が増幅させて聞こえてるんだ。でも鼓膜の中を真空にしても体に音が震えるから少しは聞こえる。

 

だから僕の周りにだけ空気を無くしたり、隊長さんの周りから……って、これも聞こえないか。話させようと思ったのに、手加減って難しいなぁ……」

 

1人目の死神を殺害した少年、グレミィ・トゥミューという災厄の怪物が行進を始めたのであった。




隊長 vs 星十字騎士団

1番隊 卯ノ花八千流 vs B ユーグラム・ハッシュヴァルト
2番隊 砕蜂 vs I
○3番隊 鳳橋楼十郎 vs ● L ペペ・ワキャブラーダ
●3番隊 鳳橋楼十郎 vs ○ V グレミィ・トゥミュー
5番隊 平子真子 vs K
7番隊 狛村左陣 vs H
8番隊 京楽春水 vs V
9番隊 六車拳西 vs V
12番隊 涅マユリ vs D
13番隊 浮竹十四郎 vs E

vsってなってるけど、戦わない人もいます。

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