卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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45話 下界決戦・1

 

 光の示す場所、そこから昇っていく原理など分からない。ただそれが霊王宮へと向かう為の回廊であるのは明らかであった。

 

「待て、ユーハバッハ!!」

 

 そしてその根元まで、ユーハバッハを視認できる位置まで黒崎一護は駆けていた。後ろからは自身の代わりに相手をしている仲間達の霊圧を感じる、それは一護が行くなら代わりを務めるという意思だろう。

 

 故に、自分が止めなければならないという意志を持って一護は瞬足で駆けていた。

 

 幸いな事に、まだ上に行く準備は終わっていないようでユーハバッハはそこに居る。この光の原理は分からないが、それを準備する雑兵や術式ごと破壊すれば止められると思い一護は霊圧を一気に高めると──

 

「グレミィを撒いたか、だが見えていたぞ」

 

 光の雨が降り注いだ。最短距離で向かう一護に、滅却師の矢が飛んできていた。それがただの滅却師の矢ならば、雑兵に放たれた矢ならば一護は特に気に留める事も無かっただろう。

 いや、例え星十字騎士団の誰かが放った矢だとしても弾いて無理矢理にでも最短距離でユーハバッハを仕留めに向かえたはずだ。

 

 しかし、それを放った者には見覚えがあった。共に戦って戦友であり、同じ学校に通う級友であり、あえて声を掛けずに置いてきた仲間の姿がそこにあった。

 

「石田、お前……!?」

 

 ユーハバッハは光に包まれる、そして何故かそこにいる石田雨龍はその光から離れると一護に襲い掛かってくる。その雰囲気などは間違いなく石田だろう、ただ何故か石田らしさという物がどこか欠如しているように見える。

 

 ここで石田ならば少なからず弁明の言葉を述べるか、遠回しに何らかのヒントを落としてきてもおかしくはないのだが、それらしき言動は全くない。

 

 それ即ち、答えは──

 

「操られてんのかよ!」

 

 ユーハバッハの手駒にされているという事である。理由は分からない、どうしてそうなっているのかも分からない。ただ石田なりにユーハバッハと戦った結果である事は察せられる。

 

 石田の事は共に戦って来たからこそよく知っている。滅却師の戦い方は勿論のこと、彼自身の特性や戦闘時の癖や傾向も分かる。だがそれで油断の出来る相手ではない。

 

光の雨(リヒト・レーゲン)

 

 対して、向こうは手加減がない。操り人形であるにも関わらず、その能力が何かしら弱体化させられている様子はまるでない。何故ならこの石田雨龍は『黒崎一護の足止め』の為だけにここにおり、それが効果的であると分かっていてユーハバッハは放ったのだから。

 

 石田であれば一護は迂闊に攻撃が出来ない、殺す事などもっての外である。そしてそういった絡め手を相手する事が難しいのも分かっている。鬼道により拘束する事も出来ず、純粋な戦闘能力は高いがそれ以外は警戒に値しない死神なのだ。

 

 ならば他に任せれば良いと考えるかもしれない。護廷十三隊には鬼道に長けた者もいれば薬学に長けた者もいる、この石田を止めるのに適任な存在はいるだろう。それを邪魔する星十字騎士団の滅却師は殆どが倒されている、ユーハバッハを存分に追う事も出来る筈だと。

 

 だが無理だ。確かに下界の滅却師は殆どが倒されている、グレミィという特大の危険人物は残っているがそれ以外はない。しかし他の誰かに任せる余裕も護廷十三隊にはないのだ、星十字騎士団とぶつかり合って無傷なわけがない。

 

 もう隊長の中でマトモに動けるのは朽木白哉や卯ノ花八千流など数えられる程にしか居ないのだから。だからこそ、任せられない。ユーハバッハに逃げられるが、それは零番隊に任せるしかない。

 

「っ、効かねーぞ。お前を元に戻して、俺はユーハバッハを追う!」

 

 もし零番隊が敗れた時は天へと昇ったユーハバッハを追う方法など今は思い付かない、石田をどうやって洗脳を解くかも分からない、そもそもユーハバッハの目的も何か分かっていない。そんな事でこの戦争を終わらせられるのかも分からない。

 

だがまずは石田を止めてからの話である。

 

「月牙天衝!!」

 

 2人の戦いが始まった。

 

 ☆

 

 グレミィと相対する7人、救護舎を襲った星十字騎士団を倒した朽木白哉・朽木ルキア・阿散井恋次・斑目一角・綾瀬川弓親・銀城空吾の6人と総隊長から応急処置を受けてこの場に駆け付けた平子真子で計7人である。

 

 たった1人に対して過剰とも言える戦力である、どのような奇跡が起きても普通に戦って勝てる相手ではないだろう。

 

「卍解 千本桜景巌」

 

 ただ、それで迎え撃たなければならない程の難敵ならば話は違う。

 

「ははっ、馬鹿正直に手数で攻めてくるね」

 

 グレミィは3人の隊長を1人で倒した滅却師なのだ。たった1人に、しかもその全員の卍解を耐えて悠々と戦える存在だ。現に千本桜の卍解による奔流も生み出された濁流の奔流をぶつけて何事も無いように他を相手している。

 ルキアの放つ袖白雪の冷気で濁流を凍らせても、その濁流を即座に暖めて熱湯の奔流としてぶつけて来る。それを庇う様に阿散井恋次が狒々王の巨碗で瓦礫を投げ飛ばして流れを変えてルキアを守る。

 そんな事を繰り返している、いや繰り返させられている。それだけ7対1だというのに手数で押されているのだ。

 

「アホか、京楽さんの卍解喰らって生きとる奴に手数だけで攻めるわけ無いやろ」

 

 たが、7人は概念的な力へ馬鹿正直に突っ込むわけではない。そう言う手合いを相手するのに、無策なわけがない。

 

「最低限の能力は聞いとる、対してそっちはこっちに興味なかったやろ」

 

「そんな事ないよ、特記戦力と萩風カワウソの情報なら調べてる」

 

「ホンマ、俺らに興味ない奴の言い方やな!」

 

 7対1、圧倒的な数的優位だけで勝てるなら京楽の卍解を耐えれるわけがない。だからこそ平子は京楽からグレミィの能力について、耳にしている。

 

 そして、以下が最低限の情報と得ているが

 

 1.グレミィの想像力は命でも何でも創り出せてしまう

 2.想像力の方向性も自由である

 3.想像力には直近の経験から派生する傾向がある

 4.自身の修復はどんな攻撃を受けても即座に治せる

 5.思考が鈍れば回復は遅れる

 6.首を飛ばしても生き返れる

 

 これだけ聞いて勝機を見出せる自信はない。強いて言えば思考が鈍れば回復は遅れるので、回復の余裕が無くなるほど畳み掛ければ良いぐらいである。実際、それ以外の明確な策を思いつく事は出来なかった。

 

 殺して死なないだけならまだ封印するなど一応は何とかなる、ただ何でも出来てしまう存在を抑えるのは非常に難しい。

 

 なので7人は手数で何とか致命的な思考をさせないように立ち回っている、その余裕を作らせないで自身の回復に思考を費やさせる事で均衡を保っている。

 

「……隊長さん、逆さまだね。そう言う力?」

 

 だが、ここに皆が居るのは黒崎一護を追わせない為でも、でも時間稼ぎの為でもない。倒す為にいる、だからこそ平子も怪我を押してでもここにいる。

 

「俺の逆撫は色んな感覚を逆にする、そう簡単に慣れるもんちゃうで」

 

 平子はBG9との戦いの影響で治療は受けたが殆どまともに動けない。動きの質だけで言えば副隊長に並ぶか否かと言ったところだろう、だが京楽を破ったこの滅却師を相手するのに自身の斬魄刀は必要であると感じここにいる。

 

「前後左右上下を逆にするだけなら、僕の感覚器官を入れ替えたら良いだけだよ。その力で自由に入れ替えてくると思うけど、その都度変えれる。無理して来たみたいだけど、残念だったね」

 

 ただ、その情報の断片を聞き体感しただけでグレミィは直ぐに逆さまだった平子を逆さまじゃないように認識する。感覚器官を歪める力、ならそれにフィルターをかければ良い、そう考えてできてしまうのが彼だ。そう視覚器官を組み替えられる。

 

「はい右側、それじゃ斬る以前の問題だよ」

 

 無論、あくまでも対応なので入れ替え続けられれば後手にはなるだろうがその程度ならば対応できる。感覚器官に生じたズレはコンマ1秒に満たない時間で修正され、逆撫の能力も平子の存在意義も無かったことに出来る。

 

 実際に、斬り掛かった平子の斬撃は素手で受け止められてしまい『左足を一瞬だけ20トン程の重さがある』と想像された蹴りを受けて瓦礫の山に吹き飛ばされてしまう。

 

「なんやこいつ……もう目で見てるもん修正しとんのかい」

 

 逆撫は対応された。純然たる事実であり、この視覚的な能力はもはやグレミィの脅威ではなくなっている。

 

「破道の五十七 大地転踊」

 

 しかし攻撃の手を緩める暇はない。弓親の放った瓦礫の投擲はグレミィの平子への追撃を止めさせ、防御に回らせる。ただ生み出された溶岩の盾により瓦礫はドロドロに溶かされて防がれてしまったようだ。

 

「貰ったぜ!!」

 

 それでも、弓親の目的は陽動でもある。この程度の鬼道で倒せるなら苦労はしない、一角はその間に鬼灯丸を片手に空を駆けておりその刃はグレミィの懐まで迫っている。

 鬼道を苦手とする一角にできる事は突撃する事ぐらいであるが、それで勝てる程甘い相手ではない。いくら回復に思考を割かせるためとは言え、無謀だろう。だが一角は分かった上で鬼灯丸を片手にグレミィへ襲い掛かる。

 

「芸がないね、いい加減に……!?」

 

 先程の平子と同様の攻撃、自身の体を強化にして受け止め反撃すれば良い。この声の主である一角も吹き飛ばされる、ここまで数が多いと面倒ではあるので頭数は少しぐらい減らしておこう、そう考え振り返ったグレミィであるが──

 

「あー、言い忘れとったが。声の聞こえる方向も、逆にしといたで」

 

 声の方向とは別の所から、鬼灯丸が突き刺さっていた。

 

 ☆

 

 グレミィという滅却師は化け物である、その認識を全員が持っている。だが完璧な存在でない事も、同時に理解していた。完璧な存在であればこの場に居合わせた7人を瞬殺する、完璧な存在であれはユーハバッハは彼1人を送って護廷十三隊を殲滅していた、だがそうはなっていない。

 

 グレミィも滅却師の枠に入る存在、ならば人の枠にも当て嵌まる。ただ全員それは頭で理解出来ていても、納得出来るほど素直でも愚鈍でもない。

 

 京楽を含めた隊長3人を倒したのは紛れもない事実であり、覆しようのない脅威である事を知らしめている。その力を目の当たりにして少なからず『戦いになっていない』という意識が芽生え始めてもいた。

 

「なんだあ? 血はちゃんと出るみてーだな!」

 

 だからこそ、ここで一角が一撃を与えた事は大きかった。京楽の卍解で首を飛ばしたと言われても目にしたわけではない、ただ目の前で血を流す存在ならば殺せるという確信に変わる。

 

 平子ありきの作戦であったが、それはうまくいっておりかなり深い傷を負わせている。それを軸にして、また攻撃を畳み掛けていけば何れ回復の余裕を無くして倒す事ができるかもしれない。

 

「……それで?」

 

 ただ、一角の攻撃は致命的な一撃ではなかった。

 

「一角!!」

 

 弓親の声が届くよりも早く、一角の肩に拳がめり込む。咄嗟に急所を外したようだが、それでも勢いは殺せているわけではない。グレミィは身体能力が高い滅却師ではない、むしろ動きは素人そのものだろう。言うなれば固定の砲台であり、砲筒が回転しようがここにいる誰でも避けられるし受け流す事も出来るだろう。

 

 だが先程も平子は喰らっていたが、その攻撃が見た目に反して破格の攻撃力を持っている故に感覚がズレるのである。音や速度、材質を感じ取っておおよその威力を感じたり防御姿勢を取った平子を蹴り飛ばしたのはそういった背景がある。

 

 ならばなぜ一角は喰らったのか、それは距離の問題だけでなく鬼灯丸が引き抜けずに踏ん張ったからである。グレミィに攻撃を当てた時に一角も「こんなに簡単なわけがない」と頭の中でわかりつつも踏み込み過ぎていたのだ、そして鬼灯丸が抜けない様に『一時的に血をコンクリートのように固めて』動きを封じ、隙を生じた一角を殴り飛ばしたのである。

 

 そしてそれは、先程平子を蹴り飛ばした時よりも遥かに高い威力である事がわかる。

 

「っ……一角はあかん! さっさと四番隊連れて行け!」

 

 直後、地面を何度も跳ねて吹き飛び、左肩を破壊された一角は気絶している。生きているだけでも良い方だろう、あの一撃を滅却師との連戦で傷も疲労も溜まったあの体で受けて生きているのだから。

 ただでさえ卍解・改で自身の限界を超えた力を使っているのだ、ここまでよくやっただろう。

 

 だが間違いなく、均衡は崩れる。

 

 頭数が減るという事もあるが、平子の逆撫による不意打ちも、視覚的な能力と誤認させて効いただけであり次は効かないだろう。五感を反転させるこの能力、その真髄は読み解かれていると思われて良い。

 

「今度は、それの卍解で何とかしてみる?」

 

「そない都合の良えもんちゃうで、卍解は……!」

 

 弓親が一角を抱えて走り去る。

 残り、5人。グレミィを相手するには少々、足りない。

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