卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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ブレソルのオリジナル十刃かっこよくないですか……。

私はノイトラが好みです。


32話 ウルキオラの受難

バタバタとした足音が外から聞こえてくる。ここは12番隊管轄の技術開発局の一室であり、そこには黒い砲塔のような物が鎮座している。中には既に毒ヶ峰リルカ、雪緒・ハンス・フォラルルベルナ、リルトット・ランパードが待機している。

 

「お願いがあるっす」

 

そして最終調整を片手間に終わらせた浦原喜助がある物を託している、それを受け取るのは虚圏の王であるウルキオラ・シファーだ。

 

「この装置は周りの時間を遅くする事と、早くする事の出来る装置です。雪緒さんの能力が前提ではありますが、これを使って萩風さんを出来るだけ拘束して下界に来ないようにしてください」

 

浦原が手渡すのは子供の使うランドセルのようなサイズの装置だ、何かしらの術式が刻まれているのをウルキオラは感じ取れる。

 

「萩風は護廷十三隊の隊長だぞ、良いのか?」

 

当然の疑問をウルキオラは投げかける。

 

「ウルキオラさんは、チェスってボードゲームは知ってますか?」

 

「王を先に討ち取った方が勝つというルール位は知っている」

 

チェスとは簡単に説明するなら様々な駒を使って王を討ち取るゲームであり、将棋と違い取った相手の駒を使えない事や倒された駒は二度と使えない事などが基本的なルールとしてある。

 

「なら話は早いっす。敵の王はユーハバッハ、対してこっちの王は総隊長ではありません」

 

「だろうな、そうなら既にこちらは敗北だ」

 

虚圏の王であるウルキオラは敗北した、護廷十三隊の長の山本元柳斎重國も敗北した。だがウルキオラは討ち取られてはいないからこそ、戦いを続行している。

 

だが既に総隊長の山本元柳斎重國は死亡している、しかしこちらの戦いも終わらない。何故なら総隊長は兵の長であって、王ではないのだ。兵の長は新しく入れ替わり続けるのに対し、王は1人であり常に入れ替われるような立場では無いのだ。

 

ウルキオラには一応ハリベルという代わりは居るが、死神側の王を知らないウルキオラには上手く把握できない。

 

「こっちの本当の……いや、世界の王は霊王です。この霊王を討たれたら文字通り世界は終わります。この王を守る事は、どれだけの兵を守る事よりも重要です」

 

ウルキオラは少しだけ考える。そして何故、浦原喜助が萩風カワウソを騙してまで上に縛り付けるのかを理解する。萩風は兵であるが、王を守る兵と言うよりは兵を守る兵だ。彼ならば兵の命を王よりも優先させる可能性は高い。

 

世界の終わりという天秤においても、その可能性が拭い切れない。

 

「理由は幾つかありますが、1つは保険です。萩風さんクラスの死神とウルキオラさん達が居れば上界に来た場合のユーハバッハを相手しても、増援が来るまでの時間は稼げます」

 

「……やけに未知数というのに拘るが、零番隊は未知数では無いのか?」

 

「ユーハバッハが警戒しているのは未知数の死神に対してのみですからね。恐らく、零番隊の力量は把握されていると考えて良いでしょう。特記戦力にされてるのは1人のみですし、あまり考えたくありませんが……彼に対しての勝算が彼等にあると考えれば」

 

この特記戦力というのはリルトットから聞いたユーハバッハの警戒する5人の死神だ。この中で零番隊の隊士は兵主部一兵衛のみであり、山本元柳斎重國亡き後でも間違いなく最強格の死神だ。

 

「不確定要素であり、実力の底が見えていない……もしくは見誤っている俺達を向かわせるのが良いという事か」

 

ウルキオラは1度、ユーハバッハに敗北した。しかし、まだ切り札は見せていない。正確にはまだ切り札の準備が整ってないのだが、ユーハバッハにとって未知数の実力者なのは本人も確信している。

 

対して萩風は卍解を使わずに星十字騎士団とやり合った、リルトットから聞いた情報によれば萩風の力は誰も警戒に値する程とは知らなかったそうだ。これも未知数の実力者であり、浦原もウルキオラも底が見えない実力者であり、ユーハバッハが見誤っているというのを知っている。

 

「えぇ。理想は黒崎さんも足止めできたら良いんですけどね。それともう1つ、今から使うこれが1発しか使えない事っす。一応これ以外にも行く方法はありますけど、今はこれしか使えませんから」

 

「そうか」と短く返事をするウルキオラ、そして何か気になるのか「なら最後に1つだけ、聞いておきたい」と発射台に足をかけながら問う。

 

「お前は何故、萩風に拘る」

 

それを聞いた浦原喜助の目が少しだけ細くなる。だが直ぐに平常通りの何を考えているのか分からない面持ちに戻る。浦原は少しだけ悩んでいるようだ。

 

そして意味深に微笑むと。

 

「それに答えるの、その時が来たらでも良いですかね?」

 

そう言い浦原は自分の帰る為の空間を広げ、発射の為のスイッチを押していく。ウルキオラも乗り込み、ドアが閉まる。その直前に消え入りそうな声で一言だけ呟く。

 

「その時に、萩風がどうなってるのか保証はしないのだな」

 

ドアは閉まり、外から12番隊の隊士らしき声が聞こえる。発射態勢に入ったこの砲弾はもう止められないのだろう。霊子が燃えているのだろうか、砲弾の下からは地響きのようなざわめきがある。

 

そんな雑音の中で、ウルキオラは静かに目を閉じている。

 

浦原喜助が何を考えているのか、それは知識の量でも頭の回転でもウルキオラには見当がつかない。だがそれでも、萩風に何かがあるのはウルキオラも確信せざるを得ないのだろう。

 

しかし、そんなことは重要でない。

 

静かな覚悟を己の闘志に燃やしているウルキオラにとって、萩風カワウソは萩風カワウソでしかない。その中身がどうであろうと、関係は無いのだ。

 

☆→→→→

 

「……どうするか」

 

思わず深淵を覗いたような声で呟いてしまうウルキオラは頭を抱えていた。目の前には操作ミスをしたと言って適当に乗り切ろうとした矢先に……木端微塵に吹き飛んだ時空制御装置の残骸を手に頭を抱えていた。

 

「いや、本当に何してくれてんの?」

 

もう1人、頭を抱えるものが居る。地面に両膝をつき、絶望している萩風だ。

 

「ウルキオラ……お前、機械音痴なのか?」

 

「え、あんな頭良さそうな雰囲気なのに……」

 

「今回に関しては弁護の余地が無いぞ。俺も少なからず腹が立ってるからな」

 

「こいつ意外に抜けてる所があるしな……予期できなかった俺も悪いかもしれん」

 

「(待て、なぜ俺だけ悪役に?)」

 

上からリルトット、リルカ、日番谷、萩風である。なお上の2人は事情がわかっている組であるが、ウルキオラが上手い方法を思い浮かばなかったのでヤケクソでぶっ壊したのだと思っている。

 

「(想定外だ、最初は壊れたふりをして時間を稼ぐつもりが……まさか本当に壊れるとは。あのインチキ眼鏡、まさか狙っていたのか?可能性は高い……待てよ。こいつら……まさかこの責任全てを俺に押し付けるつもりか!?)」

 

ウルキオラはチラリと3人を見る、しかし目を合わせようともしない。確信犯であった。

 

「もういいよ、取り敢えず何とかしてくれ。俺、手癖は良いけど頭は悪いから手癖が悪くて頭の良いウルキオラ、何とかしてくれ」

 

萩風が珍しく沈み込んだ気分で静かな怒りを燃やしているのを察するウルキオラ、直ぐに思考を纏め始める。

 

「(ブチ切れてるな、珍しい……と言ってる余裕も無いな。どうする、これは不可抗力だ。本当の事を言えば萩風は信用はしてくれるだろうが、間違いなくこの空間を強行突破するだろう。外に出ての待機では零番隊の隊士達が良く思わないだろうし萩風も無理矢理下へ行くだろう。萩風が霊王を守る保険である以上、何とか留めなければ……)」

 

だか良い策は思い浮かばない。この雰囲気のまま戦いに行けば間違いなくどこかで不和が現れてしまう。そんなウルキオラに、1人の救世主が現れる。仕方なさそうに、行かないと面倒くさそうな事になるなぁと思いつつ現れる。

 

「待てよ、お前ら友達なんだろ。今大事なのは不貞腐れることじゃねぇだろ、ウルキオラが極度の機械音痴だったのは仕方ねぇ事だ。でも友達なら理解してやらねぇといけない時もあるだろ」

 

リルトットは友達という言葉を強調しながら仲裁に入ったのだ。今のウルキオラから出る言葉ではどうやってもただの言い訳にしか聞こえないだろう、しかし「(ちょっと待て、俺のキャラに機械音痴を入れるのは確定なのか?)」というウルキオラの心の声は当然のように届かない。

 

「友達にあたって、こんな事で信頼関係にヒビが入って良いのか?」

 

ヒビを入れたのはお前達もだぞ、という言葉は飲み込む。

 

ウルキオラは新しいキャラを手に入れさせられるという悲しい代償を背負ったが、何とか良い方向に転んでいるのに安堵する。萩風も考えながらも「……それもそうだな」と肯定の意を示す。

 

心無しか、何かにスッキリとしたような晴れ晴れとした雰囲気を感じる。何かを気にしなくて済むようになったような、そんな悩みが消えた爽快感を感じる。

 

色々納得いかないがこれで何とか収まる、良かった。そう思った矢先、何故かウルキオラの前に。

 

「よし、ウルキオラ。今から友達止めるぞ、ちょうど新技の実験がしたかったところだ」

 

「待て、落ち着け萩風」

 

目の前に天狐の刃先があった。ブチ切れた萩風の殺気が込められているのはウルキオラには十分に理解出来た。

 

それもそうだ、こんな事で萩風の怒りが収まるはずもない。いくら友人でも、この非常時にやってはいけないことがある。それが故意であろうと、事故であろうとだ。「嘘だろコイツ」という目が周りから萩風に刺さり、「ドンマイ」という3人の同情の目がウルキオラに浴びせられる。

 

「(どうする……待て、どうする!?今の萩風はあと数秒もすれば卍解してくる雰囲気だ、既に始解もしている。少しずつだが斬魄刀も赤く染まって……ダメだ、何か言わなければ俺の命がない。しかし下手に長ったらしい言葉は萩風の神経を逆なでするだろう……!何か、シンプルで萩風と丸く収まるような……っ!!)」

 

ウルキオラの頭を高速で回転させる。もはや時間は無い、そんな中で1つだけだが萩風に対して良さそうな案が思い浮かんだ。しかし、この案はあまり良くない。それはウルキオラとしても、虚圏の王としても、1人の個としても。

 

「今回の責任は俺にもある、そこで萩風……」

 

「遺言か?1分以内だぞ」

 

斬魄刀を赫赫と輝かせ始める萩風、次の言葉が最後になるかもしれない。だが、ウルキオラは萩風の目を真っ直ぐに見て言い放った。

 

「エミルー・アパッチとの関係を王の権限下で認めるので手を打って貰えないか」

「ウルキオラ、俺達は未来永劫親友だ。機械が壊れるのも仕方ない事だ、今度から気をつけろよ」

 

掌を返したように萩風の殺気が霧散した。斬魄刀を仕舞う姿に顔には出さないが心の底から安堵するウルキオラ。周りから「嘘だろコイツら」という呟きが聞こえるが、聞き流す方向に思考は動いている。

 

萩風とエミルーの関係、これは萩風の一方的な関係であり行き過ぎたセクハラ行為が多々あった。なお最近は少しだけエミルーの方が靡いてしまっているのだが、ウルキオラはあくまでも2人の関係は認めない方向だった。破面と死神、異なった存在の物が同じ場に居るのは難しいのを分かっているからだ。仮に結ばれても、出来た子が何かしらの迫害を受けるのは分かっている。

 

だが自分の命が惜しいので取り敢えずエミルーを売ったのである。心の中で少しだけ反省しながらも、王には必要な決断だと割り切る事にしたウルキオラは考える事をやめた。

 

「でも間に合わなかったら許さないからな」

「そこについては俺もだぞ」

 

隊長2人からの圧が来る。

 

「……善処しよう」

 

何故、こんな事になったのかを考える余裕は最早無かったのである。

 




Q.萩風ってエミルー・アパッチと結婚したいんですか?
A.法が許すなら。

Q.萩風はウルキオラを許したの?
A.話してる途中で「……もしかして、自分の修行が長引いたのが壊れた原因じゃね?」と思ってからは大人しくなりました。

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