卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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44話 英雄の帰還

 

 グレミィが護廷十三隊と戦うと決めたのは陛下、ユーハバッハからの命令だからというわけではない。いや幽閉されている彼を解放する名目としてそれは存在するが、それが主たる目的ではない。

 

 ただ関係のあった滅却師、リルトット・ランパードを殺した者たちを殺す為である。

 

「虚圏で3人を倒したんでしょ? それなりに強そうだ……想像通りに」

 

 グレミィは濁流を生み出した。京楽との戦いのイメージがまだ引っ張られているのだろう、濁流の中には先程生み出した凶悪な肴もおり一撃で殺すという意思を感じる。

 

 しかし、それに対して黒崎一護は小刀の斬月を横に凪いだ。

 

「月牙天衝」

 

 瞬間、濁流を斬撃が斬り飛ばした。濁流に存在した想像生物もその衝撃で切り裂かれ、吹き飛ばされている。そして斬撃は濁流を吹き飛ばしたのちに勢いのまま、グレミィに着撃した。

 

「へぇ、やるね」

 

 だが、効いていない。

 

「僕は空想した事を実現できる。この世で一番強い力は想像力だ、今だって僕が鋼鉄より遥かに硬いと想像するだけで斬られない」

 

 多少は濁流により威力は減衰したが、それでも十分に滅却師特有の防御術を使われてもノーダメージとはならない攻撃だった。上に行き遥かに力を増した斬月の攻撃を耐える、それだけこのグレミィというのが規格外なのを一護も察しただろう。

 

「次はどうする?」

 

 同時に、今度は水などという生優しい奔流ではなく灼熱の溶岩による波が襲い掛かる。一瞬で作り出したのだろう、先ほどよりも量は多い。ただそれに対しても、一護は両手の斬月を振るった。

 

「月牙十字衝」

 

 灼熱の奔流は十字に切り裂かれた、そして今度もグレミィに直撃すると鮮血を噴き出させる。軽く凪いだ最初の一撃とは違う、その程度と侮っていたつもりはないが、グレミィは想像力の修正を感じ取る。

 

「あー、そうだ。特記戦力だし、油断はしちゃダメか……でも君でも僕は殺せない」

 

 だが、それでもグレミィは傷を直ぐに治して向き直る。一護は即座に傷を治したことに驚いているが、それもまた想像の力だ。

 

「僕が一番強いからね」

 

 ☆

 

 グレミィと一護の戦い、それは始まってからどちらも本気を出す事はなく数分が経過していた。

 

 グレミィ自身は目的の為に、そして黒崎一護は──

 

「(よし、京楽さんは離れたな。後は……)」

 

 京楽が逃げるまでの時間を稼ぐ為に。自身の隊長の敗北を察した伊勢副隊長が駆け付けた事により京楽は何とか逃げることができた、今頃は四番隊で治療を受けている頃合いだろう。

 

 ただ、ここからが本番である。

 

「僕をどうやって殺すか、分かんないでしょ」

 

 グレミィに対し、一護は戦いをわざと間伸びさせるように展開している。この滅却師の能力は今までにあったどの敵とも違い、自由過ぎる。そして何よりも、ダメージを受けても即座に治してしまう事が問題であった。

 

「安心してよ、僕だって僕の殺し方なんて想像しないんだからさ」

 

 星十字騎士団、滅却師の精鋭部隊の名ではあるがその中でグレミィは異質なのだ。そしてその能力の自由度の限界を全く感じる事ができないのである。一応、想像力は彼自身の体験している事から連想されて発動している事は分かるが、それでも予期を出来るほど能力の幅は狭く無い。

 

 だからこそ、黒崎一護は自身の手で倒さなければならないと感じている。

 

 そう考えながら両手に斬撃を構えていると──

 

「君は、リルトットって知ってる? 虚圏にいた滅却師の一人なんだけど」

 

 グレミィは戦闘中とは思えない程にリラックスした声音で聞いてきた。

 

「知らねえよ、誰だそいつは」

 

「君が倒したんじゃないの? 星十字騎士団が3人も倒されたみたいだし」

 

 虚圏において多くの破面がウルキオラも含めて倒され、殺された。それに現地で関わっていた滅却師について一護も何人か相対したのでわかる。

 

 しかしリルトットという名前に聞き覚えもなければ、そもそも彼がマトモに戦ったのはジェラルドだけである。そしてジェラルドだけでなく、それ以外のほとんどを片付けたのは他の死神だ。

 

「それやったの、殆ど萩風だな」

 

 自分が知るわけもない、そう答えた一護であるが直ぐに異変に気づく。

 

「そっかー……じゃあ君はいいや」

 

 今迄脱力していた敵の肩が強張り、先ほど口にした口だけの殺意と違い明確に萩風に対する憎悪を燃やしているのを。

 

 恐らくここからがこのグレミィの本気だろう、そして黒崎一護に対してその暴力を振るうのは単なる憂さ晴らしであり、萩風カワウソを殺す迄の暇潰しである。

 

 黒崎一護はもう一度、斬月を強く握る──

 

「それで、そいつはどこにいるの?」

 

 ここからが、本当の勝負であると。

 

 ☆

 

 グレミィに向き直り、息を整える。まだ来たばかりというのもありギアが乗り切っていないのだ、いくら走って体は暖まっていても斬月達はまだ準備ができていない。

 

 しかし目の前の敵は斬月の力無しで勝てる相手ではないのだ、だからこそ霊圧を一気に高めて叩き起こそうと考えていると──

 

「黒崎一護、私の言葉が届いているだろう」

 

 突如として、彼に誰かが語りかけてくる。

 

「この声は……!」

 

 その声は、今回の戦争における諸悪の根源でありながら黒崎一護自身にとっても関係が深い者、ユーハバッハの声である。

 

「我らを光の下へと導きし者よ、感謝しよう」

 

 しかし、声は届いていても理解は出来ない。

 

「どういう意味だ」

 

 黒崎一護がここに来て助かる、それの意味がわからないのだ。護廷十三隊の援軍、つまり滅却師側にとって敵が増える事であり利などない筈なのだ。その利とは何か、考えているがその答えは当人が答えてくれる。

 

「お前のおかげで私は霊王宮へと攻め入る事ができる」

 

「っ!?」

 

 言っている意味を理解出来ない。霊王宮は王鍵を持つ者しか侵入が許されない、零番隊である彼等と共に向かわない限りは辿り着けない。例外であるウルキオラ達ですら萩風達の後ろからついて行くという裏技を使って通ったからこそ密航出来た。

 

 つまり普通に考えて霊王宮に向かう事は出来ない、その筈なのだが。

 

「お前が今纏っているその衣は『王鍵』と呼ばれる零番隊の骨と髪で編まれている。霊王宮と瀞霊廷との間に存在する七十二層に渡る障壁を強制的に突破させる為、そして何よりその際の摩擦からお前自身を守る為にそれ以外の素材では創り得なかったのだ」

 

 一護は自身の衣について、仕立てられた事は分かっていても素材までは把握できていない。知らなくてもいいからだ、戦う事に集中してもらう為に零番隊の面々も敢えて話していない。

 

「素晴らしい耐性、素晴らしい防御力だ。死神の手に出来る者の中で、それに勝る衣は無いだろう」

 

 だからこそ、その懸念も想像出来ていない。

 

「だがその絶大な防御力ゆえ、お前の突破した七十二層の障壁はその後6000秒の間、閉ざす事はできぬ!」

 

「っ!!」

 

 瞬間 一護は光の柱、その根元へ駆けた。ユーハバッハが光の柱を立てているのは霊王宮に向かう為である、そんな事を許すわけにはいかない。それに一護はユーハバッハを倒す為に戻って来たのである、それを逃すという気持ちにはならない。

 

 何よりも、色々と世話になった零番隊の元へ向かわせたくなかったのだが──

 

「僕がいるの忘れてるの? 想像力が足りないんじゃない」

 

 それをグレミィが阻む、元々戦闘中なのだから当たり前である。

 

 時間はない、かと言って片手間に倒せるような相手ではない。このまま指を咥えてユーハバッハが上に昇るのを見届けろというのか、そう葛藤をしていると──

 

「月牙天衝」

 

 斬撃が、飛んできた。その技は一護の最も頼りにしている技であり、最も見慣れた技である。だからこそ、それを扱える者は限られているのだが。

 

「お前は……銀城!?」

 

 斬撃の放たれた方向を見ると、自身が殺した完現術者である銀城空吾がいた。何故死んでも当たり前のように力を使えるのか、何故ここにいるのか、何故ここで手を貸すのか、何が何やらよくわからないが銀城が味方であるのは確かだろう。

 

「さっさと行け、これで義理は返す」

 

 その言葉を背に受け、一護は駆けた。それを見送る銀城であるが、相対するそれは素直に通してくれそうにない。

 

「一人で止められるとでも?」

 

 そう言うと、無傷のグレミィは一護の背に向けて手を向ける。何らかの攻撃を仕掛けるつもりなのだろう、元々彼は黒崎一護や萩風カワウソからリルトットについて聞き出した上で殺す為に来ているのだ。多少の攻撃では死なないからこそ、その上を行く想像力で押し潰そうと集中していると。

 

「何カッコつけてんだ、一人じゃねーよ」

 

 一護との間を阻むように、死神が現れた。それが阿散井恋次とは護廷十三隊の死神に対して興味を抱いていなかったグレミィは知る由も無いが、現れた死神は一人ではない。

 

「一護のこと追わせるわけ無いやんけ、アホか」

 

「鳳橋達の無念、我らが晴らさずして誰が晴らすと」

 

 怪我を押してでも集まる隊長達は、黒崎一護の道を行かせる。ユーハバッハは総隊長を屠った宿敵、しかしここにいるどの隊長も黒崎一護が向かうならばと喜んで殿を務めている。

 

 そしてそれは、隊長だけではない。

 

「霊王宮だか何だか知んねーけど、まだ俺たち残ってるのに逃げるのは甘いんじゃねえか?」

 

「一角、もう割とボロボロなの忘れないでよ」

 

 ここにいる護廷十三隊の隊士は、ユーハバッハに勝つ事を誰一人として疑っていない。難敵であると認めてはいるが、各々が信じる者達の為に喜んで道に置かれる石を取り除く。

 

「……いいよ、どうせ死神は全員殺すつもりだったからさ。でもその前にーー」

 

 そしてその石は必ず、破壊すると誓ってもいる。

 

「この中に、萩風カワウソって知ってる人いる?」

 

 下界における最大にして、最悪な敵との戦いが始まる。





グレミィ・トゥミュー vs 護廷十三隊+α
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