原作者・相田裕氏オリジナルの同人版ガンスリ「GUN SLINGER GIRL idle talk」アフターです。
「idle talk」は「公社」からジョゼとヘンリエッタが逃亡する物語ですが、そこに希望はなく、濃厚な死のかおりが漂う無常観溢れるエンドとなっています。
そこで、その逃亡の果て--「最後の日々」の一コマ(もっと正確には最後の日の「前日」)を埋めるつもりで、空想しました。
初期のジョゼはこういう形の暴走がありえたのではないかと言うことと、
ヘンリエッタがひどいことになっているのでそこらへんは注意ですが、エッタの主観では幸せかもしれません。

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last days

01/

 

どこか、壊れていたのだと思う。

エンリカが死んだあの日から、どこか、壊れていたのだと思う。

今でも壊れているのかもしれないけれど、だけど、あの組織での日々は壊れていた、と思う。

 

ぼくは彼女のあの姿—目は潰され、足は無く、腕はちぎりとられたあの姿—を見て、天涯孤独の彼女が自殺を望んでいると聞いて、救ってやれると思ったのだから。

それまでの彼女を殺す事によって。名前も、顔も、記憶も、人格も全てを消し去り、たとえそれが銃火と血と殺人の中のほんのわずかな偽りであったとしても、暖かさを与えれば救ってやれると思っていたのだから。そう、その時は確かに思っていた。

 

「理想的な少女」として設定された、彼女の条件付けと自己意志と初恋と父親恋しさがごちゃまぜになった—おそらく彼女自身にもわかりはしないだろう—盲愛を受け、偽物の笑顔とプレゼントで返す。褒める。抱きしめる。それらを彼女は本当にそのまま「愛されている」と受け取り、満面の幸せそうな笑みを浮かべる。本当はもっとしてほしいのかもしれないが、恥じらうようにそこまでで行為は止まる。

 

そしてかつての記憶を忘却している事に気がついた時も、偽物の血と骨と肉が吹き飛んだ時も、

本当に申し訳なさそうに、泣きそうな顔をしていうのだ。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい—だから見捨てないで—

 

耐えきれなかった。怖かった。彼女の笑顔が、血の海を渡っても、幾人殺しても。ぼくの言う事さえ聞いていれば正しいと信じ込んで疑わないすがたが—そして彼女に対して磨耗しつくし、いつか決定的な破滅を迎える日が来ることが。今の自分は、エンリカを殺した連中となにがちがう?

 

ヘンリエッタ エンリカ

彼女は、妹そっくりの笑顔をしていたのだから。

 

02/

 

時々、自分がなんでこんなところにいるのかよくわからなくなる時があります。

あたまがぼうっとして、今が夢を見ているのか現実にいるのか、よくわからなくなるのです。

あたまがぼやけた中、そういえばずっと昔に同じ部屋で暮らしていた女の子は、今の生活が楽しい、楽しい、と事あるごとに言っていました。背をのばせるのが楽しい。立って歩けるのが楽しい。みんなとおしゃべりできるのが、訓練できるのが、お菓子を食べるのが楽しい。—さんの役に立てるのが嬉しい。

 

その女の子の顔も髪の色も、—さんも、今はぼおっとしか思い出せないのですけれど。

さて、何もできない、何の役にも立てないわたしはどうなるのでしょうか。

 

不幸? 悲しい? 怒り? 悔しい?

 

でもわたしを支配するのは、彼女と同じような嬉しさ—幸福感なのです。

ジョゼさんがそばにいてくれる。ずっとそばにいてくれるのです。

大人のひとたちも、仲間のみんなも無視してずっとそばにいてくれる。

ぼやっとした輪郭しか見えなくなっても、その声と手の平の大きさはジョゼさんなのです。

背中をマッサージしてくれたり、湯タオルでからだを拭いてくれるとジョゼさんなんだなってかんじるのです。おしっことうんちがうまく出なくなったあと、つけることになったおむつを処理してくれて、そのあと拭いたり洗ったりしてくれるのはさすがに恥ずかしかったですけども、同時にとても嬉しくて、同時にちょっとキモチ良くなってしまいました。わたしはちょっとヘンタイかもと思います。

 

これが独占欲、というものなのでしょうか?

 

もういつごろかもわからないのですけど、かつてジョゼさんはわたしにこう言ったそうです。

 

--ヘンリエッタ、一緒に逃げよう。

 

わたしはとても驚きました。なぜなら、あそこの日々はとても幸せに思えたから。

大切な友達や仲間や、わたしを大切に思ってくれる大勢の大人の人々がいたのです。

そういうとジョゼさんはとても悲しそうな顔をして首を横に振りました。

 

わたしはよくわかりませんでした。

正直、今でもよくわかりません。

 

 

でも、ジョゼさんとずっと二人きりになれるのは、とても良いアイデアだと思ったのです。

 

だから、わたしはジョゼさんと逃げました。

 

逃げたあと、たくさんのわたしの友達がわたしとジョゼさんを追いかけてきました。

無言で撃ってくるタイプの人もいましたけど、大体は説得の言葉がありました。

なんで。どうして。あなたたちが。

当惑、怒り、疑問、いろんなことばになっていたと思います。

わたしは答える事ができませんでした。わたしはちゃんとした言葉にできなかったのです。

 

銃で撃たれたら撃ち返し、手榴弾を投げられたら爆発する前に投げ返して、あまり得意ではないですけども、殴られたら殴り返しました。

 

片足が撃たれ、腐り、廃工場で切り取るしかなくなってからは、あっという間でした。

 

今のわたしは壊れています。

 

両足がありません。

両腕がありません。

目が濁るようにボヤけたまま治りません。

おしっこやうんちがうまくできなくなりました。

おむつをつけて、ジョゼさんに手伝ってもらいます。

意識がぼんやりしている時がけっこう多いらしいです。

 

わたしは壊れています。これからも壊れ続けるでしょう。

ジョゼさんと一緒に居られるのであればそれでもいいと思っていました。

 

でも最近はちがいます。

 

もし目が壊れて、せかいがまっくらやみになったら。

もし耳が壊れて、ジョゼさんの声がきこえなくなったら。

もし喉が壊れて、ことばがでなくなったら。

もし皮膚が壊れて、ジョゼさんの大きな手のひらと抱擁を感じられなくなったら。

もしあたまが壊れて、ジョゼさんをジョゼさんだとわからなくなったら。

 

わたしはどうやってジョゼさんをジョゼさんだと認識すればいいのでしょうか?

 

 

それが。とても。こわいのです。

 

 

03/

 

ベッドの上で静かに眠る裸の彼女を付けられていたおむつを処理して丁寧に性器と肛門を拭き取る。金ダライと水と湯タオルで体を洗う。

四肢を切除された体は初めて出会った時よりも遥かに小さく、まるで小さな人形の様に見える。

やつれた顔は彼女があとわずかである事を示す。時々、意識が混濁する事もあるけども、薬が切れた今はどうする事もできない。幸い、今はただ眠っているだけのようだった。小さな呼吸が彼女の小さな胸を動かしている。

 

「--ジョゼさん」

彼女が目を覚ます。焦点の定まらない濁った茶色い目は、彼女の眼球の耐久期限がもうとうに過ぎている事を示す。おそらくぼんやりとした光と影以外、知覚できていないはずだ。

 

「おはよう。ヘンリエッタ」

「……これは夢の中のジョゼさん?」

「現実だよ。心配しないで」

 

丁寧に体を拭き取り、服を着せる。最近彼女は現実と夢の境目がよくついていない。

色んな夢を様々に見ているらしく、時々異常にうなされることもある。

 

「だれかすごく大切な友達と、海であそんでたんです。…ジョゼさんと大きな大人の人が一緒でした…海は初めてで、とてもたのしかった」

かつて海岸沿いの町での任務後、リコと一緒に海で遊ぶのを許可したのを夢で見ていたらしい。

彼女は最近、もうめっきりぼく以外の固有名詞を言わなくなった。

 

「海に興味があるかい?」

「……わかんないです。ただ変な匂いがして、とてもたのしかった」

 

「……今度、海に行こうか」

不安そうな顔になる彼女を、抑えて言葉を繋ぐ。

「大丈夫。怖い人たちは追ってこないから。ずっとこんな狭い家にいるより、気分転換になるだろ?

それにここから行ける海は穴場で有名なんだ。二人きりで美味しいものを食べよう。花火もしよう」

「……はい。行ってみたいです」

…そうだね、決まりだ、と頭を撫でてやり、体をさする。

 

穏やかに体をさすると気持ちよかったらしいのか、彼女はゆっくり目を閉じ、小さな躰を震わせた。

 

窓からの風がそよぐ。

彼女は静かに息を立てて眠る。

髪がふるえる。

 

ぼくは彼女の頭を撫で、最後の選択をする。

 

明日からはこの家を出よう。

 

海へ行こう。

 

originale autore

Yu Aida

 

GUN SLINGER GIRL idle talk

last days

 

La fine.

 


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