霊王宮、そこは本来であれば王鍵無くして通ることの許されない空の旅を経て辿り着ける空の異界、黒崎一護が穴を開けた事でユーハバッハ達はその異界に足を踏み入れると、土足で踏み荒らし自分達の領地に変えてしまった。
そんな場所へ、新たな侵入者が現れるのもおかしくはないだろう。その事は親衛隊には意外ではあれど想定外ではない、ただ時間としても零番隊を倒してからさほど経っていないのに驚きはある。
ゆえに、下からやって来たのではなく上に隠れていたのだと考えられる。
「たった4人で攻め込んで来たのは、それだけ陛下を脅威に感じたか」
その根拠として、リジェは下の戦場に見られなかった破面をスコープ越しに見ている。そこに映るのは1度虚圏で目にしたことのある存在、ウルキオラ・シファー、当初は陛下以外に戦ってはならないという御触れが出ていたほどの存在ではある。
「ただ杜撰な策だ、僕達をそれぞれ単独で迎え撃たせる為に霊圧を晒したのはね」
ただ、それはあくまでも護廷十三隊、引いては零番隊に余力を残すためであり、倒せないわけではない。現にジェラルドが親衛隊から監視役として派遣はされた、特記戦力ではないが相応に警戒された存在ではある。
だが、別に相手が誰であろうと気にすることではないのだ。
「君達は焦っている、でなきゃ侵入を報せるなんて馬鹿のする事だ。そうやって隠れて僕が現れるのを待っているし、隠れたつもりになっている」
リジェのスコープにはゆっくりと、それでいて着実に、最良のルートを通って向かってくるウルキオラが写っている。リジェのような狙撃手を警戒した良い動きではある、ただそれだけならば甘いとしか言えない。
「そして杜撰な策と焦りは、狩人にとって人じゃない」
最良のルートを通るという事は、敵にその道順が推測できてしまう。ウルキオラの考えはユーハバッハを倒す事であり、その前に出来るだけぶつかるであろう親衛隊に近づきたいのだろう。
だが、そんな浅知恵はリジェには通用しない。
リジェの狙撃が、音もなく行われた。次の瞬間には射線が隠れているはずのウルキオラの体を貫通し、穴の空いた壁からはウルキオラが倒れていく姿が見える。手応え、というと違うかもしれないが感覚的に当たった事も分かっている。
呆気ない幕引き、それが戦場で起きる日常だ。
「兎を狩るより、容易いよ」
しかし、リジェはスコープを覗いたままでいると倒れる瞬間のウルキオラと目が合った。狙撃手の存在に畏怖でもしているのか、想像は出来ていてもここまで一方的に一撃で終わらせたのだから何かしらの顔の色が出てくると考えていた。
だが、それは死の間際にある者の顔ではない。そして口が話しかけるように動いてくる。
『そこか』
破面とは虚と異なる事が多い。その一つが手足の破損などが起きた際に治せなくなる点がある。なので殺せないわけがない。
急所を撃ち抜いた、滅却師特有の滅却矢ではないが彼自身の能力で着実に貫いた。だが、リジェは長年の戦闘の勘から背後に下がる。すると彼のいた場所に白い刃が振り下ろされていた。当然、それが誰によるものかは分かる。
「避けたか、次は当たるぞ」
反射的に引けたリジェであるが、手に持つ狙撃銃は避け切れず切り裂かれる。ただそんな事よりも気になるのは傷だ、ウルキオラは破面の中で唯一傷を自由に再生できる存在であれど、臓器は治せない。
故にこんな簡単に追いつけるはずも無いのだが、リジェは切られた弓──狙撃銃を治しながらウルキオラに向き直る。
「虚圏の王 ウルキオラ・シファー。陛下に力の差を見せつけられた筈だけど、今度は死なないとでも考えているらしい」
胸に開けた傷、それは塞がっている。元からある虚特有の穴ではなく、心臓がある位置を撃ち抜いた筈だ。だがそれなら死ぬ迄殺せば良い、破面とは不死身の存在ではないのだから。
リジェは冷静にウルキオラに銃を向けた。破面特有の外殻──鋼皮もこの銃ならば関係ない。少しでも受けるのが遅れればダメージは不可避であり、直撃すれば攻撃を畳み掛ける続けられる。
「ただ、そんな幸運はもうやって来ない」
リジェは能力によって弾を放つのではなく、銃口と射程数キロ以上の間を貫通する能力『万物貫通』を持っている。つまり、幾らでも攻撃を仕掛けられる。近距離戦に持ち込んだからと言って、勝てる存在ではないのだ。
ただ、リジェの相手は並の敵ではない。
「あの時は幸運だったな、俺と単独で戦う必要がなかった」
響転、破面特有の歩法のそれはウルキオラも当然身につけている。しかし、その速力は黒崎一護の卍解『天鎖斬月』を帰刃の状態で簡単に上回る。速力に特化した、卍解をだ。それは他の破面でも出来る者は居たが、この速度を超えた存在は1人しか存在しない。
「ただ、その命運は尽きている」
リジェの攻撃の全てをいなし、改めてリジェの銃を切り裂いた。その銃では殺せないと言うように、ウルキオラは敵の命を鎖しに刃を向ける。
その穴の空いた胸元には、淡く暗い輝きが灯っていた。
☆
リルトットの降りた場所は麒麟殿、萩風達が治療を受けた麒麟寺天示郎の担当する離殿だ。リルトットの目線の先にはユーハバッハがいるであろう霊王宮の本殿、霊王宮大内裏。元々は霊王のいた場所だ。
しかし、そこに辿り着くには高過ぎる壁が立ち塞がる。
「まさか、お前が来るとはな」
リルトットの前には1人の滅却師がいる。それについて彼女も面識はある。それが親衛隊に属している事も、勿論知っており謎の異名も耳にした事もある。ただ、どの星十字騎士団の滅却師よりも正体が不明なのだ。
「(ペルニダ、能力も何もわかんねぇ……俺が1番やり辛い奴)」
星十字騎士団で関わりが薄いどころか、親衛隊内でもそこまで関係が強いとは思えない。能力について頭文字であるCは分かるが、何も想像出来ない。
普段からフードを深く被り込み、話している姿を見た事がない。ただ、そんなフードの奥から幼さの残る声が響いてくる。
「クィンシー、ナンデ?」
ペルニダは侵入者を迎え撃つ為にここにいる。しかし、それに相対した存在に違和感を感じているようだ。もしかすればフードの下には可愛らしい少女が居るのかもしれないが、リルトットは零番隊についでではあるが編んでもらえた装束を翻してペルニダへ向く。
「何でか……そうだよな、俺が戦う理由なんか親衛隊に選ばれてたらわからねぇよな」
そもそもリルトットを星十字騎士団の者と認識していないのかもしれない。ただ、今は別のところにいるからこそ少しだけリルトットは対話をしたいと考える。この後に陛下と対面するなら少しでも力を残しておきたいと言うのもあるが、この声のように幼い考えを持つならば引き込めるとも考えたからかもしれない。
「陛下にとって俺たちってなんだ? 仲間か家族、それともただの部下だと思ってるのか?」
ペルニダに反応はない。興味がないのか、話の意味がわかってないのかは分からない。ただ、リルトットは話を続ける。
「違う、そんな優しくない。駒だ、生き死になんて気にしちゃいない……だからここには、親衛隊ぐらいしか連れて来てない」
ここには陛下に役立つと判断された者しか連れて来られていない。そうでなければ星十字騎士団のメンバーは特異的なニャンゾル以外にも連れてこられている筈である。
そして星十字騎士団の滅却師は死ぬと陛下の元へと帰る。陛下の力を盃を仰ぐ事で能力を与えられるが、死ぬ時に能力と力を接収されるのだ。だから、死んでいる事に気づかない筈がない。
「それが普通だったし、弱いのが悪いぐらいにしか考えてなかった。ただ……向こうは違った、強さも弱さも違った」
リルトットを助けようと考える動きがあれば、少しは揺らいだかもしれない。ただそんな動きは戦争を通して陛下にはなく、星十字騎士団にも気づかないだけかもしれないが無かった。
護廷十三隊、引いては萩風の気に当てられてしまったのは否めないが、リルトットは陛下との決別を意識したのはそんな所である。ただそれだけならば滅却師勢力からの離反であり、死神の味方になるとは限らない。あの時助けられた分の借りは最低限の情報提供で相殺されて余りあるほどだろう。
ただ、単純な理由。滅却師であろうが死神であろうが関係ない、そんな理由でここにいる。
「それに……捨てられた駒が叛逆するのは、悪い事じゃねえだろ」
捨てられたから、やり返す。忠誠はあったわけではなくとも、働いて来た者に対するやり方ではない。そんな理不尽に反逆する為にここにいるのだ、護廷十三隊や浦原喜助と手を組んだのはそんな理由だ。
ただ、そんな事を言っても目の前の滅却師は揺らいでいる様子はない。
「ヘイカ、ワルクチ……ペルニダ、ユルサナイ」
滅却師同士の戦いが、始まる。
☆
ニャンゾルが掃除に向かって間も無く、侵入者が現れた事を察した。それは自分の目指す場所にいる事も分かっており、他の親衛隊がその迎撃に向かって行く事も分かっていた。そして星十字騎士団としての数からして、一方向はニャンゾルに任せられる事も分かっている。
「誰らろ、お前」
だからこそ、目の前に立つ死神が堂々と背を向けている事には疑問であった。
「名乗る必要は無いだろ」
知らない顔、知らない出立、少なくとも相対した零番隊に6人目がいるという情報はない。ただ、彼の前には結界が張られており死体を守っている事が分かる。相応の存在ではあるのだろう、そしてその背中には四の数字がある。
「この背中の数字が、俺を語ってくれる」
背中の数字、それが意味する事はわかる。ただ正直な感想を、ニャンゾルは口にする。
「誰ら?」
だからなんだ、とでも言いたげな声でニャンゾルは敵を見る。
「……まぁ、隊長になったのはつい先日だからな」
なんとも言えない表情で向き直るが、その背中の数字と羽織からして隊長である事は分かっている。ただ護廷十三隊の隊長の情報には無かったのもあるが、特記戦力ですらないのだ。警戒するには零番隊の攻撃をいなせる自信のあるニャンゾルは脅威と感じられない。
「まぁ敵らろ。掃除のついでに片じゅけたら親衛隊になれるかもしれないらろね」
ただ、これは失言だったかもしれない。そうニャンゾルは思わなくとも、空気が少し重くなった。少しだけ緩かった空気が完全に戦場の空気感に変わったのだ。それをニャンゾルは気づいていないわけではないが、だからと言ってその態度は変わらない。
「その掃除は……そうか」
彼の背後にある結界、それは治療ではなく死体の保全の為に張られてある。死人を治せる力なぞ、よほど特殊で限定的な方法でもなければ不可能だろう。
結界を張るのは死者に対する敬意だ、それが必要であるからではない。ただ命を守る者として、その為に戦う者としての矜持からである。
「死者を冒涜するのは、俺への挑発では無いんだろうな」
だからこそ、それを何の気もなく踏み荒らせる存在に苛つきを感じてしまう。
「護廷十三隊 救護班統括並びに四番隊隊長 萩風カワウソ」
ここで名乗ったのは、自分を喧伝する為でも無ければそれで威圧する為でもない。最低限は護廷十三隊について調べている彼らが誰に対して喧嘩を売ったのか、知らせる為である。
よりにもよって、最も命に携わる部隊の長が相手であると知らせる為に。
「死者の冒涜についてとやかく言うつもりはない、気にする必要もない」
刀を引き抜き、抑えていた霊圧を放ち始める。針で刺されているような鋭い圧ではあるが、ニャンゾルは特段警戒心が強化されている様子はない。
だが、相手が特記戦力ではなくとも隊長である事には変わりないので戦闘体制には入っている。
だが、そんな意識をするからこそ地雷を踏み抜くのだ。
「ただ、お前が一線を超えただけだ」
萩風カワウソ、他の命を守る為なら容赦無く刀を振れる者であり、親衛隊を1人落としている死神だ。それをニャンゾルが知る事はないだろう。
☆
遠くでいくつも戦闘が始まっている、それはアスキンのいる卧豚殿にも響くほどの。
霊圧の大きさからして相応の戦いに発展しているのだろう。中には見知った気配もあり、それと相対するのがペルニダである事を心の中で「ご愁傷様だな」と呟く暇もある。
ただ、アスキンとて親衛隊のひとりだ。相対する敵はもう見えている。
「(あー、ありゃ隊長だな……確かエス・ノトにボコされてた。他はもうぶつかってるし、そっち終わってから袋叩きにしたら楽なんだけど……)」
十番隊の隊長、その程度の情報はアスキンも得ている。名前は確か日番谷冬獅郎という死神だった筈だ。氷を扱う斬魄刀を扱い、天才と呼ばれる隊長である。
ただそれだけであり、霊王宮にいるのも治療の時間が長引いたから程度の認識しかない。ウルキオラ・シファーの霊圧を感じる事からも、負傷者はここに連れて来られて治療を受けていると考えられる。その点で言えば、そこまで脅威には感じない。
何故なら既に一度負けた相手だ、常に勝ち続けて来た親衛隊には関係がないのかもしれない。
「(にしても、リジェさんが本気ならヤバいかもな。少し離れとかないと、巻き込まれたら致命的過ぎるぜ)」
ただそれでも、警戒はする。いくら敵が敗北者であっても、今は挑戦者であり、隊長だ。それにアスキンは他の化け物のような親衛隊とは異なり、死にづらいから親衛隊に選ばれたような滅却師だ。正面から殴り合うのは苦手としている。
「(まぁ、隠れながら不意打ちでもしてさくっと終わらせるかね)」
だからこそ息を潜め、適当に張った罠で時間を消費させる。その間にリジェやペルニダが戦いを終わらせてしまえば、そいつらに丸投げしながら数の有利も押し付けて楽な仕事が出来る。戦う力が無いわけではないが、確実に勝つ為に面倒方は避けたいのだ。
ただ、そんな面持ちのアスキンの真横を氷の刃が貫いてくる。
「(……ん? あれ、霊圧も隠してるし偶々だよな?)」
範囲攻撃でもして来たか、それならそれで好都合ではある。ここで少しでも力を削っておくのは良い事ではあるし、時間も使える。ただ、その攻撃の範囲は辺りを見ても狭過ぎる。
「そこにいるのは分かってる、出てこい」
それこそ、アスキンを的確に狙ったかのように。
「(バレてんのかよぉ〜!!)」
アスキンはそのまま走った。先に他の戦いが終わり、楽をする為に。
ウルキオラ・シファー vs リジェ・バロ
リルトット・ランパード vs ペルニダ・パルンカジャス
萩風カワウソ vs ニャンゾル・ワイゾル
日番谷冬獅郎 vs アスキン・ナックルヴァール
☆
リジェは射程について何も言ってなかったので、数キロとしてます。無限とかだともう意味わかんなくなりますけど、出来ても不思議じゃ無いのがあそこら辺の人達なのでヤバいと思う。