一護の相対する石田は正気を失っている。何をされたのか、ただの人形として一護に襲い掛かる。現代で滅却師として幾度の死線を超えて星十字騎士団でも基礎的な能力はトップクラスの攻撃だ、一護も少なからず傷を負ってきている。
「随分と腕を上げたじゃねえか」
石田が相手という事もあり全力が出せないというのもある、そもそもどうすれば元に戻せるかも分かっていない。頭を弄られたのか、それとも能力的なもので拘束されているのか、それがわからなければ石田を助けられない。ただその力はロボットというわけでもなく少なからず体に染み付いた石田の癖はある。
だからと言っても、殺せるわけがない。ここで石田をどうにかするにも、その元凶はここにいない。
そしてそんな考えをする程、ユーハバッハは遠のいていく。
「俺も、本気でやる」
ならば、気絶させるしかない。治し方など卯ノ花や浦原など、頼れる存在はいくらでもいる。多少は痛めつけてしまうことになるが、手段を選んでいられる時間もない。一護は霊圧を高めながら、斬魄刀を構えた。
「ちょうど、試したい事もあるからな」
すると、斬魄刀の色が変わっていく。元々漆黒だったそれは白く染まっていき、変化は一護自身にも起きていく。頭からは角が伸び、瞳の色が変わると霊圧が遥かに跳ね上がっている。
その力の名は虚化、それも仮面を被るだけの物とは異なる。一護が暴走した完全な虚化の力だ、ウルキオラや萩風の二人を一時的とはいえ圧倒した力である。今まで、それどころかここ最近はまともに使っていない力だ。
「お前の霊圧で叩き起こさせてもらった、もう暴走はしねえ」
だがそれを、完全にコントロールしているのが分かる。理性を保ち暴れる事なく、静かに石田を見据えているが霊圧は穏やかではなさそうだ。
元々は母親から受け継いだ滅却師の力と父親から受け継いだ死神の力と溶け合ったそれは反目し斬月として打ち直された事で大人しくなっていたのだが、石田の攻撃で均衡をわざと崩して呼び起こしたのである。
ただこれを石田相手に使う必要があるかと言われれば、そうではない。
そこまでの力を引き出したのはまだこの力を扱って日が浅く、実践慣れをさせたいとい考えもあるが、素早く決着をつけるにはこれが良いと考えているからでもある。
「歯食い縛れ……月牙天衝!!」
即座に石田の背後に移動し、刀を振った。石田ならば耐えられる程度の出力、しかし気を吹き飛ばすほどの力を込めた月牙天衝だ、それは直撃し石田を吹き飛ばす。仮にこの力を過去に身に付けていれば、ウルキオラなど一方的に倒せていたのかもしれない。
「よし、傷は井上に……!!」
だからこそ、今の攻撃で石田は確実に無力化出来た確信を持つ。今の一護の力は上から修行を受けて戻ってきただけでなく、自身に宿る力の全てを完全にコントロールもしているのだ、石田とは大きな差が作れている。
ただ今すぐにでも上に行きたい所だが、まだ皆が戦っている。それに行く方法も思い付かない。なので相手していたグレミィの方へと向かおうとするが──
「な、んだ……!?」
自身の背中に鋭い痛みを感じる、何処かから攻撃をされたらしい。しかしそれらしき兆候はなかった、それどころか攻撃を受けるまで気付かないなどあり得ない。
そして周りを警戒する為に振り返れば、無傷の姿で矢を構える石田がいる。
戦いの勘だろうか、傷口の雰囲気や石田の状態から何となく一護は感じ取る。一護が新たな力を身につけたように、石田も何らかの方法で新しい力を身につけていると。
「ダメージ……全部返して来たのかよ」
まだ、戦いは続く。
☆
「月牙天衝!」
グレミィとの戦い、負傷した一角とそれを運んだ弓親を除いた5人で何とか戦っている。ただそれも、グレミィの攻撃の手を緩ませる程の数の攻撃で保っている均衡に過ぎない。
「ちっ、マジで効いてねえな」
そして銀城は目の前の敵に、勝つビジョンが見えていない。
「(奪うにしても一撃が入らねぇ、そもそも……奪った所でどうにかならない可能性が高いタイプなのがやべぇ)」
銀城には奪う力がある。過去には黒崎一護から死神の力と完現術の力を奪って我がものとしており、それで奪えるのは霊圧やその能力、そして相手の持つ経験値がある。
だがそれにも例外はあり、あくまでもその奪った相手に宿る力を奪えはするが、特定の部位などに宿る力を奪えるわけではないからだ。
グレミィの力は想像力、つまり考える力を起因とするなら頭が何かしら特別である事を意味する。一護の能力を奪えたのは元から死神代行であったから、そして滅却師でない銀城では奪うにしても受け止める器がないので奪えない。
グレミィと今すぐに同じ頭を作り上げろと言われても不可能であり、やっても無駄に終わる可能性が高い。故に銀城はこの戦局を左右できる存在ではない。
「そろそろ現れても良いと思うんだけどなぁ……四番隊の副隊長も、戦えないわけじゃないでしょ?」
「萩風は副隊長ちゃうぞ、俺と同じ隊長や」
そして同様に、平子も左右できない。逆撫を対応されてしまい出来る事は斬りかかって少しでも注意を引く事である。そもそも体はBG9との戦いで限界を迎えており、今すぐにでも治療を受けなければならない体である。それでも卯ノ花が見送ったのは、それだけこの戦場がシビアなものとなると考えての事だろう。
そして、それは正しい。現にまともにやり合えていない。
「なら尚更……現れても良いと思うんだよね。もう2人ぐらい殺したら、来てくれるかな」
グレミィは朽木白哉の千本桜を抑え、阿散井恋次や朽木ルキアの攻撃を片手間に弾いている。そろそろ数を減らさないと面倒と考えていたというよりは『萩風の前で殺したいから』などという余裕によって成り立っていた戦場である。
「まずは、オカッパの隊長さんから」
当人がいないならばもう少し暴れようと想像力によって作り上げたのは現代兵器の象徴でもあるミサイルだ。複雑な構造をしているそれすら片手間に作り上げるのだ、もはやこれを避けれても更に大きな力で圧殺される。
平子は鬼道が全く出来ない存在ではないが、これをどうにか出来るほどの余裕もなく、周りもそれを庇う余裕がない。
「(これはアカンわ、後はひよ里達に任せるしかないな……)」
自身の終わりを悟りながらも、平子はその攻撃から少しでも離れて他の者達に被害を出さないように駆けた。特に彼自身が思い残している事はない、ただ願うのはこれからここに来るであろう同志たちにこの化け物を倒して貰う事だけである。
護廷十三隊の隊長がまた1人、散る。ミサイルの誘導性能まで想像されており、その爆炎が平子の頭上にまでやって来ると──
「おい、随分面白そうな事してんじゃねえか」
そのミサイルは、一刀で両断された。ついでと言わんばかりに、それは平子を抱えて跳び上がる。彼自身そんな事をする死神ではないのだが、あまりに満身創痍な平子を見て怪我人をすっこませる為の行動なのかもしれない。
「また新しい隊長さん?」
ミサイルがぶつかろうとした時に運ばれて降ろされ、突然の事で惚ける平子だが、それは目の前にある十一の数字とギラついた霊圧で誰が何をしたのかを察する。
「更木……どこほっつき歩いてたんや」
「卯ノ花の所に連れてかれただけだ、お陰で祭りに遅れた」
滅却師側のNo.2を倒し、以前よりも遥かに力強い霊圧を放つ戦いに飢えた猛獣が現れた。覚えたての卍解により一撃を振るった影響で負傷してしまったが、それは卯ノ花にしっかりと治されている。
「ふぅん、君が『更木剣八』か……」
明らかな強者、それも特記戦力。他の誰とも違う底知れない戦闘力を持つ歴代最強の剣八、文字通り護廷十三隊最強の死神が現れたのだ。
「強そうだ、想像通りに」
だがそれでも、グレミィの余裕は崩れない。
☆
臨時救護舎に集まる怪我人の数は少しずつではあるが、減ってきた。雑兵や星十字騎士団の殆どが片付いたと言うのもあるだろう、しかしそれを捌くのに卯ノ花の存在は大きかったのもある。
重篤者のみを対処していた卯ノ花であるが、その分を山田花太郎や虎徹勇音が他の怪我人の治療に動いていたおかげで救護舎は落ち着いてきたのである。
「総隊長、一角は……」
「無事ですよ、ただ戦線の復帰はしばらく難しいでしょう」
「あ、ありがとうございます!」
そして運び込まれた一角も、無事に治療された。左肩を粉砕されはしたが、持ち前の生命力と卯ノ花の回道により一命は取り留めた。弓親も連戦により負傷していたが、それもついでに治療を受けある程度は戦えるようになっている。
ただこれ程の処置のできる卯ノ花でも吉良や砕蜂の回復まで手が回らない。彼らはただでさえ重体であった体で卍解を使用した、それだけの覚悟があり使用したのであるが、やはり戦線の復帰は難しいだろう。卯ノ花の治療では後遺症も少なからず残ってしまう。
「重篤者の処置は完了しました。この場はまた貴方に任せます」
だが、ここから先は四番隊の仕事である。元四番隊である卯ノ花の仕事は、もうそれじゃない。
「総隊長、どこに……」
また戦線へ戻るのか。確かに今、グレミィという巨悪が暴れ回っている。それと戦える護廷十三隊の隊士は限られているし、そもそも総隊長の仕事は護廷十三隊を導く事である。だからこそ、今やらなければならない事が他にあると分かっているのだ。
「彼らの狙いは霊王宮です」
ユーハバッハは、空を登った。理屈や理論、目的も不明であるが霊王宮を襲いに向かったのは確かである。そして恐らく、それが最初からあった計画なのだ。護廷十三隊や死神を滅ぼす程度の野望ではない、もっと先の何かを求めていると考えられる。
「下の戦いは直に決着します、ですが待ってはいられない」
ならば追うしかないのである。幸いにも下には隊長格が複数、中でも剣八として覚醒した更木剣八もいるので心配はしていない。逆にこれだけの戦力をもってしても勝てない相手ならば、もはやお手上げである。今日らへ卍解を遠回しに指示したものの、それを耐えている存在なのだから。
「しかし、王鍵もありません。どう向かうのですか?」
「そこは頼れる天才が護廷十三隊には居るではありませんか」
だからこそ、そんな存在を時間稼ぎの囮にしているユーハバッハを追わなければならないのである。上には零番隊、そしてまだ残っているであろう萩風がいる、暫く時間の猶予はあると考えられるが急がなければならない。
「涅隊長及び十二番隊、並びに浦原喜助を召集。上に向かいます」
上の戦いが、この戦争を決める戦いである。