(ツイッター上のワンドロ(#シンフォギア版深夜の真剣創作60分一本勝負)で書きました。)
時間軸は魔法少女事変前、フロンティア事変の起きた年の年末です。
(初出:2016/12/27)(他サイトと同時投稿です)
(ツイッター上のワンドロ(#シンフォギア版深夜の真剣創作60分一本勝負)で書きました。)
時間軸は魔法少女事変前、フロンティア事変の起きた年の年末です。
(初出:2016/12/27)(他サイトと同時投稿です)
巨大から小型まで様々な歯車の噛み合う重い音。遠く深くから響くそれを聞きながらラボにて錬金術の操作を行うのは、もう何百年になるか。
今後の計画――オートスコアラーやファウストローブの制作に必要な試薬を作り終え、機材や薬剤の片付けをしていると、部屋に入ってくる者があった。
チフォージュ・シャトー中枢区画において意志を持って動く存在は、城の主であるキャロル・マールス・ディーンハイム――自分以外に、ただ一人。
「キャロル、こちらにいたのですか。ちょうど良かったです」
フード付きの黒いローブを着けた、自分と瓜二つの姿の少女、エルフナイン。
「書庫で資料を探していたら、これを見つけて……」
棚に機材をしまい終えたこちらに歩み寄ってエルフナインが差し出したのは、古ぼけた小さな冊子。
表紙に記されている表題を見て、今現在の時節を思い出し、胸に懐かしさが去来した。
「ブライギーセン、やってみてもいいですか?」
◇
Bleigießen――ブライギーセンとは『鉛を水に注ぐ』の語の意味の通り、熱して融かした鉛をひとさじ水に注ぎ、凝固した鉛の形で運勢を占うという、古来より継がれてきた伝統的な占いのこと。
エルフナインが持ち出してきたのは、鉛の形に応じた占い結果が記されている冊子だった。
今は庶民の間でも嗜まれていて、クリスマスも過ぎた今日のように年の最後の日に、来年の運勢を占うとしてよく行われていて、かつて幼い頃かの生国でパパと暮らしていた頃には自分も占っていたものだった。
その冊子を見つけたというエルフナインも、転送複写されているパパとの想い出の中にそれを見て知ったのだろう、興味を持っても無理はない。
「好きにしろ」
この程度なら禁止する理由はない。
後に装者の側でイグナイトモジュールをギアに仕込み、こちらの密かな目と耳の役割を果たすなど毒の針として故意無く働いてもらうこちらの計画を覚られない限りは、許す範囲で自由に振る舞わせてやるつもりだった。
エルフナインがちょうど良かったと言ったのは、こちらがラボに居たことで、許可を得るのと、必要な道具と材料を揃えるのとが同時に出来たためなのだろう。
棚からランプと金属の匙、試料棚から鉛の粒が入った瓶を取り出し、ボウルに水を張ってエルフナインが匙上の鉛を熱し始めるまでの様子をなんとなく眺め続けてしまったのは、懐かしさが手伝ったせいだろうか。
とろみのあるひと匙分の銀色の液体はやがてエルフナインによってとぷんとボウルの水の中に注がれ、一瞬の蒸発音を立てた後に底に沈む。
エルフナインは熱くないか指先でつついた後に指で摘んでそれを拾い、机上に置いて興味深げに覗き込んだ。
「これは……花、でしょうか?」
エルフナインの取り出した鉛の塊は、五芒星、六芒星というには角が多く、星よりは花冠に見えた。
「花は、と……『新しい交友の展開』……?」
冊子で探し出した占い結果に、エルフナインは首を傾げるばかり。が、当たっている、と内心に思う。エルフナインは後に装者たちと知り合うことになるのだから。
「キャロルも、どうですか?」
「ふむ……」
捨て置くつもりだったのが、差し出されるままに匙を受取って鉛を熱し、ボウルの水に落としたのは、そういったエルフナインの占いの結果があったからかもしれない。
ボウルの底から鉛の塊を取り出したエルフナインが、思わずといった風に、あっと声を上げた。
「輪になるとは思いませんでした……!」
机上に取り出された鉛の塊は、形は多少いびつだけれど器用にも円輪になっていた。しかし。
「指輪と言うには輪の内側に軸が何本もあるので、近さで言えば、車輪、でしょうか。……『大きな変化が来る』?」
「っ……」
読み上げられた冊子の占い結果に、今度は言葉が詰まった。
「キャロルには大きな変化、ボクには新しい交友の展開……その人が、ボクたちのパパの命題に関係しているのでしょうか……?」
「所詮、根拠のない大衆の児戯に過ぎない占いだ。気が済んだのなら任務に戻れ」
「は、はいっ」
深く考え込みかけたエルフナインに、うつつを抜かすなとばかりに釘を指して、ラボを後にした。
読み上げられた冊子の記述は、思うものと違っていた。
冊子には『勝利するだろう』という結果が記されていたのを覚えている。
錬金術師となり世界の分解を目論んで以降のこれまでに、幼い頃のように手慰みに鉛を水に落としてみたことがあるのだった。その結果は。
壺――『過去を悲嘆するな』。
柱――『果たされない願いが残る』。
超常を用いない占い遊びとはいえなかなか馬鹿にできないものだと感心したものだったが、先の結果では抱く印象が懐疑へと一変する。
今後の来年中には、装者たちとの戦いが控えている。勝利か敗北かではなく、訪れるのは、変化だというのか。
「だが――」
どうなろうとも、止まるつもりも、戻るつもりもない。
このまま世界を砕く、託された命題の完遂へと押し通る。
◇
後片付けを終えてラボから用意されてる自室へと帰ってきたエルフナインは、手の内のものを机の上に並べた。
花冠と、車輪。
鋳潰してしまうのはなんとなくためらわれて、ラボから持ち帰ってきたのだった。
椅子に座り、机上の花冠を指先で突く。外周に細長い花弁を何枚も備えるその形は、種類で言えばひまわりに見える。
それは、太陽の花。
この占いが当たるのなら、この先に知り合って交友を持つ相手とは、太陽のような人なのだろうか。
どんな人なのだろうと楽しみに思いを馳せる一方、キャロルの占いの結果は大きな変化の訪れだった。
これまで未だ得られていなかった命題の答えを、ついに得るということなのかもしれない。
どのように過ごしてきたかは分からないけれど、転送複写された数百年前の想い出で知っている。数百年という気の遠くなるような長い時間、キャロルがたった一人で命題の答えを追い求め続けてきたことを。
だから、その変化は願わくば。
キャロルにとって幸多い未来でありますように。
花冠と車輪の前に、祈らずにはいられなかった。
まだシャトーで暮らしていたときのキャロルとエルフナインの、年末に起きたかもしれないヒトコマの妄想でした。
お読みいただきありがとうございました。
拙作の設定・背景を若干引き継いでおりました↓
「クリスマス ビフォア アポカリプス」
https://syosetu.org/novel/168313/
「カノン」
https://syosetu.org/novel/161102/