卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋
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あの方は私に回道だけでなく、死神とは何かを教えて頂きました。高潔な精神こそが、死神には必要なのだと。

護廷十三隊四番隊隊長 虎徹勇音


4.石の上に三年、卍解の習得に……

「はぁ…はぁ…」

 

彼はいつもの練習場の洞窟で、遂にあの力を会得した。

 

「やっとだ、やっと、やっと…、会得したゾォォ!!」

 

本当に長かった、私がこの刀に宿ってから310年だ。目の前で狂乱しながら喜んでいるのは我が主人であるカワウソだ、彼は本当に鍛えた。

 

それこそ暇さえあればここに来た、瞬歩で半月かかっていたこの道のりも3時間あればたどり着けるほどになっていた。血反吐を吐き、疲れが取れるが激痛の走る風呂に浸かり、無限に生まれる岩の柱の霰を弾き続け、彼の実力は辿り着けたのだ。はっきり言って才能らしいものを彼からは感じなかった私だが、今はわかる。

 

彼は努力の天才なのだと、自身の信念の為にどんな壁でも乗り越えていくのだと。

 

「ふ、お主も男前になったのう」

 

「お、ありがとな!天狐ちゃんのおかげでここまでなれたよ!」

 

思わず私も呟く、ここまで成長していた彼は立派になっていた。霊圧も並みの死神とは違う格を持っている、何度も言うが本当に成長していた。

 

その姿を見ているとふと彼の笑いが消える、なぜか。また真剣な表情へ戻った、確かに卍解は会得してもまだ先はある。極めるのには数十年かかる、だがそれとは何か違う気がする。

 

「天狐ちゃん」

 

不意に名を呼ばれる。

 

「な、なんじゃ?わっちに聞きたいことがあるのか?」

 

私は少しだけ狼狽たえてしまう、それでも何とか平静を装うように振る舞おうとするが…

 

「卍解・改弐って、どうしたらできるかな?」

 

「お主は何を言っとるんじゃ」

 

いつのまにか真顔になっていた。

 

☆☆☆☆☆

 

俺は、おそらく人生で一番疲れてる。

 

「萩風、心が乱れてますよ」

 

「申し訳ありません、隊長」

 

すると俺の鍛錬を続けてくれてる卯ノ花隊長も、どうやらそれに気づいているようだ。

 

俺は卯ノ花隊長の弟子という立場になった、卯ノ花隊長からスパルタ式に学んだ回道のおかげで女の子の治療が捗っている。最高だよな、でも一様に女の子の死神達は俺を避けてる気がする。まぁ不純な心でも見抜いてるんだろう、まぁ不純しかないからある意味純粋なんだろうけど。

 

で、今は卯ノ花隊長と修行中だったんだけど。どうやら俺の心の乱れが術に出ていたようだ。

 

「萩風、自覚なさい。今の貴方は私の弟子であり、回道においてはこのソウルソサエティで三本の指に入る存在なのだと」

 

俺の回道だが、隊長曰くかなり上達したらしい。正直に言うと自覚はあまりないんだよね、でも俺の不純な気は何か俺を新たなステージへ導いてくれたらしい。

 

それに関わらずに俺と仲良くするような人は居ないが、卯ノ花隊長の付き人的な立場と周りからは見えてるらしい、副隊長よりも居る時間は長いかもな。一応、俺はこの隊では古参だから話相手と説明している。

 

秘められた力を解放するのって、浪漫の塊だよな。でも大丈夫、俺は席官になったら解き放つ予定だから。

 

あ、そうだ。席官になる条件を満たしたよ、今は席官の席が空いてないので俺は席官になってないけどね。

 

少し前の俺なら直ぐにでもなりたいところだったんだけど……今は正直何も考えられないのだ。

 

「隊長、俺は迷っているんです」

 

「…どうかしたのですか?」

 

隊長も珍しいのか、俺を心配している。いつもはやる気に満ち溢れているからだろうな、けど今の俺は正直かなり精神的にきているのだ。

 

「俺はいずれ隊長格になるつもりでした」

 

「でした…とは、どういう事ですか?」

 

「斬魄刀の力を…俺は、引き出せないんです」

 

卍解・改弐について天狐ちゃんに聞いたが、知らぬ存ぜぬでまったく話が通じないのだ。

 

俺たちの絆はこの300年で確かなものとなっていたと思ったのは、俺の自惚れだったのかもしれない。彼女にどれだけ聞いても鬱陶しいと言われてしまい、俺の心は粉々である。もうお婿に行けないくらいにボロボロです。

 

そんな俺にどうしろと、何ができるんだと……

 

すると卯ノ花隊長は

 

「顔をあげなさい…萩風、貴方には可能性があります」

 

珍しく卯ノ花隊長は俺を激励していた。

 

「斬魄刀の力を解放できるだけの力を、貴方はまだ持っていないだけです。回道以外はどうですか?」

 

回道……以外?そんな事、考えたこともなかった。なぜなら、常に斬魄刀を解放することだけに身を注いで来たからだ。

 

確かに…俺は現状に満足していたのかもしれない。だが、満足できる程の実力を俺は持っているのだろうか?

 

「剣術はどうですか?貴方はまだ、伸び代はあるのです。斬魄刀に認められないのが何ですか、それを悔いる時間はありません、斬魄刀に認められる死神になる事こそが貴方の今の仕事です」

 

隊長…俺は感銘を受けた。

 

確かに、俺は斬魄刀に認められるだけの器ができたのかと言われるとまだまだ器として不十分なのではないかと考えられる。

 

そうか、天狐ちゃんはそう言いたかったのか!

 

卍解・改弐にするのには、俺自身がそれに耐えうるだけの強靭な肉体と精神力、そして死神としての能力を身につけなければならないという事か!

 

「萩風、貴方の死神の道はまだ長い。焦らず、じっくりと踏みしめて行くのです」

 

「隊長…ありがとうございます」

 

俺の決心はついた。俺のような才能のカケラもないような奴が満足した時点で成長は終わってしまうのだ。ならば、やる事は決まっている。俺は、まだまだ成長する。

 

「では弟子として…卯ノ花隊長、俺に剣術を教えてください」

 

そこで俺は卯ノ花隊長に頭を下げた。

 

「その意味…貴方は、わかっているのですか?」

 

「っ!?」

 

座布団が硬く感じる、なんだこの言葉の重たさは?まるで死神としての分岐点に立ったかのような、そんな重要な選択を迫られている気がする。

 

でも、俺には最初から一本道と変わらない。

 

「重々承知してます、ですが私は卯ノ花隊長から学びたいのです」

 

隊長しか俺には居ないんですよ、ツテが!何処の馬の骨ともわからん奴が他の隊長に剣術の指南とか頼めないですよ!

 

確かに卯ノ花隊長は後方支援の隊長、恐らく剣術は隊長格の中では二歩は下だろう。卯ノ花隊長は剣術を使う必要が無い人であるが、隊長格には最低限度の力が求められるはずだ。

 

俺からしても、先ずは卯ノ花隊長を超えなければ他の隊長は超えられないのだ!

 

「…良いでしょう」

 

そして俺の願いが届いたのか、卯ノ花隊長の言葉が柔らかくなっている。これで俺は天狐ちゃんに認められる為の新しいステージへと行けるのだ!

 

そう喜んでいると卯ノ花隊長は「ですが」と言い始め、それと同時に襖の向こうから声が聞こえる。女性の声だ。

 

「ちょうど良いですね、入りなさい」

 

現れたのは長身の死神だ、背は俺とおんなじくらいだろうか。それに対してなんか何処となくおどおどしてるように見える。

 

少し青っぽい髪で目立ちそうだが、俺はこの子を見た事ない。美少女ならば必ず俺の脳内に保管されるから、恐らく新入りなんだろう。

 

「彼女は虎徹勇音(こてついさね)、新しく四番隊に入った隊士です。彼女に回道を教える事を条件に、貴方へ剣術を教えましょう。構いませんか?」

 

え?良いんですか?こんな無垢な女性を私の色に染めても良いんですか!?

 

いやまぁ冗談だけどね?回道を教えるってのは初めてだな、まぁ教わったことをそのまま教えたらいいか。

 

「問題ありません」

 

即OKですよ、明日から楽しい死神ライフが送れそうだぜ!

 

☆☆☆☆☆

 

萩風達が去った私室で、彼女は一人刀を握りしめている。

 

「まさか……私が誰かに、この技を教える事になるとは」

 

四番隊隊長、卯ノ花烈。

 

本名、卯ノ花八千流(うのはなやちる)

 

八千流とは、数多ある全ての剣術を修めた者として自身に名付けた名だ。傲慢とも取れる名だが、彼女はそれに見合うだけの実力を身に付けた死神である。

 

彼女は本来ならば罪人だ、数多の者を斬り伏せて来たのだから。

 

しかし彼女は、史上最強と呼ばれる護廷十三隊の初代十一番隊長を務めていた死神であった。その腕を買われたからだ。

 

剣術で勝る死神は存在しない。過去に戦った一人の子供を除いて、彼女より強い死神は存在しないと彼女は知っている。

 

剣八と呼ばれる、死神において最強の剣の鬼。その初代を務めた彼女を萩風もわからないわけではないだろう。

 

彼女から教わると言う事は、それ相応の覚悟と死と隣り合わせの鍛錬が待っている事を。

 

だが、彼女にそんな事は関係ない。彼女が考えるのは、ただ一つ。

 

「彼は私を、喜ばせる死神になってくれるかしら」

 

己を超える、怪物になるかどうかだけである。





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