卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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毎週投稿を目指してるけど、二本投稿は無理だった……。

そのかわり完結までは脳内にあるし走り切るから許して……。


49話 陥落

 

 ユーハバッハが霊王宮に侵入し始めてから、萩風達は2時間が経過している。外の時間では10分程度しか過ぎてはいないのだが、萩風の結界による回復とウルキオラを主導とした作戦会議で準備は出来ている。

 

「雪緒、そろそろ時間じゃ無いか?」

 

 はやる気持ちを抑えつつも、萩風は聞く。その格好は零番隊が仕立てた物ではあるが本人の希望により背中には四の数字が書かれている。これから挑むのは護廷十三隊の隊長として初めての任務というのもあるが、やはり萩風にとって隊長というのは追い求めていた頂きである事が大きいのだろう。そして隣の日番谷も、それに倣ってか零番隊から仕立てられた衣の背中に十の文字が描かれている。

 

「もう少しだから待ってて、こっちは集中してるんだから」

 

 今回、雪緒やリルカは参戦しない。理由としてはこの空間の維持をする為だ。今からユーハバッハと戦いに行くが、誰かが負傷してもその怪我人に構う事は出来ないので、その避難先としての役目を担う必要があるからだ。

 

 この中にいる全員が五体満足で、ましてや生きて帰れるとは誰も考えていない。それだけの敵を相手にする事をリルトットから聞いている。

 

 ただ、その覚悟を皆固めている時に空間が振動を始める。

 

「っ、急いで欲しいけど無理は別に……」

 

 雪緒を急かし過ぎたかと、気遣うように萩風は言うが──

 

「いや、これ僕じゃない」

 

 その雪緒の顔色は悪い。次にその言葉を聞いたウルキオラの顔も険しくなっていく。この空間を維持しているリルカは突然の事で頭が整理できていないようだが、いくら鈍い萩風でもその異常事態に気づいてしまう。

 

「まさか……!」

 

「そのまさか、みたいだね」

 

 世界が震えている、恐らく全ての世界が。この世界、三界について作戦会議中にウルキオラから詳しく聞いているのだ、わからないはずがない。

 

「萩風! 霊王がやられたなら、お前の回道で治すしかない!!」

 

「わかってる!!」

 

 霊王の死、それは間違いないだろう。世界の楔である霊王がユーハバッハに殺されたのだ。世界のバランスを取るために存在するこの楔を破壊すれば三界はおろか、雪緒達のいる空間も例外なく壊れてしまう。

 

 だからこそ、それを止められるのは上にいる萩風達ぐらいのものだろう。浦原喜助も霊王が殺された場合の対処などウルキオラに伝えていない、ならば何としても霊王の命を繋ぎ止める必要がある。

 

 その為に萩風とウルキオラは外へ無理矢理飛び出そうするが──

 

「待てお前ら!!」

 

 それはリルトットが静止する。世界の終わりが目の前で起こっているが、冷静だったようだ。その声でウルキオラも我には帰る、しかし萩風はまだ気持ちが落ち着いていないようだ。

 

「全員殺されるんだぞ、何もしないなんて出来るか!!」

 

 下には虎徹勇音を始めとした護廷十三隊の仲間達、虚圏にはエミルーを始めとした破面の仲間達がいる。その全員が滅却師と戦い傷ついているのも萩風にとっては痛ましいのだ、例外なく全員殺されるのを黙って見ていられる何て出来る筈がない。

 

 それにこのメンバーの中で霊王を治す力があるとすれば萩風だけである、その力があるが故にその責任を感じているのだ。

 

 ただ、一つ失念している。ユーハバッハが霊王に辿り着いているならば、障害が片されている事を。

 

「霊王が死んだって事は、零番隊がやられたって事だろ。なら……さっき教えたヤバい奴らが揃ってるって事だ」

 

 零番隊、その全員が敗北している。その事実をウルキオラは先程の静止で気付けてはいたが、萩風はここでようやく認識する。霊王を守る為に存在する精鋭であり、護廷十三隊の隊長並かそれ以上の実力を持つ物達であるのは、元隊長である曳舟を知る萩風なら分かる事だ。

 

「そんなのとユーハバッハが固まってみろ、絶対負ける」

 

 一人で無策に突撃をかけても、無駄死にするだけだろう。しかもたった10分、この短時間で零番隊を倒した上で霊王まで手にかけている、それだけ滅却師の力が零番隊の想像を超えていたのだ。

 

 特記戦力に入る和尚を含めてのこの時間だ、特記戦力でもない萩風は自分の浅慮に「すまなかった」と言い、冷静さを取り戻す。

 

 だが状況としてはなも変わっていない、世界の危機は継続しており何かしらの手立てを打たなければならない状況だ。どうしたものかと、全員がまた頭を悩ませ始めると──

 

「待て、揺れが」

 

「収まった……何でだ?」

 

 世界の崩壊の足跡が止んだ。理由は分からない、ただ世界の均衡は何らかの影響で止まったという事でもある。浦原喜助の対策か、はたまた零番隊の能力か、霊王宮そのものにそういった対策機能があるのかは分からない。ただ少なくとも、世界の終わりが止まった事は確かである。

 

「……雪緒、外の様子を調べてくれ。敵の戦力を把握したい」

 

 ウルキオラは頭の中で可能性を模索しながら話す。今必要な事を、そして自分たちのなすべき事を知る為に。

 

「その前に、今の揺れで座標ズレやら色々修正するから待ってて。30分もあれば終わるから」

 

 ただこの時は知る由もなかっただろう。

 

 霊王という存在を、ユーハバッハが取り込んでいたことなど。

 

 圧倒的な存在が、更に上へ昇っている事を。

 

 ☆

 

 霊王宮、難攻不落の天界の城。そんなイメージを護廷十三隊の隊士は抱くのかもしれない、しかし辿り着くという部分が難しい一方で力ある者が霊王に辿り着いてしまえば陥落するのは簡単だ。

 

 現に、零番隊は敗北し霊王宮は堕ちた。

 

 そして今は元々予定していたのかはわからないが、ユーハバッハが霊王の力を吸収している。もはや阻む者などいない、仮に居たとしても霊王宮に辿り着けない。それだけ難しい場所にいるのだ、下界で疲弊している護廷十三隊は敵ではないだろう。

 

「ふぃー、なんつーか呆気なかったな」

 

 そんな霊王宮を、我が物顔で歩き回るのは親衛隊の1人であるアスキンだ。と言ってもここにはアスキン以外にユーハバッハの連れた聖兵の他にも同じ親衛隊のメンバーもいる。

 

 零番隊と戦う事はなかったが、その力は和尚を除いた零番隊を圧倒する程度にある事をアスキンは自覚している。アスキン自身がそれだけの力を持っているというわけではないが、他のメンバーがそれだけの力を持っているのだ。

 

 ただ、そんな親衛隊も既に2人欠けてしまっている。

 

「(ハッシュヴァルトさんが死んで、ジェラルドさんも行方不明のまま。親衛隊も残るはたった3人か)」

 

 元々5人居た親衛隊も、ジェラルドは虚圏にて浦原喜助や黒崎一護といった特記戦力と戦闘し敗北したのか消息は掴めず、ハッシュヴァルトは更木剣八に敗北した事で死亡している。一応、能力だけで見れば親衛隊に入っていてもおかしくはないグレミィは下界に残っているが、アスキンはそれだけで護廷十三隊は全滅するのではないかと考えている。

 

 どこかのタイミングで、勝手に合流して親衛隊の一員にでもなるのだろう。護廷十三隊を片したならばいくらヤバくとも、それを遥かに超えた力を得ようとしている陛下ならば、そうしてもおかしくない。

 

「(リジェさんに言っても『今まで呆気ない奴なんて居なかった』とか言うとは思うけど、ここまで致命的に暇だとなぁ……)」

 

 ただそんな事を考えるほど、暇なのが今のアスキンなのである。ユーハバッハに付き従っているのも『新しい世界』を作ろうとしている陛下に興味があるからであり、忠誠心もそこまであるわけではない。

 

 かと言って今手が離せない陛下の守護を放棄するわけにもいかず、ぶらぶらと霊王宮を歩き回っているのだ。ただここは世界の楔を置いておく為の場所でしかない為、直ぐに飽きてしまう。

 

 何かする事でもないかと思案するが、ふとそこでやり残していたわけではないがやっておいた方が良さそうな仕事を思いつく。

 

「そうだ、零番隊の掃除とかしとくか。流石に俺たちの誰かが行っといた方が良いし」

 

 零番隊の死体を放置したままだったのだ。全員の戦闘能力についてはかなり高い事は分かっているが、それよりも恐ろしいのは個々人の持つ固有の能力や技術だ。陛下がトドメを刺してはいるし、一番厄介な兵主部一兵衛もバラバラにされて死んでいるので復活するなんて事は考えていないが、何かしらの置き土産を仕掛けている可能性はある。

 

 そうなれば、生き残っているメンバーの中でリジェとは別のベクトルで1番死にづらい自分が赴くのが良いだろうと考えたのだ。と言ってもアスキンも死体をなぶりたいわけではないので、外から落として見なかったことにするだけだ。それならそこまで心は痛まない。

 

 そうなればさっさと死体が悪くなる前に片付けておこうと、アスキンは零番隊のいる南方へと歩こうとすると。

 

「オイが行くよ」

 

 そこには、上にいる星十字騎士団の中で唯一親衛隊ではない滅却師がいる。陛下が最初は雑兵の攻撃を避ける為に連れて来た、しかし自身の力の解放の為に使わなかった手駒であり、今は親衛隊でもない主戦力が護衛の仕事を受けて残っている。

 

零番隊(じぇろばんたい)の掃除をしたら、オイも親衛隊に入れてくれるらもしれないらろ?」

 

 ニャンゾル・ワイゾル、アスキンとしても相手して劣るとは考えていないが、それでも相手したいとは思えない能力を持つ滅却師だ。それに立候補するあたり、他の星十字騎士団と同様に相応の欲は持っているようだ。

 

「まぁ、任せるぜ。ただ致命的な事はすんなよ」

 

 何か零番隊が仕掛けてきたとしても、ニャンゾルならば問題ない。そういった罠はニャンゾルに届く事はない、むしろアスキンよりその処理は適しているだろう。

 

 ただ、意気揚々と遠のいていくその背中に届かないように呟いてしまう。

 

「ゴミ掃除して親衛隊になれるなら、グレミィはどうなっちまうんだか」

 

 その程度で親衛隊に選ばれる事はないのを親衛隊であるアスキンは知っている。アスキンも他のメンバーと比べられてしまうと見劣りしてしまうと感じてしまうし、死に難いから選ばれているだけなのは知っている。

 

 だからこそ、ニャンゾルはそこを超えてくる事はない。グレミィ程の存在でもなければ親衛隊にはなれない、それにグレミィ程強大過ぎても封印されてしまう。絶妙な塩梅の力を持つのが親衛隊、正確にはいつでも陛下に殺される事ができる存在なのだ。そして、制御が効かないなんて事はあり得ない。それはリーダーであるリジェであろうと、死にづらいアスキン自身であっても。

 

 ただ、これで仕事は本当に無くなってしまった。陛下の護衛も侵入者なぞ現れないはずなので、暇になる。だがそれも、陛下の見せる新しい世界までの現界への感傷に浸るぐらいの時間にはなるだろう。

 

「仕方ねえ、俺はゆったりと陛下が取り込むまで……っ!」

 

 ただ、暇な時間は直ぐに終わる。気づいたのはアスキンだけではないだろう、他の親衛隊も気付いている。

 

 今は霊王が住まう繭のような形状の本殿『霊王宮大内裏』にアスキン達はいるが、その周りにはいくつか本殿を囲うように『零番離殿』が浮いている。そして零番隊の死体が『霊王宮表参道』に存在するのだが、その表参道を始めにして多数の霊圧が現れ始めたのだ。

 

 数としては4つ、しかも直ぐに隠したので断片的にしか感じなかったが死神ではない霊圧も混じっていた。

 

「今頃になって侵入者かよ、致命的な奴らだぜ」

 

 ただ異常事態であるにも関わらず、アスキンは落ち着いている。現れた理由は浦原喜助でも関わっていると考えれば良い、そこは深く考える必要はない。

 

 ただ方々に散っているのは親衛隊をそれぞれ単騎で迎え撃たせる為なのだろう。恐らく能力を組ませると面倒と誰かが入れ知恵をしている、それに今は邪魔が入らないようにと護衛の任務が与えられている、頭数の問題として単独で迎え撃つしかない。そこは面倒だと思いつつもニャンゾルが向かった方向以外にリジェとペルニダが向かったのを確認しつつ、頭の中で残った方向の敵を憐れむ。

 

 別に自分と戦う事をじゃない。それを憐れむならリジェやペルニダと戦う誰かを憐れむ、その方が悲惨な死を迎えるのだから。しかしそうではない。

 

「万が一に陛下を殺せても、世界は消えちまうのによ」

 

 そもそも勝敗なぞ、自分たちの勝ち負けとは関係なくついているのだから。

 

 ☆

 

「零番隊のいる南に萩風、麒麟殿からはリルトット、鳳凰殿は俺、卧豚殿は日番谷に任せる」

 

 ウルキオラの指示に、皆が同調する。外の戦力を見たところ星十字騎士団らしき滅却師は4人、そして面倒なのが3人いるようだ。他にもいる可能性はあるのだが、それを考慮して作戦を吟味する時間は残念ながらないだろう。

 

 世界の崩壊が何故止まったのか、それすらわからないのだから。

 

「作戦通り、各々が親衛隊を撃破後にユーハバッハと対峙する。その体力は残しておけ」

 

 かと言って、親衛隊に出し惜しんでもユーハバッハと合流されてしまう。各々が確実に勝ち、ユーハバッハを叩く。それがシンプルな作戦であるが、その分急造チームで連携が劣るウルキオラ達は自由に戦えるだろう。滅却師側とチーム戦をしても、負けは濃厚なのだ。

 

「全員、死んだら治せないから死ぬなよ」

 

 一応、萩風が雪緒の空間内に応急ではあるが回復の出来る領域を結界で準備している。致命的なダメージでも負わなければ命は繋げられるだろう、その回収は雪緒達が請け負ってくれる。

 

「特に日番谷隊長、雛森さん悲しませないでくださいね」

 

「分かってる、これ以上血を流させねぇ……ここで終わらせる」

 

そして誰よりも闘志を漲らせているのは日番谷だろう。霊王宮に上がってから己の氷輪丸を見直しただけでなく、ここでその力に磨きを加えている。その力は護廷十三隊を、雛森を守ると誓って手に入れた物である。絶対に負けられないという意志は誰よりも強い。

 

「言い忘れていたが萩風、間違っても『あんな技』を見境無く使うなよ」

 

「使えるか、残弾調整とか忙しいんだぞ」

 

 ただ、皆ここまでに準備をして来ている。全ての準備を整えているとまでは言わないが、最大限にこの時に備えられている。技術や能力、闘志もだ。絶対に負けられない、負けた時こそ本当に世界の終わりである。

 

 ただ、そんな文字通り世界をかけた戦いでいつもマイペースなリルトットの腕が震えている。萩風やウルキオラも何故戦うのか、戦えるのかを聞いてはいないが、彼女は何かしらの覚悟を決めてここにいる。

 

 かつての仲間と戦うのだ、その力もよく理解しているだろう。だからこそ、餞別というわけではないが、萩風はリルトットにあるものを投げ渡す。

 

「リルトット、これ渡しとくぞ」

 

「……あ? んだこりゃ、気持ち悪いな」

 

「そう見えて手持ちに二個しかない貴重な物だからな? 使い捨てだけど捨てんなよ」




親衛隊とかいう意味分からない最強軍団との戦いが次回から始まります。やっぱり何度も言い回しとか能力の解釈の為に読み直してるんですが、全員月島さん案件ですね。それで、何で勝てたんですかね……?
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