一夜が明け、テントから出て来た四人は簡単な朝食を取っていた。固形コンソメを溶かして干し野菜と昨日狩ったミミウサギの肉を煮込んだスープに、チーズを挟んだサンドイッチ。・・・ちなみに、何度も言うがこれらはゴン太学級の面々のこだわりである。スープならいくらでもインスタントがあるし、上質のレーションやお湯を入れるだけで食べられるご飯なども色々ある。あくまで彼らの矜持というものなのだ。
「う〜ん、やっぱりたまにはこういうキャンプみたいなご飯も良いわね〜。朝の天気も良いし・・・」
「あのなぁ、あくまで『たまに』だからな? 何ヶ月もこんな食生活だったらすぐにぶっ倒れらぁ」
「ま、折角の冒険者風の日々なんだ。楽しめる内は楽しむさ」
「それでパステル? 目的地はここからどれくらいなんです?」
「えっと、ちょっと待ってて・・・あれ? クレイ、あの封筒どこやっちゃった?」
「え? 確かパステルが最後に見てなかった?」
「おいおい〜、頼むぜ二人ともよ〜? 任務書無くしたらまたゴン太から大目玉だぜ?」
「あぁ、スミマセンでした。昨日私が確認の為荷物から出したんでした。グフフ・・・」
「笑ってんじゃねえよバカ!!」
わいわいと呑気に朝食を食べながら繰り広げられる光景。そんな中、ふとクレイが顔を上げた。何やら真剣な表情で顔を後ろの方へ向ける。
「・・・どこかで助けを求める声がした・・・」
「ちょ、ちょっとクレイ・・・まさか、また・・・」
「西の方向約二キロか・・・今行くぞ!!」
「・・・まさしく速きこと風の如し、ですねぇ〜・・・」
目を閉じて耳を澄ませていたクレイは、他の三人が止める間も無く風のように西の方へ消えてしまう。助けを求める者は必ず助ける、それを『少しだけ』過剰に行動に起こしてしまうのが彼の数少ない欠点であった。
「あぁ〜あ、またクレイちゃんの悪いクセが出やがったぜ・・・おい、さっさと片付けて後を追うぞ!!」
「早くしないと昨日のパステルの二の舞になりますよ!!」
「ちょ、ちょっと何よそれ〜!? ・・・否定が出来ないのが悲しいけど・・・」
普段のトラップよりも遥かに早い速度で走り去った彼を追う事は簡単な事ではない。残された三人は大急ぎでテントと食事の後を片付けるのであった・・・
・・・・・
・・・・
・・・
「うわぁ〜〜!! 誰か助けて〜〜!!」
早朝の森の中、大慌てで追いかけてくる何かから逃げているのは10歳くらいの少年。小さな体格を生かして狭い木々を抜けてきたのだが、いよいよ追いつかれる時が・・・
「聖剣技!! クライムハザード!!」
ドガズガァ〜〜〜〜〜ン!!!!!!
少年の後方で凄まじい爆音が響き渡り、その数瞬間後に彼は爆風により前方向へ吹き飛ばされた。
「うわぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!??」
ゴロゴロと転がって木にぶつかった彼が、何とか顔を起こして振り向いた後方では・・・明らかにさっきまでは無かった直径数メートルのクレーターが出来ていた。
「え、えぇ〜〜〜〜!?」
大慌てで目を剥いていると、そのクレーターの中心から一人の剣士が立ち上がった。見た目はごく普通の黒髪の男性。振り下ろしていたロングソードを構え直し、油断なく周囲を見回している。そして何かを見つけたのか、一瞬で姿を消すと・・・
「逃げられると思うな!!魔神剣・双牙!! 魔神連牙斬!!」
ズガァ〜〜〜〜ン!!!!
メキメキメキメキ・・・グシャ〜〜!!
新たに左方向から爆音が響いたかと思うと、そのしばらく後に周囲の木々がなぎ倒される光景が少年の目の広がった。あまりにもオーバーキルな攻撃にポカ〜ンと口を開けたままの彼だったが・・・いつの間にか目の前に現れていた剣士が優しく声をかけてきた。
「やぁ、怪我はないかい?」
少年は後にこう語る。後にも先にも、彼ほど剣一本でここまで森の地形を変えた剣士はいないだろうと・・・
・・・・・
・・・・
・・・
「あ〜あ、間に合わなかった・・・」
「ま、分かっていた事ですがね!! ギャハハハハ!!」
「何でウチには暴走するとこうなる奴が多いのかねぇ〜・・・」
「な、何よトラップ〜? 何が言いたいのよ〜?」
「べっつに〜? 何もパステルの事とは一言も言ってないぜ?」
「ぐぬぬぬぬ・・・」
ようやく追い付いた三人が見たのは、腰を抜かしている少年に笑いかけるクレイと・・・その後ろに広がるなぎ倒された木々と大きなクレーターであった・・・
「それで、君の名は?」
「やっとぉ〜目を〜、覚ま〜したかい〜♩」
「トラップは黙ってなさい」
スパーン!!
茶々を入れるトラップにハリセンでツッコミを入れるパステル。優しく声を掛けたクレイに、少し怯えた表情を浮かべていた少年だが・・・ようやく自分が助かったのだと実感したのか、オドオドとでも声を出した。
「ぼ、僕はピット・・・」
「そっか、ピット君だね。それで、どうして朝からこんな森の奥に?」
「おじいちゃんが・・・おじいちゃんが大変なんだ!!」
「パステル、すぐにエリキシル剤。キットンは予備のエリクサーを。早くしろ」
「何真顔でとんでもないクスリを頼んでるのよクレイ・・・」
「ドヒャヒャヒャ!! 普通の病気なら私の薬草で充分ですよ!!」
静かなはずの早朝の森の中、大笑いを上げるキットンの声に耳を塞ぐパステルだが、やはりクレイは頭にドがつく心配性。大真面目に二人に手を出すが、あっさりと払われた。そんな中、ハリセンの一撃から起き上がったトラップが頭をさすりながら口を開く。
「イテテ・・・とりあえずよ、こんなとこで喋ってないでさっさとその爺さんの所へ行こうぜ?」
「あのトラップが、真面目な事を提案している・・・」
「明日は間違いなく雨ですね。いえ、もしかしたらもうすぐ土砂降りになるのかも?ww」
「燃やすぞお前ら・・・」
「何をしているお前達。早くお爺さんの所へ行くぞ!!」
「え、ええと・・・じいちゃんはこっちだよ・・・」
さっきの爆発がまるで日常茶飯事のように平凡な会話を繰り広げる四人に対して、一応真面目にしていた自分がバカらしくなったのか、少し呆れたような雰囲気で歩き出すピットの後をのほほんとついて行く四人であった・・・合掌。
クレイの噂・・・
助けを求める声は数キロ先からでも聞こえるらしい。