卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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何と今回で50話も出してるらしい。

と言うわけで、1万3千字の投稿です。


47話 下界決戦・3

 

「っ、このままじゃ」

 

 遠くで感じる激しい戦い、その余波は離れていても一護は感じている。ユーハバッハを追えない今は石田を止める為に戦い続けてはいるが、やはり得体の知れなさがあったグレミィを5人に任せたのは少なからず不安もあったのだ。一護も今すぐにでも駆けつけたいのだ、グレミィのような滅却師と戦えるように強くなって来たのだから。

 

 ただ今の一護は満身創痍とはいかないものの、既に全身が傷だらだ。それも全て石田の能力である『完全反立』によりダメージを跳ね返されているからだ。正確には事象を2点間で入れ替える能力なのだが、最初はシンプルにダメージ状況を入れ替えた時と異なり徐々に『虚の力の混じった月牙天衝』によるダメージを入れ替えるなど細部を変えて自分にダメージを反映させないように立ち回っているのである。

 

 ラジコンにしては性能が良過ぎる、恐らく直に操っているのだろう。しかしそれらしき影は周りに無ければ、まともな滅却師の戦力はグレミィ以外に感じない。他にいるはずだが、それを倒す事ができないのだ。

 

 ただ上記の能力を分かっているがゆえに、石田を止める手立てを一護には思いつく事が出来ない。間違いなく、石田との相性が悪いのだ。これを相手するには戦闘力とは別の切り口から攻めれる、搦手が得意の存在が良いだろう。

 

「お困りみたいですね、黒崎さん」

 

 そして、そんな搦手に誰よりも長けた者が現れる。

 反射的に石田も矢を放つが、それは霊子構造や本人の霊圧を把握し尽くしているがゆえに容易く打ち消してしまう。

 

「石田さん、どうやら操られるみたいで」

 

 浦原喜助、そんな芸当が出来てしまう特記戦力の1人だ。

 

 ☆

 

 グレミィ・トゥミュー、この相手が下界に残る最大の難敵である事は戦った全員が理解している。護廷十三隊でも指折りの実力者とそれに並ぶ完現術者の共闘という想像し難いメンバーであり、現状集められる戦力の最大値に近かった。

 

 だが、それでも倒せない。想像力という底知れない力により、倒すどころか傷をつける事や、付けた傷を治させないといったことが出来ずに後手に回らざるを得なかった。

 

 護廷十三隊はたった1人の滅却師に殲滅されかけていたのである。

 

「どうしたあ! こんなもんじゃねえだろ!!」

 

 ただそれも、1人の死神が来るまでの話だが。

 

「マジかよ」

 

 更木剣八は攻めた、攻め続けた。手数で押し切れなかった相手に、力でゴリ押した。決定打を与えられなかった他の5人と違い、常に先手を打ち続け、押し切ろうとしている。

 

「ほぼ、1人で……」

 

 それも、たった1人で。

 

「これが、更木の本気かいな」

 

 平子とて護廷十三隊の隊長である。目の前の敵がどれほどの強敵か強者であるが故に理解し把握も出来ている、万全の状態でも勝機は薄いと感じる程だ。ただ、更木はそんな事を感じさせない。グレミィに対して、どんな能力であろうと叩き斬る事しか頭にないのだ。

 

 下手に介入するのは自殺行為であり、更木と連携を取るなど歩調が合わないどころの話では無いだろう。

 

 しかし、更木剣八無くしてこの戦場は成り立たない。それはこの場にいる朽木白哉も感じている。

 

「(奴の動きに余裕が無くなってきた。ならば……)」

 

 白哉は手数という点で攻めてきた。余裕を無くすための手段としてはそれが最善と考えられる、そう京楽が言っていた。手数という点で護廷十三隊でも有数の斬魄刀である千本桜ならばグレミィと渡り合える、事実更木が来るまでの殆どの時間を白哉がグレミィを相手していた。

 

 だからこそ分かるのだ、更木剣八と言えど決定打を与えられる相手では無いと。

 

「兄様、このまま卍解を維持するのは……」

 

 ルキアが駆け寄って来る、彼女も連戦で体力の消耗も大きいだろう。だが卍解を維持し続けていた恋次や限界をとうに超えた平子よりはマシな様子だ。まだ、戦える。

 

「ルキア、お前の卍解で奴の動きを止めろ」

 

 ルキアの斬魄刀、その真価を発揮すれば勝機はある。

 

「私が止めを刺す」

 

 体をいくらでも元に戻せるグレミィと更木は相性が悪い、仮に奴を倒すなら粉微塵にする他無い。その為の力を、彼は持っている。

 

 ☆

 

 更木剣八と戦い始めて数分が経過している。たった1人、というよりは周りを寄せ付けない戦いをしている更木が異常なのだが、一度としてグレミィも攻撃の手を緩めていない。

 

 現代兵器による機銃掃射はいなされ破壊され、溶岩の濁流も一撃で薙ぎ払われてしまい、骨をクッキーに変えてやろうとしてもその想像の最中に鉄より硬いと想像した自身を切り裂いて来る。

 

「すごいな、これだけ捌かれたの初めてかもしれない」

 

 ここまで力技でグレミィと渡り合ってきた存在はいない、逆に力技でどうにかされないという自信が少なからずグレミィにはあったので驚きである。搦手を使って来る他の隊長の方がまだ対処は楽であった、そうはならないと考えていた固定観念はこの死神を前にして崩れようとしている。

 

「今のダイヤモンドぐらい硬くしたのに、それでも斬って来るんだ。やっぱり隊長の中でも頭が抜けてる」

 

 だからこそ、グレミィは考えた。

 

「想像通りだよ、更木剣八」

 

 どこにも、負ける要素などないと。

 

 グレミィの固定観念は確かに崩された、だが想定していなかったわけではない。想像の範疇に収まる異常さであり、陛下であるユーハバッハでも可能であるという例外を知っている。その例外が1人増えただけであり、その例外を勘定に入れてしまえば良いのだ。

 

 そう想像して、出来ないわけがない。その自信が彼にはある。

 

「ただ、この世界で1番硬いのはダイヤモンドじゃない。想像した事ある? モース硬度がダイヤより倍もある物質が存在するんじゃ無いかって」

 

 想像の力は無限大だ、仮に存在しないものであろうと存在すると想像してしまえばその想像の範囲内には存在してしまう。それを具象化してしまうグレミィの力は、はっきり言って異常過ぎる。

 

「呑め 野晒」

 

 そしてそんな存在であるグレミィに向かっていく更木剣八という死神も、異常なのだが。

 

「っ、無謀にも程が……!?」

 

 瞬間、更木は斬った。力任せに振るわれた大斧が、グレミィにぶつかった。『斬れる筈がない、精々衝撃で吹き飛ばす程度が関の山だろう』と彼が頭の中でそう考えるのも仕方ない、逆に大斧が刃こぼれでもするか、そのままひび割れてしまうに決まっている。

 

 だが、そんな考えを嘲笑うかの如く野晒の刃はグレミィを斬り裂きながら吹き飛ばした。

 

「何言ってやがる、お前がどれだけ硬かろうが俺に斬れねえわけが無え」

 

 確かに例外と認めたグレミィだが、考えが甘いのだ。力押しで来る相手と分かってはいても、その底を測る事は出来ていない。何故ならそんなものは本人ですら分かりきっていないのだから。

 

「俺が、剣八だからだ」

 

 十一番隊の隊長とは、そういう存在なのである。

 

 ☆

 

「どうした、戦いに来たんだろ。ならもっと集中しやがれ」

 

 更木はまだ、本気じゃない。いや正確に言えばいつでも本気は出せるが、相手が本気ではないのでまだ待っている。始解をしたのもその本気を出させる為の余興に過ぎず、まだまだこの滅却師には底があることが分かっている。

 

「僕の想像を一時的とは言え超えたのは認めようかな、流石と言ってあげるよ」

 

 だからこそ、グレミィもまた顔色を変えた。

 

「良い顔して来たじゃねえか、ここからが本当の戦いだ!」

 

 今迄は本気の力なぞ出していない、敵を殺さない為の手加減をしていた。その手加減ですら隊長を2人殺し、一角を戦闘不能にしたのだが、それでも片鱗しか見せていない。

 

 グレミィの想像を超える事が出来たのは間違いなく、更木剣八ただ1人である。そしてその想像を超える力ですらまだ片鱗しか見せていない事を分かっている。

 

 戦いを楽しむ更木の気に当てられたのだろう、高揚させた気分を存分に発揮する。世界の理など容易く踏み越える、その力を全開にする。

 

「際限無く君を攻める、際限無く生まれる生物の奔流に轢き殺されろ」

 

 今まで水や溶岩、酸の海を操って護廷十三隊を苦しめたグレミィであるが質量の暴力は何も流動的なものでしか出来ないわけではない。構造が複雑であればその分のリソースを頭から割いて具現化させる、そして命を作る事はグレミィの中でも空間を操るよりも緻密な計算が必要となる。

 

 空間を作り変えるのも計算は必要であるが、更木剣八を覆う程度に歪ませるのは片手間にもできる、命を作る事も片手間に出来はする。だが一つ違う事があるのだ、それは命の流動性は個体差がある事を想像する必要があるからだ。

 

 それだけ複雑な攻撃を仕掛けられる一方で、物量を用意するとなるといくらグレミィと言えど本気にならざるを得ない。更木剣八に対して有効なのは空間を宇宙に作り変える事かもしれないが、グレミィは自身が本気である事を示したかったのである。

 

 だが、それで勝てるほど甘くはない。

 

「はっ、数が足らねえぞ。もっと出来るだろ」

 

 更木は四方八方から迫り来る昆虫や鳥、爬虫類などが合わせられた不気味な生物の群れを全て斬り殺した。それが出来たのは斬魄刀の新しい能力などではない、ただ単純に全方位から向けられた殺意に対して刀を振るったのである。

 

 野晒という怪物をぶつけられて形が残るはずも無く、ましてやその衝撃波ですら四肢を砕く力があるのだ。異形の群れなど、文字通り羽虫を払う程度の気を割いても余裕なのである。

 

 ただグレミィとて、これはあくまでも自分が本気を出すという意思表示の為に放ったものである。止めを刺すものではないし、止めをさせるとまで思い上がってもいない。

 

「この程度の物量じゃわけないのか、なら……」

 

 そして、グレミィは浮いた。更木を見下ろすように、ソウルソサエティを見下ろすように浮かび昇った。ただそれに対して更木は傍観する、グレミィとの戦いを楽しむ為だろう。少なくない時間をグレミィとの闘いに割いたのだ、その能力はこんなものでは無い事を分かっている。

 

 ただギリギリを求める戦いをするのではない、相手の全力を理解した上で全力で斬り殺す。それが新しい更木剣八であり、手を抜く事などあり得ない。

 

「本当に斬れない物量を見せてあげるよ」

 

 だからこそ、グレミィは更木だけを見ていた。他にも多少意識を割く余裕はまだあるが、90%以上のリソースは更木剣八へと向いている。いかなる妨害が更木から飛んでこようとも対応出来るように、身を液体化させて斬撃を無効化できるように準備もしていた。

 

 だからこそ、見落とす事になる。

 

「卍解」

 

 この戦いに参加しているのは更木だけではない、連戦により疲労困憊の死神がまだ生きている。ただ更木との戦いに介入する余裕もなく傍観していたのだ、意識を少しは割いていたがその意識程度なら不意を付ける瞬間はある。

 

白霞咎(はっかのとがめ)

 

 その刹那の油断、グレミィの体を氷の刃が貫いていた。全く余裕がなかったわけではない、更木との戦いに夢中になりながらも横槍を入れて来た瞬間に殺せるよう意識は割いていた。10%にも満たないリソースではあるが、グレミィは更木以外にも兵がいる事は理解していた。

 

 ただそれでも、介入出来ないという予感があったのだ。更木の動きに合わせれるほどの体力が残っていない者が殆どであり、不意をついた朽木ルキアも卍解後即座に戦闘不能となっている。最後の力を振り絞った一撃だ、しかし一矢報いる為の一撃とはグレミィは思えない。

 

 そしてそれは、直後に周囲に展開された刃の列を見て悟る。

 

殲景(せんけい) 千本桜景義(せんぼんざくらかげよし)

 

 更木を除く兵の中で唯一体力があったのが朽木白哉である、グレミィの攻撃に1番耐えていたのも彼だ。だからこそグレミィは更木以外に割いていたリソースの8割は朽木白哉の警戒に当てていた。

 

奥義(おうぎ)

 

 朽木白哉の不意打ちを受ければ更木の攻撃まで手が回らない、不意の攻撃は即座に回復が出来ないからだ。そしてその不意の攻撃が連続すれば、グレミィとて無事では済まない。

 

一咬千刃花(いっかせんじんか)

 

 刃の隊列は、凍り付くグレミィに向かっていった。

 

 ☆

 

 日の光によって氷の破片が空で煌めく。それはグレミィの凍った身体の破片なのだろう。

 

 グレミィを粉砕しようやく、白哉は卍解を解く。不意打ちとは言えそれ以外での勝機は薄かったので最善の策であっただろう。しかしそれで全員が丸く収まるわけではない。

 

「おい朽木、何勝手に手出して来やがる!」

 

 グレミィの底を引き摺り出していた更木としては面白くない結果だろう。最後に何かしらの攻撃を仕掛けに来ていたのもあり、それを横取りされればこの男が白哉に剣を向けながら食ってかかるのも仕方ない事だ。

 

「兄では相性が悪い、今倒せなければどうなっていたと思う」

 

 しかし、白哉も更木があのまま戦っていても勝てないだろうという予感があった。正攻法で攻め続けるのは敵にとっては如何様にも対応が出来る、それを皆知っている。それをどうにか他の手段で攻めるとすれば現状残っていたメンバーである2人の朽木の卍解を使うという考えに至るのは自然な事だろう。

 

「邪魔だって言ってんだよ、てめえから斬り殺すぞ!」

 

「貴様如き荒い剣に劣ることなぞ無いが、無駄な時間は過ごせん。奴を倒した今はユーハバッハを追うのが先決だ」

 

 そして何よりも時間がない事を白哉は分かっている。ユーハバッハが霊王宮に攻め入った事は分かっており、それを追わねばならないのだ。仮に更木が勝つ事を信じていたとしても、楽しむ為に時間をかけるのならば直ぐにでも終わらせる必要もあったのである。

 

 実際、更木の攻撃も治ってはいたのだ。このまま同じような戦いをしていればジリ貧である、白哉の選択は間違いではないだろう。

 

「倒せてないよ」

 

 ただし、それで勝てるかは話が違う。

 

 グレミィはまた五体満足の状態で、空に浮かんでいるのだから。

 

「危なかったのは認めるよ、でも君たちの誰でも僕を倒せないのが分かったでしょ。まして殺す事なんて、出来やしない」

 

 液体化して斬魄刀を避ける事、それ自体はグレミィの保険としていつでも発動できる準備があった。しかしそれはルキアの斬魄刀により凝固されてしまった事により千本桜を受け流すといった芸当が出来ないでいただろう。

 

 ただ、そこで思考が止まっていなかったのだ。凝固点を分子の動きの止まる絶対零度であっても凍らないと世界の法則を歪める想像した事により、千本桜の全方位攻撃を避け切ったのである。白哉も少なからず手応えを感じていたが、それは思考が遅れた一部の身体の凍った部分を破壊した事で感じ取ってしまったのだろう。

 

 ただこれで、同じ攻撃は通用しなくなった。ルキアは限界であり、白哉も千本桜の卍解をこれ以上維持するとなれば精細さを欠いてくるだろう。手札を消費しても、グレミィの手札はこちらに対応する度に増える一方だ。

 

「これだけ暴れて出て来ないんだ、もう上に居ることは分かってる。なら……ここはもう終わっても良い」

 

 もはや、まともに動けるのは更木剣八のみである。護廷十三隊全隊でも、まともに動ける隊長格も更木を除けば卯ノ花や涅ぐらいのものだろう。

 

「最後に僕の本当の力を見せてあげる」

 

 グレミィという最強を相手に、勝てる死神は居ない。

 

「僕が2人になれば、どうなると思う?」

 

 気付けば瀞霊庭を覆う程の巨大な影が現れる。それが巨大な落石である事は、想像出来たものは居ないだろう。

 

 ☆

 

「浦原さん、ユーハバッハが上に行った。何とか石田を止めて後を追いたい」

 

「そうですね、なんとかします。ところでその傷は?」

 

 石田からは目を逸らさず、浦原に話す一護。しかし浦原が気になるのは石田から傷つけられた体である。上から戻ってきた一護の戦闘能力は石田を含めた星十字騎士団を圧倒できる力を持っているのが分かるのだが、それで石田は無傷であるのに対して一護が受けているダメージが大き過ぎるのが気になっているようだ。

 

「石田に付けた傷が全部返ってきてる、殴って止めたいけど止められない」

 

 石田を一瞥すると、その能力を簡単に察する。星十字騎士団の滅却師にはユーハバッハから与えられた特別な力を持つ者が多くいる、そしてその能力について無理のない範囲でリルトットから浦原は耳にしている。ただその能力について、石田の情報は無かったが相当な能力なのは分かる。

 

 ダメージの反射か事象の書き換えや入れ替え、いくつか頭に候補が湧いて出て来る。この石田を相手するには相応の時間と策が講じる必要があるだろう。

 

六杖光牢(りくじょうこうろう)

 

 ただ、それを相手する余裕も時間もないのだ。即座に浦原は石田の動きを拘束する、相手を倒す手段はいくらでもあるが普遍的な相手を止める手段を死神は持っている。石田ほどの使い手ならば多少の抵抗をすれば解ける事にはなるが、重ねがけていけば止める事は容易い。

 

 しかし止めるだけだ、どのような力で操られているかは分からない。

 

「黒崎さん、今はユーハバッハを追わないと不味い状況です。急いで……!?」

 

 だからこそ、一護には一刻も早く上に合流して欲しいのだ。石田を助ける事を約束は出来ても、世界が終わってしまえばそんな約束は無意味になる。だけらこそ、少なからず検証の時間も欲しいのだが──

 

「鬼道も跳ね返すあたり、概念的なものまで跳ね返せそうですね」

 

 それは、跳ね返された鬼道が自分にかかった事で分かる。特に予備動作らしきモノは見当たらなかった、あったならばそれで少なからず反応できたが見事に浦原に鬼道がかかっている。ただ元は浦原がかけたモノなので解く事は難しくない、だが少なからず策の選択肢はいくつか消えるのも事実だ。

 

 どうしたものかと、浦原は軽く頭を悩ませるがそれは別の物々しい雰囲気に塗り替えられていく。急に世界が暗くなったのだ、何の前兆もなく。そしてそれが瀞霊庭全体に起こっているのも分かる。

 

「っ、あっちはようやく本気になったみたいですね」

 

 そして徐々に、影は薄まっていき代わりに上空から赫赫とした光が照らされる。それは摩擦によって起こされる熱エネルギーから変換された光であり、その元となっているのは巨大な隕石である。遮魂膜という言ってしまえば侵入を阻む絶対的な壁が瀞霊庭に展開されているが、あまりの質量に分解出来ずそのまま落下を始めている。

 

 あれを今すぐどうにかしろと言われても、浦原は手を打つのに時間が無さ過ぎる。前もって落ちてくる隕石の対処はできても、突然現れた生物を滅ぼす力はあまりにあまりな暴力なのだ。石田をどうにか振り切り、落下の威力だけでも何とか減衰させたい浦原であるが──

 

「浦原さん、石田を頼む」

 

 その意図を汲んだように、一護が走った。あの暴力に対処する為に、石田との相性が悪いのは明らかだったのでむしろそこに向かうのは適切なのかもしれない。

 

「無理は禁物ですよ、この後に本丸が控えてますからね」

 

 走り去っていく彼の背に向けて、届くか分からない言葉を送る。もう前しか向いてないのだ、そしてそれを信じて向かわせられる信頼の力を彼は持っている。

 

 そして、それを邪魔する無粋な事はさせられない。石田が矢をつがえて一護を狙うが、それは両者の間に浦原が割り込み防ぐ。任せられた仲間を助けるのは黒崎一護本人がやりたい事でもあるはずだ、それを頼まれたのだから、その信頼に応えたい気持ちがある。

 

「追わせませんよ……仕方ないっすね」

 

 そして今の戦いや状況から、ある程度の策を見出している。

 

「卍解」

 

 そんな中で着実な手立ては、ここにいる死神にも見せたことのない力。誰にでも使える力ではなく、敵を倒すよりも敵を調べる力に長けた力。

 

観音開紅姫改メ(かんのんびらきべにひめあらため)

 

 その解放が石田にも通じる事を、浦原喜助は分かっている。

 

 ☆

 

 空を覆う程の巨大な隕石、それがグレミィの作り上げた最大火力の攻撃だろう。しかしグレミィが最初に作り上げたのは隕石ではない、その隣にいるもう1人のグレミィだ。本物と全く同じ存在、つまり想像力も全く同じ、ならば2人掛け合わせた想像力の暴力は誰にも想像出来ない。

 

「終わりだよ、もう君達にはどうにもできない」

 

 ただ、単純に倍というわけではない。2人目のグレミィが頭のリソースを全て回せるのに対して、オリジナルのグレミィは2人目を想像するリソースを使用している。ゆえに理論上は無限に想像力を増やせるわけでもあるが、2人ですらこの破壊の塊を落とす事が出来るのだ。

 

「僕は瓦礫の中で生き残るけど、いや……瓦礫すら残らないか」

 

 命という複雑なものを想像する力と異なる、シンプルな落石である。ただその圧倒的な質量は重力に引っ張られて果てしないエネルギーとしてぶつかってくるのだ。グレミィの想像力を再高効率で利用した方法故に、ここまでの絶望を叩きつけられるのである。

 

「言っておくけど、あれはもう造り終えたものだから。僕を殺しても消えない、詰みって奴だよ」

 

 事実、それを目の当たりにしたルキアや恋次は刀を持つ手が震えている。あまりにあまりな終わりを目にして、勝ち筋を頭に描けないのだ。まだ2人に体力があれば反抗する気概もあったのだが、その体も2人ともボロボロであり他のメンバーもその反応に近い。

 

 ただ更木だけは腕を鳴らしながら「隕石か、それはまだ斬った事が無えな」とアレに向かって行くような素振りを見せている。遮魂膜ですら消せない質量を相手に、どうするというのか。ただ朽木白哉は少しでも生き残れるモノを増やす為に周囲の死神や銀城を千本桜で覆って行く。これで如何程に生存力が上がるのかは分からないが、今の白哉ではアレをどうにかする力は残っていないのだ。

 

 鬼道砲といった兵器も護廷十三隊は所有しているが、その類の物を使おうにも時間はないし、そもそも瀞霊庭を作り替えられた時点でそんな手段は消えている。そんな考えをしている白哉の視界を、一つの点が通り抜けて行く。

 

「あれは黒崎一護……まさか」

 

 アレをどうにかしようと突撃を考えていたのは、更木だけではない。確かにアレを完全に消し去る事は出来ないだろう、ただ白哉であってもヒビを入れて空中で粉砕すれば被害は大きく減らせる事ぐらいは分かっている。

 

 だからと言って、それやろうとする考えに至らなかった。

 

「卍解!!」

 

 グレミィの視界にも、黒崎一護は写っている。ただそれでも何か出来るとは思えていない、先ほど軽く手合わせをした力では届かないと分かっているからだろう。

 

 ただ、今の彼は虚の力と死神の力が溶け合い混ざっている。それを分かっていない。

 

「無駄だよ、もう手立てなんかない」

 

 そう言うと、グレミィは隕石から目を逸らした。元々萩風が居ないのであれば皆殺しにするつもりだったのだ、黒崎一護も今は例外ではない。下を終わらせ、上に行く。上に居なければ虚圏にでも向かうか、そんな考えしか今のグレミィの頭にはない。

 

 何故ならこれを防げた者などいなければ、ここまで使う事も無かったのだ。絶対的な勝ちを確信できる力を発動して余裕が作れないわけがない。

 

 ただ、そんな余裕の状態でも更木剣八は警戒する。死の間際であっても、グレミィに一撃を与えてくる可能性のある更木だけは警戒している。ただ、何故か隕石に顔を向けていた更木の顔が少し変わっている。

 

「ち、どいつこいつも横取りしやがる」

 

 瞬間に黒い閃光が一瞬だけ煌めいた。グレミィの背後からとてつもない霊圧の増大を感じるが、それに嫌な予感を感じてしまう。

 

「っ、まさか……」

 

 グレミィは振り返った。

 

 同時に凄まじい衝撃波と隕石のヒビ割れる音が、辺りに響いた。造り出した隕石は止まったんじゃないかと思うほど、速度が落ちていた。更に隕石のヒビから黒い光が噴き出し、ボロボロと崩れて行く様子が見える。中に赤い光もあるが、その全てがたった1人の人間によって起こされているのが分かってしまう。

 

 隕石の中で力を暴走させている、内側から隕石を弾き飛ばそうなどと考えた事などない。何故なら隕石とは逃げるものであり、迎え撃つものではないのだから。

 

天鎖斬月(てんさざんげつ)

 

 だからこそ、想像を超えていた。斬魄刀を解放し、更に自身の才覚すら解放した一護は、空に立っていた。

 

「勝負だ、グレミィ! お前を倒して、俺は上に行く!!」

 

 ☆

 

 上には黒崎一護、下には更木剣八。2人の特記戦力を前にして、グレミィの余裕はもうない。舐めてかかれる相手ではない事は今迄の2人の戦闘能力から察せられる。

 

 恐らく、更木剣八も隕石をどうにか出来たのだろう。グレミィがどうも出来ないと考えて放った最高効率の攻撃を、どうにか出来る力があるのだ。

 

 ならばもう、出し惜しみなど出来ない。いやしていたわけではないが、頭のリソースの全てをこの2人に集中しなければならない。他の雑兵の攻撃などもう無いのだから、そう考えたグレミィは100%以上のリソースを2人に向ける。

 

「まだ僕の数が足りてないみたいだね……一体何人まで相手できるかな!」

 

 ただ、その瞬間が終わりだった。

 

 それだけを待っていた者が、いつの間にか背後に居た。

 

「はい、挟んだ」

 

 自分を貫く刃をグレミィは見る、しかしただの傷であれば即座に治す程度の準備はしている。問題なのは、貫かれた胸元から血が流れるどころか傷一つ付けられていない事だろう。

 

 唐突な乱入者にグレミィは目的を測りかねる、ただ更木と一護の反応を見るに『彼等にとっても想定外』の乱入である事が分かる。格好は護廷十三隊や滅却師と違いただの人間のような格好であり、少なくとも何処かに所属した者には見えない。

 

 ただ、そんな者がグレミィの相手した奴らの中にいる。

 

「遅えぞ月島! ビビってたんじゃ無えだろうな!?」

 

 銀城、その名前をグレミィは知らない。護廷十三隊の死神かと思えば黒崎一護の技を使ってきた以外に特徴らしきモノを感じ取れなかった。他と変わらない死神程度の認識の存在、その彼だけがこの乱入者について分かっていたようである。

 

「そんな事ないよ、言ったじゃないか。余裕を無くさないと挟む時間が足りないって」

 

 いや、最初からここに混ざる事すら想定していたように見える。

 

「誰? 僕に、何をした?」

 

 長身の男は、刀を何かに変えてしまい込んだ。元からいた銀城の方も武器をしまうと、そのまま何事もなかったかのようにその場を後にしようとする。

 

「──答えろ、何をした!」

 

 だが、グレミィからすれば意味がわからない。戦いは終わったわけではないし、グレミィはまだ追い詰められてもいない。余力なぞいくらでもあるのだ、それにこの2人からは更木や一護と並ぶような雰囲気は感じる事ができない。

 

 何を考えているのか、分からなかった。

 

「まだそんなに喋れるの?」

 

 ただそれは、ベクトルが異なるからである。

 

「君、もうとっくに死んでるのに」

 

 瞬間、グレミィの胸から鮮血が噴き出していた。

 

 ☆

 

 グレミィが突然出血し死にかけている、それには当人もその場にいる一護達も戸惑っている。グレミィという存在は負傷する事はおろか、傷付けても簡単に傷のない状態に戻せる理不尽な力の持ち主である。それがなぜか突然、死にかけていれば戸惑うことも仕方ない。

 

 ただ、その戸惑いは銀城と月島には当然ない。

 

「君は僕の傷だけは治せない、そう言ってたじゃないか。これだけ暴れたらその傷口が開いちゃうよ」

 

 グレミィとて、体を治そうとしている。しかし治せない、そのカラクリもよくわからない。ただ治せないという事しか分からず、月島から話された根拠も根拠になっていない。

 

 だが、その根拠を聞くと何故か頭の中に『存在しない筈の記憶』が湧き出て来る。当たり前のように、疑う事など必要もなく間違いのないはずの記憶が蘇ったかのように湧いて来る。

 

「僕の過去を操って……!」

 

 そうグレミィが考え付いたのは、彼自身も何かしら違和感と月島が自身とは別のベクトルであれど、相応の能力を行使してきたという確信があったからだろう。

 

 月島秀九郎 保有する能力は『ブック・オブ・ジ・エンド』栞を完現術により刀に変え、斬った対象の過去を自身を挟み込む事で改変する事が出来る。その能力はただ本人の認識や過去を改変することに留まらず、その過去から枝分かれした未来にまで影響を与える。

 

 グレミィ同様、理を操る能力者だ。

 

「死のリアリティは保証するよ、僕の実体験を写してあげたからね」

 

 ただ、月島も気紛れでグレミィを斬ったわけではない。銀城が戦っていたから介入したわけでも、護廷十三隊のために戦ったわけではない。

 

 最初からグレミィを倒すために隠れていた、それは黒崎一護の義理を返す為に。ついでに理由を付けるなら、銀城が面会を求めている浮竹と会うのに邪魔だったからだ。

 

 しかし、いくら月島でも何の情報もない敵を倒そうとは考えない。取れる情報を取ってから戦う。しかし、グレミィに関しては月島としても運良く手に入った情報、気付けば手に入っていた情報だった。

 

「月島、お前も来てたのか」

 

「銀城に頼まれてね、君を手助けするように言われたからさ」

 

「違えよ、俺は義理を返せって言ったんだよ」

 

 たまたま、倒した敵がグレミィに繋がる存在だったに過ぎなかった。

 

 グレミィによって生み出された命、その中には星十字騎士団の滅却師もいる。1人は綾瀬川弓親によって倒されているが、もう1人については月島が斬って倒している。

 

 そしてこの月島の能力であるが、対象の能力はもちろんの事、隠し事や対人関係、その人間としての癖など全てを知る事が出来る。そして倒したグエナエル・リーはグレミィから作られた存在であるが故に、その能力の特性や他の星十字騎士団の情報を集める事が出来たのである。

 

 浦原喜助や銀城もその情報を共有しており、グレミィという存在が規格外である事を認識していた。この力では、護廷十三隊の全滅もあり得ると。

 

 だからこそ、月島がグレミィを討ち取る事は銀城や浦原との作戦で決まっていた。ならば何故、情報を知っているのにも関わらず銀城や他の護廷十三隊の死神と共にグレミィと戦わなかったのか。

 

 それもまた、グレミィを倒す為だ。

 

 グレミィの能力は頭を使う能力、逆に言えば頭に余裕がない時が最も大きな隙を生むことになる。その隙をつく為にあえて月島は戦闘に介入せず、不意を突くために傍観していた。

 

 いかに死神達が劣勢であっても、更木剣八や黒崎一護といった戦力が来る事を分かっていたので、グレミィの余裕が無くなる時まで隠れていたのだ。

 

 我慢の甲斐があっただろう。もし仮にグレミィに余裕がある状態で攻撃を仕掛けたとして、いくら月島と言えど不意打ちでは挟める情報に限界があった。返り討ちにあう可能性も十分にあった。

 

 故に頭のリソースを吐かせきり、余裕のなくなったグレミィでは幾らでも過去の改変は済んでいる。

 

「僕は……まだ死ね、ない……こんなところで死んだら、誰が……を……!」

 

 ただ、まだグレミィは死んでいない。いつ死んでいてもおかしくない状態ではあるが、何かしらの信念を支えに辛うじて命を繋いでいる。更木は興味がなくなったようでトドメを刺す気はないようだが、ここで確実に倒さなければならない敵なのは皆わかっている。

 

「僕の能力も完璧じゃない、こうなる事も想像出来てた。だから、あえて言うよ」

 

 白哉は刀を手に、グレミィに向かおうとするが月島はその必要は無いと一瞥する。

 

「リルトット・ランパードなら、ユーハバッハから離反して生きてる」

 

 グレミィの思い詰めたような、命を引き留めていた顔が変わった。緊張の糸が切れたのか、瞬間にグレミィの全身が光の粒子となって弾けて消え始めて行く。

 

 グレミィが求めていたもの、彼を引き留めていたもの、その願望の全ては月島が挟んだ時点で得ている情報だ。グレミィの心の支えにしているそれについて月島が何の情報も持っていなければ、ここからグレミィが戦況をひっくり返して来る可能性もあっただろう。

 

 だが、その柱はもう折られている。

 

「萩風カワウソと浦原喜助に保護されてる、君の使命なんて最初から存在しない」

 

 グレミィの中にあったそれは、必要がなかったのだから。能力を破られ、月島の能力に対抗していた思いの力も無くなり、負けたはずなのだが、グレミィの顔色は少し晴れているように見える。

 

「あーあ、こんなところで死ぬのか……想像、出来なかったなあ」

 

 思い残すことは無かったのか、それは分からない。

 

 ただグレミィ・トゥミューという滅却師は、脳の入ったカプセルを残して、この世から消え去った。





グレミィ・トゥミュー● vs 月島秀九郎◯

グレミィと戦闘した人一覧

鳳橋楼十郎 六車拳西
京楽春水  更木剣八
朽木白哉  朽木ルキア
阿散井恋次 黒崎一護
銀城空吾  月島秀九郎
斑目一角  綾瀬川弓親
平子真子



グレミィは月島さんが挟む以外で倒し方あるのかな……。

長かったと思いますが、これにて下界における戦いは終わりです。

次回から『千年血戦篇 霊王宮侵攻』をやって行きます。アニメを待つまでの暇潰しになれば嬉しいです。
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