卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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ゆっくりですけど完走する予定です。



38話 双王

 

 サイボーグであるBG9はかなり滅却師としては異端な存在だろう。人間の上位種である滅却師は人間であるのが前提だと思われていたが、その概念を歪めている存在だ。

 

 だが滅却師の術も矢も使えるのだから、滅却師としかあらわせないだろう。

 

 そんな存在と帰還した阿散井恋次は──

 

「これが、今の恋次の力かいな」

 

 互角以上の戦いをしていた。以前とは見違えるほどの力を放っている、藍染と戦えるように修行した時よりもその力の伸びは遥かに大きい。それだけ霊王宮での修行は影響が大きかったのだ。

 

 特殊な空間で最高峰の死神からの手解きを受けて伸びないわけがないのだ。

 

 容易に弾丸を避けると、振りかざされた拳すら受け止めて殴り飛ばしている。

 

「データのアップデートは終わったぞ」

 

 ただそんな恋次を前にしても、BG9に焦りはなかった。その答えは、すぐに出る。

 

「ち、もう止めてくんのか」

 

 BG9は阿散井恋次の事を脅威とはカケラも認識していない。それは前回負かした相手というのもあるが、あくまでも前回得たデータとは異なりはしてもそこから成長を計算しているからだ。

 

 力とは成長する、だが極端な変化は起きないものだ。元の個人の性質は変わらない、力が増しても特徴的な動きはそう変わる事は無い。ゆえに推測する事は出来る。

 

 だからこそ、恋次の攻撃を受け止め始めたのだ。まだデータとの齟齬があるのかは分からないが、徐々に攻撃は受け切られてきている。純粋な破壊力でもなければサイボーグと滅却師の防御術ゆえに壊せないのだ、だからこそBG9という滅却師は星十字騎士団に名を連ねているのである。

 

「そう言えば、まだお前が取れてないデータがあるぜ」

 

 しかし、それで勝負が決まるほど阿散井恋次の進化は柔ではない。

 

「卍解狒々王蛇尾丸(ひひおうざびまる)の事か? それならばデータは取れている、今からどれだけの成長をしようとも計算内だ」

 

 だがそれでもBG9の自信は揺らがない。何故なら傲慢さなどとは無縁のデータによって裏付けされた確実な事実であるからだ。過去に起きた朽木白夜と阿散井恋次の戦いなどで卍解のデータは十分に集まっている、故にBG9は負ける事はない、そう確信するのは自然な事である。

 

「よーく見てやがれ、卍解」

 

 だからこそ、想定の範囲外からのデータに上書きされてしまうのは想定出来ない。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 霊王宮、そこで得られる経験は大きかった。僅かな期間でありながらも、身も心も何もかもが変わった、そうなるだけの重みと環境があったのだ。

 

 そして何よりも、零番隊に彼がいた事が大きかった。

 

「恋次よ、言いにくいのじゃが……それは真の名前ではないぞ」

 

「は、えぇ!? いや……現に卍解はできて」

 

 兵主部一兵衛、特記戦力の1人にも数えられている彼の存在は上に上がった死神、特に恋次への影響は大きかったのだ。

 

「嘘の名ではない、がまだ半分のみじゃ。まだ名は残っておる、その名しか教えておらんという事はまだお主を認めておらんという事じゃろう」

 

 この事に気付ける存在はそれこそ和尚、もしくは斬魄刀を作った二枚屋王悦だけだろう、でなければ気付けない。現に持ち主の恋次ですら卍解は会得し切ったものと認識していたのだから。

 

「そんな、今迄戦って来て……信じてもらえてねぇのか」

 

 これから滅却師との戦いも控えている、なのに自分はまだまだ実力不足だと己の斬魄刀から言われてしまっているのだ。強くなる為に、守る為に戦ってきた恋次にとってその衝撃は大きい。

 

 つまりいつ来るかも分からない滅却師が来るまでに、何とか名前を聞き出さなければならないのだが。

 

「そんな訳で、これからお主に蛇尾丸の真の名を教える」

 

「今の流れでか、ウソだろ……」

 

 正攻法とはとても言えない方向からその名を聞こうとしていた。

 

「わしは霊王様から『まなこ和尚』という名を頂いておる」

 

 しかし、そんな事が出来るのは彼だからである。

 

「真の名を呼ぶと書いて『真名呼和尚』じゃ。斬魄刀もわしが名付けた」

 

「っ!?」

 

 零番隊とはこの尸魂界で何かしらの功績を持つ者だけがその名に連ねる事が出来る。二枚屋王悦が斬魄刀を作り上げたように、和尚は尸魂界の歴史に名を残した上で霊王に認められてここにいる。

 

「卍解も、始解も、この尸魂界の全ての事象はワシが最初に名付けた。王悦から浅打が死神の手に渡った時には、その名も知っておる」

 

 いや、もはや彼にしか出来ない偉業である。名をつけるというのはただの力とは違う、名をつければ存在を固定する事ができる。あやふやなものを固定化する、世に共通の認識として作り上げる。そんな力を只人が持つはずがない。

 

 そしてそれに留まらず名を付けて封じる事も、名を付けて塗り替える事すら出来てしまう。

 

 それこそが、彼の存在の力である。

 

「まぁ、最近の一部は名付けておらんのじゃがな。名をつけるだけの力を持ってしまった故に、付け直すのも忍びないしのう……」

 

 ただ恋次はあまりに目の前の存在の大きさに空いた口が塞がらないようだ。ただただ驚嘆するしかない、それぐらいの事は恋次でも分かるのだ。

 

 そして、何故これから名を伝えられるのかの真意も。

 

「恋次よ、その蛇尾丸の本当の卍解の名を今からおんしに教える。おんしはその名を呼べるように蛇尾丸へその力を認めさせろ」

 

 滅却師が来るまでの僅かな時間、間に合うかどうかすら分からない短期間、その時間で和尚はやれというのだ。

 

「今、ここで」

 

 それをやる覚悟は、とうに決まっていた。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 恋次の霊圧が膨らみ放たれると、収束していく。

 

「卍解 双王蛇尾丸(そうおうざびまる)

 

 今迄の卍解が巨大な傀儡の蛇を操る大味なものだったものと異なり、新しい卍解は小さく纏まっている。しかし小さく纏まっている程度ならば警戒は緩まない、何故なら小さくなろうが卍解とは力の塊である事をBG9はデータから理解しているからだ。

 

「形状が既存データと異なる、肩部などに名残はあるようだが卍解そのものが形状が変わるような物ではない、有意義なデータが取れそうだ」

 

 何かしらの仕掛けがある、そう見抜いた上で全ての感覚危機を解放する。今迄の卍解とは何かが違う、しかしその真価は余程な事でもなければ大きく変わらないものだ。

 

 だからこそ成長したとしても、逆算して力量を予測する事は可能だろう。

 

「狒々王」

 

 ただし、その甘い認識は自身の腕を粉々に砕かれてから改めざるを得ないだろう。

 

「そ、損傷……!? 情報の上書きが」

 

 確かに卍解は大きく変わるものではない、仮に斬魄刀の真価を見直す事があるとしてもそれは始解の段階である。卍解まで見直す事は早々ない、でなければ斬魄刀に認められる以前の話である。

 

 見直しより効率良く使う場合はあれど、形態が変わる事はそうあるものではないのだ。

 

「オロチ王」

 

 そして滅却師の防御術や機械の頑強な体すら刃は貫抜いている、新たに聞いたオロチ王が加わった事で単純な計算なら阿散井恋次の卍解は倍程の存在となっているのだ。

 

「最後にこれも覚えとけよ、双王蛇尾丸」

 

 地獄など機械であるBG9にあるかはわからない、だが土産として、負けた過去を払拭する為、仲間たちの仇を取る為に、己の一撃をぶつける。

 

「『蛇牙鉄炮(ざがてっぽう)』!!」

 

 咬合は一瞬にしてBG9を燃えカスにした。機械だったのかすら分からない人型のそれは、尸魂界の風にさらわれて消え去っていく。

 

「データ不足だぜ、次はもっと勉強してきな」

 

 勝者、阿散井恋次。

 

 ☆

 

 今回の侵攻により瀞霊廷は作り替えられてしまった、地の利をを完全に失い敵は内側から侵攻してきたのである。そしてそれにより最も被害が大きいのは四番隊と十二番隊である。前者は治療の為の器具や設備が消え去り、後者は分析や連絡など護廷十三隊を潤滑に動かす為の機器が消え去った。

 

 だが、十二番隊の機能は停止していない。

 

「霊圧が収まっている、どうやら阿散井恋次も勝利したみたいだね」

 

 滅却師、見えざる帝国は内側から来た。それは影に身を潜めていたからである。故に誰も気付かなかった、遮魂膜を破ってどう現れたかと考える者では意表を突かれただろう。

 

 だがそれを見抜いた涅マユリは影を一つもなくした空間を作る事で自身の領域を守っていたのである。最初にやって来た星十字騎士団の滅却師も涅を警戒し退散しているほどだ。ただ廷内全てから影を無くすような時間はなかったが、十分に十二番隊は機能している。

 

「それで、いつまで居座るつもりなのかな」

 

 そしてそんな十二番隊に、隊士以外の者が混じっている。

 

「いやー、私は何かしようにも奴さんの出方次第ですし。ただ現状としては……ユーハバッハと隊長2人を仕留めた滅却師以外は、何とかなりそうですからね」

 

 浦原喜助、元は十二番隊の隊長である彼が何故かここにいる。いや来る事は難しくない、いつでも侵入できるだろう。ただ何をするでもなく、ここにいる。

 

 一応涅と共に十二番隊を襲いに来た滅却師、Vのグエナエル・リーを撃破している。全く何もしていないというわけではない、しかしそんなのは些事である。

 

 この1人でも戦力が欲しい状況において、何もしないでいるのは不自然としか言えないだろう。

 

 だが涅はそんな事を嫌味で言うが、ここにいる理由は分かっている。

 

完現術者(フルブリンガー)か、確かにまだ研究出来ていない領域だね。非常に興味をそそる」

 

 浦原喜助、特記戦力である彼は未知数の策略を警戒されている。ここにいるのは備える為であり、自分が戦うのと備えるのとを天秤にかけて備えた方が良いと考えているからこそ、ここに居る。下手に動く事は隙を作る事であり、自身を敵にとっての脅威と正しく認識している彼はまだ動かない。

 

 そして備えとして共にいるのは、マユリとは縁の薄い者達だ。

 

「是非、今すぐにでも解体してみたいところだが……私としてもまだ片付けなければならない厄介方があるのでね」

 

 銀城と月島、既に死人である完現術者の2人だ。浦原喜助と現世の完現術者は繋がっている、死人である彼等と繋がっていても不思議ではない。実を言えば他にグリムジョーといった破面も呼んでおきたかったのだが、ウルキオラから虚圏を守るよう頼まれているので断られている。

 

 だが何かあればこちら側に手助けに来てもらえるように手筈は整えている。

 

 実際にグエナエルは月島が対象に挟み込んだだけで圧倒している。ここに来たその滅却師は不幸としか言えなかっただろう。

 

「丁度いい、君達も手伝いたいんだろ? 後で好きな戦場を紹介しよう」

 

「手伝う?そんな気前の良い事があるのかな、僕達を調べるついでじゃないの」

 

「浮竹に会いに来たんだぞ、俺は」

 

 ただ少なくとも、ここで仲良くは出来なさそうである。




◯阿散井恋次 Vs ●BG9
◯涅マユリ他 Vs ●グエナエル・リー
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