卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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一角 覚醒





36話 鬼灯の黒龍

 失いかけた気をギリギリで保ちながら、砕蜂(ソイフォン)は自身の不甲斐なさを憂いていた。

 

 目の前で行われているのは卍解を解放する斑目一角と自身を一方的に倒した滅却師の蒼都(ツァン・トゥ)による殺し合いだ。

 

 あたりを瓦礫の山へと変える程度に荒れる戦いは両者が実力を出していることを示していた。

 

 ただ、少なくとも斑目一角は全開で戦っているのは間違いない。しかし、滅却師の力は余裕を感じる。

 

 その淡々とした動きや予備動作の少なさから、力の差を伺えてしまっているのだ。

 

「あれだけ大口を叩いておいて、どれだけ戦えるかと思えば……」

 

 勝敗は早々に決していた。そう思うに値する、決定的な出来事が起こっているからだ。滅却師は侮蔑(ぶべつ)の言葉を吐き捨てると、地面に膝をつく一角に呆れたようなガッカリしたような目を向ける。

 

「不味い、一角の卍解が破壊されている」

 

 彼の両手に握られた卍解(ばんかい)龍紋鬼灯丸(りゅうもんほおずきまる)』の刃は半ばで折れている。始解よりも遥かに大きな力の卍解であるが、それをもってしても蒼都はピンピンしている。

 

 いや、それどころではない。一角との戦いが始まってから無傷だ、鬼灯丸の一撃をもろに受けても傷が全くない。

 

 それも考えてみれば分かる事だ、護廷十三隊でも一撃の重さでいえば隊長の中でもトップクラスである砕蜂の卍解『雀蜂雷公鞭(じゃくほうらいこうべん)』でさえ軽傷で済んでいたのだ、不意でもつかなければ会心の一撃は与えられない。

 

 最悪なパターンに陥ろうとしている、護廷十三隊でも指折りの実力者たちがたった1人に蹂躙されているのだ。

 

 このままでは全員が死ぬ、一角は無駄に屍を晒しかねない。

 

「心配しないでくださいよ、砕蜂隊長」

 

 にも関わらず、一角の目には絶望などはまるでなかった。

 

「は、はは……良いぜ。最高に盛り上がってきた。喜べ鬼灯丸、やっと試せる的が見つかったんだぜ」

 

 むしろ、ギラギラと獲物を見定めた狩人の目に近い。自身の刀はボロボロ、対して相手は無傷のまま、ここからどう勝負を巻き返せるというのか。

 

「卍解がどういった物かは分かってるよ、一度壊れたソレはもはやタダの鈍だ。自分のとっておきが僕に破られてショックなのかもしれないけど、そこは僕なんだから納得してもらうしかない」

 

「調子乗ってやがるな、だがな……新しい鬼灯丸はここからが本番だぜ」

 

 ☆☆☆☆☆

 

 時は見えざる帝国との抗争から2年を遡る。

 

 萩風の一時的ではあるが弟子となった1人の死神、彼は護廷十三隊の中でも珍しい席官でありながら卍解に至る者であった。

 

 名を斑目(まだらめ) 一角(いっかく)

 

 これは萩風が初めて一角の卍解と立ち合い後に起こった出来事だ。

 

「卍解を治したんですか!?」

 

 一角は超重力下で行われる試合の後であったが、そんな疲労を忘れて驚いている。

 

 初めは些細な一言だった、「なぜ鬼灯丸は壊れているのか」と萩風が立ち合いの直後に聞いたのだ。

 

 それに自身の卍解について答えた一角に続けて「卍解を治したくないか」と更に聞いた事で一角は疲労も忘れて叫び返し、非常識の世界へ思考を投げ出されていた。

 

「あぁ、結構大変だったけどね」などとまるで当たり前のことのように答えているのは護廷十三隊でも後方支援を生業とする四番隊副隊長、断じて技術開発局の死神でも刀鍛冶でもない。

 

 驚くのは一角に限らない事だろう、彼の師である卯ノ花隊長も含めた全ての死神の常識が覆されているのだから。

 

「確かに、これは全ての死神に対応出来る方法では無いし命懸けにもなるって言うのもあるし……何よりも、技術がいる」

 

 卍解の修復はできない。何故ならそれが完成した存在であり、壊れたとしても修復する事は出来ないからだ。

 

 阿散井恋次(あばらいれんじ)の卍解『狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)』は巨大な龍のような傀儡を操るが、その関節は朽木白哉(くちきびゃくや)によって破壊されて以来、そのままである。

 

 そしてこの斑目一角も破面(アランカル)との戦いでその卍解『龍紋鬼灯丸』を壊されている。外見上の卍解は12番隊の阿近(あこん)によって修復は施されているが、それでも真価は以前よりも遥かに劣っている。

 

 一応、修復は出来ずとも《打ち直す》という方法で斬魄刀を作り直す方法はある。しかしそれは霊王直属零番隊の1人、二枚屋王悦(にまいやおうえつ)にしか出来ない芸当である。

 

 もしこれが確立されているならば、零番隊の所属も認められるだろう。

 

「方法は難しくはない。実はここは修行場としてかなり良いけど、斬魄刀との融合係数って言うのかな……かなり上がるから、それを利用して一時的に『斬魄刀と強制的に融合』してもらう、当然卍解の傷に引っ張られて間違いなく致命傷を負う。

 

 それで死にそうになるところを『回道(かいどう)で無理矢理死なせない』ようにして、繋ぎ合わせた卍解も一緒に無理矢理修復する。

 

 どれだけ時間がかかるかは私の技量とそっちの根気次第、ちなみに私は20日以上かかった」

 

 が、そうはなっていないのには理由がある。人を選び、万人に対応できる技術ではないからだ。

 

 萩風の推定であれば席官の中でも一部の実力者、それこそ4席以上でかつ強靭な精神を持ち、卍解を完全に会得している事が条件だ。

 

 そして何よりも、萩風が治す存在の身体情報を把握しているかも重要だ。それによりどの程度の無理ならば通るかで成功の可能性は上がる。

 

 そもそもこの無茶苦茶な技法の発想はどこから来たかと言えば、一応はまともだったりする。

 

 卍解にも例外はある、その一人が七番隊の狗村隊長だ。彼の卍解は破壊が行われようと、卍解と自身との繋がりが強力ゆえに自己が傷つけば卍解も傷を負う、そして逆に自己が修復されれば卍解もまた修復されていく。

 

 噂程度に耳にしていた萩風はこれで一筋の希望を見出してしまう。

 

 ならばと、彼は「自分を介して卍解を治す」という荒技を思いついてしまったのだ。

 

 結果は3週間の修復期間の直後に2週間ほど気絶している程度だが、これは全て己で行なっているのでかなりの負担を強いたので、一角はここまで酷くはならなうだろう。

 

「やる覚悟、出来てる?」

 

 が、それでも卍解を治すというのは文字通りに命がけのことに変わらない。あえて危機感を煽り、一角の覚悟を問うた。

 

 それに対して一角はまた、無言で頷いた。彼からすれば願ってもいない事だ、一度失った力を取り戻せる機会を得たからだ。

 

 更にいうならば一角は自分がこんな所で命を落とすなどとは万に一つも疑っていない。ここで死ねないというのもあるが、こんな所で息絶えるならば十一番隊で3席にはなれない。

 

「あー、一応準備もあるから明後日迄休憩してもらうけど。一つだけ始める前に忠告しとく」

 

「忠告……ですか?」

 

 そして一角もまた準備の為に休息を取ろうとすると、萩風に止められる。心構えか何かを勧めるのだろうかと、一角は気を引き締める。一語一句を聞き漏らさない為だ。それが自分の為になり、鬼灯丸の為になる。

 

 そして萩風からのアドバイスとは。

 

「新しい名前、すぐつけないと拗ねるからな」

 

 心構えなのかどうかすら分からなかった。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 卍解の先へ至る為の一つの階段、萩風がそう位置付けた境地がある。

 

 彼が死神になり、到るまでに掛かった月日は400年をゆうに超えている。

 

 その力でさえも卍解・改弐とは名付けなかった。

 

 それもそうだ、そもそも折れた卍解の直し方なぞ誰一人として知らない物であったのも直した後に知るのだが、折れる様な過度で無鉄砲な修練の愚かさを自覚したのも大きいだろう。

 

 隊長ならば卍解が鍛錬中に欠損する事なぞないのだから。

 

 だが新境地には変わりがない。

 

 故に、数字を消した。

 

卍解(ばんかい)(かい)

 

 斑目一角は、この境地に至るのに運が良い死神であった。

 

 一つはこの手法を編み出した萩風と成り行きではあるが弟子となり、保有者の被害さえ無視すれば確立された状況であった事。

 

 一角の精神力は高い、打たれた鋼の様な意地を持っている。故に傷だらけとなりながらも13日で卍解を修復した。

 

 そしてもう一つが卍解が壊れていた事だ。

 

 この境地に至るのに必要な条件はいくつかあるが、その一つが『限界を超えて使われた卍解の破損』である。

 

 壊れた卍解は治せない、それは常識であった。しかし天狐の卍解が壊れた際に諦め切れなかった萩風は様々な方法で天狐との融合を図った。

 

 そこである事に気付いてしまった、陽炎天狐(かげろうてんこ)とは名付けられた技であった事をだ。

 

 いや、すべての卍解は誰かに名付けられた存在であった事を知るのだ。後にその存在については霊王宮(れいおうきゅう)にて出会い、一つの謎が解明されている。

 

 話が逸れたが、一角にとって僥倖(ぎょうこう)であったのは卍解を修復してかつ己の形に変異を行える事であった。

 

 卍解が壊れてしまう事によって名という(かせ)が緩む、これは存在が揺らぎ不安定になるからだ。名付けた萩風も最初はそれを新たな境地と認識をしていなかった為につい最近までは解号(かいごう)によって呼び出していた。

 

 己自身の斬魄刀へと変える為の儀式、斑目一角はこの世で自分の卍解を作り直した2人目の死神、それも萩風と出会ってからたった2年での到達者である。

 

「……チリで見えないな、鬱陶しい風だよ」

 

 一角は壊れた自身の卍解を力の限り、回している。それは目の前にいる蒼都ですら一角を輪郭でしか捉えることが出来ないほどに砂埃を巻き上げ、巨大な竜巻を作り上げている。

 

 だが、蒼都は気付いていない。刃こぼれをした卍解が竜巻に吸い込まれている事に、そしてそれが一角の新しい卍解へ戻っていく事に。

 

 そしてそれが集まり終えた瞬間、竜巻は土煙を吹き飛ばしながら掻き消えた。

 

「あ、あれが……斑目か?」

 

 先程までの轟音は鳴り止んだ、竜巻も完全に消失し大きな鬼灯丸は何処にも見当たらない。

 

 にも関わらず砕蜂は目を見張る、肌を突き刺してくる異様な霊圧と放たれる当人の大きな変化に。

 

 まず、中に来た一角の身体には大きな変化がある。上半身が戦闘時にはだけていたのだが、その身体には刺青の様に黒い龍が螺旋を描きながら回り続けている。

 

 元から刺青のある者でもない、蠢いているそれは明らかに一角の呟いた新境地の一端なのは確かだろう。

 

 そして、その名はすぐに彼によって紡がれる。

 

廻帝登龍紋(かいていとうりゅうもん) 鬼灯丸(ほおずきまる)

 

 先の卍解とは似た名を持つそれは、全く新しい姿をしている。

 

 彼の手に握られるのは一つの刃、漆黒の斬魄刀だ。妙な赤黒いオーラを漂わせた不気味さを持ち、それに呼応する様に刺青の龍は踊っている。

 

 それを刀と言うには少し歪で、剣の柄には鍔はなく、生える刃は双方向に二つある。片刃の黒光りするそれは刀の時よりも分厚く幅も少し広い。そして刃の中にはそれぞれの刃の側面に赤い龍が刻まれている。

 

「それが、新しい卍解か。どんな物が来るかと思えば……馬鹿にするのも大概にして欲しいね」

 

 しかし、蒼都は呆れていた。それもそうだ、先程の龍紋鬼灯丸に比べて圧倒的に変わっている事がある。

 

 刀の色や形状なんていう些細な物ではない、決定的に異なる物がある。

 

「そんな《小さくなった》のが新しい卍解かい? さっきの方がずっと強そうだよ」

 

 それは卍解の時よりも遥かに小さくなった。片手で持ててしまえている程に収まり、始解された鬼灯丸と長さに大差がない程だ。

 

 大物の獲物を振り回していた方が強く見えるのも当たり前だ、大きさは張りぼてでもなければ一撃の重さに繋がる。

 

 一撃の重さが足りていなかったにも関わらずに使った切り札としては期待外れのものに見えるのも仕方ないだろう。

 

「また大口を叩いておいて、護廷十三隊には恥知らずが多いみたいだね!」

 

 そう言うと彼はその鉤爪で斬撃を放つ、小手調べを兼ねた雑な攻撃だ。

 それに対して、一角は焦りはない。それどころか自分の斬魄刀をこの程度で試されているというのに若干の腹を立てているのはこめかみに浮かぶ青筋で分かる。

 

「……なるほど、見かけ通りじゃなさそうだ」

 

 そして、一角は防御の為に斬撃を弾いた。だがそれは少しおかしい、普通ならば薙ぐだけで防げた攻撃なのだが彼は自身の右手とその握られた卍解・改を向けた、防御らしくは見えないその動作から、一角はあろうことか鬼灯丸から手を離す。

 

 そしてここからがおかしい所だ、一角は掌を攻撃に向けるとその掌を中心に鬼灯丸は回り出したのだ。

 

 それも高音を立てる程の速さであり、もしここに黒崎一護がいればヘリコプターのプロペラのようだと言うだろう。

 

 難なく、斬撃は弾かれていた。

 

「少し驚いたよ、よく回るし死神なんかやめて曲芸師にでもなるのを勧めするね。でもそれで傷はつかない、君じゃ僕には辿り着けない」

 

 一角も頭をおさえながら鬼灯丸を肩に背負うが、そこから悲壮感は感じない、ただ「あー、まだ足んねぇのか。思ったより硬ぇな」と呟くと掌を上に向けて再度鬼灯丸を回し始める。

 

「さっきから煩わしいよ、弱い癖に」

 

 耳に甲高い風切り音が響き続けている、それが不快なのか蒼都は今度はそれなりに力を込めた斬撃を放った。先程よりも力強く、かつ速さもある、にも関わらず一角からは大きなアクションはない。

 

 だが、近くで戦いを見守る砕蜂には叫ばずにはいられなかった。

 

「避けろ斑目!! さっきとは比べ物にならんぞ!!」

 

 その攻撃がいかに危険な物か瞬時に判断したのだろう、無理に喉から叫び少しだが血を吐いている。

 

 しかし一角は砕蜂達の方を一度見てニヤリと笑うと、目を閉じた。

 身体の龍は踊るまま、何かあるわけではない。

 

「っ!?」

 

 そのまま斬撃は着弾する、事はなかった。一角によって振り回された鬼灯丸が新たな斬撃を放ち打ち消したからだ。

 

 更に相殺しきれなかった斬撃は油断をしていた蒼都に着弾している、予想だにしていなかったのか蒼都の表情は驚愕に満ちている。

 

 ダメージはないが、それにより新たな危機感を感じているからだ。

 

「(さっきより速い、いやそれよりも……斬撃が、重くなった!? さっきのは本気じゃなかったのか? いや、ここで底を出せたなら問題は……)」

 

 内心が穏やかではない蒼都に対し、一角は「今のも耐えんのか、もうちょい力を貯めなきゃ無理っぽいな」と呟きながら鬼灯丸を回し続ける。ここでふと、蒼都は異変に気付く。それはその様子を見ていた砕蜂も同じようだが、大前田は気付いていない。

 

「音が変わった? いや……これは」

 

 だが、大前田もその砕蜂の呟きで気付く。最初に比べて、明らかに回転による風切り音が変化しているのだ。

 

 より高音に、より高速で刃が回転しているという事だ。

 

「まさか、お前は……」

 

 だが、砕蜂と蒼都はその一歩先にまで気付いていた。

 

 一角の霊圧の変化は当然だが大前田も気付いている、だが大気に存在する霊子の推移には両者ともに、特に蒼都は動揺を隠せていない。

 

 霊子は、一角の回す鬼灯丸に吸い込まれているのだ。それも強制的に、一角の体に居る龍はその充填を示す様に赤く尻尾の先から染まっている。

 

 だが両者の動揺の向きは異なる。

 

 砕蜂はその能力の一端を感じ取った故の動揺であったのに対して。

 

「(あれではまるで……いやあり得ない! あんなただの死神が!?副隊長や隊長も倒せた僕が、あんな副隊長ですらない死神に……!!)」

 

 蒼都は自身の種族、滅却師固有の侵害に大きく憤りを覚えていた。厳密に言えば異なるのだが、一角のそれは滅却師の領分への侵害という事に変わりはない。

 

 現に際限なく吸い取り続ける斑目一角の霊圧は最初のとは比べ物にならないものにまで膨れ上がっている。

 

「言ってなかったな。俺の新しい鬼灯丸は回せば回すほど、力が溜まる。それに……限度はねぇ」

 

 身体の龍は頭の先を残して真っ赤に染まっている。

 

「最初のは2万回転、2発目は4万回転だったが……仕留めるにはまだ足らねぇみたいだな」

 

 瞬間、一角は蒼都の後ろに居た。さっきまでの戦いでは考えられないスピードだ、身体的な能力は別次元に至っている。

 

「まぁ、条件きついぜ。力が溜まった卍解が壊れて初めて、寝坊助なこの鬼灯丸はやっと目覚める」

 

 そして、回すのをやめる。蒼都は動く事は出来ない、いや動く事がスキとなるのが分かっているので安易な行動は出来ないでいる。

 

「今ので13万回転だ、覚悟は出来たかバリカタ野郎」

 

「っ!?」

 

 もはや吸収した霊圧は隊長格すら凌駕している、その全てがこれから振り下ろされるたった一撃に凝縮される。

 外す事は無いだろう、攻撃の範囲もそうだが今の一角から逃げ切れる者は滅却師でも居ない。どれだけ硬かろうが理不尽な力での圧殺が行われる

 

「行くぜ鬼灯丸」

 

「待て、そんなのを放てば……!!」

 

 蒼都の制止の声は届くはずも無い。既に巻き上がる竜巻は刃に纏われている。戒めの牙は研ぎ終えているのだ、その力は龍の如き人知すら凌駕し得る旋風が飲み込む。

 

「『鬼龍(きりゅう)戒顎(かいがく)』」

 

 一撃の重さで言えば、今の彼は『護廷十三隊最強』である。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 蒼都を跡形も無く吹き飛ばした一角であったが、余裕綽々……という状況ではなかった。

 

「ぐっ……やっぱり、まだ修行が足りてねぇか」

 

 一角の卍解の先には課題がいくつもある。大いなる力にはそれ相応の反動があるのは当然だが、課題の一つに今の一角には身体的な強度が足りていなかった。

 

 この力の代償であるが、一角の身体に現れる龍の赤く染まるゲージは敵を倒すのに必要な力の貯蔵量ではない。あれは一角の限界が示されており、赤いゲージはその割合を示しているのだ。

 

 今の一角のフルパワーは体調により多少は前後するが約10万回転、絶好調であってもオーバーする力を使ってしまい全身を筋肉痛が襲っている。

 

 まだまだ不完全の力、敵の力量を測れなければ継戦が難しい力でもある。

 

 ただ今の一角が全力以上の力で放ったのはそれだけ、滅却師・蒼都を脅威であると感じていたからだ。

 

 それもそうだ、本来ならば格上の砕蜂を圧倒していた。今の状況下では確実に幹部を倒す方が重要と判断してのオーバーパワーだ。

 

 幸いにも蒼都は撃破し、砕蜂達も無事だ。一角も多少は休憩すれば負傷した彼らを運べる程度には回復するだろう。

 

 そうこうしていると、一角は1人の気配を感じとる。

 

「思ったより早かったね、一角(いっかく)

 

 同時に、側に降り立った男は一角へと手を貸す。

 

「そっちは終わったみてぇだな、弓親(ゆみちか)

 

 綾瀬川(あやせがわ)弓親(ゆみちか)がそこにいる。確かに普段から共に行動する事が多い2人だが、珍しい事に別行動を取っていたようだ。

 

 理由もなく別行動を取る事がない2人だが、もちろん理由はある。だがこれは一角側ではなく綾瀬川弓親の理由となるが。

 

「あっちは変な眼鏡がいたけど、もう大丈夫だよ。もう攻め込む余裕も理由もない」

 

 彼の任務は総隊長直々の物で、とある場所の護衛及び来るであろう敵の排除である。

 

 選ばれたのにはいくつか理由があるが、忙しい護廷十三隊の中でも十一番隊の隊長は不在であった事と、護廷十三隊でも指折りの実力者だったからだ。

 

 卯ノ花総隊長の指示を送れる隊長を介さずに引き抜ける実力のある兵は彼か一角、十番隊の松本ぐらいだ、一番隊は沖牙がいるが彼については卯ノ花に変わって指揮を取る可能性があったので除外されている。

 

 松本に関しては十番隊の指揮の代行があるので更に外され、一角は事実上の副隊長であったので除外されている。

 

 その上で彼は仕事をまっとうしてきたのだが、面倒であったのと本来の戦いの場所に戻るためにさっさと適当に片して来ているのは秘密である。

 

「にしても……無茶したね」

 

 その華やかさが売りの彼であるが、一角程では無いにしろ疲弊しているようだ。と言っても直ぐに戦闘が可能な程度、無茶をしたというわけではなさそうだ。

 

 しかしまだ戦いが終わったわけではない。

 

 一角も弓親も壁を納得しながら超えている。大きな進歩か後退かは分からないが、覚悟を決めて臨んでいるのが分かる。

 

 その代償が降りかかるのは分かっていても、信念を曲げる事になっても、死を選ぶ事になっても、戦い続ける覚悟がある。

 

「お、おぉ……張り切りすぎで全身筋肉痛が……」

 

 なお、早速代償を払っている一角は生まれたてのバンビのような足取りで四番隊隊舎に向かい始めるのであった。




◯綾瀬川弓親 Vs ●シャズ・ドミノ

◯斑目一角  Vs ●蒼都

☆☆☆☆☆

卍解・改 『廻帝登龍紋(かいていとうりゅうもん) 鬼灯丸(ほおずきまる)
使用者:斑目一角
一角の卍解を壊して直すという過程を経た事で目覚めた力であり、護廷十三隊では2人目となる解放者。当初は萩風の言う名前についてよく分かっていなかったが『廻して作る竜巻』と『場を支配する王』という特徴から名前を付けている。
また、力を幾らでも引き出す事は可能なのであるが一角が命を捨てればという条件付きである。
この戦争で使うつもりは無かったのだが、自身の先輩であり慕っても居た射場副隊長の死が大きく影響し、覚悟を決めて使用した。砕蜂がガッツリと見ているので、隊長にされないか心配している。


☆☆☆☆☆

弓親は中央四十六室に行ってました、そこで某メガネを卍解で倒してから合流したのですが護衛の仕事は面倒だったので全員追い出して来てます。
彼曰く『そこに護衛対象が居ないなら問題ない』という理論の穴をついてるので問題ないそうです。
後で怒られた時は隊長が居るから大丈夫という謎武装もしていますが、多分怒られます。
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