卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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星十字騎士団 余力

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計13名


41話 やちる

 

 野晒、更木剣八の新たな力。その斬魄刀に特性があるとすれば、ただの力の塊である事だろう。一撃の重さにおいて、この始解に並ぶ斬魄刀などそうありはしない。

 

 事実『神の眼差し』で飛躍的な強化をしたハッシュヴァルトへ深い傷を負わせている。先程までかすり傷すらつかなかったその体にだ、この始解の単純故に強大な力が、特記戦力更木剣八の力が伺える。

 

 だが、ハッシュヴァルトのそれは致命傷ではなかった。

 

「更木剣八、言ったはずだ……劣勢になればなるほど、力を増すと」

 

 傷口を覆う様に、全身を光の膜で覆っていくように、また新たな存在へと進化させている。純白だった彼の礼服は血みどろになっていたが、それを作り替えるように黄金色の礼服に変わっていく。

 

 部分的な力の解放が、全身に行き渡るのが見て取れる。

 

「あぁ、まだ終わりじゃねぇだろ」

 

 そして、その変化を見届ける更木。野晒の解放で圧倒的な優位に立ったが、実は一つだけ予想外の事があった。それは一撃で殺せなかった事であり、それもまたハッシュヴァルトの能力ゆえにという事も気づいている。

 

 力の始解を防いだとは言わないが、耐えているのは十分に更木を高揚させる事が出来る。

 

 そしてそれは、正解だ。

 

「貴様が私を追い詰めれば、私は更なる進化を遂げる」

 

 新たな姿に変わったハッシュヴァルト、それに対して容赦なく更木は野晒を振るった。先程と変わらぬ手加減無しの必殺の一撃だ、致命的なダメージを与えた攻撃だ、それに対してハッシュヴァルトは──

 

「やればできるじゃねぇか」

 

 剣で受け止めた。だが、ただ防いだわけではない、張り合っているのだ。先程までは反応すら間に合わなかった攻撃に対応しているのだ、全てにおいて遥かに力を増している事が分かる。

 

 しかし、その力はまだまだ底を見せていない。

 

「これは、萩風でも防げなかったけどなぁ!!」

 

 張り合っていた刀を弾くと更木の猛撃をいなしていく、ただの暴力であるはずの更木の攻撃を、容易く防いでいく。

 

 そして徐々に更木の手数を上回っていき、遂には彼の胸に自身がやられたような傷をつけていた。

 

「言ったはずだ、どれだけ貴様が想像を超える力を得ても……これを使った時点で、勝負はついている」

 

 際限なく力を増やし続ける理不尽な力、それこそがハッシュヴァルトによる『世界調和』である。

 

 ☆

 

 卯ノ花の霊圧の揺らぎを感じ、目覚めた更木は直ぐに一番隊隊舎へと駆けていた。しかし1人ではない、いや1人ではあるがその腰には遂に言葉をかわせるようになった斬魄刀がいる。

 

「もう、剣ちゃんウソウソに避けられたのまだ悔しいの?」

 

「うっせーぞ、やちる! それに俺の斬撃は外してねぇ!」

 

 草鹿やちる、護廷十三隊十一番隊の副隊長を務める彼女は更木剣八の斬魄刀の具象化した存在である。これは護廷十三隊においては特殊な存在であり、当の更木も萩風との戦いで野晒を解放するまで気付く方はなかった。

 

 萩風との戦いで更木剣八の全てを出し切るだけではまだ届かなかったのだ、だからこそその声を聞く事ができた。最初は大人の声ではあったが、今では馴染みある幼い草鹿やちるの声も聞く事が出来る。

 

「ちっ、気絶してる間にあいつどっか行きやがったからな。ムカつく野郎だ」

 

 ただそれでも、あの決闘で更木は負けた。今迄の人生であれほど死力を尽くした愉しめた戦いは無かっただろう、しかし何故負けたのかについては理解出来ていなかった。

 

 確かに斬った感触もあり、崩れ落ちる姿も見えた。しかし現れた萩風ではない何かに斬られて負けたのだ、そして起きれば滅却師が攻め込んでいたのである。

 

 少なからず、フラストレーションも溜まっている。

 

「次は最初から一緒なんだし、絶対勝とうね!」

 

「あぁ!? 勝つに決まってんだろうが!」

 

 萩風を探したい気持ちもあるが、今は護廷十三隊の窮地であるのは感じていた。卯ノ花の霊圧が揺らいでいる時点で、他の隊長達の霊圧が弱まっている時点で、萩風が見つかるまでの繋ぎとしては十分愉しめる環境であるのを感じていた。

 

「だから、今日楽しめそうな人が居ても仲間外れにしないでよ」

 

「分かってるよ」

 

 だがそれでも、自身の全てを出し切れるとまでは考えてはいなかった。

 

 ☆

 

 この力を使うきっかけは、バザード・ブラックの死も少なからず頭の中にあったからだろう。

 

 共に最強の滅却師になろうと約束した友であり、仲違いをし迷いのまま秤にかけた決断をした仲間と、彼が考えていたかはハッシュヴァルトにはわからない。

 

 ただ、何も捨てずに陛下には選ばれる事はできなかった。だからこそ、ここでやる事は決まっていた。

 

「次の一手で終わらせる、確実に仕留める」

 

 ハッシュヴァルトは更木剣八を超えていた、その力は単純な力のぶつけ合いという更木の専売特許で超えていた。ただでさえ正攻法以外での耐性のあるハッシュヴァルトに対して、正攻法すら効かなくなってしまったのだから。

 

 それを更木も感じていただろう、自身の身に受けた攻撃は十分過ぎる力があった。護廷十三隊は優勢になるにつれて、ハッシュヴァルトは力を増していくだけでなく、ハッシュヴァルト自身が不利になるだけ力まで増してくる。

 

 そんな存在だ、勝てる道理などあるはずがない。

 

 そして更木は自身の負った傷口を触れながら──

 

「見つけたぜ」

 

 笑っていた。

 

「何を笑っている、まだ余裕があると思っているのか」

 

 ハッシュヴァルトも不気味に感じただろう。圧倒的な優位に立っている、更木剣八の始解という規格外の攻撃も防ぎ、その能力も既に上回っているのだ。仮にここから力を上げてきたとしても、その過程で更なる力をハッシュヴァルトは身に付けるだろう。

 

 負ける要素は、もう無いはずだ。そう確信できるだけの材料が揃っているのだ。

 

「しばらくは、あいつ以外に使えねぇと思ってたが……思ったより早かったな」

 

 しかし、何故か悪寒を感じる。冷や汗が頬を伝い、背中に震えが走る。何かが来る、何かは分からないが未知数の何かが来る事を察していた。

 

「愉しいよなぁ野晒……いや、野渫(やちる)!!」

 

 それが何か、深くは考え付かなかった。そもそも更木剣八は卍解がつかえない唯一の隊長である、付け加えれば始解すら身につけていなかった隊長でもあるのだ。それ即ち、今までのデータはあくまでも更木剣八という個人でしか集まらなかったものである。

 

 斬魄刀を扱う更木剣八なぞ、誰も知らない。

 

 斬魄刀を、卍解を、操る更木剣八など誰も想定していない。

 

「馬鹿な、貴様それは……!!」

 

 全身が赤くなると、片手に折れた大鉈を持つその姿はまさしく鬼だろう。だがただの鬼程度の力ではない、それを考えなくても理解してしまう。滅却師も死神もひっくるめて身体能力では他を圧倒する今のハッシュヴァルトを遥かに超える速度で、力で、威圧感で、捩じ伏せに来ているのがわかる。

 

「グォォォォォ!!」

 

 雄叫びをあげた猛獣は、ただ折れた鉈を振るった。無造作に、乱雑に、分かりやすく、防御の余裕はあった。しかしその刃は受けに来た剣を砕き、野晒の効果すら耐えた鎧を両断する。

 

「(バズ……)」

 

 自身の終わりと後悔を遺すことも無く、ハッシュヴァルトは堕ちた。

 

 ☆

 

「ちっ、ハッシュヴァルトの奴負けたわね」

 

 遠くで散った滅却師の気配を感じつつも、バンビは爆撃を続ける。一方でそれと相対する朽木白哉は千本桜や鬼道で防ぎつつ、同様に感じ取った戦いの終わりを察する。

 

「更木、あの霊圧はまさしく……」

 

 卍解、それどころか霊圧の雰囲気からして始解も新たに習得していたのだろう。常時解放型の斬魄刀などと皆から知られていたが、実際にはそのような斬魄刀は存在しないのやもしれない。

 

 ただ更木剣八が卍解を身に付けたというのは相当な事であり、敵の二番手らしき存在を倒したのも大きく戦局を傾けてくれただろう。

 

「でも、万が一にもアンタらに勝ち目なんて無いわよ」

 

 しかし、相対する滅却師達にその動揺がなぜか少なかった。ユーハバッハの右腕を倒されているにも関わらず、むしろ勝つ事に不安など無いとも感じられる。それはユーハバッハという滅却師の絶対的な王が居るというのもあるが、今の言葉はそれが理由ではない。

 

「グレミィなんてずっと閉じ込めとけば良いのに……特記戦力でもない誰かさんが戦ってるし」

 

 ジゼルがゾンビを操りながら白哉に語りかける。今遠くで戦っている霊圧は京楽のものだろう、そしてそれがやや劣勢にある事も感じている。

 

「まぁそいつは死んだわね、ご愁傷様!!」





◯更木剣八 vs ●ユーグラム・ハッシュヴァルト



歴代剣八の卍解は名前の読み方が変わらない共通点(例・皆尽)があり、野渫でやちると読めるし、のざらしと読んでも良いのではないかと考える人がいたのでそこから貰いました。
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