少し離れた位置に立つ少女を見つめる。気負った様子もなく、自然体で佇むその姿は青年を歯牙にもかけていないようで癪に障る。ギリ、と青年の奥歯が鳴った。
―――青年は、目の前の少女たちよりも先に騎士団に入団した人物だった。
とは言っても、さほど大きな差はない。その年の入団試験を多くの受験者と争い、何とか勝ち抜き入団が決まったと思ったら、その次の月に目の前の少女や、青年と同じ部隊に所属する少年らが入団してきた形だった。
何やら特例で試験期間外に入団することになった、とのことだったが、当時はまだ専用の試験を受けたということでさほど気にしていなかった。自分たちは多くのライバルと争い、勝たなければ入団できなかったのに、とは思ったものの、それでも納得はできた。強いて言うならあんまり気分はよくないな、程度だった。
だけど今は、青年は明確に彼ら彼女らが嫌いだった。
何故なら彼らは才覚に溢れていた。アナンドという青年は最初から強かったし、キリトという少年もメキメキと実力を伸ばしている。リーファという少女はやる気こそ他二人と比べて微妙であったが、逆に言えばその微妙なやる気で実力がある程度伸びる程に才能とい下地があったということだった。
加えて、目の前のシノンという少女はその三人と同時期に入団し、またつるんでいるところも何度も見ている。だから間違いなく、才能に溢れているのだろうと、青年はシノンのことも嫌っていた。青年は、才覚のある者全てが嫌いだった。
ああ、嫉妬だ。嫉妬だとも。だが嫉妬して何が悪いというのだ。
青年の周りには、常に才覚に溢れた者たちがいた。幼馴染、親友、兄弟……周りの人間の多くが、何かの才能を持っている人間だった。そして誰もが青年を見下すことなく、対等に接してくれていた。
悔しかった。惨めだった。そう思ってしまう自分がまた、嫌いだった。だからせめて何か一つだけでも、とひたすらに剣だけは腕を磨き続けて。
そうしてようやく騎士団に入れるだけの実力を手に入れたと思えば、今度は青年よりも年下のユージオやアリスの才能に打ちのめされ。果ては自分よりも後から入団した連中が自分を追い抜いていく。
それは、誰も悪くないのは分かっている。強いて言うのであれば、悪いのは自分自身だと青年は思っている。努力しても、他の人より伸びの悪い自らの才覚が悪いのだろう、とは。だがそれと自身の感情とは、また別の話だ。
理屈ではわかっていても、抑えきれない嫉妬がある。青年は人々を守る騎士団だ。故に、その嫉妬をむやみやたらに周囲に振り撒く気は一切ない。青年は嫉妬の感情を全て、努力の原動力として糧に変えてきた。
だから今、相対するにあたって、シノンへとぶつける嫉妬は少ない。代わりに存在するのは、負けないという強い意志。努力の結果を、無駄ではなかったのだという証明を。青年が望むのはただそれだけ。
「―――始めッ!!」
デュソルバートより放たれる、鋭い開始の一声。同時、青年は全力で前へと駆け出す。相手の得物は弓。青年の片手剣よりも圧倒的に間合いは広い。必然、青年は間合いを縮めようとし、シノンは距離を取ろうとする。
走り寄る青年から逃れるように、シノンがバックステップ。それと同時、軽く宙に浮いた状態という不安定な姿勢から。先ほどまでろくに構えていなかったはずの弓を上げ、狙いを定める素振りもなく―――シノンから、青年へと矢が放たれる。
青年自身、迎撃のために矢が飛んでくるとは思っていたが、ここまでの速射であったことは予想外。けれど青年は
青年の周りには、常に何らかの分野においての天才が存在していた。それは弓の扱いにおける天才もであり、その分野における天才はシノンが初めてではない。
青年にとって天才とは常に傍らに存在していた者であり、既知の者である。故に。その経験から青年には天才であれば
青年はシノンに対し、本当にそこまでできる天才であるのかという驚きと、天才であればその程度はやるだろうという既視感を同時に抱いていた。
そのため、頭で驚きを抱きながらも、その身体は冷静に対応する。手首のスナップで、最低限の動きを以って矢を打ち払う。それに使うのは左の盾ではなく、右の剣。
確実に防ぐなら無論、盾の方がいい。しかし、片手用の盾と言えど盾は盾。それ相応の大きさであり、青年の頭程度なら簡単に隠せる。
つまり。下手に盾で防御すれば青年の視界からシノンが消える。今の距離で見失えば、気配のみの察知では致命的に後手になるという判断だった。
だから飛んでくる矢を斬って、払って、打ち落として。間合いにシノンを捉えた段階で、青年は矢を盾で打ち払う。ただしこの時の間合いとは剣のリーチそのままのことではなく。青年の技量で瞬間的に間合いを詰めて斬れる範囲である。
故に攻守は逆転する。
弓は射撃武器である。当然、近接戦に用いるものではない。引いて放つというツーアクションの間に、剣は振るう、あるいは突くというワンアクションで攻撃できる。これは両者に余程の技量差がなければ覆しようのないものになる。
それは弓の使い手であるシノンも当然、把握していることである。基本的には如何に懐へ入られないかを考え、入られたら入られたでその対応も当然用意しているだろう、という青年の予想に間違いはなかった。片手で弓を腰へ仕舞いつつ、もう片手はナイフを抜き放つ。
青年が剣を叩き付けるように振るう。シノンがそれに対応するようにナイフを合わせてくる。当然、筋力的にも、武器の重量的にもシノンが押し負けるのは自明の理。そのためシノンは真正面から剣を受けずに、青年の剣を受け流す。
そう来るだろう、と青年は理解していた。ここまでは騎士団所属であればできて当然の、示し合わせたかのような流れ。そしてここからが互いの発想、技量の見せどころ。
青年は流された勢いを殺すことなく、そのまま片手剣を地面へと突き刺す。そしてその片手剣を軸に、それまでの移動の勢いを利用して円を描くように回る。更にそこから盾を鈍器として、勢いを乗せてシノンに向けて先端を突き込む。
盾を武器とするのは奇抜―――というわけでもない。騎士団であれば当然の技能として叩き込まれる技術だ。だから奇抜さはモーションに多少しかなく。シノンの対応も澱みはない。
先ほどまで弓を持っていた手でもう一つのナイフを抜き放つ。そのナイフで青年の盾を受け流し、盾の上を転がるようにして回避する。ナイフの二刀流。手数と早さで隙を狙う戦闘スタイル。
ならば回避された段階で、素早い反撃が来るだろうと青年は警戒、武器としてしまった盾では防御に戻るのに時間がかかるため、片手剣を一時的に防御に利用しようとする。
しかしそんな予想に反し、シノンからの反撃は来ない。明らかな好機、何故攻撃が来ないのか―――それは、視界の内で小さくなっていくシノンを見て理解した。
走って距離をとっていくシノン。その両手には既に、ナイフではなく弓と矢が握られている。つまりあくまで攻撃にはナイフではなく、弓を使うというのがシノンなのだろう、と青年は判断する。
確かに、一度打ち合った感覚からシノンの近接戦の腕はさほどではないように感じた。あのまま戦い続けていれば間違いなく青年が押し切れる程度には、近接における実力には差があった。だから勝ち目がある弓での戦いに移るのは青年にもわからなくはない。
けれど下策だ、と青年はシノンの判断にそう評価を下す。先ほどの隙は戦いの中においては大きな隙となり得るものであったが、距離をとれるほど大きな時間が稼げるかというと、そこまでではない。
シノンが稼げた距離は、青年の技量であれば数秒で追いつける程度の距離。その間に飛ばせる矢など精々一本か二本であり、それを掻い潜って近づくのは容易なことになる。
最初の攻防の結果、青年がシノンとの間合いを詰めることに成功している以上、逃げ切れないということはシノンも把握しているだろう。故に、間違いなく何らかの策はある。そう警戒し、青年は僅かな挙動も見逃さないようシノンを注視し。
パァン、と突如足元で発生した炸裂音に、意識がそちらへと逸れた。
何が起きた―――原因を特定しようと一瞬視線と意識が音源である足元へ行き、それ以上にそれを仕込んだであろうシノンから視線を外すのはマズいと慌てて視線を戻せば。
今度はその視界に、球体が映る。そして閃光。
「ぐぁッ―――」
青年がしまった、と思った頃には既に遅い。視界が潰れる中、風切り音が高らかに響いたと同時に身体に連続で衝撃が走る。脳天、心臓、首。いずれも青年を殺すのに充分な箇所に当たっていた。
模擬戦、ということで鏃は潰され、殺傷力はなくされているが、それでも矢には速度がある。速度がある、ということはそれ相応に威力があるものだ。覚悟していたこととはいえ、数瞬呼吸もままならなくなってしまう。
「……勝負あり、だな」
デュソルバートから、模擬戦の終わりが告げられる。誰からも見ても、青年の敗北であることは明らかで、青年自身、悔しさはあっても結果に異を唱える気はなかった。敗北にどれだけの辛さがあっても、そこまですればもはや無様であることを青年は正しく理解していた。
「……まぁこの程度か。一度は懐に入られてしまうなんて、私もまだまだね」
「……自らの実力を正しく把握してもらうのが目的だったのだが。ここまであっさりと勝利しておいて、まだ納得せんか……」
シノンと、デュソルバートの会話が青年に聞こえてくる。どうやらつまり、青年は体のいい当て馬であった、ということらしい。
なんだそれは、ふざけるなよ―――と、口まで出かかった言葉を青年は飲み込む。ふざけている……ふざけている、が、それでも戦いにおいて、負けは死を意味する。文句を言うことなどできはしない。
この騎士団では基本的には弱いこと自体を咎めはしないが、戦場においてのみは弱い方が悪いと断言していた。そしてそれは青年自身も納得していた。
ザリ、と音をならして足の下を見る。そこには小さな球体―――炸裂後の癇癪玉が転がっている。近接戦中のどこかのタイミングで仕込まれたこれに意識を誘導され、青年は無防備に閃光弾をくらってしまったのだ。
閃光弾は街の外の魔物たちに対応できるよう、街の人々の護身用として市販されているレベルで一般的なものだ。当然青年もその存在についての理解はあり、だから普通に投げられていたのであれば盾を壁として利用したり対応のしようがあった。
けれど癇癪玉による意識の誘導があったせいで、青年はもろに閃光弾の光を見てしまった。それは一見何のこともない小細工。けれど、重要なのは
青年は凡人である自らの方がより使いこなせればならない、小細工という武器を。本来格下が格上に打ち勝つための武器である小細工を使われて負けたのだ。
負けて、悔しかった。歯牙にもかけられなくて、苛立った。自らが弱いという事実が、苦しかった。
けれど青年は悔しさも、苛立ちも、苦しさも、全てを飲み込む。青年は知っていたからだ、今感じているもの全てが自身を更なる高みへと導くエネルギーとなることを。
他者にぶつけたりなどしない。忘れるつもりもない。敗北を無駄になどしない。大丈夫、負けることには慣れている。いつだって凡人である青年は、天才たちに負け続けてきたのだから。
だから全てを燃料にして―――いつか必ず天才どもを超えてやる。青年は、静かにそう闘志を燃やす。
スタングレネードはあれ、適当に調べた感じ1960年代だかなんだかに出たんだか普及したらしいんですよね。だからまぁ、中世ヨーロッパがベースって描写した一層には時代が合わないんだけども。
魔物とかいるんだから、需要あるしあってもおかしくないじゃろってぶち込んだ。流石に音無しで光発するだけにしたけども。まぁ完全にリアル準拠にするとあれだし、多少はね?ということで。
つーわけで我GE3やってくるね。