リハビリ作品です。内容は暗め且つ短いものとなっています。

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壊れた心と静かな歩

 

 夢を見失ったのは何時だっただろうか。

 

 

 その時から順番に何かが欠けていった気がする。

 怒り、憎しみ、哀しみ、喜び……しばらくして心が機能しなくなった。

 何を見ても、何をしても、全く気持ちを伴わない。

 

 

 そして何も無い心で、頭で考え始める。

 

 

「今の私は何をしているのか」と。

 

 

 そこにあるのはただひたすらに、何かを隠すように同じ様なことを繰り返す日々しかない。

 何も感じることなく。

 何を目的とするわけでもなく。

 

 

 ただ、「そう」であることをひた隠しにする日々。

 

 

 何のために?

 

 

「人」であると、そう周りに見せるために。

 

 

 何故?

 

 

 人の世に存在し続けるには、「人」である必要があるから。

 

 

 着々と思考を進めていく。

 

 

「人」とは?

 

 

 世間一般的に、普通であると見なされる、異常でないと見なされるもの。

 

 

 では、自分は「人」では無いのか?

 

 

 無い。少なからず、感情を持たず、夢を持たないものを「人」とは呼べないだろう。

 

 

 暗闇の中、歩も進めていく。

 にわか雨でも降ったのだろうか、地面はほんのりと湿っており、少し歩きにくい。

 

 

 隠せているつもりでも、そうでは無い。

 ボロが出てしまっている可能性もある。

 特段何でもない時に、時折冷たい視線を感じる。

 何も言う事は無いが、それは確かに存在する。

 その度に、ああ、と思いなおす。

 いくら繕おうが、変わらないものは変わらない。

 居るだけで、問題の種。

 周りと違う、それだけで否定の対象。

 今まで必死に取り繕い、誤魔化してきていたけれど。

 努力すれば、そのうちに変化は訪れると。

 

 

「わっ!?」

 

 

 足元が暗いせいか、泥濘に足を取られてしまった。

 転びはしなかったが、履いているスニーカーは泥にまみれてしまう。

 

 

 私のことは誰も気に留めることなど無い。

 どうなろうと、どうしようとも。

 むしろ、居ない方が良いと感じている者も多いのかもしれない。

 

 

 スニーカーの中に泥が入りそうになり、慌てて立ち止まる。

 

 

 ……いや、こういうのは妄執だと分かってはいる。

 しかしどうしても過ぎる。

 

 

 私自身誰からも、何からも必要ともされず、全てから見放されているのでは、と。

 

 

 だからといって何かを感じるわけでは無い。

 ただ………。

 

 

 ただ、私が存在し続ける理由が無くなる。

 

 

 役立たずの私が。

 目標の無い私が。

 感情の欠けた私が。

 何も持ち合わせてなど居ない私が。

 

 

 泥濘を抜け、また夜道を歩き出す。

 月明かりも無くただただ暗い、道なき道を。

 

 

 私が何をしたところで、何を得たところで、最後には全て無くなる。

 全ての行為は、意味、価値を失う。

 

 

 「人」であったのなら、何か違ったのかもしれない。

 

 

 その仮定は無意味なもの。

 私にとって知る由も無い。

 

 

 一晩中歩き通していたせいか身体が重く、思わず近くの木に身を預ける。

 

 

 あと、もう少し。

 

 

 拒む肉体に鞭打ち、歩を進める。

 

 

 望みが無く、必要ともされず、変われず、何も得れない私がすべきこととは?

 

 

 ………………。

 

 

 …………。

 

 

 ……。

 

 

 終着点。

 これ以上先には何も無い。

 

 

 私は歩を止める。

 崖の先は、空が白み始めていた。

 

 

 これでお終い。

 

 

「待って!」

 

 

 後ろから響くあどけない必死な声を聞き、初めて気付く。

 私は、今、泣いているのだと。

 


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