侵攻から時間は経っており、多くの死神が命を落としている。だが護廷十三隊の底力と隊長副隊長の尽力により、戦況は少しずつ死神側へと傾き始めている。
そんな中で二代目護廷十三隊総隊長である卯ノ花は、総隊長として戦っていなかった。いや正確に言うならば、1人の隊長として敵と相対していたのである。
星十字騎士団のリーダーである滅却師、それを指揮を取りながら相手取る程容易な敵ではないと分かっていたからだ。
そしてそんな戦いも長く続いており、決着も近かった。
「私の盾が受けた不幸は、貴方により大きな不幸として天秤が傾きます」
ユーグラム・ハッシュヴァルトは気付いていた、途中から異様に攻撃が緩くなっていたと。前回のユーハバッハとの戦いや、四番隊としてフル稼働していた疲労によるものかとも考えていたが、それにしても緩くなっていた。
だからこそ気付いた。
「回道の抜け道、盲点ではあっても……私自身を傷つければ良いだけの話です」
その理由は過剰回復による毒殺という手法だと看破したのである。幸運すら振り分けてしまうハッシュヴァルトの能力により不幸しか受け止められない盾をすり抜けてきたのだが、自身を意図的に傷付け不幸にする事でその幸運を打ち消すだけでなく、その不幸すら卯ノ花にぶつけていた。
正攻法で戦う卯ノ花にとって、この滅却師との相性は悪くはない。正攻法からかけ離れた邪道ほど、この滅却師は何とでもできるだろう。それだけこの能力は異質であり、強力過ぎる。
しかし卯ノ花が敵わないのは不幸を振り分けてきた事だ。斬魄刀による攻撃は霊子は当然影響する、それを完全に消すことなぞ誰にも出来ない。
そしてハッシュヴァルトは最初は跳ね返せていなかった剣術による攻撃すら、跳ね返し始めていたのである。慣れてしまったのだ、霊子の関わる事象の大小すらもはや彼には関係ない。
「どうやら、傷を治す余裕すら無くなってきたようですが」
そして卯ノ花は逆にズタボロにされている。治癒はしているので致命傷は受けていないが、時間の問題なのは明らかであった。
「まだですよ、ここからじゃありませんか。卍……」
だからこそ、最後の切り札を切る時と判断したのだろう。彼女の斬魄刀が黒ずんで行くのとほぼ同時に
ズガァンッ!
ーー大層な音を立て壁を打ち抜きながら、戦いの場に乱入者が現れた。
「なんだあ、随分としょぼくれた戦いしてんじゃねぇか」
粉塵の中にはその当事者の声が響いてくる。今の今まで驚異的な体の強さと回復力により眠っていた猛獣が、そこにいた。
「更木隊長……私の弟子、萩風はどうでしたか?」
更木剣八、十一番隊長の隊長にして滅却師侵攻前まで萩風と斬り合いをしていた滅却師にとって特記戦力として恐れられている死神だ。
本来ならば力の封をしてしまった卯ノ花本人が直々に剣術の指南をするところであったが、どうやらその封は取り除かれている様子だ。元から萩風が生きて帰って来たのは知っているので、仕事をしてくれたのはわかっていたが、その仕事ぶりには十分満足できそうだ。
「次やる時は、こいつと一緒だからな。もっと愉しめると思うぜ」
「ええ、愉しめると思いますよ。何と言っても、私の扱きを耐え抜いた……たった1人の死神ですからね」
ならば、ここで出来る仕事は終わりだ。卯ノ花はあえて回復していなかった体を治し、そのまま外に向かう。
「この場は貴方に任せます、頼みましたよ」
その言葉を最後に、彼女は出た。
「そう易々と行かせ……っ!?」
同時にハッシュヴァルトもまた、外に向かおうとするがそれは振り下ろされた斬撃により容易く遮られる。
「おい、無視する事はねぇだろ。てめえの相手は俺だ」
どちらの勢力においても指折りの使い手、その戦いが始まる。
☆
時間が経てば経つほど、負担が大きくなる部隊がある。前回の侵攻による被害は軽微であったが、その代わりに大量の負傷者を抱え、大量の薬剤や輸血液を使い、遂には残り少ない資材と機器を失った部隊がある。
「虎徹副隊長! 負傷者の数が……」
「医療機器までは求めません、布団だけでも掻き集めてください!」
四番隊は隊長が不在だ、上に行ってしまったからである。総隊長として働く卯ノ花を頼る事も出来ない。ここの指揮は全て虎徹勇音に任せられている、そんな彼女がフル回転しても四番隊は回っていない。
隊長達の霊圧が著しく下がっている事は分かる、まともに戦える隊長格は数人だろう。既に3,9番隊の隊長は死亡し、2,13番隊の隊長は重症の状態で運ばれており、5,7番隊の隊長は霊圧を感じ取れない。4,6番隊の隊長が上にいる事を考えれば、残っているのは総隊長を含めて数人だろう。
副隊長でも2,3番隊の2人が運ばれており、他の者達も無傷というわけではない。
そして隊長や副隊長でそうならば、隊士達の被害は凄まじいものとなっている。全体的に護廷十三隊の死神そのものが減っているのだ、だからこそ戦っているものは霊圧を放っているので分かりやすい。
しかし、そんな状況で味方の近況を知れるだけのはずがない。
「な、なんだ!?」
護廷十三隊において唯一被害が軽微であった故に死神が多くいる、そして運び込まれてくる負傷者の霊圧も集まり、それは感知されてしまったのだろう。
「滅却師……!!」
壁どころか臨時の救護拠点としていた建物を吹き飛ばし、4人の滅却師が現れる。全て女性に見えるが、星十字騎士団のメンバーならそれだけの情報で誰かは分かるだろう。
「死に損ないがいっぱいいるわね、だけど……ちっ、あの副隊長いないじゃない」
バンビエッタ・バスターバイン、以前の侵攻で四番隊隊舎にて萩風と戦い敗れた滅却師の1人だ。他の3人は彼女について来させられたバンビーズのメンバーである。
「檜佐木副隊長、その体では!!」
「そんなのは分かってる! 言う暇あったらさっさと怪我人連れてここを出ろ!」
比較的、傷の浅い檜佐木は直ぐに始解した風死を手に皆の前に立った。砕蜂や吉良など下手をしなくても命の危険のある者は前に立てない、それに彼らは大なり小なり滅却師に打撃を与えている。
それならばまだ誰一人として倒せていない檜佐木が前へ立つ事に、躊躇はなかった。
「浮竹隊長!!」
そして浮竹もまた、前に立つ。彼は元々体が強いわけではない、滅却師との戦争が始まってからも体調が良くない状態であり、そんな中で隊長として戦場に立っている。
運び込まれた時も周りを庇い攻撃の大多数を受けて気絶してしまったのだが、砕蜂に比べれば傷そのものは大きくない。ただそれでも、星十字騎士団を4人も相手できないのは自分自身が一番わかっている。
「皆が踏ん張っている今、俺だけ休んではいられない」
しかし、隊長としてここで立たなければならないのだ。そして2人に続いていくように、怪我人の隊士達が刀を手に前に出ていく。
これが護廷十三隊の意気である。だが四番隊の隊士達はそんな事よりも体が悲鳴を上げている事を治療をしていたからこそ分かっているのだ、2人が前に出た事を静止したい気持ちも強い。
仮に静止できるとしたら、副隊長である虎徹だけだろう。しかしそんな事が出来ないのを彼女は百も承知である。
「その体で卍解をすれば処置できる保証はありません……御武運を!!」
虎徹は隊士達を負傷者と共に連れて行く、戦場となるここから離れなければならない。そのために彼らは立ち上がっているのだから。彼女自身残りたい気待ちはあるが、今の彼女は副隊長であり現四番隊の隊長の代わりも務めている。
それこそ彼らの思いを無駄にするだろう。
「さっきボコボコにしたのに、勝てると思ってるの?」
「勝てる勝てないで、刀を握った事はないかな」
戦争はまだ、終わりが見えない。
更木剣八 vs ユーグラム・ハッシュヴァルト
浮竹十四郎&檜佐木修兵
vs
バンビエッタ・バスターバイン&
ミニーニャ・マカロン&
キャンディス・キャットニップ&
ジゼル・ジュエル