「佐藤さん、これが新居というものですか?」
「んー…多分そうなんだろうけどな。正直俺も新居ってのがどういうのかわからなくてな…」
○月◇日午前8時30分
少し寒い風が辺りに散らかっている中、俺と大和は新居の前に突っ立っていた。といっても寒いのでそんな長く突っ立っていれるわけじゃないけどな。流石にこの綺麗さだと唖然として突っ立ってしまうのも仕方ないと思う。
「綺麗ですね」
「だな」
目の前にはモダンな雰囲気を纏った和風の家が建っている。屋根は瓦、壁はコンクリートだか和風に染まっていて陽の光に照らされていた。
…そう、これが俺達の新居の全貌だ、多分。
「取り敢えず家の中に入りましょう。この寒さですからね、風邪でも引いてしまったらいけません」
そう言って大和はキャリーバッグ片手に玄関へと向かう。俺はそれに続き大和の後ろ姿を追いかけた。おっと、荷物も忘れずにな。
「それでは失礼します」
「失礼しますってここが俺達の家なんだけどな…」
そんなことを呟きながら俺は木製の扉を開けた。
「こっ、これは…佐藤さん、これが本当に私達の家ですか?」
大和が珍しく興奮しながら俺に聞いてくる。それもこの空間じゃ多分必然的なんだろうけど。
まず扉を開けると壁などに使われている木材の良い香りが鼻腔をくすぐる。そして続けざまに室内の無駄のない姿に魅了された。大黒柱の様に聳え立つ巨大な柱、昔のなんとも言えない良さを纏っている屋根裏。これだけのものが扉を開けた途端に目に入るのだから興奮するのもそうだと納得できた。
「多分そうなんだろうけど…俄かには信じられないな」
「全くです。流石に佐藤さんの上司は奮発しすぎです」
「『あいつ』も気が利くこともあるんだろうな」
たわいのない会話をしながら靴を脱ぎ、家の奥へと進む。
「私、正直信じられません」
「そりゃそうだろうよ、こんな綺麗なん——」
「違います」
部屋の中の静寂を切り裂く様な声音で大和は言葉を紡ぐ。
「私はあの鎮守府に来て褒められる様な事はしていませんでした」
「そんなことない。お前は俺の力になってくれたじゃないか」
「提督、貴方は優しいお人です。でも私はそう言ってもらえたとしても信じられないのです。自分が無力だと、何も出来ない弱者だと、そうとしか思えないのです」
黙っておくことしか出来ない…今の俺じゃ。
「だからこそ私はこんなにも良いものを、こんなにも良くしてくれる貴方を…。私の思い込みが心を締め付ける」
身を翻し、俺の目を見つめる大和。
「だからこそ私は貴方に聞きます。今の私は…」
一拍置いて、俺に向き直り大和は最後の言葉を告げる。
「どう見えていますか?」
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「先程は申し訳ありませんでした」
「ん?いや、大丈夫だ。そんな気にするな…それに俺が答えられなかったのも事実だしな」
「……」
「多分、気が緩んでたんだと思う。あの時決意したのにな…」
「てい…とく…?」
「だからさ、大和。お前はお前の思うように生きたらいいんだ。誰かに左右されるわけでもなく、ただひたすらに己の決めた道を進むんだ。お前にはそれができる。時には立ち止まるかもな、でもそんな時に俺はお前の側に居続けるからさ」
淡々と語る清太、その顔には笑みが浮かんでいる。まるで幼子を慰めるような、そんな顔だ。
今日は少し疲れた。流石にあの量の荷物を運び入れるのには苦労したよ。今はリビングに山のように積み上げられてるダンボール、あれが努力の結晶だ…そうでも言ってないとやってられん。…よくよく考えたらあれ大和の荷物じゃないか!?ったく大和はどんだけ荷物を持ってるんだか…。まぁ女性だから仕方ないのかもしれないが。
そうだ、家の方も大きかったんだ。二人で住むには少し大きかもしれないがとても開放感が伝わってきた。窓から見える景色もいい具合になっていて俺的には満足。大和も見入ってたっけな。でもそれぐらいに綺麗だった。これで少しは大和の心境に変化があればいいけどな。
まぁ、そんな簡単に変わるもんじゃない、気長にやるとするよ。俺も大和のために全力を尽くすって誓ったんだ。
…よし、明日は家具を大和と見に行こうと思う。家の中が少し寂しいしな。取り敢えず俺はふかふかのソファを買う、あの感触は堪らない物がある。大和には…何が好きなんだろうか、正直なところを言ってしまうと女性の趣味はわからん。可愛いものが好き、とかシンプルが一番ってのもある。だから大和には店で決めてもらおう。その方が良さそうだ。…そういえば家具といえば長門たちはどうしてるんだろうか…あいつらの家にも家具はないと思うしな。多分買いに行くとは思うんだが。もしかしたら会うかもしれない、その時は声でも掛けてやるとするか。
▲■●■年○月◇日
執筆者 佐藤清太
実を言うと二日前誕生日でした。