卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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どんなに長引いても後10話以内に一旦終わると思います。


51話 世界の楔

 

 霊王宮突入前、雪緒が空間の操作を行なっている間の時間に体を休めながら皆作戦会議をしている。ユーハバッハが上まで来た以上、悠長な事はしていられないのだが、確実に勝つ為の策が必要だった。

 

 その為にまずは敵を知らねばならない、日番谷達はその情報を握るリルトットに目をやるが。

 

「断るぜ」

 

 その作戦の要はこめかみに青筋を浮かべながら答えた。

 

「俺が誰彼構わず仲間だった奴らの能力話すわけねぇだろ、ふざけてんのか」

 

 それは仲間として扱われているリルトットとしては譲れない所がある。ユーハバッハから離反したのは、その価値観の異常さが萩風達と隔たりがあったからだ。そしていくら敵になったからといって、仲間を売る事は出来ない。それは萩風もそうであるし、日番谷やウルキオラもそうだ。

 

 故に、そう言った考えを持つ彼らと同じになりたいから断ったのだ。

 

「俺が裏切ったのはユーハバッハだけだ、他はお前らで勝手にしろ」

 

 だがその肝心なユーハバッハの能力はウルキオラが知る以上のことを彼女は何も知らない。これに関しては彼女がユーハバッハに興味がなかったのでは無く殆どのものが知らないだけなので仕方ない事ではある。

 

「ただ、どうにもならない奴らだけは教えてやるよ」

 

 だが、そんな意地を張って居ても勝てるならリルトットはここに居ないだろう。

 

「正直、ユーハバッハに届く前にそいつらに邪魔されたら倒す以前の問題だからな」

 

 あくまでもリルトットが売らないと決めたのは仲間、すなわちバンビーズくらいである。他は星十字騎士団同士で殺し合ってもおかしくない者もいる、それに加えて仲間と考えられる者もいるがその個人は能力が特殊過ぎるので話さないわけにもいかない。

 

「とりあえず、俺たちがユーハバッハと戦う迄に面倒な星十字騎士団はざっと8人、その中でやばいのは3人ぐらいだな。それ以外はお前らでどうにかしろ、俺でも勝てる」

 

 ☆

 萩風達の戦場、向き合ってから数秒が経つ。他の戦場よりも少し早く向き合う2人であるが、何故かまだ戦闘は始まっていない。ニャンゾルとしては相手の動きを如何様にも出来る能力という事もあり動いていないだけであるが、問題はもう1人の方だろう。

 

「……何ら?」

 

 萩風が動かない、しかもしきりに斬魄刀の方へ目をやっている。そして少しだけ溜息を吐くと、仕方ないと言った様子でニャンゾルに向かって歩き始める。

 

「どうやら、うちの刀は『卍解を使いたく無い』そうでな」

 

 卍解、斬魄刀の最終解放。隊長の持つ必殺技や奥義、切り札といったものだ。しかしそれを拒否されてしまったのだろう、それを聞くと思わずニャンゾルは顔を笑いで崩してしまう。

 

「仕方ないらろね、オイの力が分かったら諦めるのも仕方ないらろ」

 

 斬魄刀ですら目の前の滅却師が異質であると感じているなら仕方ない、そうニャンゾルは笑った。ただ零番隊の死体を片そうとして一線を超えたと言ってはいたが、その怒気で正常な判断が出来ず歩み寄って戦おうとしている萩風との温度差に笑ったのだ。

 

 大した敵ではないと。

 

「オイは親衛隊になれる滅却師って事ら」

 

 むしろ親衛隊へのステップアップにちょうど良い敵が現れてくれたのだ、ユーハバッハから上に連れてこられている滅却師の中で一番信用されていない彼であるが、これで陛下からの信頼を勝ち取れると確信している。馬鹿や雑魚であっても、仕事の実績として手土産があるだけ十分だろう。

 

「何か勘違いしてるみたいだが」

 

 ただ、ニャンゾルは読み違えている。萩風は至って、冷静だ。

 

「俺の斬魄刀は誰に似たのか決めた事を曲げられないんだよ。卍解は余程敵の数が多いか敵が脅威である時しか使わせてくれないし……その判断を間違えた事も無い」

 

 萩風は斬魄刀を完全に扱えている。ただ斬魄刀の我儘は基本的に全て受け入れているが故に、自分の卍解も彼女の判断に従っている。その判断で萩風はここまで戦えて来ているのだから。

 

 と言っても、間違える程の実戦を経験したわけではない。それでも修行中でも本当の限界を超えて死ぬ瞬間の限界だけは超えさせないストッパーとしての役割を担っていた。

 

 そして、そんな彼女が卍解をする必要がないと言っている。即ち、ニャンゾルはユーハバッハと戦うのに体力を消費していられない雑魚と評しているのだ。

 

「なら、さっさと信じて死ぬと良いらろ」

 

 その考えの意味をようやく理解してか、ニャンゾルは仕掛けた。萩風のいる空間を横凪に指を払った。すると空間が湾曲し萩風の体が上と下とでちぎれ飛ぶ、油断していようがしてまいが関係ない、ニャンゾルの持つ能力は警戒していなければそう易々と破られる事はないのだから。

 

「ニャンゾル、能力は『紆余曲折』」

 

 だからこそ、知られてしまえば対処される。

 

「空間を捻じ曲げて他人の攻撃を逸らし、更には空間そのものを歪めた力で敵の体を両断する」

 

 ニャンゾルは声のする方に振り返った。横目に千切れた萩風を見るが、それは朧のように揺蕩いて消えていく。声はいつの間にか後ろからしていた、それまでは目の前の幻影から聞こえていた。

 

 警戒をするニャンゾル、だがその一方で萩風は刀を仕舞い込みユーハバッハのいるであろう本殿へと歩み始める。

 

「どこに行く気ら? 背なんら向けて調子に乗り過ぎらよ」

 

 だがそれを許すわけがない。ニャンゾルは空間を歪める事で移動して萩風を背後から襲う。右手に『紆余曲折』の力を乗せている、当たればその対象の空間を捻じ曲げ磨り潰す惨殺の御手だ。

 

「俺の斬魄刀『天狐』の能力で最も得意とするのは陽炎を操り幻影を作る事だ」

 

 だが、その腕は何故か届かない。ニャンゾルは慌てて右手を見る、しかしそこにはあるべき右手は無い。

 

「それこそ、お前の身体が切り裂かれても見た目は気づかないようにも出来る」

 

 気付けば右手は落ちている。だがそれに気付いても別の事を見落としてしまう。

 

「注意しとくと、斬ったのは天狐の能力じゃない。苦痛なく逝かせる為の慈悲、単純な実力の差だ」

 

 体が重量に引っ張られて落ちていくのだ、しかし落ちているのは自身の半身であるのに気付けない。何故なら落ちていく右手もそうだが、そんな斬られた痛みなど感じなかったのだから。そもそも、いつ斬られたのかもニャンゾルは考える事は出来ない。

 

「俺の事を目で追えないんだ、うちの斬魄刀の通りにして正解だった」

 

 ニャンゾル・ワイゾルという滅却師は苦痛なくこの世の去って行った。

 

 ☆

 

 ニャンゾルの霊圧が完全に消え去ったのを肌に感じながら、アスキンは走り続けた。ニャンゾルが誰を相手したかは知るところではないが、陛下の元にその侵入者が向かうのは親衛隊としては命じられた任務を守れない事になるので迅速に片さなければならなくなった。

 

 故に、悠長にアスキンは日番谷冬獅郎を相手している暇も他が片付くのを待つのも時間がかかると見ている。だが不意打ちの為にどこに身を潜めようと、日番谷冬獅郎には見つかってしまうのだ。

 

「おいおい、何で霊圧とか諸々隠してたのがバレたんだよ」

 

 おかしい、アスキンの存在をしっかりと認識している。特段そういった事に秀でた能力は無いが、感知をすり抜ける程度の力はアスキンは持っている自覚があるのだ。何かしらカラクリはある、そしてそれはこれ以上逃げられても困ると考えたのか日番谷の口から話される。

 

「俺の氷輪丸は天を操る斬魄刀、本質的な能力はそうでも俺はそれが扱えていなかっただけでまだまだ力は引き出せた」

 

 日番谷冬獅郎はエス・ノトに一方的に倒された死神であり、隊長の中でも最年少の存在。他の護廷十三隊の隊長よりも腕は落ちる、そう考えてもいたがそうではない。史上最年少で隊長となったのが日番谷冬獅郎であり、斬魄刀に愛された天才である。

 

「今の俺はもう、大気中の水分の推移で空間の全てを把握できる」

 

 その能力は多岐に渡り、もうその力を扱えている。雲が千切り消えて行く様に、大気中の水分は動き続ける。そしてその中で熱を持つものがあれば少なからず動きがあり、その障害物があれば留まることもある。そんな微細な動きすらもはや感じ取れるのだ、日番谷が氷輪丸の力を引き出し続けている証拠だろう。

 

 昨日の彼よりも、今日の彼の方が強い。日番谷冬獅郎とはまだまだ発展途上の死神なのだ。その力は護廷十三隊でも随一であり、萩風との修行で更に磨かれている。

 

「それと、俺が逃げ回るだけの敵に無警戒な訳ないだろ」

 

 そんな日番谷が、無策でアスキンと相対するわけがない。

 

「アスキン・ナックルヴァール、能力は『致死量』だったか。罠を色々と仕掛けても無駄だぜ、そこにはお前のいた跡は残る」

 

 アスキンの能力はリルトットから耳にしている。厄介な8人のうちの1人として、対処を知らなければ負け戦に一瞬で変わりかねない能力を持つ存在として。

 油断などない、零番隊を倒した者たちを相手に力を温存はすれども、全力を出さないわけがない。

 

「それと、罠を張ったのがお前だけだと思うなよ」

 

 アスキンは罠や能力まで知られているとは考えていなかったが、やはり持久戦の構えを取る。アスキンの能力は霊圧の分析など済んでしまえばその霊圧に対しては絶対負けなくなるが、その前に仕留められてしまえば終わりだからだろう。今はまだ読みきれていない、その為に距離を取ろうと離れるが、それは左足が動かなくなり出来ない。

 

「(なんだこりゃ、花? っておいおいおいおい!!)」

 

 踏みつけたのは氷の花、しかしサイズは可愛らしい蒲公英程の大きさのものであり踏みつけたとしても払えば良いだけの話だ。しかし出来ない、それは踏みつけた瞬間から花から放たれたとは思えない程の冷気が足を侵食しているからである。

 

「『初霜の花』大気中に存在する水を仕掛けた花を起点に凍つかせる、その花を砕いても無駄だぜ……そいつは印付をする物でしか無いからな」

 

 アスキンが走り回る間、日番谷はただ罠を避けながら追い回していたわけではない。アスキンをいつでも一撃で戦闘不能にする準備をしていた。能力的にも相性が良く、自分が逃してはならない敵であるからこそ、準備をしていた、

 

「いくら致死量を弄れても氷の牢獄迄は壊せねえだろ」

 

 念入りに凍らせた氷の柱、その中には驚愕の表情を浮かべるアスキンは微動だにすることができない。あまりにもあっけない最後だが、その最後はユーハバッハを倒してから改めて訪れるのだろう。

 

 ☆

 既に戦闘が始まってから数分、リルトットはペルニダとの戦いを継続している。

 

「(こりゃ、リジェか? アスキンもやってるみてえだし、時間はかかるか)」

 

 自身の戦いに集中して他の戦場を気にかける余裕はあまり無いが、ウルキオラの方でそれなりに激しい事になっているのは気付けてはいる。

 

 だからこそここで勝たなければならない。ここで親衛隊を1人でも逃せばユーハバッハとの戦いに集中出来るわけもなく、負け戦になりかねないのだから。

 

「ち、当たんねえな」

 

 ただ、リルトットが未だに余裕を持って戦えているのは負けられないが故に慎重に戦っているからだけではない。

 

「(なんだ、こいつの能力……さっきから地面ひっくり返すだけで全然だぞ)」

 

 ペルニダの能力の全貌が、全く見えてこないのだ。リルトットが牽制で放つ矢は全て地面や壁を自身の手足のように使って防いでいるのだ。それが能力によるものなのは分かるが、リルトットが余裕を持って戦いをゆっくりと進めているからか本気を出してくる様子がないのだ。

 

「じゃあ、これはどうだよ」

 

 だが他の戦場がこの様子であれば、悠長にはしていられない。敵がここまでリルトットを警戒してくれているのか、それともそんな気も起きない雑魚と認識しているのかは分からないが、引き出す為にリルトットは矢を番え、二本の矢を放つ。

 

 壁を使ってくるなら、それを前提とした壁を壊す矢と本体に当てる矢を放てば良い。壁で視界が塞がっているペルニダは2本目の矢を気付けない。ただそこは滅却師の精鋭である、2本目の矢は当たる前に避けられる。しかし反射的な回避なのでフードは矢に剥ぎ取られた。

 

「やっと当たったか、フードの下はどんな面……っ!?」

 

 ようやくご対面だ。その顔はどうなのか、男か女か幼いのか老いているのか、幼女ならばやり難いと少なからず抵抗は生まれてくるが──

 

「待てよ、おい……そりゃなんだ」

 

 リルトットの想像は、全く異なる方向に裏切られていく。

 

 本来あるはずの目は一つしかないが、それは些細な事だろう。首から上には髪や鼻といった器官などが全く無いのだから。一体どこの器官を使って意思の疎通をしていたのか疑問であるが、その頭はまるで大きな左手のような形をしている。

 

「左腕って、暗喩じゃねぇのかよ」

 

 いや、左腕そのものだろう。髪や耳があるはずの場所には巨大な指が蠢いているが、どの様な仕組みになっているかはわからない。ただそんな事を考える余裕はないだろう、指は独自に動いている上でリルトットに攻撃の意思を向けてくる。

 

 そして、その指先から何かが射出された。

 

「っ、くそが!!」

 

 リルトットは向けられた何かを避けた。しかし、避け切れず左手に着弾してしまう。すると自分の左手が自分の物でなくなったかのようにコントロールが出来なくなるが、それで終わらない。

 

 先程まで矢を防ぐ為に壁や床を操っていたが、それと同じように彼女の左腕が歪み折り畳まれて行くのだ。羽が折れようが肉が裂け血を噴き出そうが関係ない、ただの肉塊に変わろうとしている。

 

 咄嗟の判断でリルトットはその左手を自身の能力『食いしんぼう』で切り離したが、左腕だった物は床に変わり果てた物として転がっている。判断が遅ければ肩先から下だけではなく、彼女自身もそのように変わり果てていた。

 

「はぁ……はぁ……今迄は手を抜いてたってか? ふざけやがって」

 

 ただここまで歪な存在であれば、何かしら喩えられても仕方ないのかもしれない。左腕、それもここまで異質な物であれば霊王の左腕と言われて仕方ない。

 だが親衛隊の事を甘く見ていたのも事実だろう。自分達星十字騎士団の上澄み程度に考えていたが、もはや存在の根底が異なると認識して良いのかもしれない。

 

「不気味さは親衛隊一かよ」

 

 そして、ペルニダ・パルンカジャスという怪物はリルトットには荷が重いのは事実である。

 

 ☆

 

 世界の崩壊、それは突然始まる。地震が起きたと思えば中々止まない、現世では世界中で同時に起こるこの現象の震源も何もわからないだろう。ただ、そんな揺れも何故か止まる。

 

「上はどうなってるんだ」

 

 一護は思わず呟く。仮面の軍勢も駆け付け、本格的に門を作る準備が出来た矢先の出来事に、作られた門の霊子も霧散して作り直しになってしまっているのだ。上では何が起きているのか、想像も出来ない。

 

「日番谷隊長達が間に合ったのか、理由は分かりませんが……世界の崩壊は止まったみたいっすね」

 

 ただ、上で霊王が一命を取り留めたのか世界の崩壊は止まった。それにより何とか世界は保っていられている。だがいつまで続くかはわからない、浦原喜助と言えど世界の楔を作る事も保つ事も簡単に出来る事ではないのだから。

 

「早くを門を作らな、間に合うもんも間に合わへんぞ!」

 

 悠長にはしていられない、しかし空には謎の天蓋がされており、それにより護廷十三隊は門が仮に出来ても繋ぐことは出来ないのだ。それは浦原喜助はわかっているのだが、違和感を頭の中で感じ続けている。

 

「(あれは僕達の邪魔を警戒したもの、それなら零番隊は落とされた可能性が高いか。一刻も早い門の創造と、天蓋の破壊が最優先……黒崎さんなら問題なく穴を開けるぐらいは出来るはず。ただ……何でこんなややこしい手を使って来た? 僕達を警戒するならそれこそ隕石は無くても離殿を落とせば良い筈、即ち……警戒に値してない? 壊されようとも、それまでの時間を稼げたら……いや、まさか)」

 

 頭の中で何かが纏まりかける。突然止まった世界の崩壊、閉ざされた空、門の創造、それら全てを繋げれば敵の意図が纏まってくる。だが仮にそれがそうならば、浦原喜助は自身の抱える可能性の中で最悪を引いたと言っても過言では無いだろう。

 

 だが、そんな浦原の考えを嘲笑う様に頭に声が響いてくる。

 

「今、何か……!?」

 

 それは浦原だけではない、周りを見てみれば隊長副隊長に限らず一般隊士もその声に戸惑っている。だが、それに続いて異変は起こって行く。

 

「待て、こいつは……!!」

 

 瞼を閉じた瞬間に、景色が変わるのだ。どういう仕掛けかは分からないが瀞霊庭にいる全ての死神に見せているのか、聞かせているのかもしれない。それだけの、絶対的な力を身につけて。

 

『聞こえているだろう、私の声が』

 

 最初はもやがかかるような声と景色であった。しかし徐々に回線の直って行くテレビの様に映像と音は鮮明になって行く。瞼を閉じて浮かぶ景色は黒い泥と炎が混じった様な何かを纏う男が、玉座に座る姿だ。そしてその声は、聞き覚えのある者はモヤのあった時から気付けている。

 

『我が名はユーハバッハ、霊王を取り込んだ新たな世界の王である』

 

 滅却師の祖であり王、総隊長を殺した者、そんな認識を塗りつぶす様な情報がなだれ込んでくる。霊王が何か、皆分かっているわけではないがいかにこの存在が不届きな事をしでかしたかは分かっている。

 

「霊王を、取り込んだ……!?」

 

 だが、それが嘘ではない事はその変わり果てた異様な外見から察せられる。

 

「ふざけやがって、零番隊は何やってんだ……!!」

 

 零番隊、護廷十三隊全軍の力を上回る5人の隊長は敗れたのだろう。その力を知る恋次からこそ思わず悪態をついてしまうが、それだけ敵の大きさが想像を超えていたという事でもある。それは先に戦ったグレミィで認識できていたつもりではあれど、こうも規格外な事を繰り返されて来られたら対応も出来ないものだ。

 

「浦原さん、霊王が取り込まれたって事は……」

 

「……はい、恐らく」

 

 ただ、そうなると倒さなければならない敵ではあるがそれが出来ない事が一番の問題だろう。霊王は世界の楔であり『替が効かない』存在である。世界の崩壊が止まったのはユーハバッハ自身が霊王を取り込んだからであり、世界の楔となったからだ。ただでさえ想像も出来ない敵であるが、それを殺してしまえば世界が本当に終わる事を意味してしまう。

 

『だが、これもまた貴様らの受ける報いであろう。霊王が敵に回るのは、貴様ら死神にとっては避けられぬ運命にある』

 

 ただそんな一護達の考えを見透かしているのか、あたかも自身の行動には大義があるかのように答えてくる。それも、戦争を仕掛け数多の命を散らせた張本人がである。

 

「何を言っている、霊王が敵だと?」

 

 霊王とは象徴であり死神達の王である、そんな存在を守る為に零番隊も霊王によって選ばれている。意味がわからない、それがこの声を聞く者たちの総意である。

 

『知らぬなら教えてやろう、貴様ら死神の背負う業をな』

 

 だが、そんな与太話はまだ続く。

 

 ☆

 

「霊王とは、私の……いや、この世界の産みの親だ」

 

 霊王宮の本殿、誰もいない城にユーハバッハはいる。連れて来た親衛隊も戦闘中であり文字通り孤独な玉座に佇んでいる。しかしその姿は数多の死神や生き残った滅却師など瀞霊庭にいる者たちには関係無く公開している。霊王の権能を利用しているのだろう、それを手に入れたという誇示と圧倒的な力を有しているという事を悟らせる為に。

 

「現世も尸魂界も、虚圏も分たれる前の一つの世界に生まれた世界に祝福されたかのような存在、それが霊王だ。貴様らの知る名ばかりの王ではない、本物の王であった」

 

 そして今しているのは、昔話だ。霊王を吸収した事でその叡智と記憶も手に入れたが、ただそれを話すためではない。

 

「その力は王の名に相応しく絶大だ。『全ての力』を持ち得た霊王は虚から人間を守る為に戦い、滅却をしては世界の循環を保っていた」

 

 心を折るために、話しているに過ぎないのだ。護廷十三隊の守る物、それがいかに矮小な物であるかをわからせる為に、犠牲の上でしか成り立たない世界の形を知らせる為に。

 

「だが、その貴様らの英雄は今の世界を分断する為の楔となった」

 

 霊王は個人ではあるが、霊王宮にあった彼は置物だった。水晶に閉じ込められ自由はなく、生きても死んでもいない状態の存在だった。

 

「両腕を落とし、心臓を抉り力を削ぎ落とし世界を維持する為だけの人形へ変えた」

 

 そしてそれは生まれてからそうなっていたわけではない。手足も臓器も備わっていた、だがそれは世界を維持するのに不要であると判断されたのだ。万が一にも反旗を翻されてしまえば、敵う存在ではないのだから。

 

 だが、そんな大罪人はその血を残している。

 

「それをしたのが、貴様らのよく知る五大貴族の事だ」

 

 瀞霊庭を取り仕切る貴族であり、中央四十六室にもその血を引く者は遠縁であれ多くいるだろう。今は志波家が没落した影響で四大貴族となっているが、その五大貴族が誰を指すのかは誰もが知る事だ。ただこの主犯はほぼ一つの家によるものではあるのだが、心を折る為に話すユーハバッハはあえてその事は言わずに話を進める。

 

「貴様ら死神は英雄を殺し、利用した。その犠牲の上に成り立つ護廷十三隊も尸魂界も、張りぼてのような物だ。正義も大義も貴様らにはない、藍染惣右介を完全な悪とした程度の蒙昧な貴様らではな」

 

 護廷十三隊に属する者は皆、何かしら守る為に戦っている。同じ隊士であれ流魂街の仲間であれ、尸魂界そのものであれ大なり小なりそれを支えにこの戦争を戦っているだろう。しかし、そんな各々の戦う理由は大悪によって塗りつぶされてしまう。

 

 英雄を殺した上で利用していた、そんな貴族の仕切る瀞霊庭や護廷十三隊を信じて戦えるのか、そんな思いが平の隊士達の間に伝播しているだろう。それこそがユーハバッハの狙いである、無駄な戦いを終わらせ新たな世界の創造に着手したい彼にとって圧倒的な力はあるが、その邪魔はいくら羽虫の群れとは言え煩わしいのである。

 

「だからこそ、私が作り替える。生も死もない、恐怖の無い世界を……その為に、全ては一度滅びるべきなのだ」

 

 世界創造の大義、それをあたかも正義であるかのように語り揺さぶる。これで護廷十三隊はどれほど弁明をしようとも纏まらない、力を合わせてユーハバッハに立ち向かう事はない。

 

 だが、それはあくまでも平の隊士だ。最も面倒な隊長格、そして黒崎一護や浦原喜助は必ず挑んでくるだろう。だが、そんな事も許さない。その為の下界への配信である。

 

「私は不要な殺生を嫌う。しかし、私に立ち塞がる者は残酷に殺す事となる」

 

 残酷な死、言葉にするのは簡単でも実感はできない単語だ。それを己に降りかかる災厄と認識させる為に、知らせるのに相応しい生贄が上にはいる。

 

「気に病む必要は無い、お前たちの持つ不要な希望はこれから見せるもので消え去るだろう」

 

 ユーハバッハはそれを最後に演説を止める。そして唯一の出入り口である門の方を見ると、それが爆炎と共に弾き飛んでいく。まるでユーハバッハはそれが来るのを分かっていたのか、それとも望んでいたのかはわからない。

 

重要でもないのだ。ただ一つの事実として、そこには1人の死神がいる。

 

「目玉が邪魔で時間がかかった……もう慣れたが、あれはお前の手駒か何かか?」

 

 霊王を吸収する際に霊王の力は大きく漏れ出た。本来であれば霊王の敵である死神にその力の群れは襲い掛かるのだが、その群れは何故か霊王宮に停滞していたのである。それは次元の軸が近く、死神としての力が色濃く出るものがいたからだろう。ユーハバッハとしても力を吸い取るまでの防波堤となるので特段いじる事もなかった。

 

 だが、ここまで早い到着は面白いとも感じている。

 

「力の残滓を払った程度で随分と強気だな、萩風カワウソ」

 

 ニャンゾルを破り、萩風は最速最短でやって来たのだ。本殿に居るのは分かっていたのだろう、そしてその力の波はユーハバッハを前にしても落ち着いている。演説も霊王宮本殿には響いていたので聞こえていたかもしれないが、それでもユーハバッハへと向く足は止まっていない。

 

「私の霊圧を感じられないのか……哀れだが、仕方ないと言うべきか。愚鈍であろうとここに来たという事を下界の者に示さなければならん。世界の王に歯向かう者の末路を見せなければ根拠の無い希望を持ってしまう。だからこそ無意味な抵抗が、どのような結果を生むか……見せてやらねばならない」

 

 斬魄刀は既に引き抜かれている。臨戦体制だ、しかしその萩風を前にしてユーハバッハの余裕は全く崩れていない。玉座に腰掛ける姿は、席を動かずとも初撃をどうとでもできるとでも言うような構えをしている。

 

 以前の萩風を相手に剣を構え能力を行使しようとした時は違うのだと、もはや次元の異なる存在であるという事を示している。

 

「あの時と同じにしないでもらいたい」

 

 だが、あの時と違うのはユーハバッハだけではない。

 

「四番隊隊長 萩風カワウソ。貴様を斬る、護廷の刃だ」

 

 護廷十三隊の隊長として、彼はここにいる。四番隊である事を誇りにし、どれだけ嘲られ不遜な態度を取られても、戦う意志を示している。向こうがまだ戦うという意志を見せていないが、その態度にようやくユーハバッハも玉座を降りる。

 

「そうか、ならば貴様にはこの力で相手してやるのが相応しいだろう」

 

 そして懐から手のひらに収まる程度の何かを握りしめている。すると一瞬だけ光を放ったかと思えば、手には黒い刀が握られている。煤けたような刀だ、しかしその見た目とは異なり突如として爆炎がその刃から吹き出してくる。

 

 護廷十三隊の誰もが知る存在、焱熱系においては最強の一振りであり、1000年以上死神の長として指揮を取り続けた者の力。あの藍染惣右介でさえ尸魂界の歴史とも言えるこの存在には特別な措置を取った。

 

 護廷十三隊の隊長として挑むならば、それを試すに相応しい力をユーハバッハは既に奪っている。

 

「卍解 残火の太刀」

 

 山本 元柳斎 重國、最強と呼ばれた死神の奥義を片手にユーハバッハは悠然と萩風に歩み寄って行く。

 

「さぁ、死合おうか」

 

 世界の終わりがかかった戦いが、始まる。





アニメPV、良かった。楽しみ過ぎる。
個人的には花天狂骨枯松心中が一番楽しみです。
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