護廷十三隊十一番隊隊長 更木剣八
「今日はここまでとしましょうか」
卯ノ花隊長は悠々と木刀を腰に仕舞う、対して俺はこの言葉を聞くと足から力が抜け落ちて倒れてしまう。足も手もガクガクと震え、木刀を握っていた手には血豆が割れて木刀も真っ赤です。
てか、毎回体のどこかの骨が折れてます。身体中痣だらけ、もう動けないレベルです。
「はぁ…はぁ…はぁい、ありがとうございまし、た…」
えぐいよ、鍛錬超えげつないよ?卯ノ花隊長、鬼みたいに強いんだけど?俺の想定していた隊長格の敷居って、こんなに高かったのか!?
そりゃ斬魄刀にも認められねぇよ、四番隊でこのレベルだぞ?他の隊長格はこれ以上とか化け物ばっかじゃねぇか!!
こんなの100年続けてるけど、勝てる気配すら無いんですけど!?
いや最初の10年は一瞬でノックアウトされて水かけて起こされてを繰り返して…、50年経つ頃でようやく防御だけなら取れるようになって卯ノ花隊長が本気を出し始めて、最近になってようやく打ち合いができるようになったけど…卯ノ花隊長、むちゃんこ強い。
理想の女の子との打ち合い?いや…こんなハードだと、気にできねぇよ。気にした次の日に俺の墓が立つ。
なお、20062戦中、俺の勝利数は0。敗北数は20062回である、やべぇよ全く勝てねぇよ。卯ノ花隊長は成長していると言ってくれてるが、隊長になる日は遠過ぎるぞ。
あ、でもこの前に副隊長になりました。いきなり副隊長ってのには驚いたけど、卍解も回道もできるなら就いてもまぁ大丈夫だよな?と自分を納得させてなりました。
やっと席が空いたからね、副隊長の仕事と弟子の世話を兼任しながらこの鍛錬をこなしてます。もう俺の体が悲鳴あげてるが、凡人以下の俺はこのくらいやんないと成長できないからなぁ……
「萩風副隊長、卯ノ花隊長。少々よろしいでしょうか?」
すると武道場の扉の奥から声が聞こえる。それに対して卯ノ花隊長が「お入りなさい」と答えると。
「失礼しま…萩風さん!?大丈夫ですか!?」
「お、おう…今日もハードだったよ」
武道場に入って来たのは虎徹勇音、三席です。はえーよ、成長はえーよ。俺は回道教えたけど、いつの間に卍解極めたんだよ、天才じゃねぇか。俺もう教える事教えたけど未だに「私は未熟です」とか嫌味にしか聞こえないからね?卯ノ花隊長から聞いたのをそのまま伝える位しか、回道の心構え的な事しか俺はもう話す事が無いんだけど。
でも彼女は三席になって忙しくなってきているから、最近はこの鍛錬の後の怪我の治療の時しか絡む事は無いんだよね。
虎徹ちゃん、美人だよなぁ。彼女に回道教えてた時が死神ライフで一番至福の時間でした。今はその美人に治療されてて最高です、弟子の成長を感じると言う点でも、すべすべの柔らかい手の感触を楽しめるって言う点でもね!
「勇音、今日は来るのが早かったですが何か報告ですか?」
「あ、すみません!緊急の招集が隊長にあるので、至急1番隊隊舎へ集まれとの事です!」
「わかりました、では汗を流してから直ぐに向かいましょう。萩風は遅れても構わないので休んでいなさい、彼の回復は任せましたよ」
あれ、何か大変そうだなぁ。まぁ心配できる程の実力は無いんですけどね!更に言うと体はボロボロですしね!隊首会サボれてラッキー?
☆☆☆☆☆
「(今日も、傷だらけだ…)」
萩風を治療する彼女、虎徹勇音はいつもその傷の多さと重さに驚きを隠せない。日常的に見ている鍛練後の萩風の怪我で感覚は麻痺しているかもしれないが、そんな事は無い。
「(左腕の骨折が7ヶ所、右腕が4ヶ所…肋骨が3本、両足も酷い。裂傷だらけ、木刀での打ち合いでこんなになるまで…こんなの、鍛錬っていうより拷問じゃ…)」
重症だ、この100年の間に彼の弟子となってからこの鍛練の後に重症で無かった日は存在しない。
だが彼には休むと言う概念が存在しない、鍛練をやめると言う概念が無いのだ。
「萩風さん、如何ですか?」
そして彼に教わった回道であれば、この傷を治すのも容易である。と言っても彼も同時進行で自身を回復させていたので彼女の力だけでは直ぐに医療室のベッドの上に居ただろう。
「問題無い、とりあえず大丈夫だわ」
だが痛みが取れたわけではない、神経が覚えた痛みは未だに彼の体を走り回っている。にもかかわらず、彼は欠伸をすると直ぐに立ち上がって木刀を拾い上げる。
どうせまた隊首会が終わったら一人で練習するのだ、どこで練習しているのかは知らないが彼はそう言う死神なのだから。
「ありがとう虎徹さん。とりあえず、風呂入って来るわ。また片付けお願いしてもいい?」
「はい、お任せ下さい」
虎徹勇音にできるのは、彼の手助けだけなのだから。
☆☆☆☆☆
「今回は、どんな要件での呼び出しかなぁ」
そう呟くのは女物の着物を軽く羽織る死神だ。そしてその後ろには長髪の白髪をした死神も居る。
緊急の隊首会、そこに誰よりも早く駆けつけていたのは護廷十三隊の隊長の中でも古参である2人であった。
「おー、京楽。結構久しぶりになるな」
十三番隊隊長である
また2人は友人関係であるが、浮竹の方は病弱な為に隊首会をよく病欠するのだが、今回は体調が良かったので誰よりも早く到着していた。
「俺のいない間に四番隊に新しい副隊長ができたそうじゃないか、噂ではかなり古参の」
「あぁ、中々の古参だ。萩風カワウソ、あの卯ノ花隊長の一番の弟子らしいからね」
自然と前回居なかった時の話が話題となる、と言ってもいつも通りの定例会だ。違った事はこの事くらいなのだから。
「卯ノ花隊長のか、それは凄いな。彼の名は聞いた事がある、回道の達人とは聞いていたがお弟子さんだったのか」
萩風の噂は隊長達の耳にも届いている、彼は回道の腕を体感した者から又聞きした物であるが本来なら治療に1週間かかる傷を10分足らずで完治させたりなど、眉唾ものばかりだ。だが卯ノ花隊長の弟子ならば納得できるだろう、彼女は護廷十三隊で最も腕が立つ回道の使い手なのだから。
「京楽から見て、その子はどうだ?」
だが直に会った事は無い浮竹は、それを京楽へと伺う。彼は京楽の慧眼を信用している。その彼から見て萩風カワウソとはどのように写るのか気になるのだ。
「そうだねぇー…一度会って、少し話したけど。古参なのに謙虚だったよ」
その心構えと態度は簡単にはできない事だ、どんな者でも驕りというものが出てくるのだから。それは強者へと至る道において最大の障害かもしれない、驕りとは自身を強いと錯覚させてしまうのだから。
「でもね…隊長達の一挙一動を観察する程、力に飢えてるみたいだけどね」
それを聞いた浮竹は「おぉ!」と感嘆の声をあげる。彼は謙虚でありながら、まだまだ強者へと至る為の貪欲さを持っているのだ。どの隊長達もそんな力への貪欲さでのし上がった者も多いだろう。
そして最後に京楽は
「まぁ、彼ならいつか僕らに並ぶ死神になるさ」
そう呟くと、それに対して
「当然です」
と卯ノ花隊長は真後ろで答えていた。
「げ、卯ノ花隊長…いつの間にこちらへ?」
「今しがたですよ、弟子が褒められるのは嬉しいものですね」
にっこりと笑う卯ノ花隊長だが、どこか素直ではなさそうに見える。そういう人なのを2人は知っているが、何に素直で無いのかはわからない。
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この作品では原作の主人公は空気気味になるかもしれませんが、ご容赦ください。