SAO:Hardmode   作:天澄

5 / 16
#5.SAOという世界Ⅴ

 困ったことになった。

 

 宙に浮かぶローブを纏った茅場晶彦を名乗る男の話を聞いて、アナンドが最初に思ったのはそんなちんけな言葉だった。

 その内容をしっかりと考えると、どう考えてもとんでもない事態だというのは理解している。しかし、あまりにも突飛過ぎて思考が追い付いていない、というのがアナンドの現状だった。

 しかしだからこそ気づけることもあり、パニックに陥っていないことでこのあと何が起きるかを察したアナンドは、近くにいたシノンの腕を掴み街の路地へ向けて走り出す。

 

 現状の広場はSAOプレイヤー約一万にがひしめいている状態。そこを人の間を縫って移動しようなど、本来であれば難しいこと。

 だが誰もが突然の事態に呆けている今ならば、多少力技にはなるができないことではない。そして事実、アナンドはシノンを引き連れた状態で人混みから抜け出し、何とか人目につかない路地へと入り込むことに成功する。

 

 ―――直後、広場から響いてくる怒号や悲鳴。

 

 状況への理解が追い付いた一人が、パニック状態になり、それが伝染。広がることで広場全体が阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。アナンドは察した通りになった、とそうなる前になんとか脱出できたことに安堵した。

 

「……ちょっと、待ってよ! ここがもう一つの現実になったってどういうことよ。ここで死んだら現実でも死ぬって何なのよ……!」

 

 けれど、それはあくまでアナンドが落ち着いているから安堵できるだけであり、明確な理解もできぬまま連れ出されたシノンはそうではない。

 先ほどまでいた場所で起きたパニックに釣られシノンもまた、軽いパニック状態へと陥ってしまう。

 その場でうずくまるようにして頭を抱えてしまうシノンに、アナンドは存外自分も冷静にはなり切れていなかったことを自覚する。

 少し考えればシノンがこうなってしまうことは想定できたのに、その対応をアナンドは一切考えていなかった。あくまで己はパニックになっていないだけで、突然の状況に冷静な判断を下せるような状態ではないのだ、とアナンドは自らへと言い聞かせる。

 それからアナンドはシノンを落ち着かせるために、しゃがみ込んで視線をしっかりと合わせる。落ち着け、と言ったところで人は簡単に落ち着けはしない。かと言って楽観的な考えを告げて安心させられるような状況でもない。

 しばしアナンドは何と言うべきかを思案したあと、シノンの両頬を自らの手で包み込み、人肌の温もりが伝わるようにしながら口を開く。

 

「落ち着け。喚いてたってどうにもならないぜ」

 

「っ、だっていきなりあんなこと言われて……!」

 

「分かるぜ、俺だってわけが分からん。だけどな、うちのクソ爺どもに散々言われた言葉を思い出せよ」

 

 そのアナンドの言葉を聞いたシノンの肩がビクつく。パニックになってなお、その存在を仄めかされただけで恐怖してしまう───それだけのものを、シノンはアナンドの親族達によって刻まれていた。

 シノンは諸事情により、アナンドとその家族や親族が暮らす家へと引っ越してきている。そして引っ越してきてしまったばっかりにアナンドに対して行われていた地獄の鍛錬に巻き込まれていた。

 一応、シノンに対して行われたのはアナンド用とは別の、生存の為の技術を叩き込むものだったのだが、それでもアナンド曰くクソ爺達が主導で行われたもの。シノンに恐怖を刻むには充分過ぎるものだった。

 

 死が迫ってくる感覚を覚えろ、とか言われて殺されかければ誰だって恐怖が刻まれる。

 

 ただ、こと現在においては恐怖故にパニック状態すら超えて言葉が届くのだから、アナンドはその点だけは助かるために親族たちに感謝していた。

 地獄の鍛錬がフラッシュバックしたのか、肩をビクつかせるシノンが顔を上げてアナンドのことを見てくる。

 それにアナンドは視線を合わせ、はっきりと言葉が力を持つようにして声を発する。

 

「『死にたくなけりゃいつ如何なる時も己ができる最善を探し続けろ』。クソ爺共がよく言ってた言葉だ。あのクソ爺共を肯定するのは癪だが……個人的には間違ったことを言ってるとは思わない。お前は今、自分がすべきことを考えてるか?」

 

 そう問いかければ、シノンの瞳がしばし揺らいだ後、その眼が閉じられる。そして次に開かれた時にはまだどこか迷いはありながらも、ある程度落ち着いた様子を見せていた。

 一先ずは落ち着いたか、と安堵しつつアナンドは親族たちへ一応の感謝の念を抱いておく。素直にありがたく思えないのは、親族たちの日頃の行い故だった。

 

「それにその言葉を実行しなければまたあのクソ爺共に扱かれる羽目になるぞ」

 

「ひぇっ」

 

 今度は恐怖からうずくまってしまったシノンを見ながら、アナンドは思案する。

 シノンにこそああは言ったが、アナンド自身も己がすべき最善とやらを見出せていない。あまりにも突飛な状況だ、こんな状況を日頃から想定しているわけもなく、アナンドは改めて現在知り得る限りの情報から打つべき手を考える必要があった。

 

「……とりあえず、あの茅場晶彦を名乗った人物が言ったことが本当だろうが嘘だろうが、ログアウトできないのは事実だ」

 

「だったらやっぱり最上層に行ってログアウトできるようにするのが最善じゃないの?」

 

「まぁそうなるわけだが……」

 

 シノンの言うことは決して間違っていない、とアナンド曖昧ながらも頷きを返す。しかし同時に、けれど、と思っていた。

 確かに現状では茅場晶彦を名乗った人物が言った通りにするしかない、とアナンドも思っている。SAOという世界の中からできる具体的な解決策がそれしかないからだ。一応、自殺してみるなどもあるがそれはいくらなんでも掛け金が大き過ぎる。

 自分たちにできる最善は確かにそれだろう―――だが、それが難しいのだ、とアナンドは首を横に振る。

 仮に茅場晶彦を名乗った人物が言ったことを全面的に信頼するのであれば。アナンドたちはこの世界で死んだ段階で現実でも死ぬことになる。

 そんな状況下で命を懸けて最上層へと登ろうとする人物がどれだけいるだろうか。

 加えて、この世界がもう一つの現実となったことでどれだけの変化が起きたか不明であるが、元々SAOというゲームではボスエネミーを倒すことで次の層へと行けるシステムだったらしい。もしそのルールが適応されていたのなら、最上層、すなわち百層まで行くのにその数だけのボスエネミーと戦わなければならないのだ。

 ソードスキルもHPもなくなった今、エネミーと戦える人間はまずいないだろう。それはアナンド自身を含めてだ。

 いくら鍛錬を積んでいるといっても、魔物と戦った経験などあるわけがない。

 戦ったことのない相手に、近接武器のみで挑む。アナンドは自らを強者であると理解しているが、それでも戦うことを想定したこともないものを相手に、幾度となく戦い続けて生き残れる自信があるかと言えばノーであった。

 

 それならば今、自分がすべき最善とは何なのか、そう改めて考え―――アナンドは視界の端で動くものを捉えた。

 

 黒髪の青年と、赤髪の青年。金髪の少女という三人組だ。彼らは何らかを話しあった後、赤髪の青年のみが別方向に行き、残りの二人はそれとは反対に向かって走っていく。

 あの方向は、とアナンドはチュートリアル中に何となく覚えた街の構造を思い出し、そして思わず頭を抱えた。

 何となくではあるが、彼らの素性やこの後の目的をアナンドは察した。問題はその上でアナンド自身はどうするのか、という話になる。

 彼らを赤の他人と考えるならば、放置一択になる。助けに行く義理はないし、アナンド自身平時であれば見知らぬ人物がバカなことをし出したとしてそれを止めにいくことはない。赤の他人に対しては、基本的に勝手にやってろ、というのがアナンドのスタンスだった。

 しかし彼らをこのSAO攻略メンバーとして考えるのならば、話は変わってくるとアナンドは思っている。

 現状でああも勢いよく動けるのであれば、少なくとも彼らは死ぬ可能性を知った上で、命を懸けて攻略に動ける人間ということになる。それが蛮勇であれ、思考停止の結果であれ。

 ならばここで貴重な戦力を失わないようにする、というのも選択肢の一つだった。

 

 貴重な戦力を見捨てるか。それとも自身やシノンが危険に巻き込まれる可能性をふまえた上で介入するか。アナンドはしばし悩んだ後、どちらの方が後味が悪いかで判断を下すことにする。すなわち。

 

「シノン、ちょっとついてこい」

 

「え、ちょ、ちょっと! いきなりどこ行くのよ!?」

 

 生憎と説明している暇がないため、アナンドはシノンの手を引いて青年と少女を追って走り出す。その瞬間、何も入っていないはずのポケットで何かが揺れたのを自覚するが、今はそれどころではないと一旦無視して走ることに集中する。

 追うか否かを悩んだせいで、少しだが黒髪の青年たちが走り出してから時間が経ってしまっている。仮にこれがゲームのままであったならばステータスの関係から追い付けはしなかっただろう。

 

 けれど、とアナンドは走る感覚から今なら追い付けなくはないと判断する。

 

 ゲームの段階では、走る際に筋肉の動きを意識してもアナンドはそれを使っていることを感じ取れなかった。単純に、速度がステータス準拠であるために筋肉による加速が存在しないからだったのだろう。

 だが今は違うようにアナンドは感じていた。走る際にその動きをしっかり体を制御し動かせば、その分正しく力が伝わり加速するのが自覚できる。

 言い換えれば、()()()()()()()()()()()

 これなら充分に黒髪の青年たちに追い付ける可能性があるだろう。アナンドはそう判断し、更にギアを上げる。生き残る為には逃げ足も大事だぞ、とシノンも昔に効率的な走り方を叩き込まれているため、アナンドの速度にもしっかりとついてこれている。

 

 その姿にやはりこういった細かなところまで現実に近づいているのだな、と思っているうちにアナンドの視界に飛び込んできたのは……木材と鉄材で構成された、巨大な扉。すなわちこの街の出入口だ。

 予想通りの場所に辿り着いてしまったことに、思わずアナンドは舌打ちをする。これで黒髪の青年たちが何を目的に走っていたのか、その予想が当たってしまったことが分かった。

 そのため手遅れになる前に黒髪の青年たちと話さなければとアナンドはあたりを見回し―――巨大な門の前で止まっている二人を見つける。何やら街から出る前に、黒髪の青年が金髪の少女へ何かを話しているようだった。

 都合がいい、これなら間に合うとアナンドは再び走り出し、二人との距離を詰めていく。

 

「―――っおい、あんたら!」

 

「……え、あ、俺らか?」

 

「そうだよ、お前らだよ」

 

 いきなり声をかけたアナンドに黒髪の青年たちに加えシノンまで怪訝な表情をする。知りもしない相手にいきなり用はあるかのように話しかければ、そりゃ誰でも困惑するとアナンドも他の三人の心情は理解できた。ましてや先ほど突然ゲームの中に閉じ込められたと告げられたばかり、警戒するのも分かる話である。

 しかしアナンドはその上で黒髪の青年たちが街の外へ出ていくのを止めなければならない。そんな義理はない相手ではあるが、救える相手を救わず無視する、というのはアナンドとしては多少寝覚めが悪いと思う程度には引っかかるものがあった。

 故に何と言うべきかしばし悩み、まずはこちらと会話する気になってもらうために興味を引かなければならないと判断する。そして興味を引くのであれば、シンプルに目的を告げるべきだとも。

 

「あんたら、両方か片方かは知らないがβテスターだろ?βの感覚で街の外へ出るのはやめておけ」

 

「……どういう意味だ」

 

 よし、と黒髪の青年から返ってきた言葉に、アナンドは内心でガッツポーズする。目つきも、口調も険悪なものではあるが、確かに興味を持たせることにアナンドは成功していた。

 相手からすれば、状況的にβテスターがその知識で他のプレイヤーよりアドバンテージを取ろうとしたところを無理矢理邪魔しようとしているように見えるのだろう。険悪な態度になるのも、アナンドには理解できた。

 となると、一先ず興味を持たせることはできたので、そこからどうやって素直に話を聞いてもらい、街の外に行くのをやめてもらうか、という話になるのだが。

 アナンドは一度街の外を見て、予想通りの光景に恐怖と絶望を改めて覚える。しかし同時に、説得するよりも見せた方が早いとも考える。

 

「とりあえず、街の外を見てみろ」

 

「街の外? あんたいきなりなんなんだ?」

 

「いいから、見ろ」

 

 少し語調を強めれば、仕方なさそうに街の外へ視線をやる黒髪の青年。それに釣られ金髪の少女とシノンも街の外を見やり。そしてアナンド自身ももう一度街の外をしっかりと見る。

 はたして、そこに広がっていた光景は―――




GE2RBやってたわ。やっぱGEは楽しいね。

そんなわけで徐々に徐々に原作とは展開が離れていくよ。
基本的に二次創作では原作を崩壊させるか、全く原作と関係ないところの話をするから面白いと思ってるので、本作では思いっきり原作と違う展開にする予定。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。