拙作「あなたのためなら」の過去。響の独白で語られるいつかの終わり。だから、電はもう、戦えない。だから、腕輪が作られた。

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プロットだけはあったので書いてしまいましたが・・・
投稿することをためらう程度にむごいです。とはいえ、書いてしまったので。

どうしてこんなプロットを組んだのか(世界観設定の段階よりはまし、という現実から目をそらしつつ)。

特に、第六駆逐隊に思い入れのある人は強くショックを受ける可能性があります。
希望はないことを覚悟した上で読むようにしてください。

そして、読み終わったら彼女らをより一層大切にしてあげてください。


水底の哀歌

 ああ、どうしてこうなったのだろうね。

 今日も暗い水底で意識を覚醒させる。

 

 他の皆はどうしているだろう。辺りを見回したいけど、体中に繋がれた機器が邪魔で動けたものじゃ、なかったね。ここに来る前は、強くなって今度こそ皆で生き残るんだ、なんて息巻いていたけど。ああ。

 

 強くなんてなるものじゃ、なかったな。不死鳥の名が聞いて呆れる。

 

 鎮守府に残った電はきっと大丈夫だ。あの子はなかなか強かだからね。とにもかくにも、何とかしてこの大きな試験管をぶち抜いてやりたいところだけど。武装を没収されてちゃ、できることはないか。

 ため息の一つでもしたいとこだけど、肺までいっぱい入ってるからね。この液体。ま、体はロクに動かないし、土台無理なんだけどさ。

 

 この独白も何回目だっけ。他にできることもないとはいえ、そろそろ飽きたかな。

 たまには、向こうで過ごした最後の日々を思い出すのも、そう悪くはないか。

 

 

 そう、あれは私、暁、雷の練度が限界まで上がって数日後だったね。

 私たち三人はこれまでずっと、ほぼ一緒に出撃していたんだ。だからかな、三人いっぺんに艤装の調子がおかしいような気がして、といっても練度の上昇を感じられなくなったんだけど。とにかく、明石さんや夕張さんたち整備班に診てもらってたんだ。そしたら、練度が上がらないのは故障じゃないって教えてもらって。うん、安心した。誰も守れなくなるかと思ったから。

 

 ただ、そうだね。問題があるとしたら、練度が上限に達した後は鎮守府を離れて大本営の部隊に配属されなければいけない決まりがあったことだけは残念だったかな。けどそれも、より危険な相手と戦うことで結果的に皆を守れると思えば、なんてことはなかったさ。

 

 私たち第六駆逐隊の三人が一度に居なくなる、とだけあって司令官も寂しそうだったっけ。なにせ、ほとんど艦娘の全然居ない時期から一緒に戦ってきたからね。お互い、思うところは色々あるのさ。色々と、ね。

 でも、修羅場を作るつもりもなかったから。これでよかったんだって、私たち三人は納得することにした。

 

 そういえば、あの日。送別パーティを開いてくれたけど。司令官、お財布は大丈夫だったのかな。食料にしろ物資にしろ鎮守府が半ばアーコロジー化してるから豊かな方だけど、随分豪勢だったよね。明らかに素材の味が良かったし、あれは外から購入したんじゃないのかな?

 そこまでしてくれるのはうれしかったよ。けど、初期艦共々お酒に酔って号泣するのはどうなんだろう。娘の結婚を迎える両親じゃないんだからさ。第一、漣。お姉ちゃん寂しいよー、なんて言ってたけど君は私たちと同じ駆逐艦じゃないか。確かに、君の背は伸びたけども。

 でも。うん。うれしかったよ。ありがとう。

 

 そういえば、会場の準備も大変だったんだろうな。ラウンジの壁いっぱいのサイズの横断幕なんて、いつ準備したんだい? それに、色とりどりの布をかけたロープを何本もかけて。そんなにかけれる場所はなかったはずだから、そのためだけに作ったってことだろう? よくやるよ、まったく。

 

 食後は皆で歌って、騒いで。まるで戦時中とは思えない平和なひと時だったね。うん。私は、幸せだったんだね。今になって、そう思うことが多いよ。本当に恵まれていた。

 

 そうやって、泣いて、笑って、朝が来て。迎えに来たクルーザーに乗ったんだ。司令官ってば、その時本部から来た憲兵の手をがっちり握って私たちのことを頼む、って何度も頭を下げていたっけ。顔が大作戦の時みたいにマジだったよね。ちょっと笑っちゃったのを覚えてるよ。

 クルーザーが進み始めれば、鎮守府にいる皆で手を振って見送ってくれていたね。電はその時、泣き笑いみたいな感じで顔がぐちゃぐちゃだったっけ。何も、見えなくなるまで振らなくったってよかったのに。手、辛くなかったかい?

 

 船の旅は、なかなか快適だったな。元は自分たちが人を乗せる側だったから、こんなにいいものなんだとは知らなかった。軍艦だったし、ね。客船に生まれるのも、悪くなかったのかも。

 客室は、まさかの一人一部屋与えられていたんだ。練度上限に達した私たちは、それだけで敬意に値するんだそうだよ。調度品も、出された食事も、素人目に見たっていいものだと感じたよ。連日でご馳走を頂いたわけだから、ちょっとだけ申し訳なかったかな。

 そういえば、本来例の憲兵さんは来ないはずだったらしいね。色々と、鎮守府での暮らしを話したり本部での憲兵の仕事を聞いたりする時間があったんだけど。あの人は、提督がちょっと無理言って派遣してもらった護衛なんだってね。うん、いい人だったよ。

 まあ、そのまま無事に下船できれば言うことはなかったんだろうけどね。まあ、本部も一枚岩じゃなかったってことだね。じゃなきゃ、こんなことにはなっていない。

 

 ああ、ウォッカでも飲みたいね。味覚がまだあるかは分からないけど。

 そう、後一時間もせず到着するって放送が入ってすぐだったかな。丁度その時、私はお茶を飲みながらくつろいでいたんだ。流石に長旅だったからか、唐突に眠くなり始めてね。時間もあるし座っていたソファでひと眠りさせてもらうことにしたんだ。横になったとたん、一気に意識が落ちていったっけ。今にして思えば、あれはきっと催眠ガスか何か嗅がされてたんじゃないかな。外から憲兵さんの怒声が響いて、銃の発砲音が鳴って。流石におかしいと思って起きようとしたんだけど、無理だった。体に力が入らなくって、そのまま。

 

 そうして目が覚めたら服を剥がれて手足を拘束されて試験管の中さ。まだその頃は目も見えていたんだけどね。今はもう、ほとんどわからないね。残念だ。肺まで入れられた液体が呼吸できる代物だったのはありがたいけど、幸いとは言えない状態だね。困ったね。

 その時二人も別の試験官に入れられているのを確認できたけど、私同様パニックになって暴れようとしてたっけ。まあ、艤装もなければ私たちはか弱い女の子だ。そんな簡単に済んでれば、こんなとこに居ないさ。

 ああ、あのクルーザーは襲撃を受けて沈んだことになってるそうだよ。死人に口なしって、ね。

 

 それから今日まで、色々な薬品を投与されたり、電気を流されたり。試験管から出されたと思ったら、血を抜かれたり銃弾を受けさせられたり、はたまた全身の肉を削がれて修復されたり。まあ、散々だね。こんな美少女によくやるよ、まったく。・・・あの二人が無事ならまだ良かったんだけど、まあ無理だったよ。

 

 最初に壊されたのは雷だった。腕の骨を抜き取って修復できるか見ようとしたらしいね。うん、なくなったのは骨だけだよ。もちろん、私たちは本来なら腕を吹っ飛ばされようが魂に姿が刻まれているからね。本来は修復可能だよ。けど、一方の腕には深海棲艦のパーツを、もう一方には人間の骨を移植してから修復しようとしたみたいだよ。

 深海棲艦も言ってみれば亡霊だからね。魂として取り込んでしまえるんだ。つまり、そっちは修復できた。そしたら奴ら、大喜びでね。何度も何度も深海棲艦の組織を移植しては修復を繰り返したのさ。いいデータが取れたらしいよ? くそったれだね。毎日泣き叫んでいたよ。取り込んだせいで、奴らの怨念が心を侵食していったんだ。運ばれている様子を見ることはあったけど、あるときから目を剥いたまま動かなくなっていた。生きてるのかさえ、分からない。

 ・・・私は、無力だ。

 

 その次は暁。雷の時、人間を移植した方はそのまま壊死してしまったんだけど、そこからヒントを得やがった。今度は人間の犠牲者も居たみたいだ。彼女の体の一部を植え込まれた人間に修復剤の効果があるか、がまず行われたらしいよ。腕の骨だけ、筋肉などの組織ごと。腕そのものを切除しての接合。細胞の投与。キチガイだね、本当に。

 結局それがどうなったのかは知らないけど、うまくいってたんじゃないかな。最後には、暁の脊髄など中枢神経を移植していたらしい。それでも最後まで気丈に振る舞っていたけど、ある日彼女は帰ってこなくなった。大方、実験の失敗で殺されたんだろう。

 ・・・せめて、安らかに。

 

 私は・・・まあ、簡単に言えば艦娘の持っている浄化能力、とでも言えばいいのかな。時々、深海棲艦を倒すと艦娘に変わるのは、そのエネルギーで清めてるようなものなんだってさ。それを無限に発生させる装置に作り替えるつもりらしいね。手間取ってくれてるおかげで、まだ自我はあるけどね。

 

 とりあえず、白衣を着ていたり軍服を着ていたりする連中はどうも、完成した艦娘を解析したり材料にして、人工的に深海棲艦と戦える兵士を生み出したり、兵器を作ろうとしてるみたいだね。聞いてた感じでは。

 創作とかじゃ、よくありそうな話じゃないか。ま、軍隊の暗部なんてそんなものなのかもね。

 

 いつだったか、研究員の一人が言ってたっけ。なんだったかな。私たちの遺伝子と体の一部を鹵獲した深海棲艦に混ぜ合わせて生物兵器に転用した、だったかな。どうやらうまくいったのか、やたらと嬉しそうにぺらぺら話していたけど、意識が曖昧だったから覚えてないな。我々にも制御できる深海棲艦が、とか言ってた気がするけど絶対まともな用途じゃないよね。

 

 それにしても、わざわざ練度上限の私たちをこんなことに使おうとした理由はなんだろうね。言いたくはないけど、それこそ建造したての艦娘を使った方がコスト面よくないかい?上限になった艦娘を使うメリットってなんだろう。艤装に蓄積された戦闘経験値とか、そういう感じかな?

 

 

 ああ、そういえば、あったね。違う点が。

 ケッコンカッコカリで魂依存から肉体依存に存在をコンバートできるんだっけ。前に司令官が言ってたことがある。だから肉体が成長するようにもなるんだ、って。

 

 もしかして、そういうことかな。元は実体のある幽霊みたいなものだから、私たちが子供を産んだりすることはできないんだけど。母体にしようってことも考えているって可能性もあり得るかもしれないね。

 いや、もしかして、もうされてるのかな? 触覚もなくなって長いし、もうわからないや。

 

 そうなら、ああ、悔しいなぁ。私にだって、好きな人くらいいたんだよ。

 今更、だけど、さ。

 悔しいなぁ。

 

 

 おや。光が差し込んだね。はいはい、また実験かな。君たちも飽きないね。

 

「—、———!——————————っ!!」

 

 なにを言ってるのか、分からないな。君たちの薬のせいで耳が遠いんだ。でも珍しいね。いつもの白い服じゃないんだね。帽子も被ってさ。ほとんど見えないけど、これはカーキ色なのかな? もう一人の君は、えらく小さいね。私たちみたいだ。たぶん初めましてだったかな? 挨拶できなくて悪いね。口ももう、あまり動かなくてね。

 

「————、——————————?——?」

 

 ああ、でも不思議だね。君たちの声は聞き覚えがある気がする。なんだか、懐かしいね。なぜだか、鎮守府のことを思い出す音程だよ。

 

「—————、」

 

 うん? それは—————。そうか、そういうことだったんだね。

 

「—————っ!」

 

 久しぶりだね。なんだか、雰囲気が立派になったね。あんまり立派だから、気付かなかったよ。

 電。そっちはもしかして、憲兵さんかな? 生きてたんだね。良かったよ。それにしても、連装砲なんて見たのいつぶりだったかな。

 

「ぃ・・ぁ、・・・・」

 

 ああ、やっぱりだめだね。声を出そうとしても、出てるのかわからないよ。一応笑顔を作ったつもりだけど、変な顔になっていたらごめん。

 ・・・震えてるね。泣き虫はまだ治っていないんだね。でも、それはきっと間違ってないよ。・・・さあ、一思いにお願いするよ。もうこの装置がないと生きられないよう、改造されちゃったらしいからね。

 

 ああ。衝撃が体を貫いて。最期に、聞こえないはずの耳が捕えた気がしたんだ。悲しそうにごめんなさい、を繰り返して。

 

「・・・おやすみ、なさい」

 

 スパスィーバ。・・・おやすみ。

 

 

 

 私たちは、もう戦えないのです。

 救助作戦に参加した皆は、救いたかった誰かの血に染まったまま。さめざめと泣いていました。戻してしまった子も、少なくありません。

 

 誰も救えなかったのです。

 行われていた実験は。作られていた兵器は。あまりにも惨たらしく、疎ましいもので。

 

 もう、戦いたくないのです。

 それぞれの提督に抱きしめられながら、みんなの慟哭が響きました。

 

 

 全てがそうではない、と頭で理解できても。

 心が、憎悪を叫ぶのです。




誰も救われなかった。
だから、救えるように奔走した。

けれどもそれは、ある意味反逆にあたる。

だから電は試すことにした。
彼女も反逆の道を選べると思ったから。
意思が弱くば、腕輪は彼女を殺すから。

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