卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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感想いつもありがとうございます。
主人公はもう暫く出て来ませんが、お許しください。


43話 枯松心中

 

「あ、戻ってきたんだ。隊長さん」

 

「追いかけて来なかったからね」

 

 グレミィはまるで戻ってくるのを想像していたかのように、悠々としている。京楽が戻ってくるのは自身と戦う為であり、護廷十三隊の隊長に逃走という文字が中々出て来ない者達という事を知っていたからだろう。

 

 そして待っている間から、準備がされている事も。

 

「これ、隊長さんの卍解ってやつ?」

 

「卍解ってやつだね」

 

 寒気が起きるような霊圧、グレミィは少しだけ期待しているように聞く。これが京楽の最後の一手ならばそれをへし折る事が勝負の決め手となる、絶対に勝てない相手として認識されれば目的の人物達についての話もしやすい。

 

「世界が暗く感じる、太陽が無くなったみたいに……そういう力なんだ」

 

 たが、期待はそこまで大きなものではない。

 

「でも知ってるよ、卍解はその使い手が死んだら終わりだって事ぐらい。使って死なれても困るんだけど?」

 

 その傷ならば、いつまでも維持できないと。それで何を仕掛けくるのか、先の2人は音や衝撃を特化させた能力であったが。

 

 子供の遊びを、どう昇華させるというのか。そう身構えているグレミィの体に──

 

「っ、いつの間に……?」

 

 いつの間にか、抉り取られたような傷が生まれていた。

 

「卍解ってやつだよ」

 

 無論それは、京楽の手である。

 

「花天狂骨枯松心中

 

 一段目 躊躇疵分合(ためらいきずのわかちあい)

 

 京楽のそれは攻撃ではあるが、目に見えたものではなかった。それもそうだろう、それは鏡写のように投影されているだけなのだから。

 

「相手の体についた疵は、分かち合うように自分の体にも浮かび上がる。ただその疵で決して死ぬ事は出来ない」

 

 京楽に与えた疵と全く同じ場所に疵が付いているのだ、そして死ぬ事は出来ない。常人がこの致命的なダメージを投影されてしまえば気狂ってもおかしくないが、この卍解の本質はそんなものではない。

 

「さて、二段目」

 

 グレミィが自身の疵を治す暇も与えず、次の攻撃の波が襲う。彼な体に黒い斑点のような物が浮かび上がってくると、体を蝕み始めている。

 

慚愧(ざんき)(しとね)

 

 これもまた、卍解の力である。

 

「相手に疵を負わせた事を悔いた男は慚愧の念から床に伏し、癒えぬ病に罹ってしまう」

 

 この卍解は謂わば一つの物語である。大人の遊びに興じた者達の末路、それがこの卍解における当事者達の末路になる。そしてそんな物語を防ぐ手段は無い、それまでに京楽を殺すか射程外に逃げるしか無い。

 

「あれよあれよと、三段目」

 

 そしてまだ、物語は終わりでは無い。

 

断魚淵(だんぎょのふち)

 

 グレミィと京楽は水の中に沈んでいた。息は出来る、しかし代わりに消費するものがある。

 

「覚悟を決めたものたちは、互いの霊圧の尽きるまで、湧き出る水に身を投げる」

 

「なら、ここから浮かんで……っ!?」

 

 ただここでグレミィは効果を範囲だと察したのだろう、自身の体を空気より軽いものと想像して浮かんでいこうとするが、いくら浮かんで行こうとも、水面は遠のいていくばかりである。

 

「何で、遠く……!」

 

「当たり前だろ、ボク達身投げしたんだから。もう後の祭りさ」

 

 しかし、この能力は発動した時点で終わりである。その範囲内にいる時点で、この卍解から逃げる事は出来ない。仮に解除するにしても、疵を負い 病に伏し 霊圧の尽きた状態で京楽を相手しろというのは無茶であろう。

 

「気持ちはわかるよ、冷えた水面に身を投げりゃ覚悟が凍てつく事もある。だけどそれはあんたの我儘、浅ましいにも程がある」

 

 大人の遊びに興じ、男は一方的に見放す。この卍解の視点はあくまでも女であり、その男の末路は想像に難くないだろう。共に身を投げる覚悟を見放されてしまえば、情けであろうと女は男を狩る修羅に見える。

 

「誓った男の浅ましさ、捨てて逝かぬは女の情け」

 

「そうじゃないかえ、総蔵佐(さくらのすけ)

 

 そして最後の段を唱えようとする京楽の背中に1人の女性が身を預けた。舞妓のような和服に眼帯のある女性は親しげな様子で、京楽に話しかけている。

 

「……久しぶりだね、お花」

 

「お花、だって? 馴れ馴れしいね。偶にしか遊んでくれないじゃない主が、どの面下げてそう呼ぶのやら」

 

「まぁそう言わずに、ご免よ お花」

 

 花天、京楽の斬魄刀だ。グレミィに見えているわけではない、精神的な具象化である。卍解をする時は誰しも斬魄刀に精神世界から干渉されるが、これもその一例だろう。

 

 ただ彼女の場合、偶にしか遊んで貰えないのはそれだけ敵が厄介であるからだとも分かっている。

 

「わっちと揃いになるとはの、刀と死神とは異な者よ。ただ罪悪感でわっちを呼び出すなら、赦しはないぞ」

 

「そんな事ないさ、意地悪な事言わないでよ」

 

「意地悪だろうが主の刀。好きも嫌いも呑み込んで 共に散ろうと誓った仲だろ」

 

 ☆

 

「随分と余裕みたいだね、これで勝ったと思ってるの?」

 

 グレミィの目には独り言を言う京楽が写る。余裕でもあるのか、はたまた挑発でもしてるのか、どちらにせよここまでやられっぱなしのグレミィはフラストレーションが溜まってきている。

 

「水の中には化け物がいっぱいいるの、知ってる? この中にも現れるって想像したことある?」

 

 京楽の展開する水を想像の糧として、水中に大量の魚を展開させる。サメやピラニアといった人も襲う事がある肉食の魚をひと回り大きくしながらも多数創造している。グレミィの想像力は物体や空間を作るだけでも異常だが、命すら作り上げる事の出来る存在だ。

 

 そんな彼の本気を見せに来ていた。

 

「女の情は如何にも無惨、あたける男に貸す耳も無し」

 

 しかし、京楽に焦りはない。

 

「いとし喉元光るのは、未練に濡れる糸白し」

 

 四方八方から肉食の魚が京楽の血の匂いを頼りに突き進む、全てを捌く事は不可能だろう。喰い千切られて骨すら残らない、それだけの質量の暴力が迫っている。

 

「せめてこの手で斬って捨てよう、無様に絡む未練の糸を」

 

 だがこの能力に、数の概念はない。

 

(これ)にて大詰(おおづめ)(しめ)(だん)

 

 京楽の手に一本の糸が伸びる。それはグレミィは勿論のこと、全ての魚にも伸びている。途中参加とは言えこの領域に踏み込んだのだ、例外にはならない。

 

糸切鋏血染喉(いときりばさみちぞめののどぶえ)

 

 引かれた糸は、すべての首を刎ね飛ばしていた。

 

 ☆

 

 京楽は首を刎ね飛ばすと同時に、魚は消えた。命が無くなったからか想像者が消えたからかは分からないが、それを横目に京楽の体はゆっくりと落ちていく。

 

「おっと……」

 

 するとそれを花天が受け止める。いくら京楽といえど今回の相手は難しかった、それを一番分かっているのは斬魄刀である彼女だろう。

 

「そんな体で卍解などしおって、わっちが居ないと駄目じゃないか」

 

「はは……お花の膝枕にあずかれるとは、偶の卍解も悪くないね」

 

 この卍解に唯一の弱点があるとするなら、それは範囲だ。無差別に誰でも意図せずに殺してしまう欠点がある。強力な化け物であるグレミィであろうと自身の副官であろうと、知りもしない赤の他人であろうと、誰でも殺す。故に今回の戦い、卯ノ花は京楽を1人で向かわせたのだろう。予め護廷十三隊の隊士が周りにいない、外れの場所で。

 

 またこの卍解のリスクとして寿命を削ってしまう、それを使わせたのだから卯ノ花なりの意趣返しと考えてしまうかもしれないが。

 結果としてグレミィと渡り合い、致命傷を与えた。首を切られて生きていられる人間などいやしない。

 

 居るとすれば、それは人間ではない。

 

「今のは、驚いたよ」

 

 だからこそ、ユーハバッハに幽閉されるだけの存在なのだ。

 

「……参ったね、こりゃ」

 

 悠々と京楽の前に現れたグレミィの体に傷はない。卍解による攻撃の後、間違いなく刻んだはずの傷や飛ばした首は元に戻っており、それでいて余裕があるように見える。

 

「ぼくをここまで追い詰めたのは隊長さんが初めてだよ」

 

 どこが追い詰められているのか、京楽は苦笑いをする事しか出来ない。もはや霊圧も底を尽き、体はボロボロなのだ。逃げる事すら無理だろう。

 

「傷を共有したり、病に罹ったり。どっちも想像したことが無いのに、させられた。最後の攻撃もそうなら勝てたかもしれないけどね」

 

 ただ卍解の最中に、グレミィは疵も病も治さなかった。それだけ追い詰めてはいた、治す余裕もなく連続で仕掛け続ける『花天狂骨枯松心中』はグレミィにとっても有効な卍解であったに違いはない。

 

「ぼくはぼくが死ぬ事を想像出来ない、だから首を切られても死ねない。最後の最後に相性が悪かったね」

 

 ただ、グレミィは自分が死ぬことを想像出来ない。首を飛ばされても、体を横凪に裂かれても、溶岩に入ろうと死ぬことが無い。それだけの存在なのだ、最初からそもそも勝ち目というものはなかったのかもしれない。

 

「じゃあ最初の質問、覚えてるよね。答えてくれたら殺すのは後にしてあげるよ?」

 

「そうだねぇ……出来ないと言いたいけど」

 

 京楽も絶対に勝てない手合いと理解してしまっている。護廷十三隊の隊長としてはやれることはやったが、やりきれなかったのを悔やむ時間もない。

 

 自身の終わりを察しったのか、京楽はグレミィに口を開く。

 

「もう、君の上にいる」

 

 瞬間、グレミィは上を向いた。京楽の言葉もあるが何かを感じ取ったのだ、しかしその答えは彼の背後から斬撃と共に現れ、吹き飛ばされる。

 

「京楽さん、凄い霊圧だったな。もしかして邪魔だったりしたか?」

 

「いや、間が良かった。助かったよ……一護君」

 

 こんな状況でこのグレミィに相手できる死神はいない。護廷十三隊でも殆どの戦力が四番隊に襲いかかった滅却師へ応戦し、即座に動ける者など居なかった。そもそも京楽が卍解を使う前提の指揮を卯ノ花が取っているのだ、駆けつけられるわけがない。

 

 だからこそ、彼が上からやって来たのだ。

 

「後ろからじゃないか、まぁそう言う事してくるとは想像出来てたけど」

 

 そして斬撃により吹き飛ばされたはずのグレミィは何食わぬ顔をして現れてくる。不意打ち気味の攻撃すら耐えているあたり、やはり化け物だろう。

 

 しかし、上からやって来たのはそんな化け物達と渡り合って来た存在である。

 

「黒崎一護、君がそうか。やっと殺せる」

 

「誰だてめーは?」

 

 霊王宮より、黒崎一護は舞い戻った。





●京楽春水 vs ◯グレミィ・トゥミュー

黒崎一護 vs グレミィ・トゥミュー



誤字は最後を書いてから纏めて修正する予定です、ご容赦ください。
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