発信機の反応を辿り、暗い隠し通路を軍用懐中電灯で照らしながら歩いて行くと・・・やがて先頭を歩いていたトラップが後ろの三人を片手で止める。先に光が見えてきたので出口が間近なのは確かなのだが、若干の嫌な気配を感じた彼が呟く。
「ちょい待ちな。どうやら奴さん、先で待ち構えてるみたいだぜ? しかも少し気配がブレてやがる」
「へぇ〜、それはまた短い時間によく備えたわね」
「グフフ・・・本当はもっと準備をしたかったのかもしれませんが、もしかしたら慌てているのかもしれませんねぇ〜」
「とにかくさっさと終わらせないと、今日中に帰れないぞ? 総員、戦闘準備」
クレイの静かな号令に、それぞれ臨戦態勢に入る三人。そしてトラップが黙って先の出口に歩いて行く。そして光の先に近くと・・・
「「「キシャ〜〜〜〜〜!!!!」」」
出口の先から突然大きな奇声が響き、今にも通路から出ようとした四人を何かの集団が襲いかかってきた。
それらは体調50センチほどの、赤い巨大なコウモリみたいなモンスター。首から顔にかけては蛇のように長く、鋭い牙を構えながら無数に突撃してくる。普通のレベルの冒険者達ならたちまち総崩れになる程の勢いであったが、しかし・・・
「おぉっと〜?」
「ちょっといきなり避けるなよ? パステルに当たるだろ?」
「いやクレイがさらに避けなければ私に当たらなかったわよ!?」
「ギャハハハハ!! まだまだ修行が足りませんねパステル!!」
まず先頭にいたトラップがヒラリと集団を右横に躱すと、それを見抜いていたクレイが反対方向に前転。結果三番手にいたパステルが、構えていた星と月の杖から砲撃を放つ事になった。そして最後尾のキットンは立ったまま大草原状態。まさに普段通りの光景。この程度の奇襲が通じる程、ゴンタ学級は甘くないのである。
「ホイホイっと〜・・・お〜いパステルちゃ〜ん? 撃ち漏らし結構あるぜ〜?」
「ウルサイわね〜!! そう思うならアンタも手伝いなさいよ!!」
「え? 俺って結構平和主義者だし? 余計な殺生はしない男なの」
「あれだけヒールニントの町を無茶苦茶にしておいて今更何言ってるのよ!?」
「ほ〜れほれ、また一匹漏らした〜w ヘッタクソ〜w」
「おいおいトラップ、そこまでにしておかないとまた爆発するぞ? とりあえず俺達は向こうに行くからな〜」
「流石にこれ以上地形を変えると、擁護しにくくなりますからねぇ〜・・・報酬に響かなければ良いのですけど」
チュド〜〜〜〜〜〜ン!!!!
ズバババ〜〜〜〜〜〜ン!!!!
真っ赤な顔になりながら『星と月のソナタ』を撃ち続けるパステルを、ケラケラとからかいながら彼女が撃ち漏らしたモンスターを手裏剣やクナイで狩っていくトラップ。口調とは裏腹に絶妙なコンビネーションで数を減らしていく二人に、残ったクレイとキットンは苦笑いしつつも、合間を縫って奥にいる魔導士に向かうのであった。
・・・・・
・・・・
・・・
大きな池の近くにある切株。その近くでぶつぶつと呟いていた魔導士は、近づく足音に気づき反対を向く。その視線の先には竹のアーマーを着込んだファイターに、クワを持ったドワーフ(?)が立っていた。それを見た魔導士は『相手が二人ならイケる!!』と確信し、余裕たっぷりの態度で両腕を掲げる。・・・なかなかに学習しない魔導士である。
「ファファファ・・・そなたら二人で何が出来ようぞ?」
「う〜ん、取り敢えずさっさと帰りたいから・・・」
「前口上は良いですので、さっさとかかってきなさいw」
クレイが両手に構えたロングソードを見ても全く動じない魔導士だが、彼らに言われた言葉にはカチンとくる。まるで完全に無視された返答に、ザワザワと力が身体中を巡っていった。
「ファファファ・・・威勢の良い事だ。まだ蓄えた力は満タンではないが、そなたらを消すには十分よ!! しねぃ!!」
「はい、『ファファファ・しねい』いただきました〜www」
「笑ってないで集中しろキットン」
ドガ〜〜〜ン!!
相手から放たれたファイアーボールは、避けた彼らの後ろの木をボウッ!と焼きつかせる。確かに直撃すれば・・・軽いヤケドくらいは負うかもしれない。多分。
「というかクレイ、あなたなら避けなくても竹アーマーで無傷でしょうに」
「馬鹿、煤が付くと掃除に手間取るんだよ。結構合間合間の隙間が細かいんだから」
「・・・ハイハイ。それじゃ、私からいかせて貰いますね。フリーズランサー!!」
キットンのクワから放たれた無数の氷の槍が、追加のファイアーボールを放とうとする魔導士に向かっていく。晶霊を直接召喚するよりも、術式を唱える方が詠唱スピードが速い。それを見た魔導士が撃ち落そうと炎の玉を放つも、半分も迎撃出来ないまま身体に突き刺さっていった。
ズガガガガ!!!!
「グ、グガァ〜〜〜!!!!」
「お、流石に一撃では倒れないな。それじゃ次は俺が・・・」
「良い気になるなよ貴様ら〜〜!!」
怒りで顔を歪ませた魔導士が連続して呪文を放とうとするも、一瞬で目の前に現れたクレイがそれを阻む。そして下段から上段へ向かって聖なる光に輝くロングソードを振り上げ・・・上空へ飛び上がった。
「な、なん・・・だと・・・?」
「あ、これは退避しませんと・・・」
「決める!! コネクティド・・・ウィル!!」
ズッバ〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!
飛び上がった上空から、更に大地へ向けて振り下ろす光の一撃。最初の切り上げでオーバーキル並みの攻撃であったが、最後の叩き下ろしで完全に周囲数メートルがクレーターと化した。勿論察したキットンはさっさと遠くへ離れている。そして・・・魔導士の姿は影も形もなくなっていた。
「ふぅ、終わったか。いやぁ久々にこの技使ってみたけど、やっぱり気持ち良いな〜」
「まぁ、良いんですけどね・・・結局一撃で終わってしまいましたし」
両手を広げてやれやれと首を振るキットン。そこでふと思い出したように顔を上げた。
「そういえば、任務書に書かれていた謎の生き物って・・・今の魔導士で良いんでしょうか?」
「・・・あ」
聞こえたクレイがポカンと口を開けていると、そこへ後ろからやいのやいのと騒ぎながら歩いてくるトラップとパステルの姿が。
「だ〜から〜、お前はメガフラム以外に攻撃する手段思いつかない訳!?」
「何よ〜!? アンタだって私にばかり魔力使わせて、楽ばっかしちゃって〜!!」
「フン、省エネ運転と言って欲しいね? 第一、お前が漏らした奴は残らず片付けてやったんだから感謝して欲しいぐらいだぜ」
「全くああ言えばこう言う・・・ん? どうしたの二人とも?」
クレーター近くで硬直している二人を見つけたパステルが、タッタッと駆け寄る。
「おいおいクレイちゃん〜、何ボンヤリしてんの〜? 折角の男前が台無しだぜ〜?」
「キットンもどうしたのよ? 何か怪我でもしちゃった?」
「・・・なぁ、二人とも。任務書にあった『謎の生き物』って、こいつらの事で良いの、かな・・・」
「「・・・あ」」
そして、しばらく固まった四人が出した結論は・・・少し前にキットンが捕まえたモウルを証拠として差し出す事に決まった。決して嘘ではない。確かに見た目は不細工な老人の顔をした蝶という『謎の生き物』なのだから。ウンウンと頷く四人は、着実にフラグを立てていくのであった・・・合掌。
・・・・・
・・・・
・・・
「それで、そいつが今回の『謎の生き物』って事で良いんだな?」
「「「「はい」」」」
ここは牙の塔の任務報告室。冒険者ギルドで言うところの、クエスト結果を報告する場所である。
そして帰ってきた四人が纏めた報告書(主にパステルが記載・脚色キットン)を読んだゴンタが、カゴに入れられたモウルを見て口を開いた。大柄な身体に相応した太い腕を組み直す姿は、いかに彼らでも簡単に敵う相手ではないという風体をしている。
「いやぁ大変だったぜ〜? 結局二日かかっちまったし、服は汚れるし」
「あ、それと例の送っておいたヒールニントの村の件もよろしくお願いします。あれは完全に俺達は正当防衛と考えてますので」
「あ〜あ、結局温泉入れなかったな〜。取り敢えず今度ルーミィー達と旅行に行こっと」
「グフフフ・・・それでは、取り敢えず・・・」
「「「「報酬下さいな!!」」」」
バッと手を差し出す彼らに、ゴンタは黙って一通の封筒を手渡す。いそいそと開いた封筒から出てきたのは、一枚の紙。
「・・・これ、何?」
「請求書・・・?」
怪訝そうな顔をして覗き込む四人に向かって、ゴンタは重々しく口を開いた。
「ヒールニントの村に関する被害は・・・まぁチャラにしてやろう。一応カメラによる証拠もあるし、何より牙の塔が舐められる訳にもいかんからな。しかしだな・・・」
そこで一旦区切った彼は、すぅっと息を吸い込むと・・・一括を浴びせた!!
「山の被害が甚大すぎるんだお前達は!! 山の持ち主であるゼンの婆さんから速攻で苦情が来たんだぞ!? しかもご丁寧にいくつもクレーターこさえおって馬鹿者が!!」
「いや、半分はパステルが・・・!!」
「あ、ズルイ!! それを言うならクレイだって・・・!!」
「わ、私は今回作ってませんからね!?」
「お、おいキットン、一人だけ抜け駆けするんじゃねぇぞ!?」
実に醜い罪のなすりつけ合いを始める四人に、ドカンと机に拳を叩きつけるゴンタ(勿論その程度で壊れるような柔な机では無い)が黙った四人を睨みつける。
「良いから黙れ。とにかく、期日までにキッチリ振り込むんだ。分かったな? 」
「「「「・・・へ〜〜い」」」」
ガックリと項垂れたまま報告室を出る四人。一応、道中手に入れた宝石を売ればトントンには持ち込めるだろうが・・・まだ彼らの目は諦めていない。きっと我らが林水会長なら、裏金にC会計を駆使して助けてくれるはず!! ・・・本当に懲りない四人である。
「いいか、お前達。出来るだけ俺達に非がないように話を作るんだ・・・」
「分かっていますよ・・・こんな事で折角手に入れた宝石を売るなんて馬鹿げてますからね」
「うんうん。只働きなんて一番意味ないんだから・・・」
「そんじゃまぁ、交渉は俺に任せな。お前達は出来るだけ真剣な顔で頼み込むんだぜ?」
「全ては・・・」
「「「「俺達の平穏な毎日の為に!!」」」」
そして、あっさりと林水から不許可と言われて轟沈するのは、それから僅か数分後の事であった・・・合掌。
取り敢えずヒールニント編はこれで終わりです。
これからは試しに短編を重ねていって、他のメンバーも出そうかと・・・意外と1巻分は長丁場になってしまったので(苦笑)
・・・・・
・・・・
・・・
「う〜ん・・・どこかで大きな音がしたデシけど、何があったんデシかね〜・・・」
山の中のどこかで、『謎の生き物』の呑気な声が響いていた・・・合掌。