卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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42話 想像力の化け物

 

 

 グレミィは隊長達を瞬殺してきていた。正確に言うなら手加減をしている段階で倒してしまっていたという事だった、だからこそ少し驚いていた。

 

「お遊びか、面白いね」

 

 生き延びていたのだ、京楽春水という死神は護廷十三隊でも指折りの実力者であり、先に倒した2人よりも遥かに強い。

 

 護廷十三隊において隊長とは名ばかりの役職では無く、皆が一騎当千の強者めある。だが入れ替わりが少ないわけではない。

 

 100年以上隊長としていられる者など殆どいない、その限られた100年をゆうに超えて隊長を務めている死神の1人が京楽だ。

 

 しかし、京楽もまた今迄にないタイプの敵に頭を回し続けている。

 

「(不意打ちも効かない、艶鬼の致命傷すら治癒が遅れるだけで効いてない、これは参ったね……)」

 

 花天狂骨の能力は遊びを互いのルールに設定し、戦う能力を持つ。その能力の特性は攻守ともに応用が効く。

 しかし致命傷を与えた艶鬼も、影鬼による奇襲も、嵩鬼による単純な火力を底上げした攻撃も、効いていない。

 

 いや正確には、直ぐに回復されてしまうのだ。最初のうちは優位に攻撃を仕掛け続けていたが、グレミィの能力『夢想家』は想像の遥か上をいく能力であったのだ。

 

「見た感じ、隊長さんは影を操るのが好きみたいだね」

 

「影送り、慣れるものじゃないよ。遊びに夢中になるほど、君は僕を見間違える」

 

 しかし戦えている。花天狂骨の能力、そして京楽の死神としての能力により戦えてはいる。ただ戦いになっているかと言われれば、怪しいところではある。

 

 影に潜み、影で騙し、なんとか致命的な一撃を受けていない。それに合わせた攻撃も最初のうちは届いていた。

 

 ただ京楽の攻撃も届いていてもすぐに治されている。この敵を相手取るには手数が必要だろう、思考が遅れることで攻撃の手が遅れ、傷を負わせ続ける事はできるのだ。

 

 故にここに一人で来た京楽としてはどうしたものかと頭を悩ませているのだがーー

 

「楽しかったよ、他の隊長さんはそこまで保たなかったし。ただもう……飽きたかな」

 

 策を弄するまでもなく、辺りが何かに照らされた。光の球のようなものが360度、全方位から現れたのだ。しかしそれが攻撃をしてくるわけではない、それの目的はそうじゃない。

 

「(影が、消え……!!)」

 

 グレミィはそもそも戦っていない。正確には相手を殺してしまえば何の情報も得られないからこそ、殺さないだけなのだ。簡単に死なない京楽を相手に僅かではあるが、本気になってしまったのだろう。

 

「人の眼は射殺すって言われるぐらい鋭くなるよね、眼光とか言うし。なら……本当に殺せたらどうかなって想像した事はある?」

 

 そうしても、まだ死なないと。

 

「光って集まれば火をおこせるし、死神の体だって貫けるんだよ」

 

 グレミィ・トゥミューという怪物は最も恐ろしい滅却師である。何をしてくるか分からない、正攻法で戦える敵ではない。

 

 正攻法とは違うアプローチをしたとしても、勝てるとは限らない。

 

 事実、京楽の体を光の線が何本も貫いていた。

 

 ☆

 

 四番隊の大移動、深い傷を負った者達を抱えながら動くというのは難しい事である。当然それは、敵に察知されてしまう。

 

「虎徹副隊長! ここにも滅却師が……!」

 

「っ、私が……!」

 

「ですが、貴方でなければ吉良副隊長は!?」

 

 道中合流した松本と共に負傷者を運んでいると、またもや滅却師が現れる。星十字騎士団は居ないが、数はいる。しかもマトモに戦える隊士は虎徹と松本だけであり、虎徹に関しては治療を行いながら移動しているのだ。一刻も早く治療を再開しなければならないのだが、この状況では命を繋ぐのに精一杯であり厳しいとしか言えない。

 

「下がりなさい、私が相手を……っ!?」

 

 そして松本が灰猫と共に前に出ようとすると、敵の軍勢が横凪に切り裂かれた。このような芸当、斬魄刀をモノにした程度のそこいらの隊士に出来る事ではない。

 

 そしてそれはどこからともなく現れ、松本の真横を通り抜けてくる。

 

「破道の七十八 斬華輪」

 

 同時に、その元凶へと襲い掛かる残党も一刀で切り裂いていく。鬼道の刃ではあるが、刃そのものを人斬りの技術によって一段階上に昇華しているのがわかる。

 そして悠々と何事もなかったかのように刀を納める姿はまさしく、初代剣八として数多の敵を屠った夜叉そのものであろう。

 

「総隊長!!」

 

 卯ノ花がやってきたのだ、本人も無傷とはいかないが雑兵に手間取る気配はなかった。まだ四番隊の隊長が交代して日も浅いこともあり、隊士達は皆彼女の帰還に感涙している。

 

「吉良副隊長と砕蜂隊長をここに、私が治療します」

 

「総隊長、しかし……」

 

 だが、彼女は今は総隊長である。四番隊にかまけてはいられない、全ての隊の指揮を執る存在だ。その彼女が職務を放棄してまでやってきた事に、虎徹は副隊長として問うと。

 

「上から既に3人が帰還しています、彼もまた戻ってくるでしょう」

 

 その言葉で理解した。虎徹にとって、四番隊にとって最も待ち侘びていた隊長の帰還を。更木剣八との戦いで負傷し、その傷を癒してやって来る希望の1人を。

 

「それまで重篤者の処置を私が行います。また狼藉者が現れても、私が斬り捨てましょう」

 

 これほどまでに心強い者は居ない、隊長が来るまでの間に護衛としても回道の使い手としても助けられる命は飛躍的に増えるだろう。そうすれば、万全とはいかなくとも隊長達が戦線へ復帰する事も出来るかもしれない。

 

「ですが、指揮は?」

 

 ただそれでも、総隊長としての職務は残っている。それはどうするのかと、再度虎徹は問うがーー

 

「既に、済ませています」

 

 その仕事はもう、伝えていたという事である。

 

 ☆

 

 直ぐに察した、このままでは一方的に殺されると。そう考えた京楽は戦略的な撤退をする、しかしただで退がれるほど甘い相手ではない。

 

「我ながら、よく走れてるねぇ。この傷で」

 

 京楽の体は、一瞬で致命的な一撃をもらった。肩や脇腹、太腿や脹脛を抉られたように光で穿たれてしまい、掠った頭部からは血が流れ続けている。

 

 手加減をされていた、それ自体は察してはいれどここまで一方的になるとまでは想像はしていなかった。攻撃力が低い代わりに耐久力が異常な存在と想像はしていたが、攻撃力すら異常ならば隙などあるか想像できない。

 

「本当なら、即死して楽になれたんだろうけど……」

 

 京楽1人で相手に出来るかどうか、そんな問題ではないのかもしれない。護廷十三隊が相手にして勝てるかどうか、ユーハバッハ以外にここまでの怪物を用意していると誰が想像できるのか。

 

「なまじ強いと死ぬどころか気絶も出来なくて参るよ」

 

 だが、京楽は諦めてはいない。

 

「さて、万事休すなわけだけど……卯ノ花さんはこれを見越してたのかねぇ……」

 

 グレミィとの戦闘、京楽は卯ノ花から直々に討伐を命じられて戦っている。護廷十三隊において京楽を超える死神などそうはいない、でなければ二代目総隊長の候補に挙げられるわけがない。

 

「仮に萩風隊長の件での意趣返しだとしても、これは僕が相手出来て良かったかな」

 

 護廷十三隊の隊長がたった1人に2人も敗れたのだ、彼ならば理不尽な存在であろうと倒せる。

 

 そんな力を、持っている。

 

「万事の次の一手といきますか」

 

 一息つく京楽、そして刀を突き立て己の力を解放する。斬魄刀から流れ出る墨のような暗闇が世界を這い伸びていくその様は、黒い松を生やすようだ。

 

 確かに京楽は前回の侵攻で片目を失っている、更木剣八や萩風カワウソのように滅却師を倒しているわけでもなく、卯ノ花のように敵将と渡り合ってもいない。ただそれだけで彼を弱いという者は誰1人としていない。

 護廷十三隊において彼の力は有名というわけではないが、その力の大きさは知れ渡っている。

 

「卍解 花天狂骨枯松心中(かてんきょうこつからまつしんじゅう)

 

 100年以上隊長を務める死神の力もまた、理不尽なものだ。

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