卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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33話 劣勢

「っ!?」

 

感じ取った時には遅かった。平子は紙一重で千本桜の攻撃を躱し続けていたが、それは周りに注意を払っていない事と同義ではない。間違いなく今の護廷十三隊で戦える死神の1人であり、再度使われた卍解に心を震わせて数刻後であった。

 

「(ローズの霊圧が……消えた!?)」

 

鳳橋楼十郎の霊圧が消えたのだ。どんな死神でも霊圧が全く感じ取れないことは無い、それこそ浦原喜助の考案した霊圧を感じさせない特殊な外套でも羽織らない限りだ。

 

分かることはただ一つ、今の護廷十三隊で最高戦力であった鳳橋楼十郎は殺された事だ。それは同じ隊長である平子の心を震わせる、故に行動に費やされていた脳内の演算速度が鈍ってしまう。

 

「動きが散漫だぞ」

 

「しまっ……!!」

 

故にそれが毒のように全身を回った事で起こる事態は想像にかたくない。避け切れぬ攻撃を受けた平子は仮面を砕かれながら吹き飛ばされる、致命傷では無いが間違いなくこの戦いでの勝敗が決定付けられるような攻撃であった。

 

「いよいよ、アカンな……」

 

脇腹を抱えながら瓦礫を這い出でるが、出た先を埋め尽くすのは桜色の絶景。その視界を埋め尽くす刃の海は全方位から平子に襲いかかっていった。

 

☆→→→→

 

「……ち、あれで倒れんか」

 

砕蜂の視線の先には悠々と立ち上がる蒼都がいる。まだ大前田は家族の救出中であり、砕蜂は場所を変えるべきかと考え始めた時。

 

「っ!?」

 

僅かに息を詰まられる。砂埃がはれて歩み寄る滅却師の霊圧が下がってないのは問題では無い、今のを耐え切られたは問題では無い。

 

問題なのは、今の攻撃を受けて無傷である事だ。

 

「僕は陛下にしか裁かれはしない、君じゃ僕の身体に傷一つ付きはしない」

 

直ぐに鬼道を纏う砕蜂、一瞬の内に真横に移動し渾身の一撃を蒼都へと叩き付ける。不意を突き、意識の追いつかない速度での一撃だ。辺りに撒き散らされる余波だけで瓦礫が散らばっていくほどの威力だ。

 

「君のそれは美しく速いけど、それだけだ」

 

しかし、葵都を動かす事すら出来なかった。直後に砕蜂の体がくの字に曲げられる。無傷である事どころか、まるで通用していないのに動揺している事も相まったのだろう。まともに攻撃を喰らい軽く地から足が浮くと、彼の鉤爪は穿たれる。

 

「瞬鬨……だったか、それも奪えないのが残念だ」

 

大前田邸だった場所の瓦礫を貫通していきながら吹き飛ぶ砕蜂。1つだけ彼女の失敗を言うならば、彼女はギリギリまで修行をしていた事だろう。疲労もまだ癒えぬ間に来た彼女は全力では無かった。

 

加えて、瞬鬨に慣れていないことも大きな要因となっている。彼女の技は完成はしたが、完璧ではない。彼女は完璧にこの技を自身へ最大限にいかせるだけの経験量が足りていなかった。

 

同じ技を扱える四楓院夜一に比べればまだまだ発展途上、覚えたての卍解のようなものだった。

 

「今ので生きてはいるみたいだね。だけど今のはあえて殺さなかったのに気づいてるかい?陛下から、奪った卍解で仕留めるようにと言われているからだよ」

 

しかし、それでも相性が悪かったという事もあるだろう。仮に敵が他の星十字騎士団ならば大抵の相手は一方的に倒せていた。蒼都の聖文字 I は鉄の体を持つ能力だ、超高速の技を叩き付けても傷はつかないのだ。

 

「雀蜂雷公鞭、この卍解の威力は桁違いだ。少し離れて……纏めて消し飛ばそうか」

 

☆→→→→

 

「大前田……早く、離れろ。ここは消し飛ばされる」

 

雀蜂雷公鞭の威力は誰よりも砕蜂が理解している。この地域は消し飛ばされ、残るものは無く更地になるのだ。大前田は回道に秀でた死神では無く、今のボロボロの彼が砕蜂へ出来ることは無い。

 

「砕蜂隊長を死なせたら、俺が萩風隊長に殺されるに決まってるじゃ無いんですか!!そんな面倒くさそうな事、絶対に嫌っすよ!?」

 

雀蜂雷公鞭は少しの誤差なぞ関係ない破壊力と爆破範囲を持っている技だ、2人で逃げようと簡単に捕捉されるだろう。だが、大前田は諦めきれていない。家族を助けることも、砕蜂を助けることもだ。

 

「この馬鹿ものが……」

 

☆→→→→

 

「ローズ!!」

 

駆け付けた六車が目の当たりにしたのは焼けたローズの卍解で荒れた街と、倒れている鳳橋楼十郎、そして悠々とその鳳橋を見下げるように座り込む1人の少年である。

 

「……あ、他の隊長さんかな?もう終わったよ」

 

無垢な笑みを浮かべる滅却師、グレミィ・トゥミュー。それに嫌な雰囲気を感じ取るのは生命としての本能か、それとも隊長としての経験からか、どちらにせよ六車の警戒度は最大限にまで引き上げられる。

 

「ちょっと拳西はや……っ!!」

 

遅れてやって来た白も信じられないといった顔で倒れている鳳橋へと目を向けている。

 

「(ローズの霊圧が完全に消えてる……!?今の卍解の使えない死神の中じゃ最強格の隊長だぞ!?それを数分でか……?!)」

 

信じられないのも無理はないだろう。だが目の前の滅却師はそこらの奴と同じと考えてはいけない。

 

「白、ローズを四番隊に連れてけ!何かの術でまだ生きている可能性はある!」

 

それを聞くと白は「わ、わかった!」と普段に比べて素直に言うことを聞く。今の状況でまだ鳳橋が生きている可能性はゼロでは無い、しかし限りなくゼロだ。それを認めたくないというのも彼女にはあったのだろう、それを利用してわざと遠ざけたのだ。

 

ここから先の戦いは、六車ですら瞬殺されてもおかしくないと確信してしまっていたからである。

 

「殺したから無意味だよ?それともあの子をわざとここから遠ざける為の嘘かな?」

 

それを見抜いている相手の頭はどうやら悪くない、こちらの考えは見透かされている。

 

「(ローズがほぼ無傷で死んでるのが不自然過ぎる、奴の能力か?だがそれで殺されてるなら……何が原因で殺されたのか見当がつかねぇ。それに奴にも傷らしい傷はまるで見当たらない……奴の能力を見極めれねぇと、こいつだけで全滅だ)」

 

不気味過ぎる相手だ、隊長である六車を相手にしてもまるで心の乱れを感じない。それだけ自身が絶対的に優位に立っているのを確信しているのだろう。

 

「(なら俺が捨て駒になってでも、こいつの能力を解き明かす)」

 

鳳橋は直ぐに倒された。何故倒されたのかは誰にもわからない、故に出来るのは周りにどのような能力を持った敵かと言うことを判別させるだけ生き残り続ける事だ。

 

誰かが勝てば良いのだ、誰かが勝てれば護廷十三隊の勝ちなのだ。

 

「君に聞きたい事があるんだけど、良いかな?」

 

「それは後じゃダメなのか?」

 

「うん、みんな手加減出来ずに死んじゃうから」

 

サラリと当然のように言い放つグレミィ。あまりの堂々とした態度に少しだけ冷や汗を流す。

 

「黒崎一護と萩風カワウソの居場所を教えてくれたら、殺さないであげるよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、六車の中で何かがキレる。それは護廷十三隊と自身に対しての侮辱であり、仲間を簡単に売るような集団と思われている事にキレたのだ。ましてやその隊長である、六車に対してだ。

 

「出来るかよ、そんな事! 卍解 !!」

 

グレミィは目の前で解放されていく斬魄刀を見ても「へぇー、どんなのかな」と危機感を一つも感じていない。それが余計に六車の神経を逆撫でていく。ローズがこんな奴に殺されたのか、と。

 

そして、必ずに仇を討つと。

 

「鉄拳断風 !!」

 

☆→→→→

 

「戦況は、ややこちらが不利といった所でしょうか」

 

一筋の斬撃がまた宙を舞う。ハッシュヴァルトを掠めるがギリギリで回避される。卯ノ花と戦い始めてかなりの時間が経つが、お互いにまだ実力を探りあっていた。護廷十三隊のトップと滅却師のNo.2の戦いなのだ、どちらも少なからず慎重になるのは仕方ないだろう。

 

「ですが、そちらも攻めきれていないようですね」

 

現状の護廷十三隊の具体的な被害は鳳橋楼十郎のみであり、星十字騎士団も1人しか討ち取れていない。だが戦況は護廷十三隊が不利なのは今も続いている戦闘で優勢な戦場が無い事だ。特に2,5,13番隊の隊長達は敗北寸前であり、副隊長も何人か危ない状況だ。

 

「えぇ……ですから、その天秤を傾けに私は来たのです」

 

この状況下で総隊長である卯ノ花が負けるわけにはいかないのである。

 

「……貴方の能力、何となくですが把握出来てきました」

 

攻撃が鋭さを持ち、底を見破ったかのように襲いかかっているのに対し卯ノ花は余裕を持って対応している。それは単純な剣技ならば双方含めて最強格だからだ、しかしそれだけではない。底を見破ったのは彼女の方だからだ。

 

「能力による均等化とでも言いましょうか、ですがその肩代わりをその盾が行っている。故に私にだけダメージが通り、このままでは私の敗北は免れないでしょう」

 

卯ノ花の鬼道を使った攻撃は全て跳ね返された。だが純粋な剣技による斬撃は跳ね返され無かった。この事から推測できるのは簡単だ、霊子を含む形での攻撃を全て能力で防いでいるという事だ。

 

「ですが、益があるか否かは相手次第ですね。相手に依存した能力というのは……弱過ぎる」

 

突然、優勢に見えたハッシュヴァルトの体勢が崩れた。ハッシュヴァルトは無傷だ、だが毒を盛られたかのように体が言う事を聞かない。

 

毒ならばハッシュヴァルトの能力は効かないのか、と思うかもしれないが霊子で成り立つこの世界で毒もまた霊子を含んでいる。故に風や光、ハッシュヴァルトが常日頃から跳ね返していない攻撃は通るのだ。

 

ハッシュヴァルトは信じられないといった顔で盾を確認するが変化は無い、そして卯ノ花の方を向くと全てを察する。

 

「まさか……自身を回復し続けて、私の盾のフィルターを抜けてきたのですか」

 

「過ぎた薬は毒となる、当然の帰結ですが……その盾には理解出来ていなかったようですね」

 

卯ノ花はワザと傷だらけになっていたのだ、自身へ毒とならないように。卯ノ花が回道を使う度にハッシュヴァルトの体が拒絶反応を示す、動きと思考が散漫になっているのだろう。

 

「さて……そろそろでしょう」

 

だが、お互いに決定打が無い。ハッシュヴァルトは無尽蔵とも言える回復量が、卯ノ花は厄介極まりない能力が対応できていない。一見して卯ノ花が優勢に見えるが、その均衡も対策を勘付かれたら直ぐに劣勢となる。どちらかが勝つにもそれこそ膨大な時間が必要となるのだ。

 

では卯ノ花は何を待っていたのか。

 

「涅隊長の準備が整ったようです」

 

決定打の登場である。

 

☆→→→→

 

「これは……?」

 

大前田の足元に現れるのは、一つの白い錠剤だ。直後に頭の中に通信が入ることから、これが死神側の何かである事を察する。

負傷した砕蜂を抱えながらの移動、大前田自身も傷だらけなのもあり敵の放つ卍解を避けるのは不可能だろう。そんな状況を打破できる可能性のあるモノなのは「聞こえるかね」といういつもみょうに上から目線な十二番隊の隊長の声でわかった。

 

「今送った錠剤を体や刀の何処にでも良いから触れたまえ、君達の卍解を取り戻す事ができる」

 

砕蜂もそれを聞き取り、大前田へ顎で指示をして拾わせると吸い込まれるように体内へと消えていった。「詳しい理論は凡人である君達の脳内では把握出来ないだろうから、さっさと触れたまえ」という言葉を付け加えられたのに腹を少し立てながらもその必殺の真名を唱える。

 

「卍解 雀蜂雷公鞭」

 

腕に現れたのは何年振りにも感じる、己の真の斬魄刀の姿。視界の奥では卍解が消えた事により、取り乱している滅却師が映る。

 

「踏ん張れよ、大前田!」

「はい!」

 

破壊力の高さでは他よりも抜きん出たその卍解は、取り乱す滅却師に直撃した。




六車拳西 vs グレミィ・トゥミュー
●浮竹十四郎 vs 〇 バンビエッタ・バスターバイン

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